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第一部 纏まる秘訣は形から
二話 初ダンジョンは模造刀を持って
しおりを挟む翌日から我々はダンジョンへと赴いた。
当然の様に若者で溢れている。
似たような年齢層の人も偶に見掛けるが、どことなく強者の雰囲気を醸し出していて、一言も声を掛けることなど出来ずに見送る。
彼等は昔からの探索者で、当然装備も我々の様な駆け出しおっさんズとは桁外れに違う。
なんの金属で出来てるのかさえ分からない黒光りした鎧を身に着け、腰の物は両刃の大剣やら細くて長い長剣とか巨大な斧とかハンマーとかそれはもうファンタジー色の濃い装備を身に着けていた。
「色んな武器が有りますね」
「本当にな。 だが我等にあの様な武器が扱えるでも無いし、羨むだけ無駄ではないか? 谷川」
「まぁ、そうですけどね。 まだ駆け出しの我々では間引きの忍者刀で十分ではありますね」
そう言って愛おしそうに腰に付けた忍者刀を撫でる。
「何言ってんだ谷川 忍者刀こそ俺等に合ってる武器だろうが?」
そう言うと田中さんも自慢気に忍者刀を見せてきた。
皆が皆装備してるのは忍者刀で、勿論コレクションの一つなので間引きしてある物だ。
殺陣が好きで、撮影の休憩時間になると、殺陣の講師が居れば頭を下げて素振りの練習をしていた奴等である。
当然忍者活劇を撮影したときも呼んでもらった講師に頼み込んで忍者刀の使い方や素振りの仕方を学んでは、毎日の様に特訓していた奴等である。
自慢気に成るのは仕方の無い話なのである。
忍者刀と刀や脇差しとの違いを簡単に言うと、刀には反りが有るが忍者刀には余り無いと言うところだろうか。
忍者刀は刀や脇差しの間くらいの長さで反りは余り無く、直刀に近い形状をしている。
そして、鞘でも刺し殺す事も出来る様に、鞘の下部分は鋭く尖っている。
刀は斬る事に優れているのに対して、忍者刀は刺す事に重きを置いているので、侍の様な素振りはせず、何方かと言うと短槍の様な訓練を我々はしていた。
探索者として活動する駆け出し初日の我々は、一人一万円を支払ってダンジョン講習に参加した。
そこで教わったのは武器のメンテナンスや取り扱いに付いてより詳しく説明された。
しかし我々にとって刀や忍者刀の取り扱いに関しては仕事の一部だった事もあり、教えられる内容は全て暗記済みであった。
「まさか、一人一万円も支払ってコレで終わりではないだろうな……」
そう文句を言うのは社長である。
一応パーティで活動するに当たって、探索者ギルドで行っている講習に参加する場合は、パーティ費用から捻出してる為、会社持ちとなっているのだ。
その為に態々社長は自分の手持ちから資金を捻出していた為、少なからず怒っていた。
そりゃ、自分達が知っている事を態々金を支払って聞かされていれば、ムカつきもするというものだ。
実際他のメンバーも苛ついている。
しかし、それだけではなかった様で安堵したのも束の間、今度は素振りの仕方を教え始めた。
参加してるのが我々おっさんズ以外は皆若者という事もあるのだろう。
昨日までは学生で武器と言えば竹刀や棒きれかナイフくらいの小さい物しか触って来なかった者達だ。 当然武器の扱い方など知らぬのが普通だろうし、鍛錬方法など、授業で行う剣道くらいしか無いのであれば、扱う武器によっては教えて欲しくもあるだろう。
だがしかし、我々おっさんズに取って、素振りなどは日常の運動みたいな感覚で行っているものだ。
老人で例えるなら早朝のラジオ体操みたいな感じだろう。
そんな物に態々安くない金を取られただけでは、払い損である。だがしかし、コレは我々だけの講習ではなく、その他大勢の講習であるので、知っていようと無かろうと、甘んじて受けるのが良い大人と言うものなのだが、うちの社長は大人では無かったようで……。
