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ゴーレム・トランス④

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 Lv 40 オーサン
 職業 アークウィザード
 習得しているスキル

 ファイアボール フリーズ ゴーレム・トランス
             
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 ほ、本当だ………。俺は確かに魔法書によってゴーレム・トランスを会得してしまった。妖精エイリーンが嬉しそうにパタパタ羽ばたきながら肩に止まってきた。

「やりましたねー。一時はどうなることかと思いましたけど、これで僕のマスターはあなたに決定ですっ。これから宜しくお願いしますね。オーサン!」

 アイナはお化けでも見たような顔でこっちを見て飛び上がっている。表情豊かなんだよな、本当に。

「ぎやああああ! あたしの収入源がぁー。アンタどうして会得しちゃったのよ、もう売れないじゃないのー。そうだ! 空の魔法書にもう一度写しましょう。エイリーンは写す方法を知っているのよね?」

 アイナは此の期に及んでもまだ諦める気はないらしい。本当に執念深いよな。ちなみに魔法書は最初は何の魔法も入っていないただの書物だ。後世の冒険者に残したい魔法があった時に使われる。だから直ぐに他の魔法書に写し替えるということも可能なのだが……。

「嫌です。せっかく会得したというのに、どうしてまた魔法書に写す必要があるのですか。これから可憐な妖精とイケてる魔法使いの魔王討伐冒険譚が始まるのですよ。外野はお帰りください」

 きっぱりしてるなー。この妖精さんはブレない性格らしい。しかし、まだ俺自身は何も決めてないのに話を進行されるのは困るのだが。そしてアイナは火山が噴火する直前みたいな顔になってきてる。

「外野ですってえ! あたしを外野呼ばわりしたわねこの蝶々もどき!」
「ちょ、蝶々もどき……。不敬な! この成金願望丸出しの下級冒険者め!」
「あ、あのさー。俺はまだ魔王を討伐に行くと決めたわけでは……」
「ぬあっ!? まさか、まさかまさかこの大陸に引きこもるとかお考えなのですか? なりませんオーサン! あなたは最高位の魔法ゴーレム・トランスを習得したのですよ。あなたには戦う義務が」
「義務なんてどうでもいいから、さっさとあたしの収入源を返しなさいよ! とにかくアルストロメリアに戻って、適当な空の魔法書を探すわ!」

 これは本当に面倒なことになってしまったなぁ。二人はそれぞれの目標に突っ走る気満々みたいだ。



 帰り道の馬車の中でも、アイナとエイリーンは長々と口喧嘩としか思えない醜い争いを続けていて、当人である俺はぼーっと外の景色を眺めていた。

 アイナはエイリーンと喋り続けるのに疲れたのか、向かいの椅子に座ったままウトウトと眠り始めている。俺もちょっと寝ようかなと考えると、耳元付近にあの妖精が飛んできて、

「この辺りは全然変わりませんねえー。僕が自らを封印する前と同じままです」
「君は百年前に自身を封印したんだったか? 前のゴーレム・トランスを使っていた男はどうなったんだい」

 エイリーンは俺の左肩に止まると、ちょっぴり顔をうつむかせて昔話を始める。

「彼はファウンダ村に戻りましたよ。きっと自分の意思をついた者が、危険の迫った世界を救うために現れるから待っていておくれと、それは優しい眼差しで僕に仰ったのです。魔王を討伐してから一ヶ月後のことでした」
「ふーん。じゃあ彼の子孫くらいはいるのかもしれないな」
「ふふ! そうですね。僕達はパーティを組んで魔王を倒した後、しばらくは世界中を放浪していたんですよ。僕に至っては、違う世界まで飛んじゃいましたけど」

 何だかとっても気になるワードが出てきた。

「違う……世界?」
「はい。転移の魔法陣はご存知ですよね? 僕は次のゴーレム・トランス継承者の為に、あらゆる戦闘における知識を学ぼうとさまざまな国へワープしたのですが、一度転移で事故が起こりまして……地球っていう世界まで飛ばされちゃいました!」
「えー……一体どんな世界なんだ? 地下帝国とかそんな感じかい」

 人々が地下で暮らしている世界で、埃にまみれて飛んでいるエイリーンを想像しながら話を聞いていたが、彼女はチッチと指を振って否定する。

「いいえ。地下帝国ではありませんよ。説明が難しいのですが、とっても文明が進化している世界でした。僕はそこで大変な知識を授かりまくったのです。パーティの賢者が、僕を見つけて帰る直前まで猛勉強していたのですよ! だからオーサン。あなたは史上最強のゴーレム魔法使いになれます。安心してくださいね!」
「いやー。別に俺としては、最強の魔法使いとまではいかなくてもいいんだけどさ。でも、魔王を倒して世界を平和にしたいっていう気持ちはあるけどな」
「そうでしょうそうでしょう! では私が地球で体験したことを教えてあげましょうか?」

