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第3章
はな六のふぜんなクリスマス ⑥
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不意に唇が離れた。
「ふぁっ」
はな六は肩を上下させ、唇をコートの裾で拭った。サイトウははな六を支えながら、きょとんとしていた。
「オメェ、外でも人前でも全然、自制が利かねえのなぁ。どんだけ変態なんだよ」
ケケケと笑われた瞬間、はな六はカチンときてサイトウへの畏れを忘れた。
「はぁ!? サイトウが無理矢理おれにスイッチを入れたんだろ! なのに何でおれのせいにするんだよっ。自分の欲をおれのせいにしないでくれ。それに、おれはセクサロイドだもん。セックスをするスイッチを入れられたら、そこがベッドでも公園でもセックスするに決まってんじゃん。それの何が悪いって言うの!?」
どん、と、はな六は一歩前に、サイトウの方に踏み出した。通りすがりの人々が、口を開けてはな六を見ている。それを横目にとらえたとき、はな六はようやく恥ずかしさを覚え、「うー」と唸った。サイトウは相変わらずのドブのような目付きではな六を見下ろしていたが、またケケケと笑い出した。
「わーったよ。オメェが今すんげぇヤりたくてたまらねぇんだって、よぉく解ったからよ。そろそろ帰ぇるべぇよ。おうちに着いたら、たっぷり可愛がってやるからな。おうちに着くまで、もうちょっと我慢しな?」
「んーっ!そういう事じゃないんだよぉ」
はな六は地団駄を踏んだ。
「どうしても我慢出来ねぇなら、シブヤで降りてマルヤマタウンに行くか」
「それこそ、仕事みたいで嫌だよぉ」
「たまには違う場所でヤるのもいいじゃねえか」
「おれは、いつもの部屋でいつも通り、サイトウの布団の中でする方がいい。サイトウとするなら」
「ほっか」
「うん」
サイトウがはな六の手を再び掴み、ポケットに突っ込んだ。ゆっくりと歩き出す。指先がほかほかと温まる頃には、はな六のズボンの中で張り詰めていたお飾りも、平静を取り戻していた。
公園を出て歩道橋を渡り、人影もまばらな庁舎の敷地を横切って、地下鉄の駅へと向かう。サイトウの歩調は彼本来の速さではなく、はな六のよたよたとしてノロい歩みに合わせられている。
「オメェはよぉ、一滴も呑めねぇくせに、いつなんどきでも酔っ払いみちょうな千鳥足なぁ。今にもすっ転びそうで、見てらんねぇわ」
「仕方ないじゃん、関節が壊れてるんだもん。誰かさんが、“この身体が死んでいた”のをいいことに、好き放題使ってくれたからね」
「おー。俺がオメェを見付けたとき、だいぶ使い込まれてひでぇことになってたからな。こんな可愛い子を、よくもこんなひでぇ扱い出来るもんだと思ったぜ」
(えー、サイトウ、自分のせいだとは思ってないのか!?)
普段のセックスの最中、サイトウははな六の膝に体重をかけて押したり、嫌がっているのに無理矢理脚を大きく開かせたりする。そういう事を毎日毎日繰り返してきたから、はな六の膝や股関節は徐々に壊れていったのだ、と、はな六は思っていたが、サイトウはどうやらそうは思っていないらしい。
「自分のことは棚に上げて、よく言うよ」
「あ? 何が」
サイトウは普通の声色で、死んだ魚のような目をして言った。はな六は面倒臭くなって、首を横に振った。
(どうしてこの人、こんなに話が通じないんだろ?)
