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第一部 纏まる秘訣は形から
十四話 魔物討伐vs薬草採取⑤
しおりを挟むTAXiでダンジョンへと向かう一行は、満員バスを追い越しながら進む。
「見ろ! あのバスの中! むさ苦しい野郎共がゴミの様に蠢いてるぞ! ヒャハー! 気持ちいいねぇ♪ そう思うだろう? お前らも!」
一人で燥ぐ社長を無視して、田中もサンタもグングンスピードを出して走るTAXiの後部座席で吊革に捕まり唸っていた。
車酔いである。
この時代、手軽に車を所持するのも大変で、ガソリンに変わるエネルギーで排気ガスも出ないクリーンな車として即採用された魔石仕様の車は、大変高価であった。
その為、移動する手段として乗るのはバスであるが、車の様にスピードは出ない為、ここまで速く走る車に乗り慣れてない二人は恐怖と気持ち悪さで吐きそうになっていた。
取り敢えずダンジョンには二十分程で着けるというお兄さんの言葉を信じて、只管車の揺れによる吐き気に耐えていて、話し掛けてくる社長は無視した。
ダンジョンに着くと早々に料金を請求される。
勿論支払うまでは絶対に扉は開かない。
「お疲れ様でした、料金は三人ですので三万円になります」
そう聞いて当然怒りだす社長と早々に諦めて一万円ずつ手渡す田中とサンタ。
「そんな事だと思ったぜ」と言って車から降りる田中とサンタ。
社長は助手席なので、扉は閉じたままである。
田中はこれでも一番長く生きていた。
ダンジョンが出来てすぐの時は普通にTAXiも走っていた。
当然普通の料金で走っていたTAXiの存在も知っている。
乗ろうとしていたTAXiには、通常料金で走っていた時代のTAXiにある物が無かった為に、怪しいと思っていたようだ。
しかし、バス停の周りに居たTAXiも似たりよったりの車しか無かったので、そういう物かと勘違いしてしまったのだろう。
だが蓋を開け見れば思ったとおりの金額だった事で、迂闊だったと後悔した。
昔のTAXiにあって、このTAXiに無いもの、それは料金メーターだ。
どこに運んでも一律一万円と言う文字は、引っ掛かるのに十分な文字だったのだろう。
詐欺だ何だと喚く社長へ、助手席の窓から手を伸ばして財布をふんだくり、TAXiのお兄さんに一万円を支払うと、サンタは社長の胸倉を掴んだまま窓から引き摺りたして、道端に放りなげた。
「さ、サンタ! なんのつもりだ! 詐欺師の肩を持つつもりか!」
「社長さぁ、いい加減にしなよ。 このまま訴えた所で確認を怠った社長が悪いんでしょ? それで、捕まるのは社長だよ? 社長が捕まって困るのは誰か分かるよねぇ? 分からないなら、分からせようか?」
そう言うと拳を握って威嚇する。
珍しく怒りを顕にするサンタに田中も社長も驚いていた。
そもそもこの時代にTAXi会社は無い。
ダンジョン内に住む人が増えた事で、地上を走る仕事も減り、車も電気から魔石に変わった事で、大幅な改造が余儀なくされて、改造費を捻出できない会社から順に倒産していったのだ。
かと言ってタクシー業務が完全に消失した訳ではなく、魔石仕様の車を所持出来た者達が個人的に始めたのが白タクと呼ばれる個人TAXiだった。
因みに、一律一万円のこのTAXiはかなり良心的な部類に入る。
中には二万円とか三万円などに設定して荒稼ぎしてる者達も居るのだ。
まぁ、そういうTAXiを利用するのは高ランク探索者や富裕層で地上に住める者達だ。
乗り心地も良く、専用道路を走ってスムーズに目的地へ辿り着ける事から人気でもある。
走るだけで後部座席が揺れ動くのは整備不足でサスペンションが経たっているからであって、整備さえすれば二万でも客は付くだろう。
