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開拓編

30.里に向かう

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とりあえず本居がお墨付きを手に入れてくれた。
これがどのくらいの価値があるのかは知らないが、本居が言うには「大したことない」らしい。
「誰がわざわざ苦労して新規開墾などしたがりましょう」ということだ。
一方で、年貢を取り立てる側としては、新規開墾はそのまま税収が増えるのだから奨励したい。ついでに自分の直轄領のようにできるのならなお良い。
いろいろな思惑が絡み合ったポイントを上手く本居が突いたのだろう。

まあ思惑がどうあれ、俺達がやれることは一つしかない。さっさと永住の地を確保し、生活の基盤を築くことだ。

早速だが本居に別れを告げ、この世界に降り立った地へ戻ることにした。

本居が一緒に行こうとするのを全力で止める。さすがにそれは面倒くさい。そもそもお前には宮司の役目があるだろう。

「いや斎藤様!そうは言われましても、斎藤様はこの地に来られてまだ幾日も経っておりませぬ。いわば赤子にも等しい方を放り出すなど、誰かが許しても天が許しませぬ!」

いや子供じゃないんだから…というか元の世界の年齢からいくと、はるかに俺の方が年上なんだが……

「赤子と申されましても、旦那様には我々が付いております。また三善様が仰るには、旦那様の知識は陰陽寮のそれとほぼ同じとのこと。御心配には及びませぬ」と青がフォローしてくれた。

「三善様?…あの三善様ですか?」

そう本居が聞き返す。

「三善のじいさんを知っているのか?一応俺の師匠ということになっているが……」

「もちろんでございますとも!この博多で三善様を知らないものなどおりません。そうでしたか…三善様のお弟子さんでしたか…ちなみに三善様と連絡をとる方法はお有りですか?」

「ああ…ここにいる全員が、勾玉で繋がっている。呼び掛ければ声は届くだろう」

そう言うと、ほっとした顔で本居が頷く。

「だったら安心ですなあ。この博多の地に何か問題が生じた時は、三善様にお伝えすればよいのですな!」

まあそういうことだ。いや俺が何か出来るようなことなら、お前やじいさんが何とかするだろうに……

「タケル、黒の門を使えば直ぐに移動できる。どうする?」

黒が聞いてくる。どうやら黒の門という呼び名で済ませるようだ。

「そうだな。手伝ってくれるか?」

そう黒に伝えると、黒は2m四方の門を一気に開く。

本居がきょとんとした顔で、その光景を見ている。
いきなり目の前に真っ黒に揺れ動く正方形の枠に囲まれた空間が出来たのだから仕方ない。しかもその中には木々に包まれた草地が見えている。

「これが門にございますか!どれどれ……」

そう言いながら手を突っ込もうとする本居の首根っこを、紅が掴んで引きずり戻す。

「止めとけ。才がない者が迂闊に触れると、斬り飛ばされるぞ」

え…そうなの??俺はともかく小夜は大丈夫か?

「小夜ちゃんは大丈夫だよ!精霊に愛されてるからね!」

白が小夜を抱きしめながら俺に言う。黒も頷く。この二人がそう言うなら大丈夫だろう。

「そういうものですか……残念ですなあ……」
本居がまだ諦めきれないようだ。

「人を招けるほどになったら、迎えに来ますよ。人手が必要になれば、窓口役もお願いしたいですしね」

そう本居に言うと、少しは納得したようだ。

「では皆行こうか」

そう言って俺は黒の門に手を差し入れる。別に斬り飛ばされる気配はない。そのまま首だけを突っ込むと、少々懐かしい風景が広がった。じいさんの家があった辺りだろう。
一旦首を戻し、大丈夫だと皆に伝える。

