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第19話 未来予想図、早くも崩れる。
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「これでよし…と!」
与人は最後の荷物を詰め込み終わり背伸びをする。
その様子を見てアイナはお茶を差し出す。
「皆の荷物の分までお疲れ様でした主様。」
「まあ戦闘出来ない分ぐらいは働かないとな。お茶ありがとう。」
「いえ、一番の臣下としては当然の事です。」
アイナの発言に与人は一瞬ビクッとして他の仲間を見回すが皆雑談しているか聞かないふりをしてるかであった。
取り敢えず揉め事になるような感じも無いのを安心すると与人は適温なお茶で喉を潤す。
そして飲み干すと手を叩いて皆を注目させる。
「よし皆。準備が終わったから明日からの最終確認をするぞ。」
皆が円になり集まったところで与人はホセから貰った地図を広げる。
「皆も分かってはいるとは思うけどもう一度確認する。明日ウォーロックさんから通行許可書を貰い俺たちは『マキナス』への旅を再開する。」
「ようやくだな。私としては一刻も早く『グリムガル』から去りたいからな。」
「赤いの…災難。」
頭を抱えながら言うリントにリルが同情した様子で声を掛ける。
まだ以前の婚約騒動を引きずっているのか通行許可書を待たずに先に行こうとしていたぐらいである。
「り、リントさん事はともかくこの数日間で旅の準備は十分に出来ました。ホーレスに来たのは間違いではありませんでしたね。」
「同意。戦力も強化することに成功しマスターの安全面は確保されました。同時にブラッド・アライアンスという強力な後ろ盾も出来ました。」
ユニとセラの言葉に与人は大きく頷く。
準備が出来たのも勿論であるがこれから先でブラッド・アライアンスに所属しているというのは大きい事は与人にも理解出来ていた。
「このまま何事も無く進めれば次は魔法の国である『ソーサラス』の国境付近を通っていく事になりますね。」
「この地図でもそうなっているね。…ところでさあまり気にしてこなかったけど『ソーサラス』ってどんな所なんだ?」
アイナの言葉に頷きながら与人は皆に聞く。
「残念だけど私はあの森で育ったからね。主君の質問には答えられないな。…カナデ君はどうだい?」
ティアはそう言うと先ほどから黙っているカナデに話題を振る。
「私の記憶にある印象で良ければお答えします。」
「ん。よろしくカナデ。」
与人がそう頷くとカナデは一つ一つ言葉を選ぶように『ソーサラス』の印象を語る。
「『ソーサラス』は自然豊かではありませんが魔法資源が豊富ですから魔法研究が盛んです。なので皆さん学者肌な気風…だった気がします。」
「なるほど…。」
与人はカナデの言葉を噛みしめるように聞く。
そこにリントが補足情報を付け加える。
「ついでに言うなら『ソーサラス』に生息しているモンスターも土地柄か魔法を使う奴が多いそうだ。まあ今の戦力ならそうそう苦戦する奴は出て来るとは思えないがな。」
「肯定。ですが油断は禁物です。魔法の使い方によっては思わぬ苦戦を強いられるかもしれません。」
「だね。だけどそれも含めて準備は出来ている。だよね主君。」
「ティアの言う通り対魔法の道具も一通りそろえてる。…けどセラの言う通り皆も気をつけて。」
与人がそう言い見渡すと皆頷く。
「まあ確認はこれくらいにして別の事を話そうか。…取り敢えずこれでアイナのお願い事の第一歩にはなるかな。」
「はい。…申し訳ありません主様、このような我が儘を。」
「いいって。こっちにも利点がある訳だし。」
かつて『神獣の森』にてアイナが言いかけていた条件。
それはかつて魔王から『ルーンベル』を救ったとされる勇者のパーティーが身に着けていた武具たち。
それらも自分と同じように人にして欲しいとの事であった。
「だが聖剣。何故それらにこだわる?」
「私にとってそれらは共に戦った仲間のようなものです。私だけ命を得て人としての生を受けるのは違うと思うからです。」
「…律儀?」
「違うぞフェンリル。あれは面倒な女と言うのだ。主への態度を見ろ、それが全てを物語っている。」
「誰が面倒な女ですか!!リルも私を見て頷かないでください!!」
