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第9話 初めまして。…そしてさようなら。

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 クラスメイトが自分を殺す気で武器を振るった。
 この異常な状況ですぐさま与人が相手に言葉を言う事は少しでも修羅場を掻い潜ったおかげであろう。

 「に、二宮…何で。」
 「は?だってお前の『スキル』は欠陥品なんだろ?だったら少しは優秀な『スキル』の持ち主の俺の役に立ってくれよ。どうせこの先、生きてても邪魔なんだからさ。」

 まるでごく当たり前の事を言うように二宮は剣を再び振るう。
 でたらめな構えから放たれた一撃だというのに凄まじい剣圧が与人を襲う。
 だが与人はその一撃を躱し逃げようとルートを探す。

 「おい逃げんなよ。折角俺が無能なお前を役立てようとしてるんだから。さ!」

 それに気づいた二宮は剣を横に一閃振り払い周りの木々を切り倒す。
 これにより倒れた木々が与人の逃げ道を塞いでしまう。

 「っ!」
 「ハハ!すげぇだろ?俺の剣聖『スキル』は!どんなに振るってもそれが達人の一撃になるんだぜ!お前の訳の分からない劣等『スキル』とは違うんだよ!それに俺のために王様がこの聖剣までくれたんだぜ!」

 まるでオモチャを自慢する子どものように手に持った聖剣を見せびらかす二宮は頼んでもいないのに聖剣の説明をしだす。

 「この聖剣はな代々優秀な剣の使い手に引き継がれてきた聖剣だ。つまり!この聖剣が与えられたという事は俺が、この俺が!優秀と認められた証拠なんだよ!」

 そう言うと二宮は狂気じみた笑いをしながら話しかける。
 だがその相手は与人ではない。
 今まで自分を蔑んできた相手全てに向けての言葉であった。

 「そうだ俺は優秀なんだ!今までが間違っていたんだ!見下してた奴らも俺が『スキル』を得た瞬間に態度を変えやがった!この俺が優秀だって気づいたからだ!これが俺のあるべき姿だったんだ!!」
 (…狂ってる。)

 二宮の一人語りを聞いての与人の感想はそれであった。
 元々劣等感を抱いている奴だとは思っていたが強い『スキル』を得て完全に付け上がってしまっていると与人は判断した。
 同時に説得は不可能である事も理解し与人は逃げ道を探そうとするがどこもかしこも木で塞がれている。

 「何でもこの『神獣の森』には手頃なモンスターがいるみたいでな。神聖な森だか何だか知らねぇが全て俺が狩りつくしてやろうと思ったんだ。どうだ優しいだろ。」
 「…その割にはえらく動物の死骸が目につくんだけど。」
 「は?目の間に来るから邪魔でさ…。」
 「違うだろ。殺すのが楽しかったんだろ。」

 その与人の言葉に二宮はニタァと笑う。

 「ハハハ!その通りだ!初めて知ったぜ命を殺すって事がこんなに楽しいなんてな!…けどもう動物を狩るのも飽きた。だからよ…人間を切ってみたくて仕方ないんだよ!素直に切られろ!落ちこぼれ!」

 それと同時に二宮は攻撃を再開する。
 相も変わらず構えも何も無い無茶苦茶な太刀筋であるが一撃でも当たれば死ぬ事を与人は理解していた。
 幸いなことに素人の剣筋であるため比較的避けやすくギリギリのところで回避し続けていた。

 「クソが!剣聖の一撃を躱してるんじゃねぇよ!役立たずが!」

 避け続けられる事にイラついた二宮はさらに剣が大振りになっていく。

 (よし!このまま行けば!)

 これだけの騒ぎになれば流石にはぐれた四人ともここに様子を見に来るに違いないと与人は考えていた。
 如何に二宮が剣聖の『スキル』を持っていようと流石にドラゴンやそれに匹敵するようなフェンリルやゴーレムには勝てないだろうと踏んでいた。
 このまま回避に徹していればそれだけで与人は勝ちを拾えるのだ。
 …そう油断していた為であろうか?
 与人は小石に躓き思い切り転んでしまう。

 「いっつ!」

 そう思わず言う与人に二宮の聖剣が思いっきり振るわれる。
 躱そうとする与人であるが完全には躱し切れず肩が切られて血が噴き出す。
 声にならない叫びを上げる与人の姿を見て二宮は笑いが止まらなくなる。

 「いいぞ!その悲鳴が聞きたかったんだ!!なあもっと聞かせてくれよ!なあいいだろ!どうせ生きてても役に立たないんだからさ!!」

 そう言って二宮は更に与人を痛めつけようと剣を振るおうとした。
 …その時であった。
 一匹のゴブリンが二宮の後ろから襲い掛かったのである。
 そのゴブリンは間違いなく与人と共に行動していたゴブであった。

