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第15話 聖剣少女の悩みと恐怖。

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 「四人ともお疲れ様。」

 そう言いながら与人はユニと共に四人に近づいていく。
 リルとセラは笑顔で迎え入れるがリントは少し微妙な顔をしている。

 「全く。勝手に護衛を減らすとはな。」
 「い、いや~。苦戦してるみたいだったしリルなら匂いで場所が分かるかなって。」
 「…まあ今回はいい采配だったと言っておく。」
 「フフ、良かったですね与人さん。リントさんに褒められて。」
 「褒めてない。事実を言っただけだ。」

 そのように皆が話の輪を広げている中アイナは一人何かを考え込むように地に視線を向けていた。

 「アイナ?どうした?」
 「…いえ主様。何でもありません。」

 与人の問いかけにそう答えるとアイナは未だ気絶しているギガントマンティスの方に視線をやる。

 「それで主様。どうしますか『スキル』を使うにしろ止めを刺すにしろ今をおいて他にありませんが。」
 「そうだよな。どうすべきか…。」
 「『スキル』を使うべきではないか主。ここまでの強力なギガントマンティスはそうはいないだろう。」
 「賛成。私も同意見です。戦力が増加するのは歓迎すべき事かと。」

 与人が見渡せばリルとユニも頷いているのが見える。
 そして与人はもう一度アイナの方に視線を向ける。

 「アイナはどう思う?」
 「…全ては主様の御心のままに。」

 それ以降アイナは何も喋らなくなってしまったため与人は決断を下す。

 「よし使おう!悪いけど皆ギガントマンティスの鎌を押さえておいて。」

 その言葉に従い皆が鎌を押さえると与人は深呼吸を一つしてギガントマンティスの頭に触れる。
 そしていつもの通りギガントマンティスは光に包まれ徐々に人の形になっていく。
 光が収まる頃には長身の女性がその姿を現していた。

 「ん、ん~。」

 そしてその女性は意識が覚醒し始めたのか徐々にその身を起こし始めている。
 念のため与人は後方に下がりアイナとリントが前に出る。

 「おいマンティス。事態は把握しているか?」
 「…勿論。それにしても君は面白い『スキル』を使うね。」

 そう言って立ち上がった女性は一言で言えばクールな顔立ちをしていた。
 だが物腰は柔らかく一見すれば危険がある様には見えない。
 だがその両腕から見えている大きな刃が警戒感をどうしても強める。

 「動かないで下さいねマンティス。…人になってすぐに死ぬのは嫌でしょ。」
 「やれやれ警戒が強いな。まあさっきまで殺しあっていたんだから仕方ないけど…これじゃ話が進まないと思わないか?」
 「…アイナ、リント。少し下がって。」
 「主。」
 「警戒を解くわけじゃない。けど仲間になるのにずっとこのままって訳には行かないだろ?」

 リントとアイナは顔を見合わせると与人の少し後ろに回る。

 「こうして顔を見合わせるのは初めてだね。…君は私が怖いかい?」
 「正直に言えばまだ少し怖い。けど信用したいとも思っている。…聞かせてくれ、あなたは味方になる気があるのか?」
 「…じゃあそれを確かめてみよう。」

 そう言って女性は静かに一歩ずつ確かめるように前に足を出す。
 アイナが剣を構え前に出ようとするがそれはリントによって止められる。

 「何故!」
 「いま主は目踏みをされている。攻撃するのは奴に殺気を感じてからだ。」
 「っ!…分かりました。」

 そうしてる間にも女性と与人の距離は短くなってきて手が触れ合えるほどになった。
 そして女性はひたすら与人を観測するが如く見渡す。

 「フフ、とても綺麗な目をしているんだね君は。けど思ったより細いな、運動していないのかい?」

 そのような事を聞かせているのか独り言なのか分からない語り口で女性は言っていたが満足したのか少し距離をとる。
 そして与人たちの方に向くと女性は微笑みながらこう言うのであった。

 「先ほどの質問はYesだよ。私は君たちと一緒に歩んでいきたい。…信用してもらえるかな?」

 そう言って女性は手を差し出す。
 その手を与人は躊躇なくとった。

 「勿論。これからよろしく。」

 二人が固い握手をするとまずはユニが近づいて来る。

 「フフ、よろしくお願いしますね。私はユニコーンのユニって言います。こちらはリルさんです。」
 「…よろしく。」
 「ああ君か。あの一撃はとても効いたよ。」
 「紹介。私はセラと呼称されています。以後共にマスターの役に立てるよう邁進して行きましょう。」
 「よろしくセラ。君の一撃には破壊力があるね。」
 「…リントだ。仲良くする気は無いから好きに呼べ。」
 「嫌われたかな?」
 「リントさんは誰でもこんな感じですから…名前も呼んでくれませんし。」
 「そういえば名前を決めないと…。」