三人がそのようなやり取りをしている間も与人は他のメンバーと話し込む。
「で、それらの伝説の武具らの情報は手に入った?」
「無論。名の知れた物品ですから情報は大量に入りました。」
「ですけど厳重に保管されている物もありますしそもそも行方知れずとなっている物もあります。」
「集めた情報もどこまで信用していいものか分からないしね。」
「ですけど少なくとも『ソーサラス』で間違いなく一つはあるのは確かなようです旦那様。」
「手に入れられるかどうかは行き当たりばったりになりそうだな。」
皆でそう話あっていると揉め事が終わったのかリントが会話に参加する。
「まあ戦力の増強と言うなら主の『スキル』のレベルアップも図りたいところだがな。」
「そうですね。与人さん、あれ以来『スキルノーティス』は無いんですよね?」
ユニの確認に与人は首を縦に振る。
「ああ完全擬態を得てからは音沙汰がない。」
「主君が悪い訳では無いけれど力を出し切れないというのはもどかしいものがあるからね。レベルアップは必須だね。」
「元々楽器だった私はあまり変わりはしないでしょうが…。確かにティアさんの言う通りですね。」
「けどな~。どうやったら『スキル』が上がるかも分からないからな。」
与人が愚痴るようにそう言うとアイナがすかさず言葉を挟む。
「心配ありません。どのような状況でも聖剣である私が必ず主様を守り抜いてみせます。」
「あ、ありがとうアイナ。頼りにしてるよ。」
与人の言葉に気を良くしたのかアイナは今度は全員分のお茶を汲みにいった。
「だが主、まずは『マキナス』に着くことを考えろ。目先の出来事に気を取られると躓くぞ?」
「分かってる。まず第一は『マキナス』まで行く事。」
「了承。一つ一つ問題を解決して行きましょう。まず『ソーサラス』、次に大海の国『オーシェン』を突破。最短でも二カ月は掛かると思われます。」
「途中で戦力が増える事も考えて準備はしてるけどね。やはり途中で補充は必須だね。」
「でしたら『ソーサラス』では王都マーリに次ぐ大都市であるパラケスがルート上にありますね。」
「途中小さな町にも寄りながらになると…やはり長旅になりますね。」
「…ご主人大変そう。」
リルの言葉に苦笑いを返す与人。
リントはそれを見つつため息を吐く。
「笑いごとじゃないぞ主。この中で最も体力が無いのは間違いなく主なのだからな。」
「い、言われなくても分かってるって。」
「まあいざという時は皆で変わりつつ主君を背負っていけばいいさ。」
「でしたら私のみで十分です。主様を支えるのは剣として当然ですから。」
ティアの言葉にお茶を汲んで来たアイナが全員に配りつつそう言う。
だがそれにセラが反応する。
「否定。でしたら力が強い私が適任かと思われます。兵装を併用すれば速度を落とさず行動が可能です。」
「待て、その理論だったら私でもいいだろ。ドラゴンである私でもな。」
「…僕もご主人運びたい。」
「素早さと言う意味では私も引けは取らないと思うけどね。」
「ゆ、ユニコーンは元々馬型ですから適任です…よ?」
「ですからそこは聖剣である私の出番なんです!そこは譲れません!」
誰が与人を背負うかと議論が白熱しつつある中で与人は唯一参加していないカナデに声を掛ける。
「俺が途中で力尽きるのは前提なのね。」
「ま、まあそれだけ好かれているのですから…。私は旦那様を背負うと逆に倒れそうなので無理ですけど。」
結局この話し合いは深夜になっても決着はつかず結局その時の状況でという事になった。
「ホラよ。これがお前らの通行許可書だ。」
「ありがとうございますウォーロックさん。」
ブラッド・アライアンスの一室で与人はウォーロックから通行許可書と書かれた札を渡されていた。
「しかし知らない間に女を増やしてるとはな。やるじゃないかモテ男。」
「そんな関係じゃないですよ。まあこれから先は分かりませんけど。」
「言うじゃねえか。そう言うところは好きだぜ。」
「い、痛いですウォーロックさん。」
肩を叩きつつそう言うウォーロックを非難する与人。
「一応それで『マキナス』までは通れるはずだ。俺はこれから別の国に用事があるから一緒に行けねぇが、まあ万が一があったら力づくで突破しな。」
「い、いいんですかそれ?」
「正式な手段で手に入れた許可書だぜ?それに文句いう奴はぶっ飛ばされて当然だろ?」
