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17.アルカンダラに向かう(5月3日)
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「えっと…アルカンダラは北にある……でいいんだよな?」
「はい?だからこっちの方角ですよね?」
自信満々にアリシアが胸を張る。
「えっとな……一昨日の夜に、簡単に地図を描いて位置関係を把握したよな?」
「はい!ばっちりです!」
「もう一度おさらいするぞ?今太陽はどこにある?」
「え??あそこですけど?」
「うん。あそこにあるな。じゃあ今太陽がある空の方角は?」
「えっと…東??」
「アリシアちゃん……太陽は東から登って西に沈むんだよ?先生に教わったでしょ!」
イベリアが作業帽キャップに収まり切れない長い白い髪を揺すりながら言う。
やっぱりツインテールにでもするべきだろうか。
「それは知ってるよう!だから!ってあれ?今もうお昼過ぎた?」
「とっくに過ぎてるな」
「あれ?じゃあ……あれ?こっちが北……かな?」
とにもかくにも、俺達は北に向かって歩き出した。
「なあアイダ。アリシアって、いつもあんな感じなのか?」
「あはは……そうですね……屋根がある場所ではしっかり者なんですけど、いざ野外にでると……」
それって狩人としては問題なのではなかろうか。
北の森に分け入る。
前回、森で大鬼と出くわしている。
慎重に、だが出来るだけ速く進む。
森に入るとイザベラが生き生きと皆を先導しはじめた。ミッドエルフだと言われていたが、エルフと名が付くだけのことはある。森の妖精のようなものなのだろう。木々に囲まれて見通しの効かない中を、スイスイと真っすぐ北に向かって進んでいく。
1キロメートルほども森に分け入ったところで、イザベルが立ち止まった。
「何かいる……」
アリシアとアイダの顔に緊張が走る。
何か……か。昨日アリシアに教わった探知系魔法、試してみるか。
風魔法を自分を中心に薄く拡げていく。地上高1メートルぐらいに厚さ数ミリのクレープ生地を伸ばしていくイメージだ。
半径5メートル、10メートル、20メートル、50メートル……徐々に範囲を拡げていく。
これか?
四足歩行の堂々とした体型に、細いが強靭そうな足、太い首の上には立派なツノが生えた頭部。
これはシカだ。
200メートル辺りで何か違和感があった。
北西側だ。
違和感があった辺りの密度を上げて、重点的にチェックする。
コイツらだ。人の身長ほどもある魔物が3体、その半分ぐらいの大きさの魔物が10体。北に向かって移動している。
「見つけました!これは……大鬼3に小鬼10です!」
アリシアが緊張した声で皆に伝えている。
「小鬼10ですって!この前より数が多い……」
「それに大鬼まで……どうしよう……逃げる?」
3人が顔を寄せ合って相談を始めた。
大鬼に小鬼。つまり大鬼と小鬼だろう。
一昨日倒した感じでは、そこまで強力な魔物とは思えなかったが、あれは後方からの不意打ちだったからというのもあるだろう。
正面から耳まで裂けた口と吊り上がった目で凄まれたら、確かに怖そうだ。
「どうする?このまま隠れてやり過ごす?結界防壁は臭いも隠すから、魔力を探知する能力がない魔物なら有効だけど……」
「しかし魔物が出る度に隠れてやり過ごすのか?そんなことで学校に戻れるのか!?」
「だって仕方ないじゃん!私達の攻撃手段は弓と剣しかないんだよ!アリシアは支援魔法が中心だし、アイダの火礫は小鬼にだって効かないのは分かってるでしょ!圧倒的に攻撃力が足りない……あれ?」
イザベルが何かに気付いた。
「もしかしてここに、ものすごく強い人が……いない?」
あれ。一応気配を消していたつもりだったんだけど。
「そうですよ!カズヤさん手伝ってください!」
「そうだな!カズヤ殿は迫りくる小鬼の群れを撃滅してしまったのだろう?是非力を貸してくれ!」
「お兄ちゃん!何でもするから助けて!!」
そっかあ……可愛い女の子が3人で何でもしてくれるのかあ……
「あ、何でもするのはアリシアね」
「ちょっとイザベルちゃん!友達を売らないで!!」