 不意に思い出す。小さい頃に助けてくれた冒険者のお兄さんの姿を。彼も魔王を倒すことが目標だと言っていたっけ。

 昔の記憶を掘り起こしているうちに、俺は欠伸が堪えられなくなっていたくらい眠くなっていた。エイリーンは目を輝かせて目前をパタパタと飛んでいる。アイナは既に爆睡中だ。

「ふわぁ……うん。じゃあちょっと聴こうかな」
「では早速語らせてもらいましょうー。まず僕が転移の魔法陣に四十五回目の使用を試みた時、」



「……だったのですよー! なんという文明の利器! 僕は決心しました。新しいゴーレムには必ずこの兵器を搭載すると……いやーそれにしても貴方がこれほどまでに聞き上手だったなんて。……あれ? オーサン! オーサン」
「……ふあ?」

 いかんいかん。どうやら眠ってしまったらしい。

「もう! 眠っちゃってたんですかあ。すっごーく大切な話をしていたと言うのにー。何処から睡魔に敗れていたのか教えてください。何の話まで覚えていますか?」
「え、えーと。四十五回目の魔法陣を使用して……って辺りかな」
「それ一番最初じゃないですかー! もう! じゃあもう一回お話しますね」
「あ……ああ。すまん」
「ふふ! 実は僕が転移の魔法陣で四十五回目の」



「……ということだったのですぅ! そして僕は妖精達の代名詞としてあらゆる絵本に登場するようになってしまいました。もう照れまくりですよ。オーサンがここまで真摯に僕の話に耳を傾けてくれる人だったなんて。……あれ? オーサン! オーサン!」
「……んあっ!?」

 いかんいかん。またしても眠ってしまったらしい。どうやらそろそろ日が暮れるみたいだ。

「もう! また眠っちゃってたんですか? 今後にも関わるであろう僕の自慢……じゃなかった功績を話していたというのにー。何処まで覚えてらっしゃいますか?」
「えー……っと。たしか四十五回目の魔法陣が」
「最初っからじゃないですかっ! 仕方ないですねー。では三回目のお話を……ひゃあっ! な、何ですかあれは?」

 何かに気がついたエイリーンが叫び声をあげて草原の向こうに見えるアルストロメリアを指差している。彼女が驚くのも無理はないな。黒い煙が上がりまくっているが、一体何が起こっているんだ?

「火事か? まさか! モンスターが襲撃してるぞ」
「と、飛んでいますね! キメラとか大カラスとかー」
「これはまずいな! アイナ、起きろ! 起きろ」

 俺は未だに爆睡中のアイナの両肩を掴んで揺さぶると、今にも昇天しそうなほど安らかな寝顔が解かれて赤い瞳が半開きになる。

「ふぁ……あら? アンタ……きゃあっ!」

 アイナは顔を真っ赤にした後、突然バッと手を跳ね除けて馬車の荷台近くまで後退してしまった。何だっていうんだ?

「よ……妖精と一緒にあたしの寝込みを襲おうとしたのね! 俺は夜は狼になるんだぜー……っていうのを地で行くつもりだったんでしょこのド変態!」
「違うわ! なんで妖精と一緒に君を襲ったりするんだよ。たとえ頼まれてもやらんわ! アルストロメリアがモンスターの襲撃を受けているんだ。このままじゃヤバいかもしれない」
「へ? し、襲撃?」

 俺は馬車の運転手さんのところまで駆け寄り、前方を注意深く確認する。額に汗をビッシリと浮かべた運転手のおじさんは太った体格に似合わない早口でこう言った。

「相当な数のモンスターが襲っているみたいだよ。まさかアルストロメリアが襲われるなんて……どうするかね? この辺りで降りてくれると助かるんだが」
「ああ……ここで降ろしてくれ。みんな! 救援に行くぞ!」

 俺の言葉に妖精さんは目をキラキラして頷くが、アイナはちょっとだけ面倒臭そうな顔になっている。

「お任せください! ゴーレム・トランスのチュートリアルも兼ねて、派手に暴れちゃいましょう!」
「もうー。あたし実戦経験はほとんどないんだけどー」
「文句ばかり言うな! とにかく急ぐぞ」

 俺とアイナ、エイリーンは街門の少し前に降り立って駆け出す。騎士団や冒険者達が沢山いるこのアルストロメリアを襲うなんて、一体どんな連中なのだろう。

「オーサン。そろそろ魔法を使いましょうー」
「ああ……解った!」

 走りながら魔法の詠唱を始める。もう頭の中に唱えるべき言葉は記憶されているから問題ない。街の中に入った俺達の前には、想像を遥かに超えたモンスターの群れが待ち構えていた。
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