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第18話 リントの嫁入り!?
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―与人たちが演奏会をしていた頃のリントたち。
「これで終わりだな。」
「達成。積み込みのリストと相違無し。」
リントたちが今回ブラッド・アライアンスから請け負った仕事は馬車に荷物の積み込みであった。
単純な仕事ではあるが積み込む荷物の量も多くこういった仕事の割には大変な部類であったが擬人化少女たちの前では物の数では無かった。
「リント君。こっちも終わったよ。」
「…同じく。」
「私の方も終わりました。」
別の荷物を積み込んでいたティアとリル、アイナも合流し残りの仕事は報告のみとなった。
大量に積み込まれた荷物を見渡しリントは呆れたように言う。
「全く、人間と言うのはどうしてこう無駄な物をため込むのか理解に苦しむな。」
「同意。博士も大量にゴミを捨てずに取っていました。」
「…何か違う。」
「まあまあ私たちは人間になったばっかりだ。その辺の機微とやらは追々学んでいけばいいさ。」
「そうですね。まだまだ先は長いんですから。」
そのような事を話ながら五人は豪邸の前に立つ。
今回の依頼主はとある貴族らしくホーレスから『グリムガル』の王都に居を構えるようでその準備の為の積み込みであった。
代表してリントがノックし出て来たメイドに仕事が完了した事を伝える。
メイドも淡々と返事をしていき報酬をギルドに送っておくと言うと扉を閉める。
「随分と愛想が無いメイドだったね。」
「まあいい、報酬を受け取ればそれで仕事終了だ。さっさと受け取って主と合流するぞ。」
「そうですね。問題があるとは思えませんが主様の方に問題が出てるかもしれませんし。」
「…うん。」
「了解。」
そうして豪邸を去ろうとしたその時であった。
大きな音と共に先ほどのメイドが息を切らしながら戻って来た。
「ハァハァ。も、申し訳ありません、若様が皆さんと是非お話がしたいと申しておりまして…少しお待ちくださいませんか?」
「…仕事は終わっている。これ以上留まる理由はこちらには無いが?」
「そ、そう言わずもう少しだけお待ちを。」
そうこうやり取りをしている間に奥から如何にも貴族な服装をした青年が扉までやって来た。
「お待たせして申し訳ない。僕がこのアーノルド家の長男であるアルフェンと言う者だ。」
「疑問。何か御用でしょうか?」
「う、うむ。その件なんだが…。そこの赤毛の方前に出てくれないか?」
「ん?何だ?」
リントが前に出るとアルフェンは何やら挙動不審になりながらあるものをリントに差し出す。
それは大きな宝石が付いた指輪であった。
「ぜ、是非君にこの僕の妻になって欲しい!!」
「…はぁ?」
突如告白されたリントであるがアルフェンを見る目は胡散臭そうなもの見るような目をしていた。
「貴族様は冗談が上手いな。」
「冗談なんかじゃ無い!君を始めて見た時に運命を感じたんだ!きっとこれはアーニス様の導きだ!!」
「こちらはそう思えないので失礼させて貰う。」
「ち!ちょっと待ってくれ!?」
他の四人を連れて立ち去ろうとするリントであったがアルフェンは回り込み道を塞ぐ。
「ぼ、僕の何がダメなんだ!?言うのもなんだがアーノルド家は今や飛ぶ鳥を落とす勢いの家だ。嫁げば一生君を幸せにしてみせる!!」
「あいにく金に執着は無くてな。それに家の威光を誇るのはいいが口にすればそれも霞んでいくぞ。」
「…っ!!」
リントの言葉に思わず顔を伏せるアルフェンを見てリントにアイナが耳打ちする。
「…少し言い過ぎでは?」
「いいだろう別に。ここでうだうだと引きずる方が問題だ。」
多少納得していない様子でアイナは引き下がりリントがアルフェンを避けながら先に進もうとするが。
「素晴らしい!!」
