灰色のエッセイ

板倉恭司

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ガボンという三流以下の詐欺師の話

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 中学生の時、ガボン(もちろん仮名です)という名の同級生がいました。
 この男は、いわゆるヤンキーです。「弱い奴には強く、強い奴には弱い」という最悪のタイプです。まあ、ヤンキーとは百人中百人がそういう人種なのは間違いない話です。現実のヤンキーが、そういう連中なのはいちいち書かなくても、おわかりのことと思います。
 このガボンですが、私とはほとんど付き合いはありません。お互いの顔と名前を知っている、程度の関係でした。
 やがて、我々は中学校を卒業します。その後は会うことはありませんでした。お互いに違う高校へと進学しましたし、そもそも何ら関係がなかったので。



 それから数年後の、ある日のことでした。私が家でボーッとしていると、いきなりガボンから電話がかかってきたのです。
 私は首を傾げました。そもそも私とガボンは、クラスも違いました。中学校での三年の間に会話をした時間は、トータルで十分あるかないかです。そんな赤の他人といっても過言ではない男から、数年ぶりに電話がかかってきました。どう考えても変ですよね。
 ただ、当時の私はバカな上に暇でした(今もバカですが)。小人閑居して不善を成すという言葉がありますが、バカを暇にさせておくと、本当にろくなことをしないです。

(よう板倉、久しぶりだな。何してんだよ?)

 私に向かい、馴れ馴れしく語りかけてきたガボン。少々イラッとしながらも答えました。

「あ、ああ、久しぶりだな。別に何もしてねえよ」

 一応はそう言いました。しかし内心では、この男がいったい何用で電話を掛けてきたのか訝しんでいました。

(ちょっとさ、お前に頼みたいことがあるんだよ。久しぶりに会わないか?)

「えっ? 何それ?」

 私は嫌な気分になりました。大して仲の良くもない、同じ中学校にいたというだけの関係のガボン。そんな奴と、わざわざ会うほどの用事があるとは思えません。
 しかし、私は会ってしまいました。暇だったから、というのが一番の理由ですね。本当に、バカな人間は暇だと不善しか為さないようです。



 一時間後、ガボンはうちにやって来ました。ちなみに彼の見た目は、髪を肩まで伸ばした海底人ラゴン(ウルトラマンに登場した怪獣)のような風貌です。
 そんなガボンは、うちに来るなりベラベラと語り始めました。

「久しぶりだな、板倉。ところでさ、お前に頼みがあるんだよ」

「へっ? 何?」

「実はさ、ユージの彼女が妊娠したんだよ」

 その言葉を聞き、私は絶句してしまいました。ユージ(こちらも仮名です)は中学の時の同級生で、ケンカはあまり強くないですが独特の雰囲気と喋りの上手さとセンスの良さを兼ね備え、不良たちからも一目置かれていた男です。不良と一般生徒の両方に顔が利き、さらには他校の不良たちにも知り合いが多いという、ちょっと変わったキレ者でした。
 そんなユージとガボンが連絡を取るはずがないのです。
 しかし、ガボンは喋り続けました。

「ユージは今、俺らとつるんでるわけよ。でさあ、あいつが困ってるから、板倉にも協力してもらいたいんだよな。頼むからカンパしてくれよ。一万くらいでいいからさ」

「悪いけど、無理」

 私は断りました。ガボンが嘘をついているのが明白だったからです
 実のところ、ユージは当時アメリカの大学に留学していたのです。当時、私とユージとは個人的に付き合いがあり、連絡を取り合っていました。アメリカにいるユージが、日本にいるガボンとどうやって遊ぶのでしょうか。不可能ですね。
 にもかかわらず、このガボンはぬけぬけと私の前に現れたのです。その面の皮の厚さには、呆れるばかりでした。
 結局、ガボンは私から一円も取れずに退散しました。ユージが留学している件には触れず「金ないから」と言いはったのです。



