上 下
6 / 239

5.森を探索する(5月1日)

しおりを挟む
翌日の5月1日も快晴だった。
この3日間は快晴続きだ。そろそろ雨が降らないと、畑や田の水が心配だ。

昨夜はドローンで空撮した画像をパソコンに取り込んで、拡大したり繋げてみたりしたが、結局撮影した範囲では昨日見つけた村以外の人の気配はなかった。

今日は東の森で見つけたミステリーサークル状の場所に行って見る。
最初の目的地としてはそんなに遠くないし、適当なところだろう。

同じような光景を写真で見た事がある。同心円状に木がなぎ倒された森。
ロシアのツングースカだったか。
確かあれは隕石の空中爆発だと結論が出ていた。
東の森のミステリーサークルもそのようなものだろうか。

とにもかくにも、装備である。
森に入るのだから、BDUはフレック迷彩一択だ。
武装は取り回しの良さを優先してG36Cを選択。マガジンはジャングルスタイルで2個装着し、予備マガジンを2つ携行する。
腰のヒップホルスターにはUSPハンドガン、右腿には剣鉈、左腰にはサバイバルキットを装着した。
向かう先には洞窟のような穴が開いていた。一応ヘルメットにヘッドライトを付け、G36Cにはフラッシュライトを装着。
背負うミリタリーリュックにはザイル代わりのパラシュートコードを30ヤード巻いたものをぶら下げる。だいたい30メートル弱だ。

ミリタリーリュックには非常用食料カロリーメイトと水のペットボトル、予備バッテリーと3000発のBB弾の袋、小型のドローンと送信機、双眼鏡、折り畳み式のスコップとテントを張るときのペグ、それに測量で使う300メートルの蛍光ピンクの水糸をリールのまま放り込んだ。

黒いミリタリーブーツを履き、シューティンググラスを掛ける。
ナックルガード付きグローブをはめれば準備は完了。

玄関の鍵を掛けてから、慎重にトラップを乗り越える。


あとはミステリーサークルに向かうだけだ。
車で向かうことも考えたか、結局歩く。
安全通路もわからない状態では、迂闊に車は出せない。

まっすぐ西に向かうのも芸がないので、一旦北に向かい、森の縁に沿って歩くことにした。

くるぶしほどの草を踏みながら、北の森へと向かう。
時々目の前に飛び出してくるバッタがいるくらいで、特に危険そうな生き物はいない。
平べったい石の上で緑色の蛇が日光浴をしている。アオダイショウのようにも見えるが緑色が鮮やかだ。
蛇耐性はあるが、毒蛇だと厄介だ。血清など当然無い。触らぬ神に祟りなしってやつだ。

北の森の端、ゴブリン達を狙撃した場所に到着する。
槍や弓矢、ボロボロの服や布袋は転がっているが、亡骸は残っていない。やはり森には掃除屋スカベンジャーがいるらしい。

とりあえず布袋と首飾りだけ回収する。一昨日集めたのと合わせて、そろそろ検分しなくては。


時折小鳥の囀さえずりが聞こえるが、不快な鳴き声ではない。ゴブリンの気配も感じない。
いや、ゴブリンの亡骸を喰うような生き物がどこかに潜んでいるはずなのだ。気を引き締めて歩き続ける。

時折双眼鏡を取り出して辺りを見渡す。
南側の森の端に何かがいる……シカのようだ。南の森の外縁部でのんびりと草を食はんでいる。
草むらを揺らしながら地面に沿って動く影はウサギかイタチか、あるいは異形の生き物か。

森の木々はやはり広葉樹が中心のいわゆる照葉樹林。
緑の葉っぱらしい硬い葉にブナ科独特の鮮やかな花穂を出し、少々生臭い匂いを出している。クリの花の匂いというやつだ。
花穂の周りではたくさんの昆虫が飛び回っている。ミツバチというよりハエのように見えるが……

ツツジやクルミ、ヤツデのような低木とヤブガラシのようなツタ植物が、森の外縁部で藪を形成している。


15分ほどゆっくりと歩いて、西の森に到着した。
振り返ると自宅が確認できる。森に進入するポイントは自宅から真西の位置に生えている一本の大木。
幹が一抱えほどもある大きなクスノキだ。

目印代わりに水糸を幹の目線の高さにぐるりと巻き付け、森に進入する。


森の中はところどころにシダ植物やドクダミが群生している他は、センリョウやマンリョウといった小低木がちらほらと生えている程度で、落ち葉が剥き出しになっている。日光があまり当たらないためだろう。
落ち葉とその下の腐葉土のおかげか、足音も立たず歩きやすい。ただ木の根元は少々滑りやすくなっている。