遂に堪忍袋の尾が切れた社長は、教えてくれている探索者に詰め寄った。
「ちょっと良いだろうか?」
「あ、はい、えーと。何でしょう?」
困惑したのは本日講師を務める事になった鉄級の青年で、名をハルトと名乗っていた。
彼の得物は大剣の様で、重そうな動きで上段に構え、振り下ろすと得意げに笑って、集まった方々に素振りの仕方を教えていた。
そんな所に上下黒のトレーナーを着たおっさんが、やって来たら何だ?と、思うのは仕方のない事だろう。
「素振りや何かは別に教えて貰わんでも出来るから、他の事を教えてくれないか?」
「他の事……ですか。 えーっと、ですねぇ……。 今日は武器の扱い方と鍛錬方法を教えて、最後に案山子を斬る所まで教える予定なんですよね。 一応この講習は初心者向けに行ってる講習なんですよ、そしてこれからダンジョンに必要な事も日を置いて教えていく予定です」
そう言って説明したのたが、多少は苛ついたのか、言葉尻に呆れた様な声音を残す。
そんな声を聞けば、集まっていた他の若者達は声を上げて嗤ったり、馬鹿にするような言葉を投げ掛けてくる者達で場は騒然となる。
寧ろ、それを狙っていた節も見受けられた。
「まぁまぁ、皆さん落ち着いてくださいね? たまにいるんですよね、知っている事と実際やって見る事の違いを知らずに大人になってしまった人達って、だいたい他の事を教えろと言うんですよ」
「って言うことでー! このおじさんにやってもらいましょっ! 実践とはいかないので、用意していた案山子を斬って貰いまーす!」
そう言うと案山子を出して来る様にスタッフに告げる。
「おじさんのjobは何ですかぁ?」
やはり、小馬鹿にして居るようで、腹の立つ言い方は変えないようだ。
社長もそれを分かっている様だし、止めに入る様な人も我々の中には居ないので、そのまま成り行きに任せる。
「jobは忍者だ」
「忍者ですかー。うーん、じゃあ武器は今の所刀しか無いんですけど、扱えますかぁ? あ、間引きはしてない本物なのでー、怪我をしない様に気を付けてねー」
そう言って放って渡された。
間引きしていようと、間引きされていなかろうと刀の重さというのは然程変わらなかったりする。
鞘付きで一キロ、鞘を払って刀身のみだと更に軽くなる。
斬れ味に置いては扱いによって指など軽く切れるので、慣れていない者が扱えば大事故にも成りかねない。
まして放って渡すなんて事はしない筈なのだ。万が一を考えて大事を取って手渡すのが礼儀だろう。 放り投げた事で、鞘が外れればそれだけ怪我もするだろうし、運が悪ければ首になど当たって死ぬ可能性も無いとは言えない。
余程腹に据えかねてる証拠でもあるが……武器を扱うプロの所業でない事は確かだ。
だが我らの社長は当然間引きされていない刀も扱った事がある。
所持する事は叶わなかったが、素振りする時等は態と重りをつけて振り回していたし、当然我等も同じ様に重りを付けて素振りしていた。
勿論居合い等の鍛錬も学んでおり、指の皮を切る事はたまにあっても、指を落とす様な間抜けな事はしない。
それを知らない彼にとって我々の様なおっさんは馬鹿にする対象なのだろうが。
案山子が用意されると、社長は呼ばれて「構えて」という声と同時に鞘から刀を抜き放ち、そのまま案山子に斬り掛かる。
構えてと言われたら普通だったら剣道の様に構えるものだと思っていた講師は、一瞬社長から目を離す。
その間に社長は逆袈裟斬りで案山子を下から斜め上へと斬り、そのまま返す様に同じ場所に刃を撫でる様に斬り返し、納刀する。
その一瞬はほぼ見えていなかった。
私ですら目で追えたのは逆袈裟斬りで斬った後までだ。