整備をするのにもお金が必要なので稼ぐ必要があるが、他に仕事を持っていないTAXiドライバーは、未整備のままで車を動かして乗り心地も気にしない客を選ぶので、一万円という格安で乗れるのである。
一度に数十万も数百万も稼げる探索者にとって、行き帰りで二万なら安いものなのだ。
高いと思うならバスに乗れば良いのだ。
ここで料金を出し渋り、訴えた所で普通に犯罪者として捕まるのは社長である。
良心的な値段で運営してるTAXiにはお咎めは無い。
なぜこんな社長なのに部下が辞めずに付いてきたのかというと、玲が居たからである。
サンタ達が入った映画会社は一応名の知れた会社で歴史もある老舗だからこそ、やり甲斐を求めて入社したが、探索者となって働くと言われれば、魅力の無い社長に着いていきたいと望む者は居なかった。
しかし、玲も残る事が分かっていたので、彼女を気に掛けて心配に思い、残りたいと考えた者達は多かった。
それだけ玲は、皆にとって掛け替えの無い存在なのだ。
それを蔑ろにする社長は実に彼らの琴線を刺激した。
今回こそはタダじゃ置かないと、憤りもしたが、谷川から一番悲しむのは玲だと諭され、説得されれば矛を収めるのも吝かではなかった。
そして、怪我をさせない為に社長のチームに嫌々だが入って付いてきたが、我儘しか言わない社長に対して、心底嫌になったのだろう。
さっさと狩りにでも向かわせて終わらせたいと思う気持ちが、怒りに変わったのだった。
転がってる社長と、サンタは兎に角目立つので、とっとと社長を立たせ半ば引き摺るように彼をダンジョンへと連れて行った田中も、サンタと同じ様な気持ちだった。
「おい、軍資金も無いんじゃ朝飯も食えねーんだ。 とっとと魔石でも拾ってこねーとなんねー時に、仲間内で喧嘩すんなら、俺は帰るぞ?」
勿論そんな事は分かってる社長は、胸倉をつかむ田中の手を振り解いて、無言のままダンジョン一階層を歩む。
それにサンタも田中も付いていくが、ヤル気は既にない。
魔物討伐チームのチームワークは既にボロボロであった。
一階層では、スライムしか居ない為、屋台が軒を連ねて営業している。
スライムは攻撃しなければ襲って来ない生物なので、うっかり踏んでしまっても敵意が無いと分かれば攻撃してこない。
たとえ戦えない者が店主でも、安全に営業出来るので、所狭しと店が並んでいる。
食べ物の屋台だけではなく、宿泊所もある。 とはいえ、時間が経てばダンジョンに消されてしまうのが住居ダンジョンとの違いな為、宿泊施設はただのテントだったりする。 だが、寝ている時に番をしてくれるので、安心して眠れる場所として人気でもある。 つまり、普通に高いのだ。
勝負時間は24時間ではあるものの、泊りがけでダンジョンに潜るなら、尚更宿泊施設は抑えておきたい場所だろう。が、既に軍資金は三人ともゼロな為、もし泊まるなら自腹である。
だが、チーム戦と言う事は、仲が悪かろうと一つのパーティとして動いている為、宿泊代やメシ代を払う場合はコストとなり、自腹で支払ったとしても売上から差し引かれる為、マイナスに加算される。
それを嫌がった社長は、朝飯も食べずに強行しようと言い出し、二階層へと突き進む。 仕方なくそれに従い二階層へと降りた面々ではあったが、初めての二階層は迷路のようで、上下左右に張り巡らされた階段を見て、そのまま引き返す事になった。
「おいおい、流石に地図もないんじゃ迷うぞあれは」
「何処で手に入るのか聞いてくる」と言って、サンタは屋台で買った物を食べてる1団に向かい、田中はそれを見送る。
「喉が乾いてきたな……」
そう呟く社長に田中はとある場所を指差す。
「あそこで売ってるみたいだぞ? 高いけどな」
そう言われて目を向ければ
[1L、2000円]
と、書かれた立て看板が目に入る。
因みに水が高いのは、このダンジョンから水が得られないからだ。
