19 / 176
宰府にて
19.宰府での夜(式神達との会話③)
しおりを挟む
さて…そろそろ小夜が眠そうになっている。
昨夜から夕刻までは悪党どもとの一件で気が休まることもなかっただろうし、気丈によく耐えていたと思う。
式神達に聞きたいことは山ほどあるが、いずれ明らかになっていくだろう。
今まで自重してきた元の世界の道具や知識も、こいつらと一緒にいる時ぐらいは惜しみなく使っていこう。
「そろそろ寝る準備するぞ~」
麻袋からシュラフを取り出す。2つしか持っていなかったはずだが、6つ出てきた。
ただし、内4つの手触りが違う。2つはポリエステルの生地だったが、残り4つの手触りは…木綿か。色も黒色ではなく紺色に近い。
「生地の素材がわからなかった…タケル!ぽりえすてるとは何だ!」
ああ…解析結果も石油化学製品には太刀打ちできなかったか。
「まあ細かいことは気にするな。そのうちじっくり化学の講義をしてやる」
「本当か!いつだ!」
いや黒は本当に探究心旺盛だ。白が若干引いている。
木綿の掛け布団のようなシュラフは、年長組で使うことにして、元の世界のシュラフをちびっ子3人組みに渡す。
封筒型のシュラフは2つをファスナーで繋ぎ合わせれば子供3人は寝られるだろう。ファスナーの使い方は…白も黒もわかっているらしい。白がしきりに開けては閉じて遊んでいる。
「白~あんまり勢いよくやると生地挟んで動かんくなるとよ~」
「は~い(笑)」
聞き分けが良いのは良いことだ。
さすがに男女混合で寝るのも気がひけたので、奥の間に女性陣5人を追いやる。
しばらくバタバタしていたが、どうやら寝静まったようだ。
思えば激動の数日間だった。
元の世界で恐らく命を落とし、不思議な光に導かれて今の世界にきた。
この世界には文化の違いはあれど複数の人間が生活し、社会的な暮らしを営んでいる。
行政も機能し、治安も悪くない。
そういえば、スラム街のようなものが博多の街にはあるそうだが、ある程度人口があれば仕方のないことだろう。
俺は精霊の力を借りられるが、こういう人間は多くはないようだ。元の世界で習い覚えた武道は、今の世界でも通用した。少なくとも悪党を討つ程度の力はあった。
もちろんちゃんとした修練を積んだ武道家のような人間に通用するかはわからないが、究極的には狙撃すれば済む話だ。
……これは相当チートなんじゃないだろうか。
こういうチート能力を一切封印して、ひっそりと生きていくことも難しくはないはずだ。
生まれ落ちた山に籠って、自給自足で一生を送る。小夜と、そして4人の式神達。俺の寿命がどれくらいかわからないが、きっと老後の心配もないだろう。決して悪くはない。
しかし、それでいいのだろうか。不思議な光は一体何のためにこの世界に俺を転生させたのだろう。俺には何かやるべきことがあるのだろうか。
例えばこの力を使って、一国一城の主人になるような……
ないな。俺にはそんな気概も器もないのは、そう長くもない会社勤めで身に染みている。
街で暮らすか?陰陽師の弟子になったことだし、精霊の力を多少借りれば、いくらでも需要はあるだろう。
病気や怪我の人を癒し、農業指導をし、悪党を追い払い、孤児や浮浪者に職を与え、そんな人助けをしつつ、老後は惜しまれながら生涯を閉じる。
そういえば大学の頃に青年海外協力隊に応募しようかと真剣に悩んだことがあった。悩むということは覚悟が足りないと悟って断念したが、これはそのチャンスがもう一度巡ってきたのではないだろうか。
たぶん人生をやり直すのなら、そして自分にその能力があるというのなら、そうすべきではないだろうか。
そんなことを考えているうちに、俺も深い眠りに落ちていった。
昨夜から夕刻までは悪党どもとの一件で気が休まることもなかっただろうし、気丈によく耐えていたと思う。
式神達に聞きたいことは山ほどあるが、いずれ明らかになっていくだろう。
今まで自重してきた元の世界の道具や知識も、こいつらと一緒にいる時ぐらいは惜しみなく使っていこう。
「そろそろ寝る準備するぞ~」
麻袋からシュラフを取り出す。2つしか持っていなかったはずだが、6つ出てきた。
ただし、内4つの手触りが違う。2つはポリエステルの生地だったが、残り4つの手触りは…木綿か。色も黒色ではなく紺色に近い。
「生地の素材がわからなかった…タケル!ぽりえすてるとは何だ!」
ああ…解析結果も石油化学製品には太刀打ちできなかったか。
「まあ細かいことは気にするな。そのうちじっくり化学の講義をしてやる」
「本当か!いつだ!」
いや黒は本当に探究心旺盛だ。白が若干引いている。
木綿の掛け布団のようなシュラフは、年長組で使うことにして、元の世界のシュラフをちびっ子3人組みに渡す。
封筒型のシュラフは2つをファスナーで繋ぎ合わせれば子供3人は寝られるだろう。ファスナーの使い方は…白も黒もわかっているらしい。白がしきりに開けては閉じて遊んでいる。
「白~あんまり勢いよくやると生地挟んで動かんくなるとよ~」
「は~い(笑)」
聞き分けが良いのは良いことだ。
さすがに男女混合で寝るのも気がひけたので、奥の間に女性陣5人を追いやる。
しばらくバタバタしていたが、どうやら寝静まったようだ。
思えば激動の数日間だった。
元の世界で恐らく命を落とし、不思議な光に導かれて今の世界にきた。
この世界には文化の違いはあれど複数の人間が生活し、社会的な暮らしを営んでいる。
行政も機能し、治安も悪くない。
そういえば、スラム街のようなものが博多の街にはあるそうだが、ある程度人口があれば仕方のないことだろう。
俺は精霊の力を借りられるが、こういう人間は多くはないようだ。元の世界で習い覚えた武道は、今の世界でも通用した。少なくとも悪党を討つ程度の力はあった。
もちろんちゃんとした修練を積んだ武道家のような人間に通用するかはわからないが、究極的には狙撃すれば済む話だ。
……これは相当チートなんじゃないだろうか。
こういうチート能力を一切封印して、ひっそりと生きていくことも難しくはないはずだ。
生まれ落ちた山に籠って、自給自足で一生を送る。小夜と、そして4人の式神達。俺の寿命がどれくらいかわからないが、きっと老後の心配もないだろう。決して悪くはない。
しかし、それでいいのだろうか。不思議な光は一体何のためにこの世界に俺を転生させたのだろう。俺には何かやるべきことがあるのだろうか。