あまりに嫌味の無い笑顔で言うので反論が言えず与人はため息を吐く。
「まあそうならないように努力はしますけどね。最終手段として考えておきます。」
「そうか、じゃあ少し真面目な話をするぞ。今回のお前の一件、どうやら『グリムガル』の王はよっぽど気に喰わないらしい。恐らく国外にも追っ手を放つ可能性がある。」
「…嫌われたものですね。」
「ああ、だがな熱心な『アーニス教』の信者にとってはお前は諸悪の根源に見えるだろうさ。」
「…。」
「だがな与人、そんなもん気にするな。だってお前は何もしていないんだからな。」
「ウォーロックさん…。」
ウォーロックの言葉に与人が驚いていると彼は拳を突き出して来る。
「こんな所で死ぬなよ?まだまだお前には期待してるからな。」
「…はい。頑張ります!」
二人は拳を合わせるとそれぞれの目的地へ向かうのであった。
「見えました。あそこが関所のようです。」
馬車で先導しているアイナがそう周りに聞こえない様に中にいる与人に言う。
ホーレスを出立してから二時間の所にその関所はあった。
簡易的な造りではあるが大きな詰所も造られており相当数の兵士がいる事が窺える。
「聖剣。兵士の練度はどのくらいだと思う。」
「精鋭…という訳では無いでしょうがそれなりの腕がそろっている。中に居る兵士までは分からないが。」
「どうやら相当警戒されていますね。通行許可書を持ってて良かったですね。」
ユニが安心したようにそう言うがリントは未だ警戒を解く気は無いらしい。
「まだ安心するな。向こうに主の顔がバレている可能性もある。」
「了解。通過するまで警戒モード、継続します。」
そのような事を話つつも他の関所を通りたい人達によって出来た行列に並ぶ。
そして一つ、また一つと列が進んで行く。
「もうすぐ私たちの番です。主様、大丈夫ですね。」
「ああ。対応は任せたアイナ。」
そしてついにアイナの前の人間が関所を通っていき順番が回って来る。
「よしそこで止まれ。」
「ブラッド・アライアンス所属の者です。訳あって『マキナス』まで行く途中です。」
「通行許可書は?」
「ここに。」
そう言ってアイナは通行許可書を兵士に見せる。
兵士は通行許可書を穴が空くほど見たのち通行許可書を返す。
「確かに本物だ。だが名前はスローンと言う男になっているが?」
「スローンは荷馬車の中にいます。あがり症なので顔を見せたく無いと。」
「…スローンを出せ。本人確認する。」
そう言われるのも想定内だった与人は荷馬車の中から顔を出す。
兵士に見られないところでは全員が何時でも飛び出せるようにしていた。
「自分がスローンです。これで勘弁してください。」
「ったく。」
兵士は悪態をつくと与人に近づき差し出したブラッド・アライアンスの認識証を確認する。
「間違いなくスローンだな。」
「はい。ではもう通ってもよろしいでしょうか?長旅ですので先を急ぎたいのですが…。」
「ああもう通って…。ん?」
通ってもいいと言おうとした兵士であったが別の兵士がやってきて何やら耳打ちする。
「済まないがこの馬車には何人いる?男女比は?」
「は?はあ。人数は八人です。男は私一人ですが…。」
それを聞くと兵士は急に険しい顔をしだす。
「…悪いが少し待っててもらおうか。」
「何故でしょうか?確かに正式な通行許可書なのは確認済みなはず。」
「確かにな。だがたった今連絡が入った。男一人に女が複数の者たちは通すなとな。悪いが確認の部隊が来るまで少し待っててもらおう。」
「こちらはギルドの仕事で通るのだ遅れたらブラッド・アライアンスの名に傷がつく。本物である以上通らせてもらう。」
そう言ってアイナは突っ切ろうとするが兵士たちが槍を構え威嚇してくる。
「悪いがここは『グリムガル』の領土だ。こちらに従ってもらう。」
「正式な手続きをした者をこうして引き留めるのがそちらのやり方か?」
「…そう言われると耳が痛いがこれも命令だ。諦めろ。」
そう言われるとアイナは与人とアイコンタクトをとる。
既に荷馬車の中では皆が戦闘態勢に入っている。
「そうですか。仕方がないですね。」
「分かってたらこっちに避けてくれ後ろが通れないからな。」
「その必要はありません。」
そのアイナの言葉と同時に突き付けていた槍たちが真っ二つになっていた。
その手には自分の分身である聖剣が握られていた。
「なっ!!」
「無理やり押し通ります!」
