遠くて近くて愛おしい

Nora

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第1章

制裁

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結局あの日、真生は早朝に目を覚ますと散々謝ってから慌てて自分の部屋にもどって行った。それから十日ほどたつが、一度も真生に会えていない。放課後、別館に来なくなったのだ。今日こそは、と思い、通い続けているが一人の時間を過ごすことになるだけだった。


気まずさのせいだろうか
それとも何かあったのか...


考えているうちに一睡もしないまま、朝になってしまう。サボりの誘惑になんとか打ち勝ち、教室へ入ると一瞬静まり返った。


......なんだ?


すぐにいつものうるさい教室に戻ったが、その様子にどこか違和感を感じながら、席につく。


「なぁ、石川」 


普段ほとんど話すことのない男子だ。教室にいる全員の視線が自分に集まっているような気がして、居心地が悪い。


「おまえ、これマジ?」


「つか、映像までついてんだから間違いないだろ」


嫌な予感がした。


「...なんのこと」


差し出された携帯の画面に映っていたのは、真っ最中の男女。男の方は制服を着ているようだった。


「......ッ」


やられた......


「レイプして退学になったって書いてあるけど」


「レイプとか気持ち悪ぃ......」 


「いやでも相手かなり美人だぞ。ちょっと羨ましくね?」


「はは、お前サイテー」


「石川、顔いいのに意外ー」


「顔いいやつほど、みたいな?」


「見た目よくてもさすがにねーわ」


「ねぇ、どんな感じだった?」


「お前ムリヤリがいいとか、そういう変態?」


「おい、言い過ぎるとお前もヤられんぞ」


「おわっ、マジで?狙われてんのか、こえーー」


次々に向けられる言葉に対して怒りよりも、ダルさだけが身体の内側で膨らんでいく。言い返す気にもならず、思考を止めて、目をつぶってしまおうと思ったところで、強い力で肩を掴まれた。


「タク。ちょっと来い」


佐倉が険しい顔をして立っていた。あの場所から逃げられるなら、と大人しくついていった先には佐々井も待っていた。


「タク......!」


佐々井は泣きそうな顔をしていた。


「なんでこんなもの...っ」


ネット上の生徒掲示板に動画を上げたのは恐らく理久だろう。それを誰かに言うつもりはなかった。話したところで不利なのは拓斗のほうだ。


「なんでこんなことしたのかって質問じゃないんだ...?」


「お前がんなことするわけないだろ」


「そうだよっ...こんなのウソにきまってるから」


「でもその動画に映ってんのは俺だし、退学になったのもほんと」


「......なにがあった。これどう見たってムリヤリじゃないだろ」


どうしてこの二人はなにも疑わないのだろうか。無条件に信じられていることが不思議で仕方がない。


「......二人とも、少しは疑いなよ。だまされるよ?」


「なにそれ。じゃあ立場が逆だったら、タクは俺と優のこと疑うの?」


佐倉も佐々井もそんなことするハズがない。首を横に振ると、佐々井が頷いた。


「でしょ?だから、無理強いはしないけど、なにがあったか話してほしい。味方するから」


そうは言っても話せば二人はきっと拓斗に失望する。こんな風に信じてくれたことをムダにしてしまうかもしれない。


それでもこのままなにも話さずに今まで通り、なにもなかったように過ごせば、迷いなく信用してくれた二人に対して罪悪感を感じ続けることになるだろう。


大きくため息をつき、覚悟を決めた。


「.........中学のとき、担任と付き合ってたんだ」 



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