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第6章

バイバイ、はな六 ①

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 アンドロイドのボディには、それぞれ“防御本能”というものが組み込まれている。魂が未搭載の状態でも、己の身を守るために無意識でとる行動だ。たとえばレッカ・レッカならば、男の匂いを感知するや、顎を上げ脚を開き、スムーズに男を受け入れる姿勢を取る。
 クマともタヌキともつかないぽんぽこりmんの“あのはな六”の場合はといえば……。
 タケゾウの魂を“あのはな六”に移植する日、指定工場の待合所で、はな六は小さな子供達に取り囲まれていた。
「かわいいー」
「それなぁにー? リュックぅ?」
「みせてみせてー」
 はな六の腹にはしっかりと“あのはな六”がへばり着いていた。遠目に見ると、まるで抱っこ紐で親の胸に括られた赤ん坊のようだ。最長百五十センチメートルにも伸びる両腕を、はな六の肩や胴体にしっかりと絡みつかせている。これが“あのはな六”の防御本能だ。取扱説明書にも明記してあることだが、かつてこのボディのユーザーだったはな六自身は、この防御本能を最近まで知らなかった。
 子供達にせがまれ、はな六は“あのはな六”の頭と尻を手で支えながら、そろそろとしゃがんだ。子供達は大はしゃぎで“あのはな六”にペタペタと触った。
 この子供達は、タケゾウの曾孫達だ。曾孫達だけではない。タケゾウの子供や孫も、一族全員が“タケゾウおじいちゃん”の見送りに、指定工場に大集合したのだ。
「そろそろ、予約の時間だぜぃ。行くぞ、はな六、タケゾウさんよ」
 サイトウが告げると、タケゾウの一族はおじいちゃんを扇状に囲み、めいめい涙ながらに別れを告げた。まるでお葬式のようだ。一族で一番歳上そうな禿げ頭の男、ハルトは、スーツの袖で目をごしごしと擦って言った。
「母を寂しがらせない為に、父に模したアンドロイドを、私が作らせたのです。母はお陰で、自分の連れあいが既に亡くなったことに気付かず、幸せなまま逝きました。私達はタケゾウに感謝してもしきれない。それに今では皆、タケゾウを本当のお祖父ちゃんのように好いているのです。だが私達は……私は……、タケゾウの気持ちに対して、あまりにも無神経でした……」
 ハルトは喋りながらは泣き出し、すすり泣きはまもなく号泣へと変わった。それは一族郎党に伝染し、赤ちゃんから老人まで、全員がタケゾウとの別れを惜しみ、わあわあと泣いた。一族の、扇の要の位置にいるタケゾウは、皆の悲しみなどどこ吹く風といった様子で突っ立っていた。
「いつでも帰って来ていいですからね、おじいちゃん」
「そうだよー、いつでも遊びにきてー!」
 皆、タケゾウを養子出したつもりなどなさそうだ。
「じゃ、ハルト、皆、今までどうもありがとうね」
 タケゾウはそれだけ言うと、のそのそと踵を返し、工場のエントランスに入っていった。はな六はサイトウとタケゾウの後について歩いた。タケゾウは、地面と背中が水平になるほど腰が曲がっていた。はな六はタケゾウが転ばないか心配したが、タケゾウの足取りは案外かくしゃくとしていた。彼よりもむしろ、はな六の方が、重たい“あのはな六”のせいで頼りなくふらついていた。
 はな六は手術室の前室に、タケゾウと共に通された。
「どうぞ、こちらに寝かせてください」
 看護師の案内に従い、はな六は用意されたストレッチャーに近付いた。取扱説明書に書いてあった通り、“あのはな六”の背中をトントンと叩きながら、
「よしよし、いい子いい子」
 と唱えると、はな六の胴体にしっかり絡み着いていた“あのはな六”の両腕はするすると解かれ、くたりと床に向かって垂直に垂れた。はな六がゆっくり“あのはな六”をストレッチャーに下ろした瞬間、
「おわぁ!」
 はな六は飛び退いた。“あのはな六”の両腕がシュバッと巻き上げられ、通常の長さに縮んだのだ。
 “あのはな六”とタケゾウを看護師に預けると、はな六は前室を出て手術室前の待合室に入った。細長い待合室の端と端にサイトウとハルトはそれぞれ腰掛けていた。はな六はサイトウの隣に座ると、サイトウの肩に凭れかかった。
「ねぇ、サイトウ」
 はな六は小声で囁いた。
「あ?」
「大丈夫かな?」
 はな六は一層声を潜めて言った。
「大丈夫だんべ」
 サイトウは軽い調子で応えた。はな六は待合室のもう一方の端に縮こまって座っている、ハルトを見た。彼は沈痛な面持ちで項垂れていた。
(やっぱりタケゾウは渡せません!って、言い出すんじゃないかなぁ?)
 しかし、はな六の予想は当たらなかった。数十分後、魂の移植手術が無事終わって、はな六達は医師から呼ばれた。再び看護師の案内で手術室前室に入ると二台のストレッチャーが置かれていた。一台にはタケゾウのボディが寝かされているらしかったが、青いシートに覆われていた。もう一台には“あのはな六”が、相変わらず瞼のない目を見開いたまま眠っていた。手術以前はまさに死体ボディのように微動だにしなかったのに、今は時々、首を振ったり手足をもぞりと動かしたりしている。
「ケケケ、おーい、俺達の坊や」
 サイトウは赤ん坊タケゾウの魂を宿した“あのはな六”に話しかけた。"あのはな六"はサイトウの声に反応したかのように、クゥと鳴いた。
「意識が戻るのは二十四時間後の午後三時になります」
 看護師は言った。はな六達の背後では、医師がハルトに言った。
「いいんですか、本当に廃棄してしまっても? こんなに良くできて、しかも新品同様なのに……」
 「いいんです、いいんです。どうせ欲しがる人なんか、いやあせんのですから」
 ハルトはそう答えた。
「さあて、帰りはお父ちゃんが抱っこしてやろうかねぇ」
 サイトウがそう“あのはな六”に語りかけると、“あのはな六”はまるで狙いすましたかのように腕をビューンと伸ばした。だが腕はサイトウの脇を通り過ぎてはな六の胴を捕らえ、的確に巻き付いた。縮んでいく腕に“あのはな六”本体がついてきて、この工場まで来たときと同じように、ぴたりとはな六に貼り付いた。
「やっぱりガキはお母ちゃんの方がいいんか」
「んー」
 それきり、“あのはな六”ははな六にしっかりしがみついたまま、離れなくなってしまった。「よしよし、いい子いい子」の呪文は効かなかった。

