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第一部 纏まる秘訣は形から

十三話 魔物討伐vs薬草採取➃

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 薬草採取チームの三人は、十五階層行きのバスに乗ると、空いてる席を探す。

 一階層から十五階層へ向かう自衛隊の方々も乗っているので、既に席は殆ど埋まっているが、一つだけ空いていたのでお嬢を座らせる。 私達はお嬢の前で立つが、薬草採取用のカバンは持って貰った。
 自衛隊の隊員が乗っているのには訳がある。地上部分から一階層に掛けて自衛隊が駐屯しており、残りが十五階層から
最下層の二十階層にいる為、深夜と昼間の見張りを交代する要員はこうして民間バスに乗って移動する。 勿論人数が多ければ、それなりの専用車両を使うが、極力税金を抑えたいのが国なので、少人数の場合はこうして民間バスに乗るのだ。
 夏休み中は朝から下層へ行く人も居たが、夏休みを終えた今頃の時期ならほぼ居ない。 学校に部活に忙しくなるからだ。

 お嬢が言うには、小遣い稼ぎや装備の充実をする為に近場の稼ぎ場を探せば薬草採取が一番手っ取り早いので、夏休みともなれば、明け方から深夜まで、寧ろテント張って泊りがけで薬草採取するから、14階層は混んでいるが、今ならガラガラだろうという話だ。
 寧ろこれから混むのは魔物ダンジョンだろうと予想する。
 探索者を育てられる学校は、60年経った現在でも未だに多くない。
 その理由は、低級魔物が二階層に出没するダンジョンが少なく、学生の教材として向いていないからである。

 各駅停車バスで1時間の距離にある我々の住む住居ダンジョンは通学圏の為、お嬢の様な学生も多く住んでいる。
 その為に、時期がズレれば負ける確率は薬草採取チームに傾いていたかも知れない。

 ──夏休みだったとしても、私は負ける気はしてませんけどね。

 今回の勝負は売上勝負ではあるが、私は違う。
 この勝負は、税金対策勝負である。
 如何に支払う税金を抑えて売上に繋げるられるかが、勝負の別れ道だといっても過言では無い。

 地上に住む人々が居なくなったおかげで、減ったのが税金だ。
 消費税は確実に物を買えば掛かる税金ではあるが、ダンジョンに住む我々の支払う税金は、ダンジョンを管理する地方自治体に入るようになり、国に入るはずの税金が著しく減ったのだ。地上に住んでいないので、固定資産税も富裕層しか払わなくなり、ダンジョンに住む方々の土地持ちは地方自治体に払う。
 そこで考えられたのが、整備された道路を走る車に走行税を撤収し始めた。
 バスに乗ると一律どこから乗っても二千円なのは、走行税を料金に上乗せさせた為だ。
 バス代が高いからと徒歩で移動する者達が増えると、今度は歩行税を撤収する法律を作り、歩行税は一日で二千五百円支払う事になる。
 勿論未整備の道を歩けば歩行税は支払う必要はないが、ダンジョンが出来る前に各動物園で育てられていた猛獣は逃げ出して、独自進化を遂げ繁殖した上に頭数も多くそこら中で跋扈ばっこしている場所を好き好んで歩く奴は高ランクくらいだ。
 ある意味中層でしか活躍出来ない者の多くは、未整備の道を征くだけで命の保証は無いだろう。

 歩行税を支払えば安全な道を歩けるとなれば、それを使う。 だが、歩行で移動すると、呼吸税も支払う事になり、ダンジョンに泊りがけで行き着いたとしても、バス代より多く支払う羽目になるのだ。
 例え一日で着いたとしても五千円だ。
 バスなら1時間前後で往復四千円で済む。
 なので、バスに乗る人ばかりが多くなり、バスに乗るだけでも一苦労なのだ。
 バスに乗ってきた人と歩いてきた人を見分けるのは、結構簡単でバスなら乗車券が貰えるので、それをダンジョン入り口で渡せば確認も容易だ。
 もちろん偽造する輩も居たが、乗車券には乗った時間、場所、曜日などが記されていて、バスと乗車券と2つの証拠が見付からない場合は逮捕となり、最低50年間犯罪奴隷として、国に飼われる事になる。