「おわっ」
ほんのちょっとの敷石の隙間に、はな六は躓いた。サイトウが素早く受け止めてくれたので、地面に倒れずにすんだ。
「ほらぁ、言ってるそばからこれだよ。オメェ、金ケチってねぇで早く足ィ治せ。なんなら俺様が全額払ってやってもいいぜ。俺、あんまり金の遣い処がねぇから、結構貯まってるんだぜぃ」
はな六は身体を立て直し、ムッとして言った。
「いいよ。これはおれの身体だもん、自分で稼いだ金でなんとかする。それに今は、脚よりも手を治したいんだ」
「はぁ、手だと? 順番違くね? なになに、手ぇ治して俺様にサービスしてくれんの?」
サイトウはニヤニヤしながら、右手を筒状のものを握るような形にして、前後に動かしてみせた。何やらよからぬことを考えているらしいことは、はな六にも伝わった。
「違うよ。おれ、上手に碁石持ってパチンってしたいんだ、ジュンソみたいに」
はな六は「あっ!」と両手で自分の口を覆った。つい口が滑ってしまった。
「あー?」
サイトウは無精髭の生えた顎に手を当てて首を傾げたが、
「ジュンソ? ……あぁ、あーあの、アイドルの!? てンめぇはな六っ、不細工専と見せかけて、結局あんなスカした野郎がいいのかよ!」
サイトウは急に怒り出し、握り拳を振り下ろす真似をした。そして小刻みに上下にぴょんぴょんと飛び跳ねてピタリと立ち止まると、姿勢を整え、
「“君のハートに三目中手”」
声を無理に低く作り、右手でパチンと碁石を碁盤に打つ真似、そして摘まんだチョコレートを口に放り込む仕草をした。最近よくテレビで流れているCMの、ジュンソの真似だ。サイトウはジュンソがチョコを頬張りながら肩を左右に軽く揺するところまで、忠実に再現してみせた。
「あームカつく! 俺あのCM見るたびに、アイツの顔面グーでぶん殴ってやりたくなるんだよなー!」
サイトウはまたぴょんぴょん跳ねながらその場で一周回った。そうは言うが、普段サイトウはテレビ画面にこのCMが映ったとしても、特に反応を示さない。
「はな六よぉ、あんなお澄まし野郎のどこがいいんでや?」
「どこがいいっていうか、単に知り合いなんだもん、昔からの」
「あ? 知り合いって、どういう知り合いだよ」
「ただの幼馴染だよ」
サイトウは、漆黒に染まった目ではな六を見下ろした。左目の下が、ひくひくと痙攣している。
(あぁ、サイトウったら、当時のおれはこの身体じゃなくてクマともタヌキともつかないぽんぽこりんな見た目のアンドロイドだったってこと、忘れてるな……)
「あっ」
ふとはな六は、先程のサイトウがしたジュンソの物真似を思い出した。
「ねぇ、サイトウってもしかして、碁をやったことがあるの?」
碁石を指先で回しながら盤上に打ち下ろす仕草。あれはちょっと物真似してみようと思って簡単に出来るようなものではない。
「あ? あぁ。つうか、俺の世代で碁を知らねぇ奴って、あんまりいねぇと思うぜ」
サイトウはまた、くるっ、パチッ! と石を打つ仕草をしてみせた。
「俺がガキの頃、“ピカリンの碁”っつう囲碁漫画がすぅーげぇ流行ってて、そんで猫も杓子も囲碁囲碁囲碁の、空前の囲碁ブームだったの。何を隠そう、俺とマサユキが初めて出会ったのも囲碁教室だ」
「えぇー! それってマサユキも碁が打てるってこと!? うわーぁ!」
思わず前のめりになったはな六だが、サイトウは渋い顔つきになって、顔の前で手をひらひらと振った。
「悪ぃことは言わねぇから、アイツの前で碁の話は止めな。アイツ、碁がすっげー嫌いだから」
「えぇ……そうなの……?」
「おぉ。オメェのことを頑なに“はな六”って呼ばねぇのも、たぶんそのせいだ。"花六”っちゃ、“六目中手”のことだろ?」
「うん……」
はな六はしょんぼりと俯いた。マサユキは囲碁が嫌いという事実以上に、そのせいではな六を本名で呼ばないということが、堪えた。“はな六”という名前。それは、はな六が棋士を辞めて、セクサロイドのはな六として新たな人生をスタートさせる際に、前世から持ち出せた、唯一のものなのに。
(おれの全部が、マサユキに否定されたみたいだ……)
「おい、はな六? ……はな六ちゃん? おーい、はな六ちゃーん?」