そう言ってアルフェンは顔を上げて再びリントたちの前に立ちふさがる。
「!!」
「この僕にここまで正面から言ってのけるなんて!!やはり君は僕の運命の人だ!!」
「…おい。何とかしてくれ。」
リントがそう言って四人に助けを求めるが四人もどうすればいいのか分からず戸惑っている。
「…取り敢えず私が主君を呼んでくるよ。それまで皆はこの貴族様を説得しててくれ。」
そう言ってティアは街へと与人たちを探しに行くのであった。
「それで俺たちを探していた訳か。」
「正直、主君が来ても事態の改善にはならないとは思うけどね。それでもこんな大事な事を君抜きで話す訳には行かないだろ?」
「そうですね嫁ぐという事になればリントさんにとっても大事ですし。」
「リント様なら押し切られる事は無いと思いますが急いだ方がいいですね。」
四人はアーノルド家に急ぎつつ情報の確認をしていた。
ユニは与人の顔色を窺いながら質問をする。
「大丈夫ですか与人さん。」
「た、体力はもう少し持つけど?」
「いえそっちではなく。リントさんが告白された事ですけど…。」
「ん?まああの見た目だからな。そりゃモテるだろ?」
「…もしかして与人さん。意味を知らずにリントと言う名を付けたんですか?」
「??」
ユニの言っている意味が分からず頭の中が疑問だらけになる与人にユニは苦笑いしながら教える。
「リントと言うのは古い『ルーンベル』の言葉で《愛しいもの》と言う意味があるですよ。」
「…マジで?」
「マジです。てっきり知っていて付けたものだと。」
「旦那様?あまりこう言うのは何ですがこれからは意味を考えて付けられた方が…。」
「そうする。」
カナデの言葉に与人が同意しているとティアが突如真剣な顔をして忠告する。
「三人とも静かに。…目的地から剣戟の音が聞こえる。」
「「「!!」」」
四人がアーノルド家につくと正にティアの言った通り複数の兵士が取り囲んでいた。
中にいる四人は戦闘力を奪うように剣や槍を破壊するのみに徹しているようであるがそのため突破は出来ずにいた。
「どうする主君。私たちも合流するかい?」
「いや今突撃したら余計に混乱が広がると思う。…カナデ、皆を静める事って出来る?」
「はい旦那様。お任せを。」
そう言うとカナデはヴァイオリンを手にして音楽を引き始める。
その音は徐々にアーノルド家に広がって行き徐々に戦闘の音は小さくなっていった。
「お粗末な演奏でした。」
カナデが演奏を終えた頃には辺りはすっかり静まり返っていた。
そして中で暴れていたリントを始めとした四人が与人と合流する。
「主様、申し訳ありません。このような騒ぎを引き起こし…。」
「いや何でリントが求婚された事からこんな騒ぎになった訳?」
「解説。ティアが去ったあとでリントが無理に突破しようとしたら護衛の兵が出て来まして。」
「…大変だった。」
「そんな事よりこれ以上面倒な事になる前にさっさと去るぞ。」
珍しくリントが余裕が無さそうに与人を連れこの場から去ろうとするが。
「ま、待ってくれ。」
兵隊の中からアルフェンが現れリントを引き留めようとする。
「…はぁ。いい加減しつこいぞ。」
「頼む!僕の妻になってくれ!そして僕と一緒に暮らそう!!」
「悪いな先約がある。行くぞ主。」
そう言って与人と共に去ろうとするがアルフェンは未だ諦めるつもりがないらしい。
「…君が彼女の言う主か。」
「まあそうなりますね。」
「君にも分かるだろう?彼女は僕と一緒にいた方が幸せになれると。君からも説得してくれないか。」
「こういうのは本人の気持ちが大切だと思うので…。」
そう言って去ろうとする与人であったがアルフェンは肩を掴み行く手を遮る。
「分からないのかい。君と一緒にいる限り彼女は幸せにはなれないと言っているのだよ。」
「…。」
「どういった集まりかは知らないが一般人である君がこんな女性たちに囲まれて一人一人を気に掛ける事が出来るのかい?分かったのなら…。」
「いい加減にしろよお前。」