 「ゴブ!?」

 与人が思わず名前を呼ぶがゴブは構わず雄たけびを上げながら振り上げた棍棒を二宮の頭に振り下ろす。
 振り下ろされた棍棒は見事に二宮の頭に当たったがそれでも意識を失わせる程ではなかった。

 「…痛ってな!このクソ雑魚モンスターが!!」

 二宮は聖剣をゴブに対して大きく振るう。
 ゴブは両断される事は何とか防ぐがそれでも重傷を受け大きく吹き飛ばされる。
 息はあるが切られた所から血が噴き出しもう長くない事が窺える。

 「…ゴブ!!」

 与人はゴブに近づこうとするが足を挫いたようで上手く動けないでいた。

 「ああクソ!せっかくの聖剣を雑魚モンスターの血で汚しちまったぜ。…それにしてもその雑魚モンスターと知り合いか?まあ出来損ない『スキル』と雑魚モンスターってお似合いの組み合わせだな!!」

 その言葉に与人は何かが切れた。
 与人は元々争いは好きじゃない。
 だから学校では息を潜めるようにそして問題にならないように思った事を口にしないで来た。
 以前のリントとの話においてクラスメイトを恨んでいないかと聞かれた時、与人は恨んでいないと答えた。
 それは決して嘘では無い。
 嘘ではないが本音の全てと言う訳でもなかった。
 それが今、溜められた想いが爆発しようとしていた。

 「ふざけんな!!命を何だと思ってやがるんだ!!モンスターだろうが動物だろうが生きてるのに何でそんなに簡単に殺せるんだ!!」
 「は?モンスターに対して同情してんのかよ。どうせ人の役に立たないんだから殺したって別にいいだろうが。」
 「人間の尺度で命の価値を決めてるんじゃねぇよ!!あいつらだって必死に生きてるんだ!それを否定するんじゃねぇ!」

 それは与人が昔から思ってきた事であった。
 人間の勝手で益な存在と害な存在を分けられる事が不思議でならなかった。
 一度蓋してきた思いはまだ止まらない。

 「俺を追放した時もそうだ!役に立たないだろうと勝手に決めつけて!恨んではないけど本当にムカつくぜ!大体この『スキル』だってランダムに与えられたもんならお前がこの『スキル』だった可能性があったのによくあんな真似が出来たな!恥を知れ恥を!!」
 「負け犬が何て言おうとテメェは負け犬なんだよ!キャンキャン吠えるんじゃねぇよ!」

 そう言って二宮は聖剣を与人の目の前に突き付ける。

 「もういい不愉快だ。訳の分からない事を言う口を永遠に塞いでやる!」
 「…そうか。だったら見せてやる!お前らが役立たないと言ったこの『スキル』でどんな事が出来るかをな!」

 そう言って与人は聖剣を握り込む。
 刀身を握っている為に手から血が出るがそれでも与人は決して放そうとしなかった。

 「テメェ!汚い手で俺の聖剣に触るんじゃ…!!」

 その言葉を二宮は言い切る事が出来なかった。
 与人が触ったところから聖剣は光を放ち二宮を吹き飛ばした。

 「な、何が起こって!!」

 二宮はそう叫ぶが事態はそれでは収まらなかった。
 光は巨大になっていき与人と聖剣を包んでいる。

 「聖剣、お前に意思があるかどうかは知らない。だけど!その名に相応しい剣であるならば!あんな奴に使われてんじゃねぇ!そのための体を与えてやる!」

 与人の言葉に応えるように聖剣は徐々に人の体に変えてゆく。
 そして光が収まる頃には与人が握っていたのは刀身ではなく少女の手であった。
 その少女は臣下の礼のように与人に頭を下げる。

 「悪鬼よりお救いくださりありがとうございます主様。これよりこの身、この心は全て御身のお心のままに。不肖の身ではありますが粉骨砕身の働き、ご期待ください。」
 「ああ頼む。…だが死ぬことは許さない。生きて俺の剣となってくれ。」
 「主様がそう願うのであれば。」

 そう言い笑みを見せる聖剣はとても可愛らしかったと後に与人は語った。

 「なんだよコレ…なんなんだよコレは!!!」

 突如事態を見ていた二宮が叫ぶ。
 その叫びに反応して与人を守れるように聖剣が二宮の前に立つ。

 「なんなんだよ!何で聖剣が人間になってるんだよ!いやそれ以前に俺の聖剣がなんでアイツに従ってるんだよ!俺の聖剣が!!」
 「…あなたを私の使い手と認めた覚えはありませんよ悪鬼。」