それと同時にリントを始めとしたメンバーが突撃していく。
関所突破戦が今始まる。
与人は最後の荷物を詰め込み終わり背伸びをする。
その様子を見てアイナはお茶を差し出す。
「皆の荷物の分までお疲れ様でした主様。」
「まあ戦闘出来ない分ぐらいは働かないとな。お茶ありがとう。」
「いえ、一番の臣下としては当然の事です。」
アイナの発言に与人は一瞬ビクッとして他の仲間を見回すが皆雑談しているか聞かないふりをしてるかであった。
取り敢えず揉め事になるような感じも無いのを安心すると与人は適温なお茶で喉を潤す。
そして飲み干すと手を叩いて皆を注目させる。
「よし皆。準備が終わったから明日からの最終確認をするぞ。」
皆が円になり集まったところで与人はホセから貰った地図を広げる。
「皆も分かってはいるとは思うけどもう一度確認する。明日ウォーロックさんから通行許可書を貰い俺たちは『マキナス』への旅を再開する。」
「ようやくだな。私としては一刻も早く『グリムガル』から去りたいからな。」
「赤いの…災難。」
頭を抱えながら言うリントにリルが同情した様子で声を掛ける。
まだ以前の婚約騒動を引きずっているのか通行許可書を待たずに先に行こうとしていたぐらいである。
「り、リントさん事はともかくこの数日間で旅の準備は十分に出来ました。ホーレスに来たのは間違いではありませんでしたね。」
「同意。戦力も強化することに成功しマスターの安全面は確保されました。同時にブラッド・アライアンスという強力な後ろ盾も出来ました。」
ユニとセラの言葉に与人は大きく頷く。
準備が出来たのも勿論であるがこれから先でブラッド・アライアンスに所属しているというのは大きい事は与人にも理解出来ていた。
「このまま何事も無く進めれば次は魔法の国である『ソーサラス』の国境付近を通っていく事になりますね。」
「この地図でもそうなっているね。…ところでさあまり気にしてこなかったけど『ソーサラス』ってどんな所なんだ?」
アイナの言葉に頷きながら与人は皆に聞く。
「残念だけど私はあの森で育ったからね。主君の質問には答えられないな。…カナデ君はどうだい?」
ティアはそう言うと先ほどから黙っているカナデに話題を振る。
「私の記憶にある印象で良ければお答えします。」
「ん。よろしくカナデ。」
与人がそう頷くとカナデは一つ一つ言葉を選ぶように『ソーサラス』の印象を語る。
「『ソーサラス』は自然豊かではありませんが魔法資源が豊富ですから魔法研究が盛んです。なので皆さん学者肌な気風…だった気がします。」
「なるほど…。」
与人はカナデの言葉を噛みしめるように聞く。
そこにリントが補足情報を付け加える。
「ついでに言うなら『ソーサラス』に生息しているモンスターも土地柄か魔法を使う奴が多いそうだ。まあ今の戦力ならそうそう苦戦する奴は出て来るとは思えないがな。」
「肯定。ですが油断は禁物です。魔法の使い方によっては思わぬ苦戦を強いられるかもしれません。」
「だね。だけどそれも含めて準備は出来ている。だよね主君。」
「ティアの言う通り対魔法の道具も一通りそろえてる。…けどセラの言う通り皆も気をつけて。」
与人がそう言い見渡すと皆頷く。
「まあ確認はこれくらいにして別の事を話そうか。…取り敢えずこれでアイナのお願い事の第一歩にはなるかな。」
「はい。…申し訳ありません主様、このような我が儘を。」
「いいって。こっちにも利点がある訳だし。」
かつて『神獣の森』にてアイナが言いかけていた条件。
それはかつて魔王から『ルーンベル』を救ったとされる勇者のパーティーが身に着けていた武具たち。
それらも自分と同じように人にして欲しいとの事であった。
「だが聖剣。何故それらにこだわる?」
「私にとってそれらは共に戦った仲間のようなものです。私だけ命を得て人としての生を受けるのは違うと思うからです。」
「…律儀?」
「違うぞフェンリル。あれは面倒な女と言うのだ。主への態度を見ろ、それが全てを物語っている。」
「誰が面倒な女ですか!!リルも私を見て頷かないでください!!」
三人がそのようなやり取りをしている間も与人は他のメンバーと話し込む。
「で、それらの伝説の武具らの情報は手に入った?」
「無論。名の知れた物品ですから情報は大量に入りました。」