地上から態々持ってきて売っている為走行税がプラスされ、そこに消費税も足されて、更に端数が出ない様にピッタリの金額にされていているので高いのだ。
もちろん端数切り上げだ。
それ以外でも、屋台に並ぶ肉の仕入れは安いが、調味料や薪が高い為、串焼き一本ですら安くても二千円はする。
小麦などの穀物類など更に値段が上がる。
態々住居ダンジョンから持ってくる為、それに掛かる魔石代、走行税、消費税、等を足すとたこ焼きひと粒だけで千円はする。
6個入りなら六千円だ。
焼きそばも高い。
飯を食うだけで一万円なんてあっという間に消えるのがダンジョンだった。
そんな所へ二階層に限定された上、昼食代やバス代も入った軍資金を狩りをする前に全て消費し、喉も腹も減ってる討伐チームに勝てる要素など、微塵もないのである。
──まったく谷川のやつ、全部わかっててこの勝負提案しただろ……。
そう思っても田中は社長にその事を教えようとは思っていない。 教えた所で後の祭りだし、社長を更生させるには、奴隷にでも落とさないと無理だと田中も思っているからだ。
口で言っても利かない大人に容赦しないのは当然だろう。
口をモグモグ動かしながらサンタは戻って来た。
手には何やら紙を持っている。
地図を手に入れたようだ。
それなのに何故口もモグモグしてるのか?
それを問いだしたのは勿論、社長である。
「地図一つ手に入れるのに何してやがった! こっちだって腹減ってんだぞ! 何一人で食ってんだ! 俺にも寄越せ!」
まったく、とんだ暴君である。
「買い物もしないで手に入る情報なんて無いよ社長。 勿論掛かった費用はコストとして請求するからね? レシートは帰ったら谷川にでも渡すよ」
そう聞いたら従うしかないのだが、どうせコストにされるなら、腹を満たして喉を潤そうとなって、それぞれ食料と飲水を確保した結果。
飲水1L✕3で六千円
朝飯代焼きそば✕3で一万五千円
サンタの間食たこ焼き✕二粒で二千円
昼飯として乾パン✕3で六千円
干し肉✕3で二千四百円
合計三万千四百円のマイナスになった。
地図は無料だったらしい。
「腹も満ちた! 狩りで稼ぐぞ!」
と、一人やる気を出して二階層へと赴く社長を溜息混じりで追い掛ける二人。
「もう負ける気しかしないよ」
「言っても面倒くせぇから黙っとけよ」
「分かってますって、あっちは如何なってんだろね?」
薬草採取チームの事を気に掛けては、あっちが良かったとブツブツ言ってるサンタを尻目に、田中も同じ事を思っていた。
────一方、薬草採取チームの面々は順調に薬草を採取して、カバンもパンパンになっていた。 これをギルドに持っていけば数万円には成るだろう。 これを数回繰り返せば多分討伐チームには勝てると思っていたお嬢と佐藤だった。
「そろそろ売りに行きますか?」
「そうだね、もうカバンも一杯だし一度帰るべきだと思うけど、……あれ? あそこにあるのは……」
佐藤が木々の間から見えた一輪の花に目を留めて、向う。 それに続いてお嬢も向かうと、其処には
花畑の様に咲き乱れる魔力草の群生地だった。
「おおっ! 一攫千金だよ! 早速採取して……何だよ谷川」
今にも採取しようとしてた佐藤を止めたのは谷川である。
文句を言おうとした佐藤の目の前に1枚の青い紙を出して言う。
「これにサインをして、自衛隊の方々を呼びに行ってもらえますか? 勿論麻薬草の群生地が見付かったと言いにね」
何言ってんだコイツと思ったが、その紙を見て動きが止まる佐藤と、それが何か分かってないお嬢。
「おま……それ、エル…………」
そう言い掛けて谷川の顔を見ると、ニッコリと微笑んでいる。
佐藤はその微笑みを見て背筋がゾッとしたのだった。
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