 ダンジョンが出来た事で大きく変わったのは、犯罪者に対して刑務所を廃止した事だろうか。
 奴隷に出来るシステムが構築されて直に実行され、活用された事で重労働などの人材は犯罪者で補う様になり、人手不足の解消に役立つ事になった。

 他は所得税がある。
 ダンジョンに住み、ダンジョンで働く様になると、当然の様に所得税の支払先も地方自治体になったのだ。
 そこで困った国は、探索者に目を付けた。

 一回に売買されるアイテムやドロップ品に45%の税金を掛けたのだ。
 どれだけ少ない物にでも45%の税金を掛けた事で、失った税金収入を補おうと考えたのだろう。
 しかも、そこに探索者ギルドも便乗し、45%を引いた残りに10%を差し引いて、残りを探索者に渡す様になり、売上が例え千円でも、手取りは405円にしかならないのだ。
 勿論これは薬草採取でも同じだが、薬草採取に関しては一つ例外がある。
 それが、麻薬草だ。
 麻薬草は魔力草と似た花を咲かす植物で、根っ子を精製すると麻薬が採れる。
 当然違法薬剤であるので、所持していただけで逮捕されるし、罪状も重い。

 だが、見付ければ確実に売れる物なので闇に流す者達が跡を絶たなかった。そこで考えられたのが、麻薬草に関してだけ非課税にしたのだ。 買取金額も高く一本で五千円だ。 尚且つ、10本以上の群生地を見付け、報告した者にはカードに還元歴も付けられた上に、一本八千円の非課税収入になる。 その為に専用で探す麻薬草ハンターなる探索者も生まれた。

 ただし、見つけるのが困難な植物でもある為、それ専門で動く人は中々続かず、今では世界に少人数居るかどうかになっている。

 専門家が居なくなった所で生えてくるものは生えるので、今回の私の狙いは麻薬草だったりする。

 薬草は必ず似た植物が存在するのだから、面白い。
 回復ポーションに使われる薬草は三種類であるが、似た植物なら6種類存在する。
 その見わせ方は葉のギザギザ部分があり、葉の裏に白い毛の様な物がびっしり生えているのが薬草になる。
 毒消し草も葉の形が丸っこく先が尖ってて、葉の裏が白いのが毒消し草で、黒いのが毒草になる。

 麻薬草と魔力草も花のかたちが同じで一見分かり辛そうに思えるが、葉を裏返せば分かりやすい。
 だが、他の草のように思ってると失敗するのが麻薬草と魔力草だ。
 麻薬草の葉の裏には白い毛が生えてるのに対して、魔力草には毒々しい紫色の毛が生えているのだ。
 これを間違えて採取し、自分でポーション等を作った場合は当然逮捕になり、刑罰は犯罪奴隷として百年間国の為にポーションを作り続ける事になる。

 偶に白い毛と紫の毛が半々で混ざりあった葉を持つ麻薬草も見つかる事がある。
 これは、採取したら駄目な奴で、魔力草になり掛けてる草なので、待たなければ成らない。 もし、これを採取して提出したら、罰金が課せられる。 犯罪には成らないし評価も増減しないが、罰金として五千円徴収されるのだ。
 だから、喜び勇んで飛び付き、確認しないまま採取したらマイナスになるので、植物採取は難しいのだ。
 社長の様に未教養だと向かないクエストではある。

 自然に任せがちな薬草採取ではあるが、一つだけ自然ではない採取方法がある。
 その方法はある意味国家機密にされているので、探索者ですら知らない方法だ。
 その方法は私も知らないが、知ってる人が知人にいる。
 その知人の元に昨晩メールを送り、手助けしてくれると確約も貰った。

