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35.アベル君の捜索(5月9日)
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門の外に集合したのは、衛兵達が10名、レナトさんともう1人の若い細い男、それに俺達の16人だ。
衛兵達は短槍の先に斧や鉤のような突起が付いたハルバードのような武器と短弓を装備している。
防具は先程まで着ていた鎖帷子ではなく、鞣革のレザーアーマーに変えられている。ジャラジャラ音がするのを嫌がったか。
レナトさんは刃渡り1メートルを超えるような大剣を背負い、革の胸当てと籠手のみ。
「紹介しとくぜ。こいつはカサドールのノエ。見ての通り細っこいが、短剣を使わせりゃ右に出る奴はいねえ。あと鍵開けが異常に上手い。 今回の任務にゃぴったりだ」
「ノエだ。みんなの事はさっきレナトさんから聞いた。案内役期待してるよ」
ノエさんは華奢な身体を隠すような黄土色のチュニックに茶色のパンツ。革の籠手に同じく革の脛当て。
一見すると農夫のようにも見えるが、両腰に下げた短剣のヒルトが黒光りしている所を見るに只者ではないのだろう。
「よし。全員準備はいいな。出発するぞ!」
ほいほい。途中までとは言え、来た道を逆戻りかあ……
目的地に心当たりがあるらしいノエさんが先頭に立ち、その後ろにレナトさんと俺達4人、更に後方に衛兵達10人が続く。
早速イザベルがレナトさんに絡み始めた。
「この傷か?こいつはまだ軍人だった頃に、マンティコレにやられたんだ。少人数での野営訓練中に襲われてな、俺が率いていた小隊10人を全滅させやがった。俺も殺されそうになったが、何とか身体ごと短剣を奴の胸に突き立ててやった。その時の実入りに味をしめて、カサドールに転向したんだ。おかげで俺も獅子狩人の称号付きだ」
「それなら私達もごもご……」
「そうなんですね!あのマンティコレを倒すなんてすごい!」
アリシアがイザベルの口を後ろから押さえながら割って入る。
「アイダ。あの真っ黒な生き物って、そんなに危険な魔物だったのか?」
小声でアイダに聞く。
「そうですよ!私達も思わず固まっていたでしょう?私だって倒せるなんて思ってなかったですよ!」
そうか。
って!ノリノリで倒しに向かってなかったか3人とも。
これは倒した3体のマンティコレを売るときに十分注意しなければ。イザベルとアイダのような女の子が倒したとなれば、ひと騒動起きそうだ。
そんな感じでレナトさんの自慢話を交えた魔物討伐談義を聞きながら、森へと分け入っていった。
街からおよそ4キロメートル。目的地までは3キロメートル。森の中を中心に高密度にレーダーを放つ。
問題の反応はまだ森の中にあった。
索敵結果をレナトさんとノエさんに伝える。
2人は大きく頷き、全員を集めた。
「ここからはお喋りは無しだ。物音も出来るだけ立てるな。先頭はノエ。学生さん達もノエに続いてくれ。衛兵達は俺が率いて進む。標的が目視できる地点まで進んだら停止して待機だ。兄ちゃんは可能なら索敵を頼む。いいな」
ここから静かな前進が始まった。
森に入ったノエさんの動きは異常に素早い。これが本業カサドールの前進速度か。
イザベルやアイダ、それにアリシアもちゃんと付いて行っている。
森林型フィールドのサバイバルゲームは大好きだが、これほど長く、そして素早く移動するのは初めてだ。
何度か木の根に躓いたり落ち葉で足を滑らせたり、顔面を襲うツタに絡まったりしながらも、ようやく目標近くまで辿り着いた。
木陰に隠れながら様子を伺う。
目標は放棄された猟師小屋……という事だったが、立派に屋根もあり壁もあるログハウスだった。
一辺が5メートルほどの正方形の箱に屋根が乗っている簡単な造りではあるが、頑丈そうだ。
正面の扉の他に扉は無く、三方向に大きな窓があるが鎧戸が閉まっていて中の様子は伺えない。天井にも採光用の天窓があるようで、そちらは開いている。
レナトさんが率いる衛兵隊の到着までの間に、スキャンによる索敵を試みる。
レーダーでは魔力反応の強弱しか分からないが、スキャンでなら魔力の強弱に関わらず対象の姿形まで判別できる。
スキャンの結果、ログハウスの中にある魔力反応は間違いなく人間だった。レーダーで見つけていた5人の他にも、極めて微弱な反応を出していたのが2人。そして地下室のような場所に小さな人間が1人。
おそらく間違いないだろう。人攫いはこいつらだ。
7人中4人は寝転がっており、残りの3人は胡座をかくように座っている。
どうやら昼間から飲んでいるようだ。
そういえば葡萄酒が名産品なんだっけ?
