灰色のエッセイ

板倉恭司

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留置場と検事調べの話

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 前回も書いた通り、私はヤク中を止めようとして喧嘩になり、挙げ句に取り調べを受け留置場で一泊することとなりました。
 入る前に、まず指紋を取られます。当時は、五本の指に黒いインクのようなものを付けて指紋を取る……という原始的なシステムを用いておりました。ちなみに、足の指の指紋は取っていません。DNAも採取されていません。
 なお、私の友人に蹴りを入れた加害者の方は、私とは別の署の留置場に入れられました。万一、私と加害者とが警察署内で鉢合わせした場合、第二ラウンドが始まってしまう可能性がある……そう判断し、別の署の留置場に入れたようです。この手の事件の場合、よくある話らしいですね。
 さて、初めての留置場は最悪でした。既に夜の十二時近くになっており、消灯時間は過ぎていました。私は、留置場担当の警官の指示通りに雑居房に入れられ、布団を敷いて寝ることとなりました。部屋には、私の他に二名が寝ておりましたが、当然ながら就寝時間のため話すことなど出来ません。
 したがって、そのまま私も就寝となりました。が、当然ながら眠れるはずがありません。なにせ、初めての留置場です。しかも、私は何もしていないのに逮捕されている。不安や怒りといった感情に支配され、一睡もできないまま起床時間を迎えたのです。
 やがて明かりがつき、皆が起きました。その後、朝食の時間になりましたが、これがまたひどい代物でした。白いポリエチレン容器に入ったご飯と、お椀に入った味噌汁、それだけです。一応、ご飯の容器の中には、ふりかけとたくあんが添えられていました。かろうじて味だけは付いている白飯、そんな感じですね。栄養のバランスなど、まるで考えていない炭水化物のみの食事だったのです。
 ちなみに、私が逮捕されたのは都内にある某警察署でした。留置場の食事は、警察署によって違うそうです。金のある警察署だと、もっと豪華なメニューが出てくるのかもしれません。



 さて、朝食が終わりました。すると、私と同房の人が話しかけてきたのです。四十過ぎの中年男でした。

「何やったの?」

「は、はい。公務執行妨害みたいです。友達が変なのに絡まれて、それで喧嘩になって捕まりました」

「ああ、そう。だったら、これから検察に行って検事と話してパイだね」

 パイ? 何のことだろうと思いましたが、あえて聞かずに「は、はあ」と答えました。ちなみに、パイとは釈放のことを意味するスラングだそうです。
 その後、私は東京地検に行くこととなりました。検事調べのためです。が、これがまたひどいものでした。
 まずは、両手首に手錠をかけられ車に乗せられます。刑事ドラマ以外では、道路でたまに見かける警察の護送車です。あれは、最悪の乗り心地ですね。都内では、一台の護送車で複数の警察署を回り、容疑者を乗せていくのです。そのせいで、行くだけでかなりの時間を食います。直接、警察署からパパッと行って、終わったらパパッと帰るようにしてくれればいいものを、なぜこんなシステムなのかわかりません。
 そんなこんなで地検に着いた後も、まあ面倒くさいことだらけです。
 東京地検にて検事調べを待つ容疑者たちは、専用の待合室に入れられます。何もない狭い部屋に、数人の容疑者を詰め込んで木製の椅子に座らせるのですよ。しかも、手錠をかけられた状態でだ。この手錠は、用を足す時以外は外すことを許されません。

 その上、容疑者同士の会話は禁止されています。容疑者は狭い部屋中で硬いベンチに横並びの状態で座り、無言のまま検事から呼ばれるのをじっと待っていなくてはならない。容疑者同士で喋っていたりすると、いかつい職員が怒ります。

「喋るなと言ってんだろうが! わからねえのか!」

 などと罵声を浴びせてくるのですよ。逆らえば、公務執行妨害で罪を増やすこととなります。抗議しても何の得もないので、おとなしくしておいた方が無難です。



 途中、別室にて昼食が出されるが、その内容はコッペパンふたつとイチゴジャムにマーガリンです。食事の間、会話は禁止です。
 しかも、検事調べが終わったからといって、すぐに帰れるわけではありません。その後も、他の者たちの検事調べが終わるまで、硬い椅子に座り狭い部屋の中で待機しなくてはならないのです。

 全員の検事調べが終わり、ようやく帰れるのは午後四時過ぎでしょうか。「新宿署、十名」「十名よし!」「世田谷署、三名」「三名よし!」などというやり取りの後、腰縄を付けられた状態で車に乗せられ、警察署へと帰るのです。
 ちなみに私は、プロ麻雀士の土田浩翔さん(わからない方は調べてみてください)に似た検事から取り調べを受け「この程度で済んで、よかったと思わなきゃダメだよ」と言われましたが、どうにか不起訴で済ませてもらいました。


  




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