7 / 18
本編
第7話 ジェイラスの生誕祭2
しおりを挟むそれからは、ジェイラスの異父妹エミリー様とも一曲踊った。
ビュッフェコーナーからドリンクを持ってきて、飲んでいたところに話しかけられたんだ。異父兄がお世話になっています、いえいえこちらこそ、お世話になっています、なーんて定形文のやりとりをしたのち、俺からダンスに誘った。
といっても、別にエミリー様と踊りたかったわけじゃない。社交辞令というか、紳士としてあるべき振る舞いをしただけだ。まぁ、あんな美人を相手にダンスを踊れたことには、悪い気はしないけど。
ともかく、その後またビュッフェコーナーからドリンクを持ってきて、乾いた喉を潤し、ほっと息をついていた時のことだ。
「ノア殿下。楽しんでいますか」
にこやかに声をかけてきたのはアイヴァン殿下だった。
「はい。アイヴァン殿下も満喫されているようで」
アイヴァン殿下はずっとダンスを踊りっぱなしだからな。リア充とはアイヴァン殿下たちのような人のことを言うんだろう。
「もうダンスのお相手はしなくてもよろしいのですか」
「しばらく休憩します。それでノア殿下とお話したいなと思いまして。よろしければ、少しテラスに出ません? 星空が綺麗そうですよ」
今の季節は初夏。空はからりと晴れていて、星見するのに悪くはない季節。
うーん、そうだな。星を眺めるのもいいかも。どうせ、俺にはもうダンスのお誘いなんてこないだろうし。何よりアイヴァン殿下とは、純粋に仲良くなりたい。
俺は笑って了承した。
「いいですよ。では、テラスに行きましょうか」
中央の踊り場からはやや離れた場所に、テラスはある。木製の扉を開き、俺たちはテラスに出た。お、本当に星空が綺麗だ。
「アイヴァン殿下がおっしゃった通り、星が綺麗ですね」
「そうですね。生誕祭にふさわしい夜空です」
俺たちは並び立って、まるで宝石箱のような星空を見上げる。前世の世界に比べたら、星の輝きがしっかりと見えて美しい。
不便な世界だけど、こういう自然の風景はいいよな。
しばらく星空を眺めていると、隣に立つアイヴァン殿下がふと呟いた。
「それにしても、すごいですね。ノア殿下は」
ん? すごいって、何がだ。
つい視線をアイヴァン殿下に向けると。
「よくそんな不細工な容姿で、ジェイラス陛下の寵愛を得られたものだ」
――ん!?
ぶ、不細工? 俺の容姿が?
平凡な容姿だっていう自覚はあるとはいえ、不細工とまでは言われたことがないんだけど……容姿がいい人から見たら、不細工のくくりに入れられるのか?
面食らう俺に対し、アイヴァン殿下はこれまでのピュアな笑顔とは正反対のどす黒い笑みを浮かべて、なおも続ける。
「どうやって寵愛を得たんです。もしかして、その汚い股でも開いて落としましたか」
「き、汚い股、って……」
いやいや、そんなことするわけないだろ! 俺はジェイラスに抱かれたくないからこそ、必死に正婿ルートから外れようと頑張っているのに!
っていうかこいつ、本当にアイヴァン殿下なのか? 今までの無邪気そうなキャラはどこにいったんだよ。天然ものじゃなくて、養殖ものだったってこと?
なんにせよ……こんな失礼な物言いをされて黙っていられるか!
俺はにこっと笑みを作った。
「あはは、怖い、怖い。せっかくの可愛らしいお顔が台無しですよ。性格が顔に出るとは本当のようですね。今のアイヴァン殿下のお顔、すっごく醜いですよ。ジェイラス陛下が見たら、どんな顔をするんでしょうねぇ」
まっ、あいつは今挨拶回りをしているから、テラスに顔を出すわけがないけど。
「そんな腐った性格だから、ジェイラス陛下に……」
バシャッ!
言い終わる前に冷たい液体が顔面に飛んできた。アイヴァン殿下……いや、アイヴァンがドリンクをぶっかけてきたのだと、一拍置いて気付いた。
顔面を濡らした俺を見て、アイヴァンは挑発するように笑う。
「ふっ、あはは! これが魔法の薬だったら、その不細工な顔面が美しく変わったかもしれないのに残念ですね、ノア殿下」
俺は頬肉をひくひくと引き攣らせた。こ、この野郎……!
俺もやり返したかったけど、生憎ドリンクを飲み干してしまっていてできない。せめてもの抵抗で睨みつけたけど、こんな相手じゃ効果なんてないだろうな。
っていうか、お前は悪役令息ならぬ悪役側婿か!
「生意気なんだよ。不細工で、それも平民出身の分際で。目障りだから消え……」
「――おい。何をしている」
聞き慣れた声が響いて、俺もアイヴァンもはっとしてテラスの出入り口を見た。するとそこには、――険しい顔をしたジェイラスが立っているじゃないか。
え、挨拶回りをしていたんじゃなかったのかよ。いや、っていうか、この状況……やばくないか? な、なんか嫌な予感が――。
「何をしていると聞いている、アイヴァン」
地を這うような低い声で問いただされたアイヴァンは、顔面蒼白だ。こいつの計算じゃ、まさかジェイラスに目撃されるとは思わなかったんだろう。それは俺も同じだけども。
「