灰色のエッセイ

路上でボコボコな話

　これは、私の知り合いが実際に体験した話です。当人から聞いた話をもとに書いております。



　三十年近く前の話らしいのですが、アッチ（もちろん仮名です）は繁華街を歩いていました。
　途中、数人のチンピラと揉めました。原因は何なのかよくわからないのですが、このアッチという人物も我が強く引かないタイプでして、それが発端だったのではないかと思います。ただ、最初は三人くらいかと思っていたら、途中から相手方の人数が増えてきた……みたいなことを言っていたのも覚えています。
　て、アッチは数人がかりで袋叩きにされました。相手の方が数が多いので、これは仕方ありません。
　場所は某繁華街であり、人通りは多かったようです。にもかかわらず、道行く人は誰も助けてくれなかったとか。まあ、これも仕方ないですね。下手に止めに入ろうものなら、今度は自分が標的になるかもしれません。喧嘩を止めようとして「お前、関係ねえだろうが！」とボコられるケースは幾らでもありますからね。
　さて、アッチをボコボコにした後、チンピラは引き上げたて行きました。
　その時です。サラリーマン風の中年の人が駆け寄って来ました。アッチに向かい、こう言ったそうです。

「今、警察と救急車を呼んだから……本当は止めに入りたかったけど、怖くて行けなかった。本当にごめん」

　サラリーマンは、何度も頭を下げ謝ってきたそうです。アッチは、申し訳ない気持ちになったと言っておりました。このサラリーマンのような人も、世の中にはいるのですよね。言うまでもなく、この人が責任を感じる必要は全くありません。しかし、こういうタイプは責任を感じてしまうのですよね……結果、しなくていい苦労を背負い込んだりします。ただ、こういう人にこそ幸あれと願ってしまいますね。
　今ならスマホであっという間に通報できますが、当時はガラケーすらあまり普及していなかったそうですから……通報も一苦労だったのですね。