 私が勝ち確定と言ったのは、正にこの人の力を借りれた事が大きい。

 バスが14階層へ付くと、お嬢と佐藤が降りて、最後に私が降りる。

 その後ろからもう一人。

 少し立派な軍服に身を包み、長い棒を手に降りてくると、私に声をかける。

 「やぁ、谷川君。 久しぶりだね!」

 「井道さん、お久しぶりですね! この度は私の要請に快く応えて下さり感謝いたします」

 そう言って深々とお辞儀をしてると、お嬢も気が付いて振り返り、驚きで目を開く。

 「えっ…… うそ……本物⁉」

 そう驚くのも無理は無い。
 何故なら彼は、世界で初めてダンジョンに潜り、スキルを手にし世界に発表した第一人者で、世界で初めてダンジョンで行方不明扱いされた事でも有名な人だからだ。

 勿論教科書にも載ってるし、学生なら誰でも知っている事だろう。

 彼と知り合ったのは私が20歳を過ぎた辺だったと思う。

 その頃には彼は既にトップランカーとして、深層に潜る探索者だった。

 私はただの人だったので、出会ったのは本当に偶然だった。
 仕事上の関係で知り合い、似た様な年齢だった事で仲良くなり、私が以前の仕事を辞めた今でも、年賀メールを送り合う仲だったりする。

 「お嬢、彼は有名な井道武長ではありませんよ? 顔が似てると思いますが、彼の双子の兄で、井道正一さんです。 この度の薬草採取に助っ人として呼びました。 なんせ泊りがけですからね、講師は必要と思いましてね知り合いの彼を呼んだんです。 なんの相談も無く勝手をしてしまい申し訳ありませんが、よろしくお願いしますね」


 今現在彼は行方不明扱いを受けているが、それは国家機密に該当する為、ここに居る理由を伏せて説明するのが大変だった。 なのでお嬢達には、行方不明になった彼の双子の兄なのだと、説明した。

 実際彼には双子の兄が居て、若い頃は探索者として、兄弟で深層まで潜っていた。弟である彼の能力が異質だった事で国に囲われ、その後軍人として高い地位を与えられ、今は地上に住んでいる事も口止めされた事で会えなくもなったが、見返りとして多額の資金を得て剣術道場を営み、後進の為に剣術を何処かで教えているらしい。

 そう説明すると、ようやく興奮してた自分に気が付き頬を赤らめて照れ笑い。

 ──うんうん。可愛いのぅ。流石うちのお嬢。

 「谷川……顔が変。 なんかエロ親父みたいになってっから、バレる前に直せ」

 佐藤に窘められ顔を揉む。

 挨拶もそこそこにして、我々は井道さんの監修の元テントを張る場所を探して、14階層の奥地へと入っていった。




 ────一方、ダンジョン討伐チームはと云うと……。

 「まだバスに乗れねーのか⁉ どんだけ人がいんだよここはよーっ!」

 と、順番を守って大人しく並ぶ探索者達とは真逆の態度で喚き散らかし、無駄に反感を買ってる社長と、他人のフリに徹してる田中とサンタが、混み合うバス停で未だにバスを待って居た。

 そこへ手揉みしながら胡散臭そうなお兄さんが、社長に声をかける。

 当然田中もサンタも警戒したが、社長はお兄さんの口車に乗り、迷う事なく頷くと、訝しんでる田中とサンタを引き連れて、お兄さんが乗る白いボディーカラーの車の前に連れて行かれる。

 「よし! 乗るぞ、お前らも早く乗れ」
 「待て待て!社長!どういう事だ!」

 「ああっ⁉ 見て分かんねーのか? TAXi使っていくんだよ! バス来るまで待ってたら明日になるぞ?」

 「だから待てって! いくら済んだよタクシー代!」

 「書いてあんだろ? 一律一万ってよ?三人で割れば一人三千と少しだろうが! 分かったらとっとと乗れよ!グズが」

 そう言われた田中は苛ついたが、一人三千と少しならまぁ良いかと思い、タクシーに乗る。

 だが彼らはまだ知らない。
 一律とは、一人頭一万円であると言うことを……

 こうして彼ら三人は早々に軍資金である金を使い切ったのだった。


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