ログハウスの構造も分かった。
シンプルに一部屋。当然風呂トイレなし。キッチンのようなものも見当たらない。本当にただの箱だ。
部屋の片隅にベッドのような構造物がある他は、調度品のような物も見当たらない。
掩蔽物がないなら、単純にドアを開けて……ダメだ。内側に閂がある。これはいくら解錠が得意なノエさんでも無理なのでは。
「閂?解錠じゃないのか。でも大丈夫だよ」
閂が掛かっている事を伝えると、ノエさんが不敵に笑いながら籠手の内側から薄刃の小刀のような物を取り出した。
「ねえイトー君。その閂ってどういう構造か分かる?」
「一辺が10センチほどの角材を、金属の枠に差し込んでいるみたいですね」
「枠に落としているわけじゃない?」
「はい。枠が角材の上にもあるので、横から差し込んでいるみたいです」
「そうか……蝶番の向きからみるに、扉は内開きみたいだね」
「はい。どうするつもりです?」
ノエさんは相変わらず不敵な微笑みで小刀を弄んでいる。
「ちょっとボクの固有魔法をお見せしようかな。閂は……ちょうどこれぐらいの太さかな?」
ノエが近くの木の枝の付け根を指し示す。
「よく見ててね?」
そう言うと、ノエさんが小刀を枝の付け根に下から押し当て、一気に上に振り抜いた。
小刀はやすやすと枝を切り落とした。まさに熱したナイフがバターを切り裂くようにだ。
そしてゆっくりと枝が落ちる。ガサガサと触れ合う葉音を立てながら、長さ3メートルもあろうかという立派な枝が落下し、派手な音を立てた。
「おい!今のは何だ!」
追い付いたレナトさんが駆け寄ってくる。
同時にログハウスの中が騒がしくなった。どうやらログハウスの中まで聞こえてしまったらしい。
「ちょっと固有魔法を披露したらさあ?失敗しちゃった。てへっ」
おいおい。斬り落とした枝を音もなく支えるまでがセットとかじゃないのかよ。というか男のドジっ子なんて使えないだけじゃねえか!
「お前かあ!調子に乗るなといつも言ってるだろ!そんなだからどこのパーティードにも入れてもらえないんだぞ!」
「だって!後輩の前なんだよ!良いところ見せたいじゃん!!」
「あの……とりあえず隠れて作戦会議でもしたほうがよいのでは?相手も気付いてしまってるかもしれませんし、窓を開けられたらこっち丸見えですよ」
アイダの冷静な意見で2人が我に返る。
「そ…そうだな。よし。衛兵達は小屋の周囲を取り囲め。出入り口は一つしか無いようだが、窓から逃げられると厄介だ。敵の数は?」
「7人です。魔力反応があるのが5人、極めて微弱なのが2人。例の男の子は地下室にいるようです」
「地下室だと?わざわざ地下室を作っているのか」
俺からの報告を聞いて、レナトさんが頭を振る。
「ノエ。責任を取ってお前が突っ込め」
「ええええ……またボクですかあ?」
「後輩にいいとこ見せたいんだろ?思う存分切り刻んでこい?」
何だか物騒なコト言ってるなあ。
「じゃあイトー君も一緒にね?」
「はあ?何で俺まで?」
「連帯責任って言葉知ってる?レ・ン・タ・イ」
いちいち区切らなくてよろしい。
わかったよ。行ってやるよ。
ってちょっと待て。相手は人間だ。
流石に魔物を撃ち殺すように殺してしまっていいのだろうか。いや“犯罪者にもジンケンが”なんて言うつもりはないが、もしかしたら何かの間違いかも知れないし、地下室にいるのはただの子供でアベル君ではないかもしれない。
怪しいだけで撃ち殺すのは如何なものか。
どうやらノエさんは切り刻む気満々のようだし、先にケリを付けなくては。流石に無抵抗の人間を処刑するような真似はしないだろう。
というか、良心の呵責で眠れない日々を過ごすなんて嫌だぞ。
「なあアリシア。殺さずに相手を無力化する攻撃って心当たりあるか?」
「そうですね……眠らせるか、あ!parálisisなんてどうですか?あとは目眩しならflashとか!」
「パラリシス??」
「はい。全身が痺れたように動けなくなる魔法です」
ああ。麻痺か。フラッシュはそのまま閃光だろう。
ぶっつけ本番だが、やってみるか。
衛兵達は短槍の先に斧や鉤のような突起が付いたハルバードのような武器と短弓を装備している。
