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○頼りになる人。

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「もしかして、お兄さんがよく僕に言う番って、そういう意味なんですか?」
 知玄とものりィ!? びっくりし過ぎて言葉が出ねぇ。犬達にかまけて、すっかり油断してた。
「お兄さん、僕、なんか変なこと言いました?」
 いやお前、間違ってねえよ。そうだよ、俺がΩでお前がαで、俺らは去年の春、実の兄弟同士なのに、うっかり番になっちゃったんだよ。なんて説明出来る心境ではなく、俺は震える唇を無理と動かし、やっとのことで言葉を搾り出した。
「いや、言ってねぇけど……」
 すると知玄はホッとした様子で「なんだぁ」と言った。
「やっぱりお兄さん、僕達のことをαとΩの番みたいに特別な関係だって言ってくれてたんですね! うふふ、なんか嬉しいなぁー」
 冗談だろ。そこまで解っといて、まさにお前がαで俺がΩだってことに、気付いてねえのかよ。マジかぁー。でもいいか。気付かないなら気付かないで。知玄には一生、教える気はねぇし。
 真実を話したところで、知玄は困惑するだけだ。何しろ俺だって、自分が抱えている問題を一人で何とか出来るとは思っていない。誰かの助けが必要だ。だが、それは知玄じゃない。
 ここしばらく考えた末、俺は思った。頼りになる人……それは親父だ。他に考えられない。これまでずっと反発してきた身で、今更頼るとか甘えるとか、どの面さげてと自分でも思う。だが、親父だったら、俺がちゃんと話せばきっと駄目だとは言わないはずだ。俺の意地やプライド……そんなものよりも大事な、守らなければならない者の為に、恥なんかかなぐり捨てて、頭を下げるしかない。
 だがもし、俺が知らないだけで、親父にΩに対する悪感情があったら?
 その時はその時と、腹を括るしかないのか。
 急に北風が冷たい。犬達は充分歩いたし、二匹ともちゃんとウンコした。さて、そろそろぇるか。

 帰ったら事務所に誓二せいじさんがいて、親父と話していた。なんか嫌な予感がする。俺が事務所に入ると、親父は便所だといって入れ替りに出ていった。
「よぅ、アキ」
 誓二さんはソファから立ち、両手を広げて俺に近付いてきた。後退った俺の肩に、誓二さんは素早く腕を回す。
「何しに来たの」
 誓二さんは俺の質問には答えずに、耳許に囁いた。
「急ぎで引っ越しの手配を済ませた。一緒に暮らそう」
 俺は誓二さんの腕を振りほどいた。
「まさか、俺がΩだって、親父にバラしてないよな?」
「これから言うところだった。本家の養父じいさんにはもう話したよ。元々、俺に跡目を継がせる気だったから良いってさ。アキが俺の子を産んでくれれば、井田の血筋も絶えないし」
 カッとなって気が付いたらブッ飛ばしていたし、俺を見上げてくる顔に更にムカついて鳩尾に足をめり込ませていた。喚き散らす俺を、親父と知玄が二人がかりで取り押さえた。
 親父からの平手打ちを一発食らった後、俺は知玄の手で事務所から土間に引きずり出された。親父は誓二さんの方に向かった。
 結局、誓二さんは親父に何も話さなかったらしい。
 俺は夕飯も食わず、薬を飲んで、さっさと布団に潜り込んだ。単純に眠いし、暴れ疲れた。知玄は来ない。もう二度と、俺の隣には来ないかも。
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