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第二部 亀より速いものは無し
八話 罰則と無料奉仕
しおりを挟む「クッソ、切りがねぇなぁ……」
ホブゴブリン殲滅作戦【各個撃破】が始まってから30分程経った頃、社長がぼやき始めました。 飽きたようです。
「だから水没させようと提案した筈ですよ?」
「逃げてきた奴も居たんだから却下に決まってんだろうがっ!」
ホブゴブリンの中には普通の探索者も混じってまして、危うく忍者刀の錆になる所でした。
何かに怯えてるホブゴブリン達の目には探索者も敵じゃないようです。
ある意味、迎え撃たなくても放っといたら落ち着いたんじゃないですかね?
その事を伝えようか考えてましたが、無粋ですね。
ボヤきつつも楽しそうに忍者刀を振るってる社長や二刀流を駆使してクルクル回ってる田中なんて、実に楽しそうな笑みをしてますからね。
佐藤も矢が尽きると、忍者刀を抜いて戦ってるし、サンタはもう盾で撲殺しまくってますからね。 盾術に磨きが掛かったようです。
それにしても、随分簡単ですね……ホブゴブリンって、こんなに弱かったですかね?
やはり、ここは上階層なんですね。
魔石の買取額が跳ね上がったので、勘違いかと思ってましたが……。
目に優しくないカラフルな忍者服を纏った老人達は、この後も殲滅戦を繰り広げ、救援隊が到着する頃には、全てが終わって魔石の回収作業をしていましたとさ。
そして、この一件と魔獣の皮の納品もあり、我々はお嬢を残して全員鉄級に上がりました。
お嬢は学生と言うこともあり、ウッドランクで止まってますが、卒業と同時に鉄級に成ります。
学生が階級を上げますと、天狗に成って無茶をし始めるからという理由で、上げてもウッドランクで止めるそうです。
内申書みたいな物が書かれて、それを元に卒業後に割り振り、階級と報奨金を渡すみたいです。
「だから不貞腐れなくても良いと思うんですよ、お嬢」
全員鉄級に成れたお祝いをしてる部屋の端っこでブツブツと文句を言ってるお嬢を慰めているんですがね。 一向に立ち直ってくれないんですよ。
ここは、父親の威厳を見せ付けて、落ち着かせるのが得策だと思ったんですが、一番酒を呑んで浮かれてるのが社長なので、期待は出来ませんでした。
そんな社長が踊る様にお嬢の前に来まして、何か素晴らしい言葉でも吐くのかと思ったら……。
「そう言えば谷川。ギルドから召喚命令が出されてたぞ?」
「は? 聞いてませんよ?」
「今、思い出したからな、ちゃんと行けよ~」
揶揄う様な声音で言う社長に、珍しく怒りを覚えた私は、田中みたいな喋り方で怒鳴り付けた。
「オイ!コラリーダーこの野郎! そんな大事な事を今の今まで黙ってやがって! 浮かれ過ぎ何だよ糞がっ!」
こんな言葉使いを滅多にしない私に驚いたのは、お嬢だけだった。 そして、何故か落ち着きを取り戻したお嬢は、私の代わりに社長を嗜めてくれていた。
お嬢……何とお優しい。若干ウルッとしましたが、それを田中がニヤニヤとして見ていたので真顔に戻します。
……しかし、何で召喚なんですかね? まるで私が原因で何かをやらかしたみたいな感じなんですが……。
私は首を傾げて考えましたが何も浮かばないので、これは行って直接確認した方が良いと判断し、宴会場を後にしてギルドへと向かいました。
で、新崎に呼び出されて手渡された書類を読んでいるんですが
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
モンスターパレード原因調査書
モンパレ殲滅の後、その前後に何が起きたのかを聞くために、その場に居合わせた全ての探索者に事情を聞いて回った結果。
11階層で爆発音と振動があった事がわかった。
9階層でも同じ様な証言もあり、問題の爆発音は10階層ボス部屋であると予想し、当時その場にいた探索者に聞き取り調査を行った結果。
忍者戦隊五六人ジャーがこの件に深く関わっていると断定し、リーダーの大垣雅美氏を呼び出し聞いたところ、メンバー員【谷川将継】がこの件の原因であった事が判明した。