防具は先程まで着ていた鎖帷子ではなく、鞣革のレザーアーマーに変えられている。ジャラジャラ音がするのを嫌がったか。
レナトさんは刃渡り1メートルを超えるような大剣を背負い、革の胸当てと籠手のみ。
「紹介しとくぜ。こいつはカサドールのノエ。見ての通り細っこいが、短剣を使わせりゃ右に出る奴はいねえ。あと鍵開けが異常に上手い。 今回の任務にゃぴったりだ」
「ノエだ。みんなの事はさっきレナトさんから聞いた。案内役期待してるよ」
ノエさんは華奢な身体を隠すような黄土色のチュニックに茶色のパンツ。革の籠手に同じく革の脛当て。
一見すると農夫のようにも見えるが、両腰に下げた短剣のヒルトが黒光りしている所を見るに只者ではないのだろう。
「よし。全員準備はいいな。出発するぞ!」
ほいほい。途中までとは言え、来た道を逆戻りかあ……
目的地に心当たりがあるらしいノエさんが先頭に立ち、その後ろにレナトさんと俺達4人、更に後方に衛兵達10人が続く。
早速イザベルがレナトさんに絡み始めた。
「この傷か?こいつはまだ軍人だった頃に、マンティコレにやられたんだ。少人数での野営訓練中に襲われてな、俺が率いていた小隊10人を全滅させやがった。俺も殺されそうになったが、何とか身体ごと短剣を奴の胸に突き立ててやった。その時の実入りに味をしめて、カサドールに転向したんだ。おかげで俺も獅子狩人の称号付きだ」
「それなら私達もごもご……」
「そうなんですね!あのマンティコレを倒すなんてすごい!」
アリシアがイザベルの口を後ろから押さえながら割って入る。
「アイダ。あの真っ黒な生き物って、そんなに危険な魔物だったのか?」
小声でアイダに聞く。
「そうですよ!私達も思わず固まっていたでしょう?私だって倒せるなんて思ってなかったですよ!」
そうか。
って!ノリノリで倒しに向かってなかったか3人とも。
これは倒した3体のマンティコレを売るときに十分注意しなければ。イザベルとアイダのような女の子が倒したとなれば、ひと騒動起きそうだ。
そんな感じでレナトさんの自慢話を交えた魔物討伐談義を聞きながら、森へと分け入っていった。
街からおよそ4キロメートル。目的地までは3キロメートル。森の中を中心に高密度にレーダーを放つ。
問題の反応はまだ森の中にあった。
索敵結果をレナトさんとノエさんに伝える。
2人は大きく頷き、全員を集めた。
「ここからはお喋りは無しだ。物音も出来るだけ立てるな。先頭はノエ。学生さん達もノエに続いてくれ。衛兵達は俺が率いて進む。標的が目視できる地点まで進んだら停止して待機だ。兄ちゃんは可能なら索敵を頼む。いいな」
ここから静かな前進が始まった。
森に入ったノエさんの動きは異常に素早い。これが本業カサドールの前進速度か。
イザベルやアイダ、それにアリシアもちゃんと付いて行っている。
森林型フィールドのサバイバルゲームは大好きだが、これほど長く、そして素早く移動するのは初めてだ。
何度か木の根に躓いたり落ち葉で足を滑らせたり、顔面を襲うツタに絡まったりしながらも、ようやく目標近くまで辿り着いた。
木陰に隠れながら様子を伺う。
目標は放棄された猟師小屋……という事だったが、立派に屋根もあり壁もあるログハウスだった。
一辺が5メートルほどの正方形の箱に屋根が乗っている簡単な造りではあるが、頑丈そうだ。
正面の扉の他に扉は無く、三方向に大きな窓があるが鎧戸が閉まっていて中の様子は伺えない。天井にも採光用の天窓があるようで、そちらは開いている。
レナトさんが率いる衛兵隊の到着までの間に、スキャンによる索敵を試みる。
レーダーでは魔力反応の強弱しか分からないが、スキャンでなら魔力の強弱に関わらず対象の姿形まで判別できる。
スキャンの結果、ログハウスの中にある魔力反応は間違いなく人間だった。レーダーで見つけていた5人の他にも、極めて微弱な反応を出していたのが2人。そして地下室のような場所に小さな人間が1人。
おそらく間違いないだろう。人攫いはこいつらだ。
7人中4人は寝転がっており、残りの3人は胡座をかくように座っている。
どうやら昼間から飲んでいるようだ。
そういえば葡萄酒が名産品なんだっけ?