「ですけど厳重に保管されている物もありますしそもそも行方知れずとなっている物もあります。」
「集めた情報もどこまで信用していいものか分からないしね。」
「ですけど少なくとも『ソーサラス』で間違いなく一つはあるのは確かなようです旦那様。」
「手に入れられるかどうかは行き当たりばったりになりそうだな。」
皆でそう話あっていると揉め事が終わったのかリントが会話に参加する。
「まあ戦力の増強と言うなら主の『スキル』のレベルアップも図りたいところだがな。」
「そうですね。与人さん、あれ以来『スキルノーティス』は無いんですよね?」
ユニの確認に与人は首を縦に振る。
「ああ完全擬態を得てからは音沙汰がない。」
「主君が悪い訳では無いけれど力を出し切れないというのはもどかしいものがあるからね。レベルアップは必須だね。」
「元々楽器だった私はあまり変わりはしないでしょうが…。確かにティアさんの言う通りですね。」
「けどな~。どうやったら『スキル』が上がるかも分からないからな。」
与人が愚痴るようにそう言うとアイナがすかさず言葉を挟む。
「心配ありません。どのような状況でも聖剣である私が必ず主様を守り抜いてみせます。」
「あ、ありがとうアイナ。頼りにしてるよ。」
与人の言葉に気を良くしたのかアイナは今度は全員分のお茶を汲みにいった。
「だが主、まずは『マキナス』に着くことを考えろ。目先の出来事に気を取られると躓くぞ?」
「分かってる。まず第一は『マキナス』まで行く事。」
「了承。一つ一つ問題を解決して行きましょう。まず『ソーサラス』、次に大海の国『オーシェン』を突破。最短でも二カ月は掛かると思われます。」
「途中で戦力が増える事も考えて準備はしてるけどね。やはり途中で補充は必須だね。」
「でしたら『ソーサラス』では王都マーリに次ぐ大都市であるパラケスがルート上にありますね。」
「途中小さな町にも寄りながらになると…やはり長旅になりますね。」
「…ご主人大変そう。」
リルの言葉に苦笑いを返す与人。
リントはそれを見つつため息を吐く。
「笑いごとじゃないぞ主。この中で最も体力が無いのは間違いなく主なのだからな。」
「い、言われなくても分かってるって。」
「まあいざという時は皆で変わりつつ主君を背負っていけばいいさ。」
「でしたら私のみで十分です。主様を支えるのは剣として当然ですから。」
ティアの言葉にお茶を汲んで来たアイナが全員に配りつつそう言う。
だがそれにセラが反応する。
「否定。でしたら力が強い私が適任かと思われます。兵装を併用すれば速度を落とさず行動が可能です。」
「待て、その理論だったら私でもいいだろ。ドラゴンである私でもな。」
「…僕もご主人運びたい。」
「素早さと言う意味では私も引けは取らないと思うけどね。」
「ゆ、ユニコーンは元々馬型ですから適任です…よ?」
「ですからそこは聖剣である私の出番なんです!そこは譲れません!」
誰が与人を背負うかと議論が白熱しつつある中で与人は唯一参加していないカナデに声を掛ける。
「俺が途中で力尽きるのは前提なのね。」
「ま、まあそれだけ好かれているのですから…。私は旦那様を背負うと逆に倒れそうなので無理ですけど。」
結局この話し合いは深夜になっても決着はつかず結局その時の状況でという事になった。
「ホラよ。これがお前らの通行許可書だ。」
「ありがとうございますウォーロックさん。」
ブラッド・アライアンスの一室で与人はウォーロックから通行許可書と書かれた札を渡されていた。
「しかし知らない間に女を増やしてるとはな。やるじゃないかモテ男。」
「そんな関係じゃないですよ。まあこれから先は分かりませんけど。」
「言うじゃねえか。そう言うところは好きだぜ。」
「い、痛いですウォーロックさん。」
肩を叩きつつそう言うウォーロックを非難する与人。
「一応それで『マキナス』までは通れるはずだ。俺はこれから別の国に用事があるから一緒に行けねぇが、まあ万が一があったら力づくで突破しな。」
「い、いいんですかそれ?」
「正式な手段で手に入れた許可書だぜ?それに文句いう奴はぶっ飛ばされて当然だろ?」
あまりに嫌味の無い笑顔で言うので反論が言えず与人はため息を吐く。
「まあそうならないように努力はしますけどね。最終手段として考えておきます。」