突如リントはアルフェンと与人を引きはがすと怒りを露わにしたようにアルフェンに詰め寄る。
「ど、どうしたんだい。」
「さっきから聞いていれば人の幸せを勝手に決めるな。それと勝手に主の事を決めつけるな。不愉快だ。」
「なっ!…。」
「それと一つ言っておく今の私があるのは主がいるからだ。あまり馬鹿にするようなら…それなりの覚悟をしておけ。」
アルフェンはリントの、いや十四の敵意を込めた目を受けその場に座り込んでしまう。
「…行くぞ主。」
リントは一切振り返る事も無く宿へと足を進めるのであった。
その日の晩。
リントは宿屋の屋上にて街を見渡していた。
そこに後ろから誰かが近づいて来る。
「…主か?」
「よく分かったな。ほい飲み物。」
与人はリントに飲み物を渡すと傍による。
「今日は災難だったなリント。」
「全くだ。人間に求婚されるとはな…。この姿になってから予想外の事ばかりだな。」
そう言ってリントは差し出された飲み物を一気に飲み干す。
その姿を見ながら与人はある質問をする。
「ところでさリント。その名前の由来って…知ってた?」
「…誰かは知らんが余計な事を。」
「やっぱり知ってたのか。言ってくれれば良かったのに。」
「知ったところで何が変わる訳でも無いだろうに。…主も無駄な事が好きだな。」
リントは辛らつにそう言うが口元が笑っていた事は与人にも分かった。
「無駄な事か…。まあ確かに効率ばかりを追い求めてはいないな。」
「まあ主だけではない。人間は色々と余計な事を背負い込みすぎる。物にしても思いにしてもな。」
「けどそれがあるから前に進めるんだと思うよ。」
「否定はしていない。ただ理解しずらいだけだ。」
「まあ価値観の相違は人間でもある事だよ。」
「だな。」
そうリントが頷くとしばらくの間、二人は会話も無くただ街のようすを見ていた。
「主。」
「ん?」
「主は私を嫁にしたいと思うか?」
「何いきなり?」
「いや、あの貴族がどうしてあそこまで私を求めたのかが分からなくてな。主なら分かるかと思ったが。」
「う、う~ん。」
与人は悩みつつも取り敢えず言葉を考えずに言ってみる。
「まず容姿は他の人に比べても優れてると思うよ。」
「そうか?他の奴らも同じような感じだと思うが。」
「基準が高いよ基準が。」
そう苦笑いしつつ与人はリントを分析していく。
「身体能力は言うまでもないし知能も申し分ない。」
「まあな伊達にドラゴンだった訳では無いからな。」
「けどあの貴族様は直感でリントの事を気に入ったんだと思うよ?」
「…つまり容姿という意味では無くてか?」
「ああ。人間ではあるよ一目惚れってやつがさ。」
「…度し難いな。」
リントは心底分からないといった様子である。
それに笑みを返しつつ与人は飲み物の容器を手にするとリントから離れる。
「そろそろ戻るよ。リントも遅くならないうちに寝た方がいいぞ。」
「…なあ主。もう一つだけ質問するぞ。」
「ん?何?」
「もし私があの貴族の求婚を受け入れていたら…。主はどう思う?」
リントのその言葉に与人は立ち止まり考える。
「ん~?リントが決断して決めて事だったら受け入れると思うよ。」
「…そうか。」
「まあただ。」
与人はそこでリントの方に振り返りこう言うのであった。
「とても寂しい気持ちになるのは間違いない…かな。」
「…。」
「じゃあ今度こそ戻るから。リントお休み。」
「ああお休み主。」
与人が去っていくのを見ながらリントは再び街を見る。
「…全く。そういう事は最初に言え最初に。」
リントの顔には先ほどと同じように笑みが乗っていた。
次の日。
与人たちがブラッド・アライアンスに向かっていると昨日で見慣れた顔が待っていた。
「やあ待っていたよ。」
「…何の用だ。」
リントは嫌な顔を隠さず待っていた人物、アルフェンに問う。
「うむ。まずは君の主に謝らなければならないと思ってね。」
「謝る?」
「…確かによく知らない相手を印象で決めつけるのは貴族として良く無かった。アルフェン・アーノルドの名においてここに謝罪する。」
そう言って頭を下げるアルフェンに与人は動揺する。
「あ、頭を上げてください。気にしていませんから。」
「そうか。…では謝罪も済んだところで本題に入ろう。」
「本題?」
「主、今すごく逃げ出したいのだが。」
リントがそう言うのにも関わらずアルフェンは二人に向かって宣言する。
「僕は君を諦めきれない。今は受け入れてくれなくとも必ず僕は君を射止めてみせる!」
「主。こいつ殴ってもいいか?」
リントが拳を握り込むのを必死に抑える与人。
そうこうしている間にもアルフェンは馬車に乗り込み立ち去ろうとしている。
「ではこれより僕は王都に向かう。けど必ず君の下に帰って来るよ!!」
「二度と顔を見せるな。」
リントの吐き捨てた言葉を聞こえていないのか最後までアルフェンはリントに手を振っていた。
「…前途多難だな~。」
と与人は青空に向かって呟くのであった。
「これで終わりだな。」
「達成。積み込みのリストと相違無し。」
リントたちが今回ブラッド・アライアンスから請け負った仕事は馬車に荷物の積み込みであった。
単純な仕事ではあるが積み込む荷物の量も多くこういった仕事の割には大変な部類であったが擬人化少女たちの前では物の数では無かった。
「リント君。こっちも終わったよ。」
「…同じく。」
「私の方も終わりました。」
別の荷物を積み込んでいたティアとリル、アイナも合流し残りの仕事は報告のみとなった。
大量に積み込まれた荷物を見渡しリントは呆れたように言う。
「全く、人間と言うのはどうしてこう無駄な物をため込むのか理解に苦しむな。」
「同意。博士も大量にゴミを捨てずに取っていました。」
「…何か違う。」
「まあまあ私たちは人間になったばっかりだ。その辺の機微とやらは追々学んでいけばいいさ。」
「そうですね。まだまだ先は長いんですから。」
そのような事を話ながら五人は豪邸の前に立つ。
今回の依頼主はとある貴族らしくホーレスから『グリムガル』の王都に居を構えるようでその準備の為の積み込みであった。
代表してリントがノックし出て来たメイドに仕事が完了した事を伝える。
メイドも淡々と返事をしていき報酬をギルドに送っておくと言うと扉を閉める。
「随分と愛想が無いメイドだったね。」
「まあいい、報酬を受け取ればそれで仕事終了だ。さっさと受け取って主と合流するぞ。」
「そうですね。問題があるとは思えませんが主様の方に問題が出てるかもしれませんし。」
「…うん。」
「了解。」
そうして豪邸を去ろうとしたその時であった。
大きな音と共に先ほどのメイドが息を切らしながら戻って来た。
「ハァハァ。も、申し訳ありません、若様が皆さんと是非お話がしたいと申しておりまして…少しお待ちくださいませんか?」
「…仕事は終わっている。これ以上留まる理由はこちらには無いが?」
「そ、そう言わずもう少しだけお待ちを。」
そうこうやり取りをしている間に奥から如何にも貴族な服装をした青年が扉までやって来た。
「お待たせして申し訳ない。僕がこのアーノルド家の長男であるアルフェンと言う者だ。」
「疑問。何か御用でしょうか?」
「う、うむ。その件なんだが…。そこの赤毛の方前に出てくれないか?」
「ん?何だ?」
リントが前に出るとアルフェンは何やら挙動不審になりながらあるものをリントに差し出す。
それは大きな宝石が付いた指輪であった。
「ぜ、是非君にこの僕の妻になって欲しい!!」
「…はぁ?」
突如告白されたリントであるがアルフェンを見る目は胡散臭そうなもの見るような目をしていた。
「貴族様は冗談が上手いな。」
「冗談なんかじゃ無い!君を始めて見た時に運命を感じたんだ!きっとこれはアーニス様の導きだ!!」
「こちらはそう思えないので失礼させて貰う。」
「ち!ちょっと待ってくれ!?」
他の四人を連れて立ち去ろうとするリントであったがアルフェンは回り込み道を塞ぐ。