ログハウスの構造も分かった。
シンプルに一部屋。当然風呂トイレなし。キッチンのようなものも見当たらない。本当にただの箱だ。
部屋の片隅にベッドのような構造物がある他は、調度品のような物も見当たらない。
掩蔽物がないなら、単純にドアを開けて……ダメだ。内側に閂がある。これはいくら解錠が得意なノエさんでも無理なのでは。
「閂?解錠じゃないのか。でも大丈夫だよ」
閂が掛かっている事を伝えると、ノエさんが不敵に笑いながら籠手の内側から薄刃の小刀のような物を取り出した。
「ねえイトー君。その閂ってどういう構造か分かる?」
「一辺が10センチほどの角材を、金属の枠に差し込んでいるみたいですね」
「枠に落としているわけじゃない?」
「はい。枠が角材の上にもあるので、横から差し込んでいるみたいです」
「そうか……蝶番の向きからみるに、扉は内開きみたいだね」
「はい。どうするつもりです?」
ノエさんは相変わらず不敵な微笑みで小刀を弄んでいる。
「ちょっとボクの固有魔法をお見せしようかな。閂は……ちょうどこれぐらいの太さかな?」
ノエが近くの木の枝の付け根を指し示す。
「よく見ててね?」
そう言うと、ノエさんが小刀を枝の付け根に下から押し当て、一気に上に振り抜いた。
小刀はやすやすと枝を切り落とした。まさに熱したナイフがバターを切り裂くようにだ。
そしてゆっくりと枝が落ちる。ガサガサと触れ合う葉音を立てながら、長さ3メートルもあろうかという立派な枝が落下し、派手な音を立てた。
「おい!今のは何だ!」
追い付いたレナトさんが駆け寄ってくる。
同時にログハウスの中が騒がしくなった。どうやらログハウスの中まで聞こえてしまったらしい。
「ちょっと固有魔法を披露したらさあ?失敗しちゃった。てへっ」
おいおい。斬り落とした枝を音もなく支えるまでがセットとかじゃないのかよ。というか男のドジっ子なんて使えないだけじゃねえか!
「お前かあ!調子に乗るなといつも言ってるだろ!そんなだからどこのパーティードにも入れてもらえないんだぞ!」
「だって!後輩の前なんだよ!良いところ見せたいじゃん!!」
「あの……とりあえず隠れて作戦会議でもしたほうがよいのでは?相手も気付いてしまってるかもしれませんし、窓を開けられたらこっち丸見えですよ」
アイダの冷静な意見で2人が我に返る。
「そ…そうだな。よし。衛兵達は小屋の周囲を取り囲め。出入り口は一つしか無いようだが、窓から逃げられると厄介だ。敵の数は?」
「7人です。魔力反応があるのが5人、極めて微弱なのが2人。例の男の子は地下室にいるようです」
「地下室だと?わざわざ地下室を作っているのか」
俺からの報告を聞いて、レナトさんが頭を振る。
「ノエ。責任を取ってお前が突っ込め」
「ええええ……またボクですかあ?」
「後輩にいいとこ見せたいんだろ?思う存分切り刻んでこい?」
何だか物騒なコト言ってるなあ。
「じゃあイトー君も一緒にね?」
「はあ?何で俺まで?」
「連帯責任って言葉知ってる?レ・ン・タ・イ」
いちいち区切らなくてよろしい。
わかったよ。行ってやるよ。
ってちょっと待て。相手は人間だ。
流石に魔物を撃ち殺すように殺してしまっていいのだろうか。いや“犯罪者にもジンケンが”なんて言うつもりはないが、もしかしたら何かの間違いかも知れないし、地下室にいるのはただの子供でアベル君ではないかもしれない。
怪しいだけで撃ち殺すのは如何なものか。
どうやらノエさんは切り刻む気満々のようだし、先にケリを付けなくては。流石に無抵抗の人間を処刑するような真似はしないだろう。
というか、良心の呵責で眠れない日々を過ごすなんて嫌だぞ。
「なあアリシア。殺さずに相手を無力化する攻撃って心当たりあるか?」
「そうですね……眠らせるか、あ!parálisisなんてどうですか?あとは目眩しならflashとか!」
「パラリシス??」
「はい。全身が痺れたように動けなくなる魔法です」
ああ。麻痺か。フラッシュはそのまま閃光だろう。
ぶっつけ本番だが、やってみるか。
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