何かイマイチ緊張感に欠ける娘たちだな。
まあいい。逃げるわけにもいかないのは事実なのだ。何せ魔物が進む先には北の村がある。
「わかった。手伝おう。ただし条件がある。俺の攻撃は俺自身どういう仕組みなのか分かっていない。だから、その仕組みを解明するのに協力すること。もう一つは俺の指示には従うこと。俺が引けといったら絶対に逃げること。どうだ?」
「わかりました!」
アリシアの返事に他の2人も頷いている。
「よし。では敵の背後を取る。全員姿勢を低くして、静かについてきてくれ」
俺は探知魔法を薄く拡げて、敵の位置を確認しながら敵の背後に回り込むべく移動を開始した。
アリシア達もおっかなびっくりといった感じで後ろを付いてくる。
ああ……ハンドサインなど決めておいた方がよかったか。だがいきなり実戦で使えるようなサインなら、なんとなく身振りで分かるだろう。
まもなく、敵の姿を目視で確認できた。
30メートルほど先の獣道を、ゆっくりとのし歩いている。
顔さえ見えなければ小学生低学年の児童を引率しているガタイのいい教師のように見えなくもないが、少なくともヤツラの仲間はアリシア達を襲い、そして俺の家にも押し寄せた。
ヤツラにはヤツラの事情があるのだろうし同情もするが、殺らねば殺られるのだ。
ゴブリン達の姿を目の当たりにして、アリシア達が震えだす。特にイザベルの怯え方がひどい。
先ほどまでは気丈に振る舞ってはいたが、本当はこの場から飛んで逃げたいぐらいだろう。
さっさと倒してしまおう。
この距離ならG36Cでも問題ない。近くの木の陰から、まずは大鬼オーガの頭に狙いを付ける。
タタタッ!タタタッ!タタタッ!
素早い指切りで再現する三点バーストで発射されたBB弾は、狙い違わず3匹のオーガの頭部に吸い込まれ、そして頭部を吹き飛ばした。
木の影から出て、残ったゴブリンの足元を掃射する。
ゆっくりと倒れるオーガをポカンと見ていたゴブリンの足に、次々とBB弾が着弾し、膝から下を薙ぎ払う。
地面でのたうち回るヤツラに近づき、辺りを確認する。
倒れたオーガは3匹、ゴブリンは10匹。これで全部だ。
「アイダ!イザベル!こいつらに止めを刺せ!」
「ええええ!わっ!わっ!私達がですか!!」
アイダの声が上ずっている。
「ああ。お前達が止めを刺すんだ。でないとお前達は二度とこいつらに立ち向かえない。酷だが試練だと思って耐えてくれ」
「わ……わかりました!」
先に動けたのはイザベルだった。
腰の短剣を抜き、恐る恐る近づいてくる。
地面に仰向けに倒れた一匹のゴブリンの前で膝まづくと、振るえる手で短剣を振りかざし、ゴブリンの胸に深々と突き立てた。
「これはアマドの仇!これはクレトの仇!これは……これは!」
イザベルは泣きながら何度も短剣を突き立てる。
堰を切ったようにアイダとアリシアが倒れたゴブリンに駆け寄り、次々と刃を突き立てていく。
倒れたゴブリン達が全く動かなくなるまで、3人の復讐は続いた。
ゴブリン達の亡骸の只中で、3人は抱き合って大声で泣きだした。
ようやく感情が解放されたようだ。
思えば明るく無邪気に振る舞っていても、泣くという感情が表に出ていなかっただけなのかも知れない。
3人が泣き止むまでに相当の時間が掛かった。
森の梢から差し込む日の光が、黄色味を帯びている。
3人は立ち上がり、俺に向かって深々と頭を下げた。
「カズヤさん。ありがとうございました。これで3人の仇を撃てました」
「カズヤ殿。これで胸を張って学校に戻れます。このご恩は決して忘れません!」
「お兄ちゃん……ありがとう!」
3人ともゴブリンの血で染まったままの手で頬をぬぐっている。
ゴブリンの返り血で、BDUもドロドロになっている。
「3人ともよくやった。辛かっただろうが、これを乗り越えないといつまでもこいつらから逃げ回ってしまうだろうからな。辛い思いをさせて悪かったな」
「はい……でも今のドロドロの状況が一番辛いかも……です」
アリシアが泣き笑いといった顔で訴えてくる。
確かに見ているこちらも辛い状態だ。
「近くに小川の流れる音が聞こえる。今日は無理せず、そこで野宿にするか」
「はい!水浴びしたいです!」
「この服も洗濯しなければ、流石に着ていられません……」