「ぼ、僕の何がダメなんだ!?言うのもなんだがアーノルド家は今や飛ぶ鳥を落とす勢いの家だ。嫁げば一生君を幸せにしてみせる!!」
「あいにく金に執着は無くてな。それに家の威光を誇るのはいいが口にすればそれも霞んでいくぞ。」
「…っ!!」
リントの言葉に思わず顔を伏せるアルフェンを見てリントにアイナが耳打ちする。
「…少し言い過ぎでは?」
「いいだろう別に。ここでうだうだと引きずる方が問題だ。」
多少納得していない様子でアイナは引き下がりリントがアルフェンを避けながら先に進もうとするが。
「素晴らしい!!」
そう言ってアルフェンは顔を上げて再びリントたちの前に立ちふさがる。
「!!」
「この僕にここまで正面から言ってのけるなんて!!やはり君は僕の運命の人だ!!」
「…おい。何とかしてくれ。」
リントがそう言って四人に助けを求めるが四人もどうすればいいのか分からず戸惑っている。
「…取り敢えず私が主君を呼んでくるよ。それまで皆はこの貴族様を説得しててくれ。」
そう言ってティアは街へと与人たちを探しに行くのであった。
「それで俺たちを探していた訳か。」
「正直、主君が来ても事態の改善にはならないとは思うけどね。それでもこんな大事な事を君抜きで話す訳には行かないだろ?」
「そうですね嫁ぐという事になればリントさんにとっても大事ですし。」
「リント様なら押し切られる事は無いと思いますが急いだ方がいいですね。」
四人はアーノルド家に急ぎつつ情報の確認をしていた。
ユニは与人の顔色を窺いながら質問をする。
「大丈夫ですか与人さん。」
「た、体力はもう少し持つけど?」
「いえそっちではなく。リントさんが告白された事ですけど…。」
「ん?まああの見た目だからな。そりゃモテるだろ?」
「…もしかして与人さん。意味を知らずにリントと言う名を付けたんですか?」
「??」
ユニの言っている意味が分からず頭の中が疑問だらけになる与人にユニは苦笑いしながら教える。
「リントと言うのは古い『ルーンベル』の言葉で《愛しいもの》と言う意味があるですよ。」
「…マジで?」
「マジです。てっきり知っていて付けたものだと。」
「旦那様?あまりこう言うのは何ですがこれからは意味を考えて付けられた方が…。」
「そうする。」
カナデの言葉に与人が同意しているとティアが突如真剣な顔をして忠告する。
「三人とも静かに。…目的地から剣戟の音が聞こえる。」
「「「!!」」」
四人がアーノルド家につくと正にティアの言った通り複数の兵士が取り囲んでいた。
中にいる四人は戦闘力を奪うように剣や槍を破壊するのみに徹しているようであるがそのため突破は出来ずにいた。
「どうする主君。私たちも合流するかい?」
「いや今突撃したら余計に混乱が広がると思う。…カナデ、皆を静める事って出来る?」
「はい旦那様。お任せを。」
そう言うとカナデはヴァイオリンを手にして音楽を引き始める。
その音は徐々にアーノルド家に広がって行き徐々に戦闘の音は小さくなっていった。
「お粗末な演奏でした。」
カナデが演奏を終えた頃には辺りはすっかり静まり返っていた。
そして中で暴れていたリントを始めとした四人が与人と合流する。
「主様、申し訳ありません。このような騒ぎを引き起こし…。」
「いや何でリントが求婚された事からこんな騒ぎになった訳?」
「解説。ティアが去ったあとでリントが無理に突破しようとしたら護衛の兵が出て来まして。」
「…大変だった。」
「そんな事よりこれ以上面倒な事になる前にさっさと去るぞ。」
珍しくリントが余裕が無さそうに与人を連れこの場から去ろうとするが。
「ま、待ってくれ。」
兵隊の中からアルフェンが現れリントを引き留めようとする。
「…はぁ。いい加減しつこいぞ。」
「頼む!僕の妻になってくれ!そして僕と一緒に暮らそう!!」
「悪いな先約がある。行くぞ主。」
そう言って与人と共に去ろうとするがアルフェンは未だ諦めるつもりがないらしい。
