灰色のエッセイ

板倉恭司

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ヤンキーの会話についての話

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 ヤンキー同士の会話というのは、基本的には呆れるほど中身がありません。大概は「あれ凄くね?」「あいつ調子こいてるよな」みたいな言葉を交わしています。あとは、デタラメの武勇伝を語るくらいでしょうか。
 ただ、その会話を黙って聞いていると、なかなか面白いものです。かつて、とある漫才コンビのネタを「あんなのはチンピラの立ち話だ」と酷評した大御所の芸人がいたそうですが、確かにチンピラやヤンキー同士の会話には、笑える部分がありますね。
 例えば、ヤンキーAが「俺のいた学校はよお、教室でシャブ射ってたり廊下をバイクで走ったりしてたぜ」などというような話をしたとします。横で聞いてる私は「こいつ、また嘘ついてるよ」などと思うのですが……ヤンキーBは「あー、わかるわかる。あるあるだよな」なとと言って、明らかな嘘に話を合わせるのです。
 これは何故かと言いますと、ヤンキーBには自身がワルであることを証明したい、という思いがあります。したがって、ヤンキーAの話すデマに対し「そんなの大したことじゃねえよ。ワルな俺の地元じゃ、よくある話さ」という反応をして見せるのです。「その話、一般人は信じねえよな。ワル同士でないと分からないぜ」とでも言いたげな表情で、嘘の話に同調する……これは、なかなかにシュールな光景ですね。
 さらに、時には架空の人物について語り合うこともあります。ヤンキーAが「俺の地元には、○○くんって先輩がいてよお、一人で三十人をぶっ飛ばしたんだぜ。超怖いんだよ」などと言い出すと「おう、俺も噂は聞いたことあるよ。超強いらしいじゃん」などと同調するヤンキーBが現れます。これは「他の場所の情報も知ってる俺って凄いでしょ」というアピールなわけですね。
 こうして二人は、いもしない伝説の不良について熱く語り合ったりしてしまうのです。
 仮に私がヤンキーを無作為に十人ほど集め「昔、東京に板倉恭司って名の伝説の喧嘩師がいたらしいよ」などと言ったとしましょう。ひとりくらいは「ああ、噂は聞いてるよ」みたいなことを言い出すでしょうね。



 上に挙げた話は、ただのアホな笑い話ですみます。しかし、ヤンキーのやらかす犯罪の九割くらいは、こうした他愛のない会話から端を発しているように思います。

「暇だな……」

 チンピラの一人が、溜まり場でふと洩らした一言。その言葉がきっかけで、犯罪が始まるケースは少なくないのです。ヤンキーやチンピラといった人種は、基本的に暇を潰す手段を知りません。ニュース番組で犯罪の報道がされる時に「犯行の動機は、遊ぶ金が欲しかったためと供述しています」などというアナウンサーの言葉は、これまでに何度も聞いたことがありますよね。
 つまり、暇を潰したいから金が欲しい。金が欲しいから奪う……という極めて短絡的な思考から、こうした連中は犯罪を起こします。プロの犯罪者のように綿密な計画を立てたり、面倒な下準備をしたりなどしません。
 そう、彼らの犯行は……大抵の場合、溜まり場での誰かの発した何気ない一言が発端になります。「暇だな……」の一言がきっかけで、強盗や窃盗をしでかした少年たちは少なくありません。
 さらには、溜まり場で仲間の一人が発した「あいつ、最近ちょっと調子に乗ってるよなあ」というような一言がきっかけで、リンチ殺人に発展するケースまであります。

「あいつ、こないだ○○の悪口言ってたぜ」

「そういや、この前みんなで飲みに行った時、あいつだけ金払わないで帰ったらしいぞ」

「あいつ、どうしようもねえなあ」


 などなど。しかし共通の知り合いに対する、この程度の陰口は、どこの世界にもある話ではあります。普通なら、そこで終わりでしょう。
 ところが、ヤンキーの場合「だったら、あいつヤッちまおうぜ」などと言い出す奴が、どこからともなく現れます。その一言がきっかけとなり「じゃあ、俺があいつを呼び出すよ」「そういや、○○もあいつに金貸してたけど返って来ないって言ってたな。○○も呼ぶよ」などと言い出す奴も、どこからともなく現れるのです。
 かくして、溜まり場はリンチの計画の場となってしまいます。しかも、たちが悪いことに……彼らは自分たちこそが正義だと思っています。彼らなりの勝手なルールの中で、そこから逸脱した者を悪と決めつけているケースもあります。
 しかも、正義感というのは暴走しがちです。デモ隊が暴徒化するケースは少なくないですからね。
 さらにヤンキーの場合、リンチの際に誰かが止めに入ろうとすると、「お前ビビってんのかよ」という言葉が飛んできます。いったんリンチが始まる、もしくは始まる流れになってしまったら、個人の力で止めるのは不可能でしょう。これは、他の犯罪についても同じです。

 万が一、こうした状況に巻き込まれてしまったら……正直、私には対処の仕方が分かりません。まずはドサクサに紛れ、その場から離れることでしょうか。そして警察に通報するのも一つの手かと。実際リンチというのは、簡単に殺人へと発展します。集団というのは、いったん火が付いてしまうと、簡単には歯止めがかかりません。相手が死んでから、ようやく我に返るケースもあるのです。
 ただ、警察に通報したのが誰なのか、意外と簡単に判別されてしまうこともあります。その場合、「あの野郎、チクりやがって」と、通報した人間が標的となることもあるのです。結局は、そうした集団とは最初から付き合わないか、あるいは集団の中で一目置かれる存在になり「あいつボコッてやろうかと思ったけど、○○が止めるんじゃしょうがねえ。やめとくか」という空気を作り出すか、のどちらかでしょうか。




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