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暴力的な取り調べの話
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皆さんは、警察の取り調べを受けたことがあるでしょうか。
はい、と答える人の方が少ないとは思います。私も一度受けただけです。当然ながら暴行されてはいません。実際、今の警察の取り調べは暴力を振るってはいけないことになっております。こんなことは、私がいちいち説明するまでもなく、皆さん御存知でしょう。
私も、そう思っていましたが……実は、刑事が暴力を振るうケースもあるそうです。なお、今回の話は刑務所に服役した経験のある知り合いから聞いたものです。なので、信じる信じないはあなた次第です。
知人の森田さん(仮名です)は、覚醒剤使用と所持の罪で逮捕されました。彼は一回目ですので、執行猶予はほぼ確定です。あとは裁判を待つだけ、という状態でした。
留置場の中で、森田さんは寝っ転がりながら漫画『ろくでなしブルース』なんかを読んでいたそうです。すると、いきなり留置場の係の警官が、森田さんを呼びに来ました。
「調べだ。出ろ」
この時、森田さんの事件に関する取り調べは既に終わっています。森田さんは起訴され、後は裁判を待つだけ……これ以上、調べることなどありません。また、森田さんは他には悪さをした覚えもないため、再逮捕の可能性もありません。
つまり、これは俗に面倒見と呼ばれる取り調べなのです。何せ留置場は退屈ですから、取り調べと称して刑事が容疑者を連れ出し、取り調べ室に連れて行く、ということがよくあるそうです。
取り調べ室で、刑事は容疑者にタバコを吸わせたり缶コーヒーを飲ませたり、お菓子などを食べさせたりします。で刑事は「なあ、何かいい話はないのかよ?」などと言いながら、情報を聞き出そうとするらしいです。
この時も、森田さんは刑事に呼ばれて取り調べ室に行きました。そして、タバコと缶コーラを出されたそうです。留置場では基本的に、決められたものしか飲み食い出来ないので、たとえ缶コーラと言えどご馳走になるとか。
ちなみに、取り調べ室というと刑事ドラマに登場するような仰々しいものを連想されるかもしれませんが……森田さんの入れられた取り調べ室は、ただの狭い部屋だったそうです。マジックミラーらしきものはなく、壁に囲まれた部屋だったとか。しかし、心理的な圧迫感は強烈だったそうです。
さて、森田さんはタバコを吸いながら、刑事と他愛ない話をしていました。すると隣の取り調べ室から、凄い声が聞こえてきたのです。
「おい、オラァ! てめえ──」
後の言葉は、よく聞き取れなかったそうです。とにかく、罵声を浴びせているのが明らかな声が聞こえてきました。
おいおい、と思いながら目の前にいる刑事の方を見ると、何事も無かったかのような表情です。森田さんは唖然としていました。
しかし、その罵声はまだ始まりに過ぎなかったのです。
次の瞬間には、何かがぶつかるような音、さらには何かが倒れるような音が聞こえてきました。明らかに、暴力を振るっているような音です。
呆然となりながら、それを聞いている森田さん。にもかかわらず、彼の前にいる刑事は平然としています。むしろ、苦笑いしているくらいです。
ですが、それはまだ序の口でした。その後、さらにとんでもない展開が待っていたのです。
ややあって、隣の部屋から聞こえてきたのは、容疑者らしき男の、涙声の供述でした。しかし、微かに聞こえてくるその言葉は、外国語だったのです。恐らく中国語と思われる言葉で、何やら話しています。
直後、通訳とおぼしき女性の日本語が聞こえてきました。何を言っているのかはよく聞こえなかったそうですが、確実に日本語だったそうです。
しかも、その通訳の話を聞いた刑事は──
「この野郎! てめえ──」
怒鳴ったかと思うと、またしても暴力を振るっているとおぼしき音。それはしばらく続いたそうです。