例えばこの力を使って、一国一城の主人になるような……
ないな。俺にはそんな気概も器もないのは、そう長くもない会社勤めで身に染みている。
街で暮らすか?陰陽師の弟子になったことだし、精霊の力を多少借りれば、いくらでも需要はあるだろう。
病気や怪我の人を癒し、農業指導をし、悪党を追い払い、孤児や浮浪者に職を与え、そんな人助けをしつつ、老後は惜しまれながら生涯を閉じる。
そういえば大学の頃に青年海外協力隊に応募しようかと真剣に悩んだことがあった。悩むということは覚悟が足りないと悟って断念したが、これはそのチャンスがもう一度巡ってきたのではないだろうか。
たぶん人生をやり直すのなら、そして自分にその能力があるというのなら、そうすべきではないだろうか。
そんなことを考えているうちに、俺も深い眠りに落ちていった。
10
お気に入りに追加
235
あなたにおすすめの小説
鬼神の刃──かつて世を震撼させた殺人鬼は、スキルが全ての世界で『無能者』へと転生させられるが、前世の記憶を使ってスキル無しで無双する──
ノリオ
ファンタジー
かつて、刀技だけで世界を破滅寸前まで追い込んだ、史上最悪にして最強の殺人鬼がいた。
魔法も特異体質も数多く存在したその世界で、彼は刀1つで数多の強敵たちと渡り合い、何百何千…………何万何十万と屍の山を築いてきた。
その凶悪で残虐な所業は、正に『鬼』。
その超絶で無双の強さは、正に『神』。
だからこそ、後に人々は彼を『鬼神』と呼び、恐怖に支配されながら生きてきた。
しかし、
そんな彼でも、当時の英雄と呼ばれる人間たちに殺され、この世を去ることになる。
………………コレは、そんな男が、前世の記憶を持ったまま、異世界へと転生した物語。
当初は『無能者』として不遇な毎日を送るも、死に間際に前世の記憶を思い出した男が、神と世界に向けて、革命と戦乱を巻き起こす復讐譚────。
いずれ男が『魔王』として魔物たちの王に君臨する────『人類殲滅記』である。
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。
ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
かつてダンジョン配信者として成功することを夢見たダンジョン配信者マネージャー、S級ダンジョンで休暇中に人気配信者に凸られた結果バズる
竜頭蛇
ファンタジー
伊藤淳は都内の某所にあるダンジョン配信者事務所のマネージャーをしており、かつて人気配信者を目指していた時の憧憬を抱えつつも、忙しない日々を送っていた。
ある時、ワーカーホリックになりかねていた淳を心配した社長から休暇を取らせられることになり、特に休日に何もすることがなく、暇になった淳は半年先にあるS級ダンジョン『破滅の扉』の配信プロジェクトの下見をすることで時間を潰すことにする.
モンスターの攻撃を利用していたウォータースライダーを息抜きで満喫していると、日本発のS級ダンジョン配信という箔に目が眩んだ事務所のNO.1配信者最上ヒカリとそのマネージャーの大口大火と鉢合わせする.
その配信で姿を晒すことになった淳は、さまざまな実力者から一目を置かれる様になり、世界に名を轟かす配信者となる.
お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。
勇者としての役割、与えられた力。
クラスメイトに協力的なお姫様。
しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。
突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。
そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。
なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ!
──王城ごと。
王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された!
そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。
何故元の世界に帰ってきてしまったのか?
そして何故か使えない魔法。
どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。
それを他所に内心あわてている生徒が一人。
それこそが磯貝章だった。
「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」
目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。
幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。
もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。
そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。
当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。
日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。
「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」
──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。
序章まで一挙公開。
翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
一章 異世界クラセリア【9/3〜】
二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。
ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる