上 下
3 / 241

2.自宅防衛戦②(4月29日)

しおりを挟む
とりあえず遠距離で叩けるだけは叩いた。
スコープから目を放し、立ち上がって双眼鏡で周囲を監視する。

南の森で動く物はいない。
そのまま反時計回りに監視を続ける。

西の森では動く物は見つからない。西側の森は向かって右奥、南西側に向かって伸びているようだ。
逆方向の東の森は、南東側に伸びている。つまり南西側から南東側に弧を描く頂点にこの家がある。
大昔の川床の後ですと言われれば納得するような立地だ。

北の森は家に迫っている。距離およそ50メートル。
その森の木陰にヤツラはいた。
数は同じ程度か……また木陰からちらちらと武器を覗かせている。

東側に敵の姿がないことを確認して、陣地を北面に移す。
屋上の北等の角には階段室がある。その上にはタラップで登れる。

PSG-1を担いでタラップを上る。矢には無防備になるが、この位置が一番視界がいい。
階段室の上は落下防止の縁などないから、腹這いになってぎりぎりまで近づく。
姿勢を下げると銃口は上を向くから、二脚バイポットは畳んだ状態だ。

そのまま狙いを定める。
今回は無防備に顔を出しているようなヤツはいない……サバイバルゲームのように武器に当てたらヒット扱いになんてならないよな……
ブッシュの薄そうなところを狙い、狙撃を開始する。ああ……観測手スポッターが欲しい。

マガジン一つ分を撃ち切るが、恐らく5匹も倒せていない。
時間があるようなので、マガジンチェンジではなく給弾を行う。
ついでに双眼鏡で周囲を再確認する。

南と西、東には異常はない。やはりヤツラは北側に集中している。
こちらが本隊か?とすると南側に別動隊を回して突撃させる作戦だったか。

とはいえ、南からの突撃なんぞいくら待っても始まらない。始まる前に粉砕したからな。
気になるのは本隊の数だ。ちょうど半数というなら20匹ぐらいだろう。だが捨て駒になる可能性もある別動隊に半数も裂くだろうか。俺が指揮官なら裏取りさせる別動隊の数は1/5ぐらいに絞り、特に声が大きいヤツを充てる。

おう……自分で予想していてゲンナリしてきた。本隊は100匹規模ということか……
極力数を減らそう。

再びPSG-1を構える。多少藪が深くても、狙うしかない。

マガジンを2個空にする頃には、追加で10匹ほどは倒したはずだ。
あとは状況が変わらないと狙撃は難しい。

階段室のタラップを降りて屋上に戻り、G36Vを手に取る。

南に向けてソーラーパネルの傾斜がついているから、北側を守る時にはソーラーパネルが屋根代わりになる。その代わり間口が大きく開いてしまうから、上方よりも前方への備えが必要だ。
アルミのテーブルを立てて、高さ1.2メートルほどの盾にする。

テーブルの上端からG36Vを立射で構え、キャリーハンドル基部に付いている3.5倍スコープを覗く。
彼我の距離50メートル。本来ならギリギリBB弾が届くかどうかの距離。
PSG-1で起きた不思議な現象がG36Vでも起きるだろうか。
セレクターをセミオートにセットし、ヤツラが潜む藪に向かって3発ずつ撃ち込む。

タタタッ!タタタッ!タタタッ!

着弾の直後に、ヤツラの胴体から上だけが藪から転がり出てきた。
うへえ……結構グロい……

済まんな。こっちも命がけなのだ。
いや、もしかしたら理性的な第一次遭遇を果たせたのかもしれない。
最初に背を向けて逃げ出さずに、にこやかに握手でも交わしていればあるいは……

いやいや無理だ。頭ではわかっていても怖いモノは怖い。

“人は見かけじゃないの!大事なのは心よ!”とかいうやつなら、きっと上手くやるんだろう。
飢えた野良犬に囲まれて吠えたてられても、“まあワンちゃんかわいい!お腹すいているのね!これ食べる?”とか言って熟れたトマトなんぞ差し出す人種もどうやら世の中にはいるらしい。一瞬後には自分の手が熟れたトマトを握り潰すようにぐちゃぐちゃに引き裂かれるのだろう。是非見てみたいものだ。

そんなことはさておき、降りかかる火の粉は自分で払うしかないではないか。
自衛隊や警察がいるなら助けを求めてもいいだろう。“ゴブちゃん可愛い!”的な博愛主義者を犠牲に捧げてもいい。
だがそんなものが無い以上、自分の身は自分で守るしかない。多少過剰防衛になるかもしれないが、それも仕方ない。

そんな言い訳を考えている間に、周囲の気配が変わった。

突撃が来る。

ひと際大きな槍が森から突き出された。
次の瞬間、一斉に森からヤツラの群れが飛び出てきた。
森から自宅敷地までは約50メートル。小学生の足でも全力疾走で10秒もあれば到達する。ヤツラの身長からいけばもう少し掛かるかもしれないが、何せ時間はない。

セレクターをフルオートに切り替え、左端から右に向かって薙いでいく。
きちんと狙いを付ける余裕はない。スコープの端で手足が吹き飛ばされていくヤツラが見える。
すまん……あとで止めを刺してやる……

G36Vの発射速度は毎分700発程度。ヤツラの戦列の左端から右端に到達するまで約20秒。
だいたい200発のBB弾を放って、柵のギリギリ手前で突撃をかろうじて阻止した。

後に残されたのは、手足を失って苦しみ悶えるゴブ達およそ30匹。
G36Vのマガジンを交換してから、PSG-1を構えて一匹づつ止めを刺す。

ヒュッ!
風を切る音と共に、ソーラーパネルに何かがぶつかり甲高い音を立てる。
思わず首を竦すくめた俺の周りに、次々と矢が飛来する。
慌ててソーラーパネルの陰に身を隠す。

目の前に落ちてきた矢を拾う。
鏃はどうやら鉄製のようだが、さほど鋭利ではない。これが刺されば相当痛いだろう。
毒でも塗ってあるかと思ったが、そんなことはないようだ。柄は木製。矢羽根は何かの鳥の羽根だ。

どうやら矢は西のほうから撃たれている。
ソーラーパネルの下を移動し、射点を見極めるために双眼鏡を覗く。

いた。弓隊は北西側およそ100メートルの森の端から曲射している。
数はおよそ20匹。矢は家まで届いているものもあれば、倒れたゴブ達に刺さっている矢もある。腕はあまり良くないらしい。
しかし放置もしておけない。俺が首を竦めているうちに再突撃などされたら今度こそ食い止められない。

早急に排除する。
PSG-1で一匹づつ狙撃する。
最初の15発で15匹を倒すと、残りは弓を捨てて森へと逃げ込んだ。
何せBB弾が100メートル先に着弾するまで数秒掛かるから、この距離で動いている標的を狙撃などできない。G36Vのように弾幕を張るなら別だが……

矢の攻撃が途絶えたのを何かと勘違いしたのだろう。本隊側の動きが慌ただしくなる。
次の瞬間、再突撃が始まった。

森から次々とヤツラが飛び出してくる。
俺はG36Vに持ち替え、フルオートで弾幕を張る。
途中でマガジンのゼンマイが切れるが、巻きなおす時間もマガジンチェンジの時間も惜しい。
G36Cに持ち替え撃ち続ける。ヤツラはもう柵に取りついているからドットサイトに頼る必要もない。

柵に取りつくヤツラを狙うために、屋上の縁から身を乗り出す。
ヤツラは槍を投げてきた。家の外壁やソーラーパネルの架台に当たり、鈍い音を立てる。
槍を持つヤツを最優先で撃つ。

数匹が柵を乗り越えた所でG36CからMP5A2に持ち替える。G36Cより一回り銃身が短いMP5A2のほうが、身を乗り出すような撃ち方には向いている。
柵を乗り越えたヤツラはナイフしか持っていないようだ。

玄関のひさしの下にいたヤツを屋上の左右に走り回って狙い撃つ。
どうやらこいつが最後の一匹らしい。

なんとか凌ぎきったようだ。

見上げた太陽はすっかり真上に来ていた。
しおりを挟む
感想 230

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

処理中です...