灰色のエッセイ

板倉恭司

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ヤバい精神状態の話

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 皆さんは、『筋肉少女帯』というバンドをご存知でしょうか。ボーカルの大槻ケンヂさんは作家としての顔も持っており、一部ではマニアックな人気を誇っております。
 この筋肉少女帯が、初期の頃にリリースしていた曲の歌詞なんですが……まあ暗いものばかりなんです。戦争から帰ってきて、頭がおかしくなってしまった男。世の中を憎み爆弾を仕掛ける少年。世界を壊せと電波を発するピエロなどなど、とにかく一般人とはかけ離れた不満分子たちが破滅していく様が描かれているんですよ。
 若い時の私は、こうした曲に自らを重ね合わせていましたね。少年の気持ちを代弁しているミュージシャンというと、故・尾崎豊さんが有名ですが、私はそちらには今ひとつハマりませんでした。



 さて、ラノベやアニメや映画などを観ていると……平凡な人生を送っていた少年や青年が、美少女と出会い悪の秘密結社と戦う羽目になったり、あるいは政府の秘密機関から追われることになったりします。
 言うまでもなく、この手の作品にリアリティーを追求し過ぎるのは野暮というものでしょう。ただ今回は、どのような精神の持ち主ならば、このような状況で戦い抜けるのだろうか……ということを、私なりの視点から真面目に考察してみたいと思います。なお、私は軍人でも精神科医でもありません。ちょっとチンピラやヤク中なんかと付き合いがあっただけの一般人です。したがって「あいつ、適当なこと書いてるな」というスタンスで読んでいただけると幸いですね。



 いきなりですが、普通の高校生が美少女から異能力を授けられ、悪の秘密結社の手先である傭兵たちと交戦したとしましょう。
 はっきり言って、プロの傭兵には勝てないと思います。まあ、手をかざしただけで核爆発を起こせるような破壊力ある異能ならともかく、目からビームを発射したり手から火の玉を打ち出せたりする程度では、まず瞬殺されるでしょうね。
 言うまでもなく、普通の高校生は……ガチのヤバい喧嘩などしたことがありません。まして殺し合いのような状況ともなれば、精神面から使い物にならなくなるでしょう。それに対し、戦場という修羅場を潜ってきた傭兵は人殺しに躊躇がありません。結局、リアルな殺し合いでは修羅場を潜ってきた数がものを言うでしょう。普通の高校生では、血を見た瞬間に戦意喪失か……そこまでいかなくとも、途中で神経が持たなくなるでしょうね。

 では、普通の高校生ではなくヤンキーだったとしたらどうでしょうか。残念ですが、これまた秒殺でしょうね。
 基本的に、ヤンキーという人種は暴力慣れはしています。が、その暴力とは一方的なものです。弱いと分かっている者に向けられた一方的な暴力。あるいは友人たちとの、群衆心理に支配された「その場のノリ」でやらかすリンチ殺人のような犯罪がせいぜいです。自分を本気で殺すつもりで向かって来るような者との戦いでは、まるで役に立たないでしょう。
 ただ例外もいます。ごくまれにですが、ヤンキーの中には本当に頭のネジが飛んでしまったような者もいます。ケンカで相手を叩きのめした後、土下座している相手をなおも角材で殴りつけたり、ヘマをした後輩にジッポーオイルかけて火を点けたり……まあ、こうした連中は、ヤンキーよりサイコパスの方に分類した方がいいのかもしれませんが。



 これは、あくまでも私の個人的主観によるものであって、特定の作品をけなすつもりはありませんが…実際に悪の秘密結社と戦うには、ごく普通の高校生では不可能でしょう。
 普通の高校生が、突然に特殊能力を得る……アニメやラノベではよくある設定ではありますが、普通の人生を歩んで来た少年には、非日常の極地ともいえる戦いの際には普通の対応しか出来ません。
 では、どういった少年ならば戦えるでしょうか……あくまで私の考えですが、普段は目立たず友だちもいない。孤独で成績も悪く、しかし過激な思想を胸に秘めている。つまりは、とんでもない犯罪をやらかしそうな少年ですね。
 ほとんどの場合、あっと驚くような犯罪をやらかす人間は……普段、おとなしく目立たないタイプが多いと聞きます。日頃より世の中に対する不満を溜め込んでおり、かつ常にひとりで行動しているため孤独には強いです。いや、強いというと語弊がありますが……少なくともヤンキーと違い、単独で事件を起こせるタイプですね。
 こうした人間は、いとも簡単に法や常識などを飛び越えられる怖さがあります。多数派や一般常識など最初から信用していないため、そこからはみ出ることなど何とも思いません。ちょうど、冒頭にて紹介した筋肉少女帯の歌に登場する不満分子のようなタイプですね。
 世間の常識や尺度から、単独であっさりと逸脱できる精神……これこそ、非日常の極致とも言える戦いの場において、もっとも重要ではないでしょうか。それが出来ないからこそ、普通の高校生は普通の人生を歩んでいるのです。普通の高校生は、世の中に何の不満も感じていません。
 それに対し、前述のような少年たちは世の中に不満を持っています。不満どころか、この世を憎んでいる者もいます。下手をすると、自爆テロまでしかねない者もいるでしょう。自らの内に潜む巨大な闇を解放させる場を求めつつも、それが出来ないもどかしさを常に抱えています。
 そんな少年なら、生きるか死ぬかの修羅場の中で……体内に蠢く殺意や破壊衝動を解放し生き延びることが出来るかもしれない、と私は考えています。少なくとも、普通の高校生よりは確率が高いのではないかと……。



 蛇足かもしれませんが、ロバート・デニーロ主演の『タクシー・ドライバー』という映画があります。この映画の主人公トラビスは……タイプは違いますが、その基本的な精神構造はまさにここで書いた少年と同じなんですよね。世の中に対する不満を抱え、たったひとりで行動を起こす……未見の人は、一度観てもよいかと思います。
 蛇足ついでに、もうひとつ。数多くの信者がいる某ロボットアニメでは、普通の少年である主人公が初めてロボットに乗り込み戦う時「逃げちゃダメだ」というセリフを連呼していましたが……実際には、このセリフは逆効果となるそうです。「逃げちゃダメだ」と口にすることにより、かえって逃げ出すことを強く意識してしまうとか。
 むしろ「てめえを殺す絶対に殺す」というような能動的なセリフの方が、修羅場においては効果的だと聞きました。また大声で叫べば、意図的に自身を興奮状態に追い込むことも出来て、さらに効果が上がるそうです。万が一、暴漢に襲われ反撃する時などに試してみて下さい。まあ一番の護身は、逃げることですが。





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