 そう言って与人は考え込む。
 あまり安直なのは避けたいがこった名前はあまり出てこない。

 「主、そんなに考えてもしょうがない。ズバッと決めろズバッと。」
 「わ、分かった…。て、ティアでどう?」
 「可愛らしい名前だね。気に入ったよ、ではその名に恥じないようにこれから働かないとね。よろしくだね主君。」

 そんな感じでとんとん拍子で話が進む中一言も話さないでいるアイナが気になる与人であった。


 その後七人はブラッド・アライアンスに証拠として投擲された鎌を提出し一同共に宿屋の一室に入った。

 「ふ~ん。いい部屋だって事は私にも分かるよ。皆一緒の部屋なのかい?」
 「あ~。その方が護衛がしやすいって押し切られて。…宿屋の人には変な目で見られているけど。」

 与人は最初にこの宿に来たときの受付の顔は忘れようがないと思っている。

 「さて。今日の主の護衛だがここが安心なのは理解したので扉の前に一人立たせるのでいいと思うが…主はどう思う。」
 「それでいいと思うけどある程度したら交代する方向でいいんじゃないか。」
 「推奨。その方がよろしいかと、マスターの案に肯定します。」
 「決まりですね。そうなると誰が最初にやるかですが…。」
 「私がやりましょう。」

 そう言ってアイナが立ち上がる。
 その言葉からは覚悟がにじみ出ていたが逆にそれが与人に不安を与えた。

 「すまないがアイナ君。ここは新入りに任せてくれないか?」

 それを削ぐようにティアが手を挙げる。
 アイナは一瞬ティアを睨みつけるが軽く首を横に振ると質問をする。

 「何故でしょう。私では不相応だと。」
 「そう言う意味じゃないよ。皆は私との戦いでだいぶ疲労しているだろうから最初ぐらいは私に任せてくれないかな。」
 「いいんじゃないか?守れるなら誰が最初でも。」

 とリントが頷くと他の皆も異論は無いと合図を送る。

 「じゃあ頼めるかなティア。その後はアイナと交代って事で。」
 「了解だよ。」
 「…命令であれば。」

 と二人も了承したので皆がそれぞれ会話をするがアイナは思いつめてる事は誰もが気づいていた。


 その日の夜。
 一人ベットで寝ている与人は何かが動くのを感じ目が覚める。
 まだ眠い目をこすりながら周囲を見渡すとベランダに通じる窓が開いている事に気付く。
 与人が覗いて見るとそこにはアイナがベランダから街並みを見ていた。
 薄暗い月明りに照らされたその姿はまるで絵のようでもありしばらく与人は見惚れてしまっていた。

 「…主様?」

 そうしている間に与人の存在に気付いたのかアイナが声を掛ける。

 「やあ。…邪魔だった?」
 「いえ、そんな事は…今日は何だか眠れなくて。」
 「そうか、だったら俺も付き合ってもいいかな?」
 「勿論です。」

 そうして与人はアイナの近くに寄る。
 しばらくは何も話さない二人であったがやがて与人が口を開く。

 「アイナ。なんか思いつめてる?」
 「え?」
 「いや何かそんな感じだったから。」
 「…気づかれましたか。」
 「多分皆もだろうけどね。で、話す気は無いの?」
 「…。」

 与人の問いかけにしばらくアイナは答えようとはしなかった。
 そろそろ戻ろうかと与人が考えた時にその口は動いた。

 「私は本来命のないものです。」

 アイナは言葉を選ぶようにゆっくりとした調子で話し出す。
 与人はそれを一つも聞き漏らさないように聞く。

 「それはつまり生きてきた証が無いと言えることです。リントやリルたちとは違います。あるのは自分が武器として振るわれてきたという記憶のみ。…それも本物かどうかも分かりませんが。」

 アイナはため息を吐きつつ与人の方を見る。
 与人にはその目が潤んでいるようにも見えた。

 「勿論私が聖剣というのは誇りです。…ですがそんな私に出来るのは戦う事のみです。それしか私が生まれて来たという証を立てる事が出来ません。」
 「…今日の戦闘でやられかけた事気にしてるのか?」
 「まあそれも少しは。…ですがそれ以上にそれしか出来ない自分に苛立ちを覚えるのです。」
 「苛立ち?」

