灰色のエッセイ

まずは自己紹介代わりの話

　どうも、私は板倉恭司という名前で、いろいろ書かせていただいているオッサンです。今回、アルファポリスにおける初エッセイにトライしてみることとなりました。よろしくお願いします。
　そんなわけで、初回は自己紹介がてら、古い昔に遭遇した事件から始めます。
　もう十年以上前のことです。当時の私はニートで、夜中に友人とふたりして鉄橋の下にいました。駅から二十メートルほど離れた場所です。そこは環七通りの近くでして、車の通りも比較的多い道路でした。
　友人は地べたに座ったまま携帯電話をいじっており、私はその横で立っていました。すると向こうから、怪しい人物が近づいて来るのが見えました。
　身長は百六十センチ前後で体重も六十キロあるかないか。体格的には小柄と言っても差し支えない男です。髪は短めで、無精髭が目立ちます。しかし、それよりも注目すべきは、遠目からもはっきりわかる尋常ではない目付きです。そして何やらブツブツ呟く声も聞こえます。携帯電話はなく、自分にしか見えない何者かと話している雰囲気……これは恐らくヤク中だろう、と判断しました。
　ヤク中はブツブツ呟きながら、真っ直ぐこちらに歩いて来ます。ヤバいと思った私は、

「おい……おい！」

　と友人に声をかけました。ところが、友人は携帯に夢中です。そうこうしている間に、ヤク中はどんどん近づいて来ました。びびった私は、友人の頭を小突きました。が、これは失敗でした。

「んだよ！」

　と言いながら、友人は顔を上げました。機嫌を悪くしたようです。その瞬間、彼はヤク中と目が合ってしまいました。
　次の瞬間、とんでもないことが起きたのです。

「この野郎！」

　ヤク中はわめきながら、しゃがんでいる友人の顔に蹴りを入れました。いわゆるサッカーボールキックです。彼は吹っ飛び、後ろの壁に後頭部をしたたかに打ちました。その時、私は考えるより先に動いていました。

「何すんですか！」

　ヤク中に叫び、彼の前に立ちました。とにかく、まずはこいつを止めようと。すると、そのヤク中は私を睨みつけ──

「お前ら、みんなグルなんだろ！」

　今でもはっきり覚えていますが、そんな事をわめきながら掴みかかってきたのです。私も無我夢中でして、つかみ合いになりました。その後の状況を一言で言うなら「迫力のない高山VSドン・フライ」（わからない人は調べてみてください）といったところでしょうか。お互いに襟首を掴んでの殴りあいです。それも、ペチペチという情けない音を出すド突き合いでした。
　ただ、私は空手の経験がありました。当時は不健康な生活をしていましたが、それでも七十キロはありました。体格的にはヤク中を上回っていたはずです。にも関わらず、ヤク中は一歩も引かずに私と互角に殴りあいました。いや、正直言うなら、殴りあいが続いていたら負けたのは私でしょう。ヤク中は私のパンチを食らっても怯まず、恐ろしい形相で殴り返してきたのですから……その状態があと数分続いていたら、私はボコボコにされていたかもしれません。
　そうならなかった理由、それは乱入してきた警官でした。数人の警官が突然現れ、私とヤク中に襲いかかり、引き離して押さえつけたのです。その後、私と友人とヤク中は最寄りの警察署に連れて行かれました。被害者であるはずの私は、刑事の取り調べを受けた挙げ句、留置場へと入れられてしまったのです。罪状は、公務執行妨害の疑いありとのことでした。逮捕される時、抵抗したのがまずかったようです。
　後で知ったのですが、私たちが殴り合う前から、既に付近の住民が「頭のおかしいのがウロウロしてる」と通報していたのです。そして相手は本物のヤク中でした。刑務所から出て来たばかりだったそうです。出ると同時に、刑務作業で得たわずかな金で覚醒剤を買い、さらに精神科から処方されていた薬なども服用し……完全にヨレた状態で歩いていました。結果、このような凶行に至ったとのことです。
　ちなみに友人は頬骨を骨折していました。相手を訴えて金を取れるか、と刑事に尋ねたところ、親や兄弟や親戚などからは縁を切られており、全財産は０円だから無理だろう、という解答が返ってきたそうです。
　そんなわけでして、次回は留置場での宿泊体験です。これは、未だに忘れられない思い出ですね。