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メイドさん現る

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「もう! 私もハルカの料理が食べたかった!」

「ごめんごめん。お詫びと言っちゃなんだけど、今度のおやすみにアイラの食べたいものを作るからさ」

「約束だからね!」

 治療院でのお昼休憩に食事の話をすると、アイラに羨ましいと騒がれてしまった。最初はエリアスさんみたいなイケメンとご飯を食べたことについてかと思ったけど、どうやらアイラは私の生姜焼きが食べたかったみたいだ。

 好きなものを作る約束をすると何を作ってもらおうかなー、と上機嫌になるアイラがとっても微笑ましい。二十八歳の私にとって十八歳のアイラは歳の離れた妹のような感覚がある。

 一人っ子だった私はこうしてアイラが甘えてくれるのが嬉しかった。可愛い妹のためならお姉ちゃんは何でも作っちゃうぞ。

 そうそう。治癒魔法師としての仕事は今のところ順調だ。口コミが広がったのか、ありがたいことに私の回復魔法目当てにやってくる患者さんも少しずつ増えている。

 以前治したジェイクさんが中々に顔が広かったようで、大怪我したにも関わらずすぐに仕事に復帰したことが噂になったようだ。

 今治療しているお婆さんもそんな噂を聞きつけたみたいで、腰が痛いとベッドに横になったお婆さんに回復魔法をかけている。

「あら? もう痛みがなくなったわ。さすがは黒の聖女ちゃんね。ありがとう」

「あはは。痛くなくなったなら良かったです」

 黒の聖女というあだ名は思ってる以上に広がっているらしい。杖をつきながらゆっくり歩いていた治療前と違って、スタスタと杖なしで診察室を出て行ったお婆さんを見送った私は苦笑いを浮かべた。

 それにしても回復魔法というのは本当に万能だ。今のお婆さんの腰痛からジェイクさんのような大怪我の治療、果ては虫歯の治療までしたのだから効果の幅が広すぎる。

「次の方どうぞ」

「失礼いたします」

 廊下に向かって声をかけると診察室に綺麗な女性が入ってきた。銀のロングヘアーにキリリとしたクールな面持ち。そんな彼女はなんとメイド服姿だ。

「手首を負傷してしまったので見てもらってよろしいですか?」

 異世界だからコスプレじゃないだろうし本物のメイドさんだ。そんな感動をしていた私に女性は袖をまくって腕を見せてくれた。

 女性なら誰しも羨ましくなるような細い腕に白い肌。そんな彼女の手首はひねったのか真っ赤に腫れていた。

「痛そうですね。すぐ治します」

 魔力を解放するように回復魔法を使うと手首の腫れがどんどん引いていく。その効き目の速さに女性も驚いたように目をパチパチと瞬かせていた。

「痛みはどうですか?」

「治ったようです。噂には聞いていましたが本当に凄い回復魔法ですね」

 どうやら彼女もどこかで噂を聞いて来てくれたみたいだ。その噂はどこまで広がっているんだろう。そんなことを考えていると女性の手の甲に古傷があるのを見つけた。

「その古傷も治していいですか? 私が好きにやることなんでお代は貰いませんから」

「……できるのならお願いしたいですが」

 実はミザリア治療院にはお風呂も完備されている。浴槽に浸かっている時に私は自分の膝に古傷があるのを見つけた。小さい時に派手に転んでできた傷なのだが、試しに回復魔法を使うと綺麗に治ってしまった。

 女だしやっぱり傷はない方がいいよね。自分の膝で実証済みなので、自信を持って手の甲にある古傷に回復魔法をかけると跡形もなく消すことができた。

 いい仕事をしたと満足していると女性は手首を治した時とは比べ物にならないくらい驚いている。彼女のオバケでも見たような驚きっぷりに、私はなにかとんでもないことをしてしまった気がしてきた。

「……貴女は古くなった傷でも治せるのですか?」

「え? はい」

 現に貴女の古傷も治したじゃないですか。そう笑い飛ばそうとしたけど女性は真剣な表情で私の顔を見ている。その顔がまるで獲物を見る肉食獣のようで、美人な分迫力がありすぎて正直めちゃくちゃ怖い。

 どうしよう。アイラを呼んだ方がいいのかな。そんなことを考えていると女性がギュンッと一瞬で距離を詰めてきて私の手を取った。

「わっ! なんですか!?」

「その力を使って頂きたい方がいます。お願いできませんか?」

 痛いくらいに強く掴まれた手から女性の真剣さが伝わってくる。でも無表情のままだと怖すぎるのでお願いだから一度にこりと笑ってください。

「失礼しました。私はエルダード家に使えるミカエラと申します。一度お屋敷に来ていただいてあるじを見ていただきたいのです」

 私が若干引いていたのに気づいたのか、ミカエラさんはコホンと咳払いをしてからそんなお願いをしてきた。その頬が若干赤らんでいるので自分でも取り乱したと思っているみたいだ。

 それにしてもついに恐れていた権力者が現れたか。残念ながら私はエルダード家がどんなおうちかは知らないけど、こんな綺麗なミカエラさんが仕えてるなら良い家柄な気がする。

 これは普通なら断れない雰囲気だ。でも残念ですねミカエラさん。私は切り札を持っているのですよ。

「そうですね。院長のクリストファーの許可が出れば伺いたいと思います」

 秘技! クリストファーシールド! 完全に丸投げだけどクリストファーさんに守ってもらおう。権力者に顔が効くはずだもの。

「畏まりました。それではクリストファーさんとお話をして参りますので失礼します」

 あっ。ミカエラさんは自信ありげな気がする! 信じてますよクリストファーさん! そう願う私だったけどなんとなくダメな予感を感じていた。

 
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