 与人が思わずそう返すとアイナは大きく頷く。

 「例を上げるなら主様を囮に使うとリントに言われた時に私は反対しました。私なりに考えての行動でしたが主様は自ら囮になる事を決意しました。」
 「まあそうだったね。」
 「ですがその行為自体が武器である自分にとってあってはならない事です。振るわれるべき武器が意見を挟むなどあってはならない事です。…私は完全に人間になっているのを感じました。」
 「…。」
 「ですが人間であるならば戦う事以外にも出来る事はあるはずです。だと言うのに私は戦う事以外は出来ません。」

 アイナは首を横に振りつつ話題を止める。

 「これでは愚痴ですね。…主様先ほどの話はお忘れを。」
 「忘れるのはいいけどその前にアイナ。一つ言ってもいいか?」
 「?どうぞ。」
 「真面目過ぎ。」
 「はい?」
 「だから真面目すぎるんだよアイナ。折角人間になったんだからもう少し自由に生きてもいいんじゃないか?」

 与人の突然の言葉にアイナはただポカンとしている。

 「アイナ?生粋の人間だって最初から生きている意味なんて持ってる奴なんていないんだ。いろいろ躓きながら、遠回りしながらそれでも見つからないかも知れないものなんだよ。」
 「で、ですがこうして人間として立っている以上は主様の役に…。」
 「それは嬉しいけどさ。ただ戦ってくれるだけでも俺には嬉しいし、こうして話すだけでも嬉しいだよ。」
 「話すだけで?」
 「ああ。つまりアイナ。君が、君たちが生きているだけで俺は嬉しいだ。この世界で一人きりじゃないってそう思えるから。」

 与人はそう言うと笑顔をアイナに向ける。

 「それに出来る事なんて言い出したら俺なんかほとんど何も出来ないよ?出来る事なんて皆に頑張ってもらうぐらいで。」
 「…。」
 「まあ何にせよアイナ。そう自分を追い込まなくてもいいぞ。本来ならこういった相談なんて俺が一番向いていないんだから。」
 「いえ。そんな事はありません。」
 「ん?」

 アイナは主従の礼をとると与人に頭を下げる。

 「あなたの言葉であるから私の心に真っ直ぐ刺さりました。…主様、あなたが優しい人で良かった。」
 「そんな事…。」
 「決めました。例え聖剣の名を汚す事であろうとそれで主様に安らぎを与えられるのでしたらこのアイナ。如何なる死地からも必ず生きて帰ります。」
 「…。そうかそれは俺にとっても嬉しい誓いだ。」

 そう言って与人は部屋に戻ろうとするが思わず躓いてしまう。

 「おっ!?」
 「主様!」

 転びそうになった与人であったが間一髪のところでアイナに後ろから抱きしめられる。

 「あ、ありがとうアイナ。」
 「…。」
 「あ、アイナさん?そろそろ放して貰えると…。」
 「主様の背中、細いはずなのにどこか大きく感じますね。」
 「はい?」

 そう言ってアイナは与人の背中に抱き着いたまま離れようとしない。
 与人はアイナの様々な柔らかい場所が当たりドキドキがバレないかと冷や冷やしている。

 「主様。…一つ気づいた事があるんです。」
 「な、何?」
 「私、どうやら嫉妬深いようなんです。」
 「え?」
 「これから主様は様々な仲間を増やされると思います。私との約束もありますし。」
 「そ、そうだね。」
 「ですが主様にとって一番の従者は私であってほしい。いざという時、一番に頼りにして欲しい…そう思ってしまうのです。」

 何やら背中にどす黒い感情背負っているような気がして先ほどとは違う冷や汗が出てくる与人。

 「ですが今の私はそれには相応しくありません。ですから待っててください、その日が来るのを。」
 「も、もしだけどそう成らなかった時って?」
 「そうなれば主様に教えるだけです。誰があなたを守るに相応しいか、誰がもっとも主様を思っているか…じっくりたっぷり、と。」

 そう言い終わるとアイナは名残惜しい様子で与人の背中から離れる。

 「私はもう少し夜風に当たります。主様は良き睡眠を。」
 「あ、ああ。そうするよ。」

 そう言ってベットに戻る与人であったがしばらく背中に残った柔らかさと恐怖でしばらく眠れなかったのは言うまでもない。
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