「そうか、じゃあ少し真面目な話をするぞ。今回のお前の一件、どうやら『グリムガル』の王はよっぽど気に喰わないらしい。恐らく国外にも追っ手を放つ可能性がある。」
「…嫌われたものですね。」
「ああ、だがな熱心な『アーニス教』の信者にとってはお前は諸悪の根源に見えるだろうさ。」
「…。」
「だがな与人、そんなもん気にするな。だってお前は何もしていないんだからな。」
「ウォーロックさん…。」
ウォーロックの言葉に与人が驚いていると彼は拳を突き出して来る。
「こんな所で死ぬなよ?まだまだお前には期待してるからな。」
「…はい。頑張ります!」
二人は拳を合わせるとそれぞれの目的地へ向かうのであった。
「見えました。あそこが関所のようです。」
馬車で先導しているアイナがそう周りに聞こえない様に中にいる与人に言う。
ホーレスを出立してから二時間の所にその関所はあった。
簡易的な造りではあるが大きな詰所も造られており相当数の兵士がいる事が窺える。
「聖剣。兵士の練度はどのくらいだと思う。」
「精鋭…という訳では無いでしょうがそれなりの腕がそろっている。中に居る兵士までは分からないが。」
「どうやら相当警戒されていますね。通行許可書を持ってて良かったですね。」
ユニが安心したようにそう言うがリントは未だ警戒を解く気は無いらしい。
「まだ安心するな。向こうに主の顔がバレている可能性もある。」
「了解。通過するまで警戒モード、継続します。」
そのような事を話つつも他の関所を通りたい人達によって出来た行列に並ぶ。
そして一つ、また一つと列が進んで行く。
「もうすぐ私たちの番です。主様、大丈夫ですね。」
「ああ。対応は任せたアイナ。」
そしてついにアイナの前の人間が関所を通っていき順番が回って来る。
「よしそこで止まれ。」
「ブラッド・アライアンス所属の者です。訳あって『マキナス』まで行く途中です。」
「通行許可書は?」
「ここに。」
そう言ってアイナは通行許可書を兵士に見せる。
兵士は通行許可書を穴が空くほど見たのち通行許可書を返す。
「確かに本物だ。だが名前はスローンと言う男になっているが?」
「スローンは荷馬車の中にいます。あがり症なので顔を見せたく無いと。」
「…スローンを出せ。本人確認する。」
そう言われるのも想定内だった与人は荷馬車の中から顔を出す。
兵士に見られないところでは全員が何時でも飛び出せるようにしていた。
「自分がスローンです。これで勘弁してください。」
「ったく。」
兵士は悪態をつくと与人に近づき差し出したブラッド・アライアンスの認識証を確認する。
「間違いなくスローンだな。」
「はい。ではもう通ってもよろしいでしょうか?長旅ですので先を急ぎたいのですが…。」
「ああもう通って…。ん?」
通ってもいいと言おうとした兵士であったが別の兵士がやってきて何やら耳打ちする。
「済まないがこの馬車には何人いる?男女比は?」
「は?はあ。人数は八人です。男は私一人ですが…。」
それを聞くと兵士は急に険しい顔をしだす。
「…悪いが少し待っててもらおうか。」
「何故でしょうか?確かに正式な通行許可書なのは確認済みなはず。」
「確かにな。だがたった今連絡が入った。男一人に女が複数の者たちは通すなとな。悪いが確認の部隊が来るまで少し待っててもらおう。」
「こちらはギルドの仕事で通るのだ遅れたらブラッド・アライアンスの名に傷がつく。本物である以上通らせてもらう。」
そう言ってアイナは突っ切ろうとするが兵士たちが槍を構え威嚇してくる。
「悪いがここは『グリムガル』の領土だ。こちらに従ってもらう。」
「正式な手続きをした者をこうして引き留めるのがそちらのやり方か?」
「…そう言われると耳が痛いがこれも命令だ。諦めろ。」
そう言われるとアイナは与人とアイコンタクトをとる。
既に荷馬車の中では皆が戦闘態勢に入っている。
「そうですか。仕方がないですね。」
「分かってたらこっちに避けてくれ後ろが通れないからな。」
「その必要はありません。」
そのアイナの言葉と同時に突き付けていた槍たちが真っ二つになっていた。
その手には自分の分身である聖剣が握られていた。
「なっ!!」
「無理やり押し通ります!」
それと同時にリントを始めとしたメンバーが突撃していく。
関所突破戦が今始まる。
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