「隣、何をやってんですか?」
森田さんは声を潜め、目の前の刑事に尋ねました。
「ああ、あれな。隣は今、中国人の強盗団の取り調べ中なんだよ。とんでもねえ奴らでな、人も何人か死んでるみたいだぞ」
ひょうひょうとした態度で、刑事は答えました。森田さんはなおも尋ねます。
「あんなことして、大丈夫なんですか? 後々、問題になったりしないんですか?」
すると、刑事は声を潜めながら語り始めました。
あの中国人たちは、国選弁護人しか雇うことが出来ない。国選弁護士は、基本的に面倒なことには関わらないし、ましてや中国人は日本の法律など知らない者が多い。暴力的な取り調べをしたとしても、何の問題もない。
「でも、通訳がいる前ですよね? 通訳が訴えたりしないんですか?」
この森田さんの問いに対し、刑事はこう答えたそうです。
あいつのいた強盗団は、同じ中国人の不法就労者(仕事そのものはまともなものです)を襲って金を奪っていた。しかも、やり方がえげつない。奴らの強盗団はターゲットにしている中国人を拉致し、縛り上げて銀行カードを奪う。その後、仲間の一人がカードで金を引き出すが……もし番号が違っていた場合、死なない程度にナイフであちこちを刺し、無理やり吐かせていた。しかも被害者は不法就労者だから、訴えることも出来ない。真面目に働いていた同国人から奪い取るようなクズが暴力を振るわれたからって、通訳もいちいち訴えたりはしない。そもそも、通訳も警察とは繋がっている。
仮に、この話が本当だとしたら、一歩間違えると国際問題にも発展しかねません……それはさすがに大げさかもしれませんが。
それはともかく、異国の地で真面目に働いている自分の同国人を襲い傷つけ、有り金を残らず奪い、時には命までも奪う極悪な強盗団。一方、そんな連中に暴力を振るい自白を強要する警察。私ごときには何とも言えません。どちらが間違っている、とも言えませんね。
ちなみに、この事件(?)があったのは一九九九年の年末、都内にある某警察署において……だったそうです。もう一度書きますが、信じる信じないはあなた次第です。
はい、と答える人の方が少ないとは思います。私も一度受けただけです。当然ながら暴行されてはいません。実際、今の警察の取り調べは暴力を振るってはいけないことになっております。こんなことは、私がいちいち説明するまでもなく、皆さん御存知でしょう。
私も、そう思っていましたが……実は、刑事が暴力を振るうケースもあるそうです。なお、今回の話は刑務所に服役した経験のある知り合いから聞いたものです。なので、信じる信じないはあなた次第です。
知人の森田さん(仮名です)は、覚醒剤使用と所持の罪で逮捕されました。彼は一回目ですので、執行猶予はほぼ確定です。あとは裁判を待つだけ、という状態でした。
留置場の中で、森田さんは寝っ転がりながら漫画『ろくでなしブルース』なんかを読んでいたそうです。すると、いきなり留置場の係の警官が、森田さんを呼びに来ました。
「調べだ。出ろ」
この時、森田さんの事件に関する取り調べは既に終わっています。森田さんは起訴され、後は裁判を待つだけ……これ以上、調べることなどありません。また、森田さんは他には悪さをした覚えもないため、再逮捕の可能性もありません。
つまり、これは俗に面倒見と呼ばれる取り調べなのです。何せ留置場は退屈ですから、取り調べと称して刑事が容疑者を連れ出し、取り調べ室に連れて行く、ということがよくあるそうです。
取り調べ室で、刑事は容疑者にタバコを吸わせたり缶コーヒーを飲ませたり、お菓子などを食べさせたりします。で刑事は「なあ、何かいい話はないのかよ?」などと言いながら、情報を聞き出そうとするらしいです。
この時も、森田さんは刑事に呼ばれて取り調べ室に行きました。そして、タバコと缶コーラを出されたそうです。留置場では基本的に、決められたものしか飲み食い出来ないので、たとえ缶コーラと言えどご馳走になるとか。