「…君が彼女の言う主か。」
「まあそうなりますね。」
「君にも分かるだろう?彼女は僕と一緒にいた方が幸せになれると。君からも説得してくれないか。」
「こういうのは本人の気持ちが大切だと思うので…。」
そう言って去ろうとする与人であったがアルフェンは肩を掴み行く手を遮る。
「分からないのかい。君と一緒にいる限り彼女は幸せにはなれないと言っているのだよ。」
「…。」
「どういった集まりかは知らないが一般人である君がこんな女性たちに囲まれて一人一人を気に掛ける事が出来るのかい?分かったのなら…。」
「いい加減にしろよお前。」
突如リントはアルフェンと与人を引きはがすと怒りを露わにしたようにアルフェンに詰め寄る。
「ど、どうしたんだい。」
「さっきから聞いていれば人の幸せを勝手に決めるな。それと勝手に主の事を決めつけるな。不愉快だ。」
「なっ!…。」
「それと一つ言っておく今の私があるのは主がいるからだ。あまり馬鹿にするようなら…それなりの覚悟をしておけ。」
アルフェンはリントの、いや十四の敵意を込めた目を受けその場に座り込んでしまう。
「…行くぞ主。」
リントは一切振り返る事も無く宿へと足を進めるのであった。
その日の晩。
リントは宿屋の屋上にて街を見渡していた。
そこに後ろから誰かが近づいて来る。
「…主か?」
「よく分かったな。ほい飲み物。」
与人はリントに飲み物を渡すと傍による。
「今日は災難だったなリント。」
「全くだ。人間に求婚されるとはな…。この姿になってから予想外の事ばかりだな。」
そう言ってリントは差し出された飲み物を一気に飲み干す。
その姿を見ながら与人はある質問をする。
「ところでさリント。その名前の由来って…知ってた?」
「…誰かは知らんが余計な事を。」
「やっぱり知ってたのか。言ってくれれば良かったのに。」
「知ったところで何が変わる訳でも無いだろうに。…主も無駄な事が好きだな。」
リントは辛らつにそう言うが口元が笑っていた事は与人にも分かった。
「無駄な事か…。まあ確かに効率ばかりを追い求めてはいないな。」
「まあ主だけではない。人間は色々と余計な事を背負い込みすぎる。物にしても思いにしてもな。」
「けどそれがあるから前に進めるんだと思うよ。」
「否定はしていない。ただ理解しずらいだけだ。」
「まあ価値観の相違は人間でもある事だよ。」
「だな。」
そうリントが頷くとしばらくの間、二人は会話も無くただ街のようすを見ていた。
「主。」
「ん?」
「主は私を嫁にしたいと思うか?」
「何いきなり?」
「いや、あの貴族がどうしてあそこまで私を求めたのかが分からなくてな。主なら分かるかと思ったが。」
「う、う~ん。」
与人は悩みつつも取り敢えず言葉を考えずに言ってみる。
「まず容姿は他の人に比べても優れてると思うよ。」
「そうか?他の奴らも同じような感じだと思うが。」
「基準が高いよ基準が。」
そう苦笑いしつつ与人はリントを分析していく。
「身体能力は言うまでもないし知能も申し分ない。」
「まあな伊達にドラゴンだった訳では無いからな。」
「けどあの貴族様は直感でリントの事を気に入ったんだと思うよ?」
「…つまり容姿という意味では無くてか?」
「ああ。人間ではあるよ一目惚れってやつがさ。」
「…度し難いな。」
リントは心底分からないといった様子である。
それに笑みを返しつつ与人は飲み物の容器を手にするとリントから離れる。
「そろそろ戻るよ。リントも遅くならないうちに寝た方がいいぞ。」
「…なあ主。もう一つだけ質問するぞ。」
「ん?何?」
「もし私があの貴族の求婚を受け入れていたら…。主はどう思う?」
リントのその言葉に与人は立ち止まり考える。
「ん~?リントが決断して決めて事だったら受け入れると思うよ。」
「…そうか。」
「まあただ。」
与人はそこでリントの方に振り返りこう言うのであった。
