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第24話 突然ですが兄になりました。…Why?

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 「主殿、荷物持ちましょうか?」
 「いや大丈夫だよアイナ。」
 「剣の人…過保護。」

 与人はアイナとリルを連れ次の旅に向けての準備をしていた。
 思わぬパラケスでの長期滞在となりそうな為に買えそうな時に買い足そうという訳である。

 「本の人。最近優しい。」
 「ん?ああストラの事か。今までのが急ぎ過ぎてただけだったしな。」

 あの日以降ストラは迷惑を掛けたからといい皆に謝罪し良い関係を構築しつつある。
 勉強の方も続けているが前のように缶詰にするような事もなくゆったりとしたスピードで行われている。

 「私としては主殿には剣に集中して欲しいところですが…。」
 「ご主人と長く二人きりになれるから。」
 「そうそう。…って!違います!何を言うのリル!」

 最近の名物となりつつあるアイナいじりをしつつ三人は武器を扱うエリアに入っていた。

 「にしてもやっぱり魔法大国だな。」
 「…?」
 「いやホーレスより大きいけど武器を扱う店は少ないなって。」
 「そうですね。ここも恐らく地元民よりも冒険者向けなんでしょうね。」

 三人がそのような事を言いながら歩いているとある店舗から怒号が聞こえた。

 「うるせぇ!ここにあるのは分かってるんだ!早く渡せばいいんだよ!!」

 中を覗けばガラの悪そうな三人組が店主を脅しているように見える。
 店主は怯えた様子を見せてはいないがそれでも危機的状況なのは変わりない。

 「…二人とも。」
 「お任せ下さい。リルは万が一のため主殿を。」
 「分かった。」

 アイナは持っていた荷物を地面に降ろすと自らのコピーを腰に携え店に入っていく。
 カランと入店を知らせるベルがなり三人組と店主の視線がアイナに向けられる。

 「そこまでにしておけ。何があったかは知らないがこれ以上続けるようなら黙っては見られん。」
 「ほ~。ならあ嬢ちゃんが俺たちの相手をしてくれるのかい?」

 完全にアイナを舐め切った様子で下卑た視線を向ける三人組に対しアイナはただ黙るのみであった。

 「へへ、折角から見せてやるよ。あの伝説の聖剣をな。」

 そう言って男は剣を抜く。
 それは柄の部分が宝石などで装飾された剣であった。
 それを男は自慢げに構えると自慢げに語るのであった。

 「これこそが!伝説の初代勇者が振るっていたという聖剣!どうだ凄いだろ!!」

 その様子と言葉を外から聞いていた与人とリルはその男を憐れむように見ていた。

 「あいつ終わったな。」
 「…うん。」

 アイナは肩を振るわせ怒りをこらえているがどうやら男には怯えているように見えてるらしい。

 「はは!怖いか!何だったら聖剣を触ってみるか?代わりに嬢ちゃんの体も触るがな!!」

 そこまでがアイナの我慢の限界だったらしい。
 腰の剣に手を掛けると目にも止まらぬスピードで自称聖剣を切り裂く。

 「…は?」

 両断された自分の剣を見てただポカンとする男の首に剣を突きつけるとアイナは静かに警告する。

 「貴様がどのような剣を持っていようと勝手だ。だが、初代勇者を貶めるようなような事をもう一度してみろ。今度はお前の首がああなるぞ。…分かったな。」
 「…(ブンブン)。」

 アイナの言葉に男はただ首を縦に振るのみで取り巻きの二人はただ怯えるのみであった。
 その様子を見たアイナは剣を出ていくように扉に向ける。
 意味を理解した三人組は転がるように店の外に出て行った。

 「…ふぅ。」
 「お疲れ様アイナ。随分と気迫が籠っていたな。」
 「相手が可哀そうだった。」
 「あ、主様。申し訳ありませんお見苦しいところをお見せしました。」
 「ちょっといいかい。」