 それから、半年ほどが経ちました。
 ある日いきなり、グンジ(仮名です)から電話がかかってきました。しかも、ただならぬ気配です。 

「板倉、ガボンから連絡こなかったか?」

「へっ? 連絡つうか、半年くらい前にうちに来たよ。カンパしてくれって言ってきたなあ」

 私がそう答えると、グンジはとんでもないことを言い出したのです。

「今から、ガボン呼び出してシメることになってんだよ。お前も来ねえか?」

「えっ、何で?」

 私は聞き返しました。すると、グンジはいきさつを語りだしたのです。
 彼の話によると、ここ一年ほどの間に、ガボンは中学の同級生だった者たちに電話をかけまくっていました。目的は金集めです。しかも、その時に使った言葉がまた、実にしょうもないものでした。

「ユージの彼女が妊娠したから、カンパしてくれ」

「ゴステロ(仮名です。同級生の間では武闘派で恐れられていました)の後輩が刺されて死んだから、カンパしてくれ」

「マ○シ○ズ(某チーム名です。当時はチーマーの全盛期でした)のイベントやるからカンパしてくれ。ユージやゴステロも参加するから(もちろん二人とも無関係です)」

 こんなセリフを吐き、皆から金を集めていたらしいのです。
 しかし、こんな杜撰な詐欺話が、いつまでも通用するはずがありません。やがて、ガボンの悪事の噂は同級生たちの間に広まることとなり、血の気の多いグンジが主だった被害者を集めたのです。
 そして今日、ファミレスにガボンを呼び出し、皆で問い詰め、金を取り立てよう……という申し合わせになったとか。
 さらに、グンジは私も勧誘してきました。

「板倉、お前も来いよ」

「いや、俺はいいよ」

 私は断りました。金を取られていない私が、その場に同席する理由がなかったからです。



 さらに時は流れて、数年後のことです。私は偶然にも、グンジと町で出会いました。
 で、昔話などをしている間に、ガボンのことを思い出しました。

「そういやあ、前にみんなでガボンを呼び出したじゃん。あれ、どうなったの?」

 私が尋ねると、グンジは顔をしかめました。

「ああ、あれか。あの野郎、本当にとんでもねえバカだったよ」

 グンジの話によれば……皆で適当なことを言い、ガボンをファミレスに呼び出しました。彼が到着すると、皆で責め立てます。

「お前、嘘ついてんじゃねえよ。おい、この始末はどうすんだ?」

 と言われたガボンは、とりあえず金を取ってくる、と言って店を出ました。もちろん、ひとりでは店を出しません。グンジの子分みたいなのが二人、ガボンに付いて行ったそうです。 ところが、三人はいつまで経っても帰って来ません。数時間後、子分二人だけが帰ってきました。

「ごめん、逃げられた」

 ガボンは隙を見て、まんまと逃げたらしいのです。
 しかし、グンジはそれでおとなしく引っ込むような男ではありませんでした。彼は、その場にいた被害者たちを引き連れ……なんと、ガボンの実家に乗り込んだのです。しかも、夜中の二時に。
 当然、ガボンの両親は寝ています。しかし、グンジはブザーを鳴らしまくりました。両親が起きるまで、何度も押し続けたそうです……この時点で、警察に通報されても文句は言えないのですが。
 起きてきた両親に対し、グンジらはガボンのやらかしたことを説明しました。そして、最後にこう言ったそうです。俺らに金を返すか、詐欺で警察に行くか、どっちか選んでください、と。
 すると両親は、皆さんに金を払います、と言ったそうです。
 後日、グンジたちはガボンに払った金を紙に書き出し、両親に渡しました。被害者は総勢で三十人近く(当日こられなかった者もいたそうです)、被害総額は二百万を超えたとか。
 恐ろしいのは、ガボンの両親はそれら全てを支払ったことです。当時、既に高校を卒業していた(まだ二十歳にはなっていなかったですが)息子の作った借金を、全額返済する……私は親になったことがないので、その気持ちは分かりませんが。



 その後、ガボンはヤクザの幹部の娘に手を出し、都内に居られなくなり逃げ出したそうのことです。真偽は怪しい情報ですが……いずれにしても、まともな人生を歩んでいない可能性が高いのは確かでしょうね。





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