「とても寂しい気持ちになるのは間違いない…かな。」
「…。」
「じゃあ今度こそ戻るから。リントお休み。」
「ああお休み主。」
与人が去っていくのを見ながらリントは再び街を見る。
「…全く。そういう事は最初に言え最初に。」
リントの顔には先ほどと同じように笑みが乗っていた。
次の日。
与人たちがブラッド・アライアンスに向かっていると昨日で見慣れた顔が待っていた。
「やあ待っていたよ。」
「…何の用だ。」
リントは嫌な顔を隠さず待っていた人物、アルフェンに問う。
「うむ。まずは君の主に謝らなければならないと思ってね。」
「謝る?」
「…確かによく知らない相手を印象で決めつけるのは貴族として良く無かった。アルフェン・アーノルドの名においてここに謝罪する。」
そう言って頭を下げるアルフェンに与人は動揺する。
「あ、頭を上げてください。気にしていませんから。」
「そうか。…では謝罪も済んだところで本題に入ろう。」
「本題?」
「主、今すごく逃げ出したいのだが。」
リントがそう言うのにも関わらずアルフェンは二人に向かって宣言する。
「僕は君を諦めきれない。今は受け入れてくれなくとも必ず僕は君を射止めてみせる!」
「主。こいつ殴ってもいいか?」
リントが拳を握り込むのを必死に抑える与人。
そうこうしている間にもアルフェンは馬車に乗り込み立ち去ろうとしている。
「ではこれより僕は王都に向かう。けど必ず君の下に帰って来るよ!!」
「二度と顔を見せるな。」
リントの吐き捨てた言葉を聞こえていないのか最後までアルフェンはリントに手を振っていた。
「…前途多難だな~。」
と与人は青空に向かって呟くのであった。
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語彙力や文章力が足りていない人が書いている作品の為優しい目で読んでいただけると有り難いです。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
【完結】底辺冒険者の相続 〜昔、助けたお爺さんが、実はS級冒険者で、その遺言で七つの伝説級最強アイテムを相続しました〜
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
試験雇用中の冒険者パーティー【ブレイブソード】のリーダーに呼び出されたウィルは、クビを宣言されてしまう。その理由は同じ三ヶ月の試験雇用を受けていたコナーを雇うと決めたからだった。
ウィルは冒険者になって一年と一ヶ月、対してコナーは冒険者になって一ヶ月のド新人である。納得の出来ないウィルはコナーと一対一の決闘を申し込む。
その後、なんやかんやとあって、ウィルはシェフィールドの町を出て、実家の農家を継ぐ為に乗り合い馬車に乗ることになった。道中、魔物と遭遇するも、なんやかんやとあって、無事に生まれ故郷のサークス村に到着した。
無事に到着した村で農家として、再出発しようと考えるウィルの前に、両親は半年前にウィル宛てに届いた一通の手紙を渡してきた。
手紙内容は数年前にウィルが落とし物を探すのを手伝った、お爺さんが亡くなったことを知らせるものだった。そして、そのお爺さんの遺言でウィルに渡したい物があるから屋敷があるアポンタインの町に来て欲しいというものだった。
屋敷に到着したウィルだったが、彼はそこでお爺さんがS級冒険者だったことを知らされる。そんな驚く彼の前に、伝説級最強アイテムが次々と並べられていく。
【聖龍剣・死喰】【邪龍剣・命喰】【無限収納袋】【透明マント】【神速ブーツ】【賢者の壺】【神眼の指輪】
だが、ウィルはもう冒険者を辞めるつもりでいた。そんな彼の前に、お爺さんの孫娘であり、S級冒険者であるアシュリーが現れ、遺産の相続を放棄するように要求してきた。
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