気が付くと、サイトウがはな六の顔を懸命に覗き込んでいた。
「おいおい、何泣いてんだよぉ」
「な、泣いてなんかいないよ」
はな六はずずっと鼻をすすり上げた。
「泣いてんじゃねぇか」
サイトウの熱い親指の腹が、はな六の下瞼を擦った。
「なんだよ、マサユキに嫌われてると思ったのか? ケケケ、アイツは図体はでけぇがメンタルは小さくて細けぇんだよ。いまだに母ちゃんから碁を無理矢理習わされたことを引き摺ってらぁ。なぁ、はな六。そんなケツの穴のちっちぇえ野郎より、心の広い俺様にしときな。碁への未練が断ち切れねぇ上にド助平なオメェでも、俺様ならガッツリ受けとめてやれんぜ」
サイトウははな六の肩を掴んで抱き寄せたが、
「え、やだよ。おれはマサユキがいい」
はな六は頬を膨らませ、下唇を突き出した。
「この、ツンデレさんめぇ」
サイトウははな六の頬にキスをし、背をワシワシと撫でた。
「そうだ、オメェ、クリスマスプレゼントは何がいい? 何でも好きなもん買ってやるよ」
「えー、そう言われても、欲しいものなんか特に無いけど……」
「じゃあ、新しいオモチャでも、買ってやろうかねぇ。オメェの大好きなオモチャをよォ。グヘヘヘヘ」
「ふえっ!」
以前客から貰ったオモチャを押し入れに隠しておいたのは、どうやらとっくにバレていたらしい。身体がシュウッと熱くなる。
「グヘヘ、やっぱりマルヤマタウンに寄るコースかな?」
「や、やだよ……ふつうに家に帰ろ……」
「クケケケケ、わかったよ」
サイトウははな六の身体を引っ張り上げ、肩を抱いて半ば引き摺るようにして歩き始めた。
「ふぁっ」
はな六は肩を上下させ、唇をコートの裾で拭った。サイトウははな六を支えながら、きょとんとしていた。
「オメェ、外でも人前でも全然、自制が利かねえのなぁ。どんだけ変態なんだよ」
ケケケと笑われた瞬間、はな六はカチンときてサイトウへの畏れを忘れた。
「はぁ!? サイトウが無理矢理おれにスイッチを入れたんだろ! なのに何でおれのせいにするんだよっ。自分の欲をおれのせいにしないでくれ。それに、おれはセクサロイドだもん。セックスをするスイッチを入れられたら、そこがベッドでも公園でもセックスするに決まってんじゃん。それの何が悪いって言うの!?」
どん、と、はな六は一歩前に、サイトウの方に踏み出した。通りすがりの人々が、口を開けてはな六を見ている。それを横目にとらえたとき、はな六はようやく恥ずかしさを覚え、「うー」と唸った。サイトウは相変わらずのドブのような目付きではな六を見下ろしていたが、またケケケと笑い出した。
「わーったよ。オメェが今すんげぇヤりたくてたまらねぇんだって、よぉく解ったからよ。そろそろ帰ぇるべぇよ。おうちに着いたら、たっぷり可愛がってやるからな。おうちに着くまで、もうちょっと我慢しな?」
「んーっ!そういう事じゃないんだよぉ」
はな六は地団駄を踏んだ。
「どうしても我慢出来ねぇなら、シブヤで降りてマルヤマタウンに行くか」
「それこそ、仕事みたいで嫌だよぉ」
「たまには違う場所でヤるのもいいじゃねえか」
「おれは、いつもの部屋でいつも通り、サイトウの布団の中でする方がいい。サイトウとするなら」
「ほっか」
「うん」
サイトウがはな六の手を再び掴み、ポケットに突っ込んだ。ゆっくりと歩き出す。指先がほかほかと温まる頃には、はな六のズボンの中で張り詰めていたお飾りも、平静を取り戻していた。
公園を出て歩道橋を渡り、人影もまばらな庁舎の敷地を横切って、地下鉄の駅へと向かう。サイトウの歩調は彼本来の速さではなく、はな六のよたよたとしてノロい歩みに合わせられている。
「オメェはよぉ、一滴も呑めねぇくせに、いつなんどきでも酔っ払いみちょうな千鳥足なぁ。今にもすっ転びそうで、見てらんねぇわ」
「仕方ないじゃん、関節が壊れてるんだもん。誰かさんが、“この身体が死んでいた”のをいいことに、好き放題使ってくれたからね」
「おー。俺がオメェを見付けたとき、だいぶ使い込まれてひでぇことになってたからな。こんな可愛い子を、よくもこんなひでぇ扱い出来るもんだと思ったぜ」
(えー、サイトウ、自分のせいだとは思ってないのか!?)