「では本居様。短い間でしたがお世話になりました。行ってきます」



一瞬で着いてしまった。

博多に来るまでは、小夜と出会って1泊、米の山峠で1泊、宰府と乙金でそれぞれ1泊の合計4泊したのだが。

この地と博多までは直線距離で40km程度とはいえ、未整備の峠道を小夜や不慣れな俺の足で歩いたことを考えれば、4泊5日は妥当だったのかもしれない。

ともあれ、開拓予定地に到着した。

「旦那様、この地の呼び名を如何致しますか?」

そうだなあ……流石に「タケルの生誕地」などと呼ばれるのは恥ずかしい。元の世界では「かみ」や「上村かむら」と呼ばれていたが、地名の由来は知らない。

「う~ん……とりあえずさととでも呼んでおくか。生活を始めれば、ふさわしい呼び方が自然と生まれるだろう」

程のいい思考停止だが、まあいいだろう。異論もないようだし。

とりあえずこの何もない里で一泊を過ごす準備をしなければならない。そろそろ日が傾いてきている。

「じゃあ目下やらなくてはいけない作業を分担しよう。紅は焚き木ができそうな枯れ枝を集めてくれ。ついでに食料も頼む。青と白は周辺の探索と皆の護衛、白は草地の整地、黒と小夜は俺の手伝いな」

「周辺の探索とは、何を探しましょう。具体的には?」

そう青が確認してくる。

「この周辺に人の住む集落が無いか、あるいは人がこの近くに立ち寄っていないか、つまり今夜ここで野宿をするのに支障がないかを確認してくれ。詳細な調査は明日にでも俺と白で上空から確認する」

そう追加説明する。

「かしこまりました」

「了解だよ!」

「任せとけ!」

3人はそれぞれ返事をして、ほうぼうに散っていった。

「じゃあ黒はこのテントを人数分複製してくれ。小夜は受け取ったテントの組み立てを頼む」

そう言って麻袋から取り出したテントを黒に渡す。
黒と小夜が作業に入るのを確認し、まずは草地の整地を始めることにした。

6張りのテントにふさわしい平地は、じいさんの家の敷地だった辺りにあった。
生い茂っていた草を白の精霊の力で薙ぎ払い、土の精霊の力も借りて平坦に均ならす。
テントを放射状に設置することを想定して、中心部にかまどを設けた。
小夜が器用にテントを設営し、内部にシュラフを並べていく。黒はテントの防水加工を蝋引きで再現したようだ。

「またわからない素材が使われていた……」

黒が悔しそうに呟いている。いやテフロン加工まで再現しようとしなくていいから……

そうこうしているうちに、紅が鹿を担いで帰ってきた。

「ここいらはいい狩場だなあ!」と嬉しそうだ。

早速近くの小川の辺りで解体し、大量の肉を得る。今夜はバラ肉でスペアリブBBQにしよう。
台所にあった醤油、ハチミツ、トウガラシで適当にタレを作り、肋骨ごと肉を漬け込み、炙り焼きにする。
ついでに土鍋で米を炊く準備も進める。
調理をしながら、やはり排水経路の確保は優先課題だと改めて認識する。まさかテントの中心部で米の研ぎ汁を流すわけには行かなかったからだ。それに俺と小夜にはトイレも必要だ。式神達は飲食しても出ていくものはないようだ。

青と白も帰ってきた。白は風を、青は水脈を辿って探索してきたらしい。

「周辺の一里以内には人がいる気配はありません。ただし里から南の山手に、集落があるようです」と青が報告してきた。

「ありがとう。その集落については明日確認しよう。白、黒と手分けして、この周囲に結界を張ってくれ」

結界が張られるのを待って、少々早いが夕食にした。
特に小夜と白は初めて食べる味に興奮している様子。紅は相変わらずワイルドに、青と黒は無言でがっついている。

まあ気に入ってくれたのなら何よりだ。

こうして夜も更けていった。
俺たちは明日朝からの行動予定を相談して、それぞれのテントに入っていった。
ちなみにテントの割り当ては右回りに俺、小夜、紅、白、黒、青になった。
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