「ふ……、こんな状況でよくする気になるね……サイトウ……っあ!」
 “あのはな六”がしがみついて離れないせいで、その夜、はな六は仕事を休まざるを得なかった。着替えさえ出来ないまま床に入ると、サイトウは平気ではな六をセックスに誘った。赤ちゃんを抱きながらのセックスだなんて気が乗らないと、はな六は断ったが、サイトウもはな六の“お飾り”も、はな六の意思などお構い無しに昂っている。
 ずっしりと重い“あのはな六”が胸にしっかり抱き着いているせいで、はな六は容易に抵抗することが出来ない。顔を無理に上向かされ、チュッと唇を食まれるともうダメだった。途端にお飾りは下着の中で粘液をとろとろと吐き出し始めた。
「大丈夫だって、“坊や”は明日の三時までぐっすりおねんねだろ?」
「んーっ、そういう問題じゃないんだよー。気持ちの問題だよぉー。赤ちゃんを抱っこしたままこんな事するのって、ふぜんだよぉ!」
「ケケケ、耳まで熱くなってるぜぃ、はな六よぉ」
 重い掛け布団の下で、サイトウははな六のズボンと下着をすっかり脱がせた。サイトウは背後からはな六を抱き締め、挿入した。お飾りははな六と“あのはな六”を汚さないようタオルでくるまれ、サイトウの手の中にしっかり握られた。
「乳首を触ってやれなくて悪ぃな」
「それって、謝り所を間違えてぅ……っく!」
 パイル地で強く扱かれ、お飾りがぴゅっと精を吐き出した。サイトウは腰をくねらせ、激しく突き上げてくる。
「あ……サイトウ、出したばっかりなのにそんなにしたら……あっ!」
 サイトウは獣のように荒い呼吸をしながら抜き差ししつつ、はな六の項をしゃぶった。
「なぁに? するのが嫌になっちゃった? もう終わりにしとく?」
「んっ、や! やだぁ、もっとして、ここまでしといて、やめちゃやだよぉ!」
 結局、はな六の道徳心は、サイトウの一物にかかれば容易に突けば飛ぶのだ。
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