 三人が話していると店の店主が声を掛けて来る。
 その顔はどこか緊迫した様子である。

 「ああ店主でしょうか?お怪我はありませんか?」
 「そんな事はどうでもいい。あんたの剣をもう一度見せてくれ。」
 「剣を…ですか?」

 アイナは判断が付かないのか与人の方をチラリと向く。
 与人は少し悩むがやがて首を縦に振る。
 例え聖剣とバレようとコピーには違いないため言い訳は何とでもなる。
 店主はアイナから剣を受け取ると端から端まで鑑定するように凝視する。

 「おたくら何者だ?」
 「わ、私たちは旅をしている…。」
 「そんな事を聞いてるんじゃねぇ!どこの誰がこんな正確な聖剣の模倣品を作れるのかって聞いてるんだよ!」

 店主は怒鳴りながら敵意をもって三人を見つめている。
 その様子を見て与人は覚悟を決めて店主の前に出る。

 「主様。」
 「アイナ。こうなったら嘘だと思われても話した方がいいと思う。警備にも言いそうな勢いだし。」

 こうして与人は店主に事情を説明する。


 「って事はあれだ。本物の聖剣はこの嬢ちゃんって事なのか?」
 「ええ。信じられないかもしれませんが…。」

 店主に与人は所々説明を省きながら自分の『スキル』について説明を終える。
 アイナとリルは店主がどのような動きをしてもいいように構えていた。

 「は~。そう言う事なら仕方ねぇな。」

 と店主は敵意を消し去り作業場に戻ろうとする。

 「し、信じるのですか?かなり無茶のある話だと思うのですが。」

 アイナがそう言うと店主は頭をポリポリと掻きながらめんどくさそうに言う。

 「俺が心配してたのは勇者の剣の模倣品が出回る事だけだ。他の事なんて知らねぇよ。それにそんな嘘を吐くような奴らが見知らぬ武器屋を助けるか?」
 「そ、そうですか。」
 「おう。それに俺もイマイチ『アーニス教』っていうのはしっくり来なくてな。お、そうだだったらアレもあんた達に預けた方がいいな。ちょっと待ってろ。」

 そう言って店主は奥の方に入っていった。
 しばらく待つと何やら布に包まれた長い物を持った店主が持ってきた。

 「ほれ。受け取れ。」
 「は、はあ。中を確認しても?」
 「勿論。」

 そう言ってアイナが受け取ると布を剥ぐ。
 すると包まれていたのは一本の槍であった。

 「槍?」
 「!…店主もしかしてこの槍は!?」
 「おお、分かるのか。そうさこの槍こそ初代勇者の仲間の戦士が振るっていたという槍さ。」
 「い、いいんですかそんな貴重な槍を。」
 「いいさ。さっきみたいな客が度々来てウンザリしてたんだ。」
 「店主さん…剛毅。」
 「ハハ。…ただ一つ頼みがあるんだ。そいつが人になるところ見せてくれねぇか?勿論誰にも言わねぇからよ。」

 与人はそれに頷くとアイナから槍を受け取り『スキル』を発動する。
 いつものように槍が光に包まれ徐々に人の形へとなっていく。
 やがてその光が収まるとオレンジの髪をサイドテールにしたリルと同じぐらいの少女が現れた。

 「おお!…神秘だな!!」

 店主が驚きとも歓喜ともつかない声を上げているなか与人はその少女に手を差し出す。

 「よろしく。」

 キョロキョロと周りを周りを見渡していた少女であったが与人を確認すると突然抱き着いた。

 「なっ!?」

 アイナが驚愕の声を上げ、抱き着かれた与人は混乱する中で少女は更に衝撃的な発言をするのであった。

 「うん!これからよろしくね!お兄ちゃん!」
 「「お、お兄ちゃん!?!?」」
 「…やれやれ。」

 リルは一人これから起きるであろうドタバタに思い馳せるのであった。
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