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○全然記憶にない!
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気付いたら布団の中にいて、後ろから抱きかかえられていた。まるで女子みたいに。臭いからして、ここは俺の寝床らしいが、一体、何が起きたんだ?
肩の上にのし掛かる腕が重い。振り落とそうと身動ぎしたら、
「お兄さん?」
寝ぼけ声で知玄が言った。布団からはみ出た肩を、毛布ですっぽりくるまれる。抱き寄せられて、知玄の胸に顔が埋まる。頬に、確かな鼓動を感じる。ほとんど寝息に近い呼吸が聴こえてくる。
Ωとしてαの胸に抱かれている感じ。昔はそういうの、くっそムカつくと思っていたのに、怠いからかすごく心地いいし、落ち着く。
背中を、知玄のでかくて温かい手が擦る。
「お兄さん、寒くないですか」
「うん」
「どこも、痛くないですか」
「ない」
「そう、よかった……」
知玄の声はまた寝息に戻っていく。
や、でも。
布団の中に冷たい空気が入らないよう、そっと抜け出す。知玄の身体を跨ぎ越して、床に足をつく。今何時だ? 室内は暗く、カーテンの隙間から見える窓の外はもっと暗かった。身体がべたべたするから、シャワーを浴びに一階へと降りた。
「アキちゃん、ほら、朝だよ! 起きてっ」
「うるせぇなぁ……日曜の朝からよぉ」
「何言ってるの! 今日は二十一日、月曜日だよ」
「なにっ!?」
茶の間に入ると、知玄は既に着替えを済ませ、炬燵でテレビを観ながら朝飯を食っていた。こっちに振り返り、爽やかな笑顔で俺を見上げる。
「おはようございます、お兄さん」
「ん……おはよ……」
奇妙なくらいいつも通りだ。
なぎさの結婚式は土曜の午後で、俺は二次会の後に三次会にも出たのか、夜遅くに帰ってくると、そこからずっと、今朝まで眠りこけていたらしい。途中、寝ぼけたまま便所に行ったりシャワーを浴びたりしたらしいものの、合計三十時間近く眠ったようだ。
あー、損した気分。どうせ土曜の夜は呑んで遊ぶだろうし、日曜の朝は二日酔いでぐだぐだと過ごすと予め決まっていたが、意識があるのとないのとでは大違い。昼までベッドの中でのんべんだらりと過ごす至福を味わえなかったとは。
「なぎさちゃんの写真、撮ってきた?」
「撮ってねぇよ」
「二次会どうだった? 誰かいい子は見つかった?」
「うるせぇ」
お袋のうざい話をいなしながら飯を食っていると、一足先に食い終えた知玄は、まだ時間があるからレポートでも書くといって、自分の部屋に戻っていった。
外は週末の悪天候が嘘のような冬晴れだった。いつものように町中に生コン車を走らせる。どこにも雪が残っていない。あーあ、あんなに積もったのは久しぶりだったんに。雪だるまとか、作ってみたかったよな。
それにしてもまじ、二次会の途中辺りからの記憶が全然ない。重大なことを忘れている気がするし、知玄の態度に、うっすらと、よそよそしさを感じる。もしかして、酔っ払って帰ってきた時の俺は、知玄の前で大変な醜態を晒したんじゃ……。
気になって、一日中悶々と過ごしてしまった。知玄は三時頃に大学から帰ってきた。
「なぁ、知玄。一昨日の夜、俺、なんかした?」
「いいえ、別に何も」
力なく笑う知玄の表情が、俺が何か大変なやらかしをしちゃったことを、物語っている。
肩の上にのし掛かる腕が重い。振り落とそうと身動ぎしたら、
「お兄さん?」
寝ぼけ声で知玄が言った。布団からはみ出た肩を、毛布ですっぽりくるまれる。抱き寄せられて、知玄の胸に顔が埋まる。頬に、確かな鼓動を感じる。ほとんど寝息に近い呼吸が聴こえてくる。
Ωとしてαの胸に抱かれている感じ。昔はそういうの、くっそムカつくと思っていたのに、怠いからかすごく心地いいし、落ち着く。
背中を、知玄のでかくて温かい手が擦る。
「お兄さん、寒くないですか」
「うん」
「どこも、痛くないですか」
「ない」
「そう、よかった……」
知玄の声はまた寝息に戻っていく。
や、でも。
布団の中に冷たい空気が入らないよう、そっと抜け出す。知玄の身体を跨ぎ越して、床に足をつく。今何時だ? 室内は暗く、カーテンの隙間から見える窓の外はもっと暗かった。身体がべたべたするから、シャワーを浴びに一階へと降りた。
「アキちゃん、ほら、朝だよ! 起きてっ」
「うるせぇなぁ……日曜の朝からよぉ」
「何言ってるの! 今日は二十一日、月曜日だよ」
「なにっ!?」
茶の間に入ると、知玄は既に着替えを済ませ、炬燵でテレビを観ながら朝飯を食っていた。こっちに振り返り、爽やかな笑顔で俺を見上げる。
「おはようございます、お兄さん」
「ん……おはよ……」
奇妙なくらいいつも通りだ。
なぎさの結婚式は土曜の午後で、俺は二次会の後に三次会にも出たのか、夜遅くに帰ってくると、そこからずっと、今朝まで眠りこけていたらしい。途中、寝ぼけたまま便所に行ったりシャワーを浴びたりしたらしいものの、合計三十時間近く眠ったようだ。
あー、損した気分。どうせ土曜の夜は呑んで遊ぶだろうし、日曜の朝は二日酔いでぐだぐだと過ごすと予め決まっていたが、意識があるのとないのとでは大違い。昼までベッドの中でのんべんだらりと過ごす至福を味わえなかったとは。
「なぎさちゃんの写真、撮ってきた?」
「撮ってねぇよ」
「二次会どうだった? 誰かいい子は見つかった?」
「うるせぇ」
お袋のうざい話をいなしながら飯を食っていると、一足先に食い終えた知玄は、まだ時間があるからレポートでも書くといって、自分の部屋に戻っていった。
外は週末の悪天候が嘘のような冬晴れだった。いつものように町中に生コン車を走らせる。どこにも雪が残っていない。あーあ、あんなに積もったのは久しぶりだったんに。雪だるまとか、作ってみたかったよな。
それにしてもまじ、二次会の途中辺りからの記憶が全然ない。重大なことを忘れている気がするし、知玄の態度に、うっすらと、よそよそしさを感じる。もしかして、酔っ払って帰ってきた時の俺は、知玄の前で大変な醜態を晒したんじゃ……。
気になって、一日中悶々と過ごしてしまった。知玄は三時頃に大学から帰ってきた。
「なぁ、知玄。一昨日の夜、俺、なんかした?」
「いいえ、別に何も」
力なく笑う知玄の表情が、俺が何か大変なやらかしをしちゃったことを、物語っている。
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