返しで斬り、納刀する迄は全く見えなかった。
──社長また腕上げたなぁ……。
そんな私の感想を他所に目線を外してしまった講師など、納刀してペコリと頭を下げてる社長を不思議に思って話し掛けようとしてるだけが精一杯だろう。
「えっと……? 頭を下げるのは後にして先に斬ってみてくださいよー」
そう言って嗤い、その嗤いに合わせる様に居合わせた若者達も嗤い出す。
「……もう斬った」
そう一言云って、刀を講師に渡そうとするも、何を言ってるのか分かっていない講師は半笑いで案山子に近付いて、指が案山子に触れるか触れないかという時に、斜めに斬られて二つに成った案山子がズルリと音も無く落ちて転がった。
「え……」
その声だけが会場に残り、周りで笑っている者達も押し黙る。
誰もが引きつり、落ちた案山子だった物から目が離せないようだ。
「……ゴクリ」
誰かの生唾を呑む音が聞こえる程に静まり返り、社長はニヤリと笑って田中さんを手招いた。
選手交代である。
田中さんは大の忍者好きで、勿論扱ってる武器も忍者刀である。
なので、間引きされてない刀には一別もくれずに帯刀している忍者刀に触れる。
勿論これは我々自身で持ち寄った物なので間引きはされている。
だがそんな些細な事など気にしない田中さんは、新しく用意された案山子を社長よりも素早い動きで三つに斬って見せた。
正直私にはアレは出来ない。
多分他の者でも無理だろう。
そのまま順番に私達も五体の案山子を斬り捨てた。
もうおっさんズを嗤う者達は誰も居なくなったし、冷や汗を大量に流してるハヤトだかハルトだか言う講師も、何も言えずに転がった案山子を固まった顔を歪に歪めて何とか笑顔を作ろうと躍起になっていたが、遂に諦めたのか引き攣りながらも今日は帰っても良いですよと告げた。
だがしかし、今日の分の料金は当然返ってこない為、これで帰れば捨てるのと同じだった。
なので、五人のおっさんは相談してこの場で鍛錬してて良いか尋ねる事にした。
「どーぞどーぞ好きなだけどーぞ!」
と、最初に対応した態度とは180度変えて、まるで水飲み人形の様にカクカクとした動きで頭を下げると、講師は休憩にしますと言って会場から去り、二度と戻っては来なかった。
その代わりにやって来たのは玲ちゃんと然程変わらない年齢の女の子だった。
その子の得物はサーベルみたいな細い剣で、我等も見た事が無かったので、鍛錬する為に用意した20キロの砂入りリュックを前と後で背負い、縦に並んで歩きながらチラ見してた。
しかしそのチラ見がエロ親父の様に見えたのか、怯えられてしまい……。
当初予定していた講習時間よりも早く終わってしまったようで、クレームを言う者達も現れたが、大きな騒ぎには発展せず一部費用を返済する形で収まったようだ。
勿論我等にも返金され、社長はホクホク顔を覗かせていた。
しかし社長の不幸は講習を終えてからやって来た。
サーベルを扱っていた娘は玲ちゃんの同級生で、戻って来なくなった講師の代わりに急遽依頼されて来ただけのバイトだったのだ。
どうやらたまたま玲ちゃんと一緒にダンジョンに来て、一応先輩だからと色々レクチャーしようとダンジョンへと入ろうとしたところを職員に捕まえられたらしい。
当然一緒に来ていた玲ちゃんにおっさん達が自分をジロジロ見てて怖かったと報告もしたし、同じ会場からおっさんズが現れたら、ジロジロと見ていたのが社長率いるおっさんズだと気付くだろう。
勿論我らは言い分けもした。
珍しい武器だったので見ていただけだと。
しかし武器というのは彼女の腰に帯刀されていた訳で、言い訳は所詮言い訳に過ぎず。
全員正座の罰を甘んじて受ける事と成った。
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