普段のセックスの最中、サイトウははな六の膝に体重をかけて押したり、嫌がっているのに無理矢理脚を大きく開かせたりする。そういう事を毎日毎日繰り返してきたから、はな六の膝や股関節は徐々に壊れていったのだ、と、はな六は思っていたが、サイトウはどうやらそうは思っていないらしい。
「自分のことは棚に上げて、よく言うよ」
「あ? 何が」
サイトウは普通の声色で、死んだ魚のような目をして言った。はな六は面倒臭くなって、首を横に振った。
(どうしてこの人、こんなに話が通じないんだろ?)
「おわっ」
ほんのちょっとの敷石の隙間に、はな六は躓いた。サイトウが素早く受け止めてくれたので、地面に倒れずにすんだ。
「ほらぁ、言ってるそばからこれだよ。オメェ、金ケチってねぇで早く足ィ治せ。なんなら俺様が全額払ってやってもいいぜ。俺、あんまり金の遣い処がねぇから、結構貯まってるんだぜぃ」
はな六は身体を立て直し、ムッとして言った。
「いいよ。これはおれの身体だもん、自分で稼いだ金でなんとかする。それに今は、脚よりも手を治したいんだ」
「はぁ、手だと? 順番違くね? なになに、手ぇ治して俺様にサービスしてくれんの?」
サイトウはニヤニヤしながら、右手を筒状のものを握るような形にして、前後に動かしてみせた。何やらよからぬことを考えているらしいことは、はな六にも伝わった。
「違うよ。おれ、上手に碁石持ってパチンってしたいんだ、ジュンソみたいに」
はな六は「あっ!」と両手で自分の口を覆った。つい口が滑ってしまった。
「あー?」
サイトウは無精髭の生えた顎に手を当てて首を傾げたが、
「ジュンソ? ……あぁ、あーあの、アイドルの!? てンめぇはな六っ、不細工専と見せかけて、結局あんなスカした野郎がいいのかよ!」
サイトウは急に怒り出し、握り拳を振り下ろす真似をした。そして小刻みに上下にぴょんぴょんと飛び跳ねてピタリと立ち止まると、姿勢を整え、
「“君のハートに三目中手”」
声を無理に低く作り、右手でパチンと碁石を碁盤に打つ真似、そして摘まんだチョコレートを口に放り込む仕草をした。最近よくテレビで流れているCMの、ジュンソの真似だ。サイトウはジュンソがチョコを頬張りながら肩を左右に軽く揺するところまで、忠実に再現してみせた。
「あームカつく! 俺あのCM見るたびに、アイツの顔面グーでぶん殴ってやりたくなるんだよなー!」
サイトウはまたぴょんぴょん跳ねながらその場で一周回った。そうは言うが、普段サイトウはテレビ画面にこのCMが映ったとしても、特に反応を示さない。
「はな六よぉ、あんなお澄まし野郎のどこがいいんでや?」
「どこがいいっていうか、単に知り合いなんだもん、昔からの」
「あ? 知り合いって、どういう知り合いだよ」
「ただの幼馴染だよ」
サイトウは、漆黒に染まった目ではな六を見下ろした。左目の下が、ひくひくと痙攣している。
(あぁ、サイトウったら、当時のおれはこの身体じゃなくてクマともタヌキともつかないぽんぽこりんな見た目のアンドロイドだったってこと、忘れてるな……)
「あっ」
ふとはな六は、先程のサイトウがしたジュンソの物真似を思い出した。
「ねぇ、サイトウってもしかして、碁をやったことがあるの?」