 二宮の叫びに聖剣は冷静に突き放す。

 「なっ!」
 「あなたはたまたま私を手にして振るっていただけ。真に聖剣の使い手であるならばあのように無意味な殺戮をするわけがない。あなたは心も技術も私の使い手に足りえない。」
 「っ!うるさい!俺は剣聖だ!剣聖なんだ!!それだけで十分だろうが道具が偉そうに言うんじゃねぇ!!」
 「…その道具を十二分に使いこなしてこそ真に剣聖と呼ばれるに相応しい人物。あなたの存在は過去全ての剣聖を愚弄します。」
 「っ!!!うるせぇ!!」

 二宮は折れた木を拾うと振り上げ聖剣に向かって行く。
 例え折れた木であろうと剣聖の『スキル』を持っている二宮が振るえばかなりの威力になるだろう。

 「聖剣!」
 「ご安心を主様。」

 いつの間にか聖剣は手に先ほどの姿と同じ剣を握っており悠然と二宮を向かい撃つ構えを取る。
 その姿は先ほどの二宮と違い美しさすら与人は感じた。
 そして聖剣は一気に駆けると二宮とすれ違う。

 「…。」
 「…(バタン)。」

 そして二宮はあっけなく倒れる。
 聖剣は動かないを確認すると手に持っていた剣は光の粒子となり消えていった。

 「こ、殺したのか?」
 「いえ、主様が気になさると思い気絶させました。」
 「…聞こえていたのか?」
 「はい。私のような身にはとても嬉しく思う言葉でした。」

 聖剣は風でたなびく挑発の金髪を抑えつつ笑顔で語る。
 だがそんな聖剣に曖昧な笑みを浮かべる。

 「え~と。ずっと聖剣呼びはまずいよな…。何かいい名は。」
 「その件ですができればアイナと名乗らせてもらっても構いませんか?」
 「何か思い入れのある名前なのか?」
 「はい、私の最初の使い手。そして私の一番尊敬できる剣聖の名です。」
 「そっか…。だったらアイナ。これからよろしく。」
 「はい。これからこの身を存分にお使い下さい主様。」

 本当に嬉しそうにアイナが笑みを浮かべる。
 与人も釣られて笑みが出るがここで大切な事を思い出す。

 「そうだ!ゴブは!」

 思い出したように与人は切り倒されたゴブの方に駆け寄る。

 「ゴブ!大丈夫かゴブ!」

 だがゴブの返事は無く体も冷たくなってしまっていた。

 「ゴブ…。何で俺なんかを…。」
 「主様申し訳ありません。私の意思では無いとはいえそのような勇敢な者を切ってしまいました。」
 「…アイナのせいじゃない事ぐらい解っている。だから謝らないでくれ。」

 与人はそう言うと地面を掘りだす。

 「主様?一体何を?」
 「…このまま野ざらしにしたくない。せめて墓だけでもと思って。」
 「…私も手伝います。」
 「無理に手伝う事は…。」
 「いえ、私がしたいんです。私の先輩のような者ですから。」
 「…ありがとう。」

 二人は適度に穴を掘るとゴブの遺体をそれに埋め土を被せる。
 そして二人はその墓に深く頭を下げる。

 「…。」
 「…。」

 二人は頭を上げる。
 与人の目には涙が浮かんでいたがアイナはそれを指摘はしなかった。

 「…さて他にはぐれた仲間とどう合流しようかな。」
 「他にも主様の下に何人かいるのですか?」
 「ああ、四人。今は理由あってはぐれてるけど…。」
 「…その仲間と合流したらどうなさるおつもりで?」
 「え?え~と確か『グリムガル』から離れて『マキナス』ってところに行くって話だったと思うけど。」
 「それはつまり他の国に行く。という事ですよね。」
 「そうなるけど…もしかして嫌?」
 「いえ!そう言う訳では決して無いのですが…。」

 アイナは何かを考え込んでいたがやがて意を決したように話始める。

 「主様。申し訳ありませんが一つお願いが…。」

 その時近くの茂みから何かが飛び出すのを感じアイナは話を中断し与人を守ろうとする。
 その姿は与人や二宮と同じ高校の制服であった。

 「!葉山…与人?」
 「せ、瀬戸さん!?」
 「主様、お知り合いですか。」
 「ああ、クラスメイトだ。」
 「…。」

 瀬戸と呼ばれた少女と与人の邂逅は果たして災いとなるかそれとも…。
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