━━━━━━━━━━━━━━━━
っという事が書かれていた。
────売りやがりましたか、社長の野郎。
「はぁぁ……谷川、君にはダンジョンの規律を著しく見出した罰として、ダンジョン内に入る事を1ヶ月間禁止する、それと罰則として無料奉仕が義務付けられている。 と、言う訳で君に是非やってもらいたい事がある」
新崎はギルドマスターらしく、威厳を見せながら私にそう告げ、青い紙が必要だから出す様に言われた。
別にギルドのを使えばよいのでは?といったら、丁度切らしているらしい。
申請すればすぐに届けて貰える私と違って、免許所持者の居ないギルドでは申請してから数週間から二三ヶ月掛かるらしい。
そういう事なら仕方が無い。
私は手持ちの紙を取り出すと、手渡した。
「では、契約書を書かせて貰う。 内容は1ヶ月間の狩りの禁止だ。 外でもダンジョンでも狩りを禁止すれば、何も出来なくなるだろう?」
暇潰しに猛獣を狩ろうと思ってたのが見透かされたようだ。 まぁ、いい。
「幾らでも書きますよ。 そこに名前を書けばよろしいですか?」
色々諦めたフリをして私は青い紙に名前を綴る。
「やけに素直だな」
「私だって人間ですよ? 怖い物くらいあります」
「……そうか」
名前を綴ると、新崎はそれを大事そうに懐にしまう。
「それで?」
「ん?」
「私に任さたい仕事とは何ですか?」
「ああ、まぁ……得意分野といえば分かって貰えるか?」
「ああ、やはり其方ですか……」
「いや、すまないとは思っているんだ。ただ、上からの命令が煩くてだな……」
人が苦労して人間らしく生きようとしてるのに、無粋な命令を下す奴等はどんな面をしてるんですかねぇ……。
「はいはい、受けますよ。 で? 目安の人数ってあるんですか? それと、犯罪者で良いのでしょう?」
一般人を嵌めるくらいなら、政治家や富裕層から率先して引っ張ってやりたいですね。
「も、勿論犯罪者で頼む。 それと人数に際限は無い、居ればいるほど良いらしい」
「ふむ。 そう言うってことは犯罪組織のアジトでもみつけましたか?」
「噂程度……だがな」
そう言って新崎は、噂の話をし始めた。
住居ダンジョンのコアを破壊し討伐するのが目的の組織が、地上の何処かに巣食っていて、その一部がこの辺の何処かに潜伏しているらしい。
場所は分からないらしいので、調べるように言われた。
「……猛獣が跋扈する場所で私は狩りを禁止されていた筈では?」
「ああ、したな……」
つまり、それ込みでの依頼……と言う事は、裏に奴等が居そうですねぇ……。
私を軍に戻して喜ぶ奴らと言えば、アイツラしか居ませんしねぇ……。
この件は偶然としても、それを利用するのは奴等の常套手段ですからねぇ……。
「……村崎」
奴等の筆頭の名前を呟きますと、新崎はあからさまに狼狽える。
その様子を私はじっくりと観察し、予想が確信に変わる。
軍に戻れば依頼料が発生せず、月の給料分以上の働きも求められる。
奴隷狩りの依頼なら、一人頭十万は掛かるでしょうしね。
契約を破っても破らなくても奴等には美味しぃと言うところですか……。
全く悪知恵だけは働きますね。 もしかして、呼吸税や歩行税みたいな馬鹿臭い税金制度を作ったのも奴等じゃないですよね?
もしそうなら……。
一応、今回は黒い紙を多めに持って活動しましょうか。
「……検索はしないで頂きたい」
私が無言で考えに耽っている姿が不気味に思えたのか、しまっていた青い紙を再び取り出して、依頼人の検索をするのを禁止する。と、書き加えその写しを私に渡す。
これで契約完了って事だ。
それで安心したのか、新崎は明日から早速動き出す様にと、命令すると帰らされた。
「スーツ……有りましたっけね?」
私は今回の無料奉仕では、忍者服は着ないで行うつもりだ。
この忍者服は私が人間に戻る為の装備である。
これを着て、奴隷狩りを行えば二度と今の生活には戻れないだろう。 そう思っている。
人間を辞める為の装備が必要だ。
私はギルドを後にすると、洋服店へと足を向けるのだった。
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