「よし。じゃあ決まりだ。こいつらの持ち物を回収して、全員移動するぞ」
『はい!!』
「はい?だからこっちの方角ですよね?」
自信満々にアリシアが胸を張る。
「えっとな……一昨日の夜に、簡単に地図を描いて位置関係を把握したよな?」
「はい!ばっちりです!」
「もう一度おさらいするぞ?今太陽はどこにある?」
「え??あそこですけど?」
「うん。あそこにあるな。じゃあ今太陽がある空の方角は?」
「えっと…東??」
「アリシアちゃん……太陽は東から登って西に沈むんだよ?先生に教わったでしょ!」
イベリアが作業帽キャップに収まり切れない長い白い髪を揺すりながら言う。
やっぱりツインテールにでもするべきだろうか。
「それは知ってるよう!だから!ってあれ?今もうお昼過ぎた?」
「とっくに過ぎてるな」
「あれ?じゃあ……あれ?こっちが北……かな?」
とにもかくにも、俺達は北に向かって歩き出した。
「なあアイダ。アリシアって、いつもあんな感じなのか?」
「あはは……そうですね……屋根がある場所ではしっかり者なんですけど、いざ野外にでると……」
それって狩人としては問題なのではなかろうか。
北の森に分け入る。
前回、森で大鬼と出くわしている。
慎重に、だが出来るだけ速く進む。
森に入るとイザベラが生き生きと皆を先導しはじめた。ミッドエルフだと言われていたが、エルフと名が付くだけのことはある。森の妖精のようなものなのだろう。木々に囲まれて見通しの効かない中を、スイスイと真っすぐ北に向かって進んでいく。
1キロメートルほども森に分け入ったところで、イザベルが立ち止まった。
「何かいる……」
アリシアとアイダの顔に緊張が走る。
何か……か。昨日アリシアに教わった探知系魔法、試してみるか。
風魔法を自分を中心に薄く拡げていく。地上高1メートルぐらいに厚さ数ミリのクレープ生地を伸ばしていくイメージだ。
半径5メートル、10メートル、20メートル、50メートル……徐々に範囲を拡げていく。
これか?
四足歩行の堂々とした体型に、細いが強靭そうな足、太い首の上には立派なツノが生えた頭部。
これはシカだ。
200メートル辺りで何か違和感があった。
北西側だ。
違和感があった辺りの密度を上げて、重点的にチェックする。
コイツらだ。人の身長ほどもある魔物が3体、その半分ぐらいの大きさの魔物が10体。北に向かって移動している。
「見つけました!これは……大鬼3に小鬼10です!」
アリシアが緊張した声で皆に伝えている。
「小鬼10ですって!この前より数が多い……」
「それに大鬼まで……どうしよう……逃げる?」
3人が顔を寄せ合って相談を始めた。
大鬼に小鬼。つまり大鬼と小鬼だろう。
一昨日倒した感じでは、そこまで強力な魔物とは思えなかったが、あれは後方からの不意打ちだったからというのもあるだろう。
正面から耳まで裂けた口と吊り上がった目で凄まれたら、確かに怖そうだ。
「どうする?このまま隠れてやり過ごす?結界防壁は臭いも隠すから、魔力を探知する能力がない魔物なら有効だけど……」
「しかし魔物が出る度に隠れてやり過ごすのか?そんなことで学校に戻れるのか!?」
「だって仕方ないじゃん!私達の攻撃手段は弓と剣しかないんだよ!アリシアは支援魔法が中心だし、アイダの火礫は小鬼にだって効かないのは分かってるでしょ!圧倒的に攻撃力が足りない……あれ?」
イザベルが何かに気付いた。
「もしかしてここに、ものすごく強い人が……いない?」
あれ。一応気配を消していたつもりだったんだけど。
「そうですよ!カズヤさん手伝ってください!」
「そうだな!カズヤ殿は迫りくる小鬼の群れを撃滅してしまったのだろう?是非力を貸してくれ!」
「お兄ちゃん!何でもするから助けて!!」
そっかあ……可愛い女の子が3人で何でもしてくれるのかあ……
「あ、何でもするのはアリシアね」
「ちょっとイザベルちゃん!友達を売らないで!!」
何かイマイチ緊張感に欠ける娘たちだな。
まあいい。逃げるわけにもいかないのは事実なのだ。何せ魔物が進む先には北の村がある。