足元には何か動物の糞がちらほらと落ちている。
丸い粒状のものはウサギかシカ。一か所にかたまっている道端で見かける形のものはタヌキかキツネなどのイヌ科の動物だろう。

とすると……この手のひら大のドロっとしたのは何だ……あまり臭いはないが……

しゃがみ込んでそんな観察ばかりしていると、右のほうから何やら大きな音が近づいてくる。
木を叩くような、鈍い音だ。

とりあえず近くのシダの群落に潜り込んで様子を伺う。
音の発生源が近づいてくる。

シルエットはゴブリンに似ているが、色と大きさが違う。
盛り上がった筋肉を纏った体は赤黒く、身長はゴブリンの3倍弱。こめかみあたりから角が生えている。
でっかいゴブリン……ではない。オーガと呼ぶべきか。

オーガは手に持った棍棒を振り回し、木を打ち叩きながら進んでくる。
腰に巻いた布はゴブリンと同じだ。

さて……どうする。このままやり過ごすか。それともこちらから仕掛けるか。

やり過ごしてしまっていいのか。
ゴブリンでも自宅の柵を軽々と乗り越えてきた。流石にシャッターをこじ開けたり、金属サイディングを変形させることはなかったが、オーガに掛かればどうなるか分からない。
襲撃される前に倒すべきではないのか……

専守防衛を通念とする国で育った身としては、先制攻撃にためらってしまう。
例えば自宅に向かって突進しているなど明らかに脅威が迫っているなら話は早いのだが……

そうこうしているうちに、オーガは目の前を通過して東に向かい出した。
おいおい、そっちは俺の家の方だぞ……

よし、やろう。
倒せないまでも、BB弾がゴブリン以外にも効果があるのか試さなくてはいけない。
効果がないなら、ゴブリン以外の魔物への備えを別の方法で考えなければならなくなる。

潜り込んでいたシダの群落からゆっくりと這い出して、オーガの後を追う。
オーガの真後ろに回り込み、木の陰から広い背中を狙う。

ああ。この感じ、サバイバルゲームの裏取りに似ている。
G36Cのドットサイト越しに無防備な背中に狙いを付け、オーガが木を叩く瞬間に発砲する。

タタタッツ!

セミオートによる三連射は、僅かな時間差でオーガの背中に吸い込まれた。

オーガの動きが止まる。
しまった……効果なしか……ドットサイトから目を放し、目視で確認しながら逃げ出す態勢に入る。

次の瞬間、オーガの膝が崩れ、前のめりに倒れた。

よかった。どうやらオーガにもBB弾は効くらしい。

G36Cをフルオートにして構えたまま、倒れたオーガに慎重に近づく。
うつ伏せに倒れたオーガの胸の辺りから、血が流れだしている。
背中に開いた射入口は3つ。だいたい5ミリ弱の穴で逆三角形を構成している。だが血が流れ出しているのはこの穴ではない。
とすると貫通したのか。胸の方に射出口がなければ、胸の辺りから血が流れるわけがない。

慎重にオーガの身体をひっくり返す。身長はゴブリンの3倍弱、人間でいうと180㎝強といったところか。俺より少し大きい。ただし体重はもっと重そうだ。

オーガの胸の辺りには、逆三角形の形に大きな穴が開いていた。

まるで体内でBB弾が爆発したかのようだ。吹き飛ばしたのはちょうど脊椎と心臓の辺り。
これでは流石のオーガも即死だろう。

このオーガも腰に袋をぶら下げている。他にも腕輪やら首輪やら付けているが、ちょっと回収は大変そうだ。袋だけ回収する。袋の中身は硬貨と何かの骨、それに色とりどりの石だった。

オーガの亡骸はそのままにする。どうやら生き返ったりアンデッドになることはないようだ。
腐敗する前にゴブリンの亡骸のように野生動物が始末してくれるだろう。

とりあえずミステリーサークルに向けて移動を再開する。

しばらくして、右手方向から視界が開けて、木が生えていない空間に出た。
半径50メートルほどの円径に木が何も生えておらず、丈が短い草が辺りを覆っている。
自宅からまっすぐ西に向かって歩いているつもりだったが、知らず知らずのうちに左方向にずれていたようだ。
しおりを挟む
感想 230

あなたにおすすめの小説

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

処理中です...