碁石を指先で回しながら盤上に打ち下ろす仕草。あれはちょっと物真似してみようと思って簡単に出来るようなものではない。
「あ? あぁ。つうか、俺の世代で碁を知らねぇ奴って、あんまりいねぇと思うぜ」
サイトウはまた、くるっ、パチッ! と石を打つ仕草をしてみせた。
「俺がガキの頃、“ピカリンの碁”っつう囲碁漫画がすぅーげぇ流行ってて、そんで猫も杓子も囲碁囲碁囲碁の、空前の囲碁ブームだったの。何を隠そう、俺とマサユキが初めて出会ったのも囲碁教室だ」
「えぇー! それってマサユキも碁が打てるってこと!? うわーぁ!」
思わず前のめりになったはな六だが、サイトウは渋い顔つきになって、顔の前で手をひらひらと振った。
「悪ぃことは言わねぇから、アイツの前で碁の話は止めな。アイツ、碁がすっげー嫌いだから」
「えぇ……そうなの……?」
「おぉ。オメェのことを頑なに“はな六”って呼ばねぇのも、たぶんそのせいだ。"花六”っちゃ、“六目中手”のことだろ?」
「うん……」
はな六はしょんぼりと俯いた。マサユキは囲碁が嫌いという事実以上に、そのせいではな六を本名で呼ばないということが、堪えた。“はな六”という名前。それは、はな六が棋士を辞めて、セクサロイドのはな六として新たな人生をスタートさせる際に、前世から持ち出せた、唯一のものなのに。
(おれの全部が、マサユキに否定されたみたいだ……)
「おい、はな六? ……はな六ちゃん? おーい、はな六ちゃーん?」
気が付くと、サイトウがはな六の顔を懸命に覗き込んでいた。
「おいおい、何泣いてんだよぉ」
「な、泣いてなんかいないよ」
はな六はずずっと鼻をすすり上げた。
「泣いてんじゃねぇか」
サイトウの熱い親指の腹が、はな六の下瞼を擦った。
「なんだよ、マサユキに嫌われてると思ったのか? ケケケ、アイツは図体はでけぇがメンタルは小さくて細けぇんだよ。いまだに母ちゃんから碁を無理矢理習わされたことを引き摺ってらぁ。なぁ、はな六。そんなケツの穴のちっちぇえ野郎より、心の広い俺様にしときな。碁への未練が断ち切れねぇ上にド助平なオメェでも、俺様ならガッツリ受けとめてやれんぜ」
サイトウははな六の肩を掴んで抱き寄せたが、
「え、やだよ。おれはマサユキがいい」
はな六は頬を膨らませ、下唇を突き出した。
「この、ツンデレさんめぇ」
サイトウははな六の頬にキスをし、背をワシワシと撫でた。
「そうだ、オメェ、クリスマスプレゼントは何がいい? 何でも好きなもん買ってやるよ」
「えー、そう言われても、欲しいものなんか特に無いけど……」
「じゃあ、新しいオモチャでも、買ってやろうかねぇ。オメェの大好きなオモチャをよォ。グヘヘヘヘ」
「ふえっ!」
以前客から貰ったオモチャを押し入れに隠しておいたのは、どうやらとっくにバレていたらしい。身体がシュウッと熱くなる。
「グヘヘ、やっぱりマルヤマタウンに寄るコースかな?」
「や、やだよ……ふつうに家に帰ろ……」
「クケケケケ、わかったよ」
サイトウははな六の身体を引っ張り上げ、肩を抱いて半ば引き摺るようにして歩き始めた。
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