「わかった。手伝おう。ただし条件がある。俺の攻撃は俺自身どういう仕組みなのか分かっていない。だから、その仕組みを解明するのに協力すること。もう一つは俺の指示には従うこと。俺が引けといったら絶対に逃げること。どうだ?」
「わかりました!」
アリシアの返事に他の2人も頷いている。
「よし。では敵の背後を取る。全員姿勢を低くして、静かについてきてくれ」
俺は探知魔法を薄く拡げて、敵の位置を確認しながら敵の背後に回り込むべく移動を開始した。
アリシア達もおっかなびっくりといった感じで後ろを付いてくる。
ああ……ハンドサインなど決めておいた方がよかったか。だがいきなり実戦で使えるようなサインなら、なんとなく身振りで分かるだろう。
まもなく、敵の姿を目視で確認できた。
30メートルほど先の獣道を、ゆっくりとのし歩いている。
顔さえ見えなければ小学生低学年の児童を引率しているガタイのいい教師のように見えなくもないが、少なくともヤツラの仲間はアリシア達を襲い、そして俺の家にも押し寄せた。
ヤツラにはヤツラの事情があるのだろうし同情もするが、殺らねば殺られるのだ。
ゴブリン達の姿を目の当たりにして、アリシア達が震えだす。特にイザベルの怯え方がひどい。
先ほどまでは気丈に振る舞ってはいたが、本当はこの場から飛んで逃げたいぐらいだろう。
さっさと倒してしまおう。
この距離ならG36Cでも問題ない。近くの木の陰から、まずは大鬼オーガの頭に狙いを付ける。
タタタッ!タタタッ!タタタッ!
素早い指切りで再現する三点バーストで発射されたBB弾は、狙い違わず3匹のオーガの頭部に吸い込まれ、そして頭部を吹き飛ばした。
木の影から出て、残ったゴブリンの足元を掃射する。
ゆっくりと倒れるオーガをポカンと見ていたゴブリンの足に、次々とBB弾が着弾し、膝から下を薙ぎ払う。
地面でのたうち回るヤツラに近づき、辺りを確認する。
倒れたオーガは3匹、ゴブリンは10匹。これで全部だ。
「アイダ!イザベル!こいつらに止めを刺せ!」
「ええええ!わっ!わっ!私達がですか!!」
アイダの声が上ずっている。
「ああ。お前達が止めを刺すんだ。でないとお前達は二度とこいつらに立ち向かえない。酷だが試練だと思って耐えてくれ」
「わ……わかりました!」
先に動けたのはイザベルだった。
腰の短剣を抜き、恐る恐る近づいてくる。
地面に仰向けに倒れた一匹のゴブリンの前で膝まづくと、振るえる手で短剣を振りかざし、ゴブリンの胸に深々と突き立てた。
「これはアマドの仇!これはクレトの仇!これは……これは!」
イザベルは泣きながら何度も短剣を突き立てる。
堰を切ったようにアイダとアリシアが倒れたゴブリンに駆け寄り、次々と刃を突き立てていく。
倒れたゴブリン達が全く動かなくなるまで、3人の復讐は続いた。
ゴブリン達の亡骸の只中で、3人は抱き合って大声で泣きだした。
ようやく感情が解放されたようだ。
思えば明るく無邪気に振る舞っていても、泣くという感情が表に出ていなかっただけなのかも知れない。
3人が泣き止むまでに相当の時間が掛かった。
森の梢から差し込む日の光が、黄色味を帯びている。
3人は立ち上がり、俺に向かって深々と頭を下げた。
「カズヤさん。ありがとうございました。これで3人の仇を撃てました」
「カズヤ殿。これで胸を張って学校に戻れます。このご恩は決して忘れません!」
「お兄ちゃん……ありがとう!」
3人ともゴブリンの血で染まったままの手で頬をぬぐっている。
ゴブリンの返り血で、BDUもドロドロになっている。
「3人ともよくやった。辛かっただろうが、これを乗り越えないといつまでもこいつらから逃げ回ってしまうだろうからな。辛い思いをさせて悪かったな」
「はい……でも今のドロドロの状況が一番辛いかも……です」
アリシアが泣き笑いといった顔で訴えてくる。
確かに見ているこちらも辛い状態だ。
「近くに小川の流れる音が聞こえる。今日は無理せず、そこで野宿にするか」
「はい!水浴びしたいです!」
「この服も洗濯しなければ、流石に着ていられません……」
「よし。じゃあ決まりだ。こいつらの持ち物を回収して、全員移動するぞ」
『はい!!』
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