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博多に向かう

23.襲われた集落

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白昼堂々と襲われている集落。
少なくとも一軒の家が燃えているが、まだ集落の板塀は破られてはいないようだ。

板塀の内から盛んに矢が射られているが、狙いがついているわけでもなく、ほとんど効果はない。
一方で、外から矢を射かける悪党からすれば、集落の内側にさえ矢が落ちれば、戦力を削れる機会はある。
この場合は守備側が不利だろう。

「黒!」

そう呼びかけると、黒は少し背伸びしながらホワイトボードを消すような仕草をする。テレビモニターに写すかのように、斜め上からのバードビューで板塀の内側の地獄絵図を鮮明に映し始めた。

燃え盛る板葺きの家、その前で泣き叫ぶ子供。逃げ惑う女達。何かを叫びながら弓を構える男。
音声が無いぶんだけ、どこか遠くの出来事のように見えるが、実際には200mほど先の目の前で起きている現実だ。

「どうしますか?これだけの騒ぎです。しばらくすれば博多の衛士達が駆けつけてくるかもしれませんが」

そう問いかけてきた青の言葉に、意識が引き戻された。
戦うか…こちらには式神達がいる。しかし小夜もいる。相手の戦力もわからないまま、小夜を危険に晒さずに集落を救う方法があるか…

「タケル兄さん!助けよう!」

そう小夜が言う。

「小夜ちゃんのことなら任せて!」

俺の逡巡を察したかのように、白が胸を張る。

「大丈夫。私達が完璧に守る」

そう言いながら黒が小夜の袖を引き、自分の陰に隠す。

「俺は…この集落を助けたい。力を貸してくれ!」

そう言うと、紅がニヤリと笑って言った。

「おう!そう言うと思ったぜ!指揮はタケルが取ってくれ!」

「私達は旦那様に従います。どうぞご指示を」

そう言って青が太刀を抜き放つ。

「よし!白は後方から矢で狙撃、黒は小夜の護衛をしつつ、白に敵の位置を教えろ。青は全体を把握し、敵が近づけばそれを撃破、紅は俺についてこい!」

『おう!』

俺たちは静かに集落に近づく。集落まで50mほどのところで、草むらに潜んで3Dスキャンを試みる。周囲の全容が見えてきた。

集落は山裾の台地の端に位置しており、集落の北側と東側は山林、南側と西側がなだらかな坂で、田畑が広がっている。集落の形はほぼ円形のようだ。
敵は集落の西側から攻め立てており、俺達は南側から接近している。

敵の数はおよそ30人。大将格と思われる男は兜こそ被っていないが武者姿、その他の敵は概ね胴鎧程度だ。

先程までは門は破られていないように見えたが、慎重に近づいているうちに、内部への侵入を許したらしい。半数の敵が板塀の内側に乱入し、人々を追い回している。

「これは地頭どもに雇われたな」

そう紅が呟く。

「邪魔な荘園の力を削ぐために、近隣の集落を襲う。田植えの時期には無くはないことです」

青が解説する。

悪党と決め付けられないといことか。
しかし見捨てるわけにもいかない。

青達の後衛組をその場に残し、俺と紅で接敵を試みる。
白には俺達前衛の攻撃開始と同時に、弓を持った敵を優先して排除するよう指示した。

草むらに身を隠しながら、敵の後ろから近づく。
勝ちを確信しているのか、敵に後ろへの備えは無い。

さほどの苦もなく大将格の背後に到達した俺は、太刀を抜き、峰を大将首に打ち据えた。

大将格が音もなく崩れ落ちる。
と同時に紅が薙刀を構え敵に突入する。白の放った矢が次々と敵を射抜く。
紅の薙刀の一振りごとに、敵が倒れていく。
こちらに逃げてくる敵は、そのまま俺が斬りふせる。
北に逃げる敵は、黒に誘導された白の矢が追撃している。ものの数分で塀の外の敵は全滅した。

俺と紅は集落内部に突入する。

人々を追い回していた敵は、未だ状況を飲み込めていないらしい。突然薙刀を構えた巫女服の女と、太刀を抜いた褐衣姿の陰陽師風の若者が現れたのだ。仕方ないだろう。

勢いに任せ、一人ずつ斬り伏せていく。

物陰で若い女を襲っていた男を見つけ、首根っこを掴み引きずり出す。そのまま軒先に放り出し、首の付け根を蹴り飛ばして意識を狩る。
黒の精霊が屋内に潜む敵を炙り出し、俺と紅で敵を叩き出す。白の矢が上空から敵を狙い撃つ。

再度3Dスキャンを行い、敵の全滅を確認すると、俺は一旦集落を出て小夜達に手を振り合図をする。
どうやら全員無事のようだ。

「タケル兄さん!ケガはない?」

そう言って小夜が飛びついてくる。

「大丈夫だ。小夜は?」

「大丈夫。敵は近づいてすらいない」

そう返事をしたのは黒。
青は大将格の男を引きずってくる。

「なんだ全然楽しめなかったじゃねえか…つまらん連中だな!」

そう言った紅は暴れたりないようだ。

「全員無事で良かった。とりあえず集落の火を消して…こいつの尋問だな。白と黒は小夜の護衛と周囲の警戒、青は集落の怪我人を、紅は敵の遺体を集めてくれ。生き残りがいれば命は助けたい。俺は水の精霊で火を消してみる」

それぞれが役割を果たすために動き始めたことを確認し、俺は燃えている家に向かって右手をかざす。
指先に青い精霊を集め、慎重に水を出す。
俺の指先からは、蛇口をひねった時の水道水ぐらいの勢いで水が迸る。
精霊の数を増やし、徐々に水圧と水量を増やす。指3本から勢いよく出た水が、5mほどの弧を描いくようにしてから、荒い霧状の放水に切り替える。
上手くいった。燃え盛る家に満遍なく水を掛ける。
噴霧注水による窒息効果と冷却効果により、一気に火勢が衰えた。

そのまま放水を続け、およそ5分で鎮火した。
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