ちなみに、取り調べ室というと刑事ドラマに登場するような仰々しいものを連想されるかもしれませんが……森田さんの入れられた取り調べ室は、ただの狭い部屋だったそうです。マジックミラーらしきものはなく、壁に囲まれた部屋だったとか。しかし、心理的な圧迫感は強烈だったそうです。
さて、森田さんはタバコを吸いながら、刑事と他愛ない話をしていました。すると隣の取り調べ室から、凄い声が聞こえてきたのです。
「おい、オラァ! てめえ──」
後の言葉は、よく聞き取れなかったそうです。とにかく、罵声を浴びせているのが明らかな声が聞こえてきました。
おいおい、と思いながら目の前にいる刑事の方を見ると、何事も無かったかのような表情です。森田さんは唖然としていました。
しかし、その罵声はまだ始まりに過ぎなかったのです。
次の瞬間には、何かがぶつかるような音、さらには何かが倒れるような音が聞こえてきました。明らかに、暴力を振るっているような音です。
呆然となりながら、それを聞いている森田さん。にもかかわらず、彼の前にいる刑事は平然としています。むしろ、苦笑いしているくらいです。
ですが、それはまだ序の口でした。その後、さらにとんでもない展開が待っていたのです。
ややあって、隣の部屋から聞こえてきたのは、容疑者らしき男の、涙声の供述でした。しかし、微かに聞こえてくるその言葉は、外国語だったのです。恐らく中国語と思われる言葉で、何やら話しています。
直後、通訳とおぼしき女性の日本語が聞こえてきました。何を言っているのかはよく聞こえなかったそうですが、確実に日本語だったそうです。
しかも、その通訳の話を聞いた刑事は──
「この野郎! てめえ──」
怒鳴ったかと思うと、またしても暴力を振るっているとおぼしき音。それはしばらく続いたそうです。
「隣、何をやってんですか?」
森田さんは声を潜め、目の前の刑事に尋ねました。
「ああ、あれな。隣は今、中国人の強盗団の取り調べ中なんだよ。とんでもねえ奴らでな、人も何人か死んでるみたいだぞ」
ひょうひょうとした態度で、刑事は答えました。森田さんはなおも尋ねます。
「あんなことして、大丈夫なんですか? 後々、問題になったりしないんですか?」
すると、刑事は声を潜めながら語り始めました。
あの中国人たちは、国選弁護人しか雇うことが出来ない。国選弁護士は、基本的に面倒なことには関わらないし、ましてや中国人は日本の法律など知らない者が多い。暴力的な取り調べをしたとしても、何の問題もない。
「でも、通訳がいる前ですよね? 通訳が訴えたりしないんですか?」
この森田さんの問いに対し、刑事はこう答えたそうです。
あいつのいた強盗団は、同じ中国人の不法就労者(仕事そのものはまともなものです)を襲って金を奪っていた。しかも、やり方がえげつない。奴らの強盗団はターゲットにしている中国人を拉致し、縛り上げて銀行カードを奪う。その後、仲間の一人がカードで金を引き出すが……もし番号が違っていた場合、死なない程度にナイフであちこちを刺し、無理やり吐かせていた。しかも被害者は不法就労者だから、訴えることも出来ない。真面目に働いていた同国人から奪い取るようなクズが暴力を振るわれたからって、通訳もいちいち訴えたりはしない。そもそも、通訳も警察とは繋がっている。
仮に、この話が本当だとしたら、一歩間違えると国際問題にも発展しかねません……それはさすがに大げさかもしれませんが。
それはともかく、異国の地で真面目に働いている自分の同国人を襲い傷つけ、有り金を残らず奪い、時には命までも奪う極悪な強盗団。一方、そんな連中に暴力を振るい自白を強要する警察。私ごときには何とも言えません。どちらが間違っている、とも言えませんね。
ちなみに、この事件(?)があったのは一九九九年の年末、都内にある某警察署において……だったそうです。もう一度書きますが、信じる信じないはあなた次第です。
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