上 下
13 / 176
宰府にて

13.悪党どもを役人に引き渡す

しおりを挟む
宰府にはその日の夕刻頃に着いた。
本来なら日が陰る前には着く見込みだったようだが、悪党どもの歩みに合わせたことと、こちらにも小夜がいたから仕方ない。

そういえば行商人の3名がしきりに勧めるので、服を着替える事にした。紺色の作務衣は目立つそうだ。確か作務衣は寺の住職などの作業服だっただろうか。そもそも身長で目立つのだ。わざわざ目立つ格好をすることもないだろう。

彦兵衛が商いのために運んでいた古着の中から、小袖と袴を一揃い頂戴する。柿渋で染めたような茶色の袴と、矢羽柄の小袖。袴の裾は足首で縛り、脛巾を付け草鞋履き。烏帽子もあったが、これは固辞した。
小夜は俺の周りをクルクル回りながら「似合ってるよ~」と喜んでくれている。

問題はリュックサックだ。たぶん小袖の袖下からでも必要なものは取り出せるが、何でも袖下から取り出しているのも違和感しかない。
仕方ないので、彦兵衛から使い古しの麻袋をもらい、袋の中に黒い精霊を集め、4次元ポケット化する。
リュックサックごと麻袋に放り込み、口を荒縄で縛って背負うことにした。

「そんなに目立つ格好ではなくなりましたな」とは弥太郎の感想である。

さて、宰府の街中が見えてきた。
大通りに沿って、木造家屋が立ち並んでいる。ほぼ全てが1階建てで屋根は板葺き。昔ながらの長屋が連なっている感じだ。

ところどころに物見櫓を備えた衛士の屯所がある。
街の中心部に数件の寺があり、街の東側に政庁があった。いわゆる条坊制で碁盤の目のように区画整理されているが、街中を貫く御笠川の影響で、ビシッとした碁盤の目にはなりきれておらず、政庁から離れるとだいぶ入り組んだ小路のようなものもあるそうだ。

街中の要所には、朱色の衣に黒塗りの長弓を持ち、太刀を履いた衛士が立っている。弥太郎の話では、治安は悪くないとのことだった。

さて、到着時の俺達一行である。
先頭に最年長の彦兵衛、彦兵衛は悪党の一人が持っていた太刀を腰に履いている。彦兵衛が握るのは、悪党5人を数珠繋ぎに縛った荒縄、その左右にそれぞれ小太刀を履いた権太と弥太郎、そして最後尾からは俺が槍を担いで睨みを効かし、俺の陰に隠れるようにちょこちょこと小夜がついてくる。

悪党どもはさすがに観念したのか、重い足取りでゆっくりと歩いている。

ただでさえ目立つのに、彦兵衛が大きな声で「儂らを襲った悪党どもを、こちらのタケル様が召し捕ったぞー!!」などと叫んでまわるものだから、それはもう目立つ。
街の門に着く頃には、俺達一行の周りには大きな人だかりが出来ていた。

門に着くや否や、騒ぎを聞きつけた衛士の一団が人混みを掻き分け近づいてきた。
衛士達は揃いの褐衣姿。色は朱色で、黒塗りの太刀を履いている。集団の中の一際大柄な偉丈夫が進み出てきた。

「其の方らが召し捕ったという悪党どもはこいつらか!」

さっそく彦兵衛が説明しているが、時間も時間ということで詳しい調べは明朝からになったようだ。
悪党どもはそのまま衛士達が連れて行くらしい。
残った数人の衛士が、集まっていた人混みを散らそうとしている。俺たちもその場を離れることとした。

人混みを避けながら政庁から離れた下町を目指す。中心部から離れると、碁盤の目状の条坊は崩れて行くが、その方が活気があっていい。行商人やこの街の商人達も、下町に集まっているそうだ。

「ほう…在野の陰陽師か」

突然傍らから声をかけられた。振り返ると、一人の老人が立っていた。

紺色の狩衣に立烏帽子、あご髭が白く伸びている。老人と言ったが、背筋も伸びており、見た目50代ぐらいかもしれない。どことなく死んだじいさんの若い頃に似ている。

「俺のことか?」

思わず答えてしまう。
老人はニヤリと笑いながら続ける。

「お前さん以外に誰がおるんじゃ…いやそっちの嬢ちゃんも素質はあるようじゃが…お前さんその気は修行によるものではないな。天賦の才か?もしかして生まれながらに精霊達が見えるのではあるまいな」

老人は真っ直ぐに俺の目を見ながら、それでもニヤニヤした表情は崩さず質問を重ねてくる。

「じいさんは…陰陽師なのか?」

「まあ陰陽道は嗜んでおる。お前さんちょっと寄っていけ。ああ…そっちの兄さん達に用はない。適当に嬢ちゃんの相手をしておれ。一刻ほどしたらあの屋敷まで迎えに来い」

そう言うと、老人はスタスタと近くの家に入って行く。
近くにいた彦兵衛を捕まえ、じいさんが何者か聞いてみる。

「あのじいさんはここらじゃ名の知れた陰陽師でしてね、何でも都じゃ1番の使い手だったらしいです」

俄然興味が湧いてきた。ここで接点があったのも何かの縁だろう。弥太郎に小夜を頼み、じいさんの後を追う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

かつてダンジョン配信者として成功することを夢見たダンジョン配信者マネージャー、S級ダンジョンで休暇中に人気配信者に凸られた結果バズる

竜頭蛇
ファンタジー
伊藤淳は都内の某所にあるダンジョン配信者事務所のマネージャーをしており、かつて人気配信者を目指していた時の憧憬を抱えつつも、忙しない日々を送っていた。 ある時、ワーカーホリックになりかねていた淳を心配した社長から休暇を取らせられることになり、特に休日に何もすることがなく、暇になった淳は半年先にあるS級ダンジョン『破滅の扉』の配信プロジェクトの下見をすることで時間を潰すことにする. モンスターの攻撃を利用していたウォータースライダーを息抜きで満喫していると、日本発のS級ダンジョン配信という箔に目が眩んだ事務所のNO.1配信者最上ヒカリとそのマネージャーの大口大火と鉢合わせする. その配信で姿を晒すことになった淳は、さまざまな実力者から一目を置かれる様になり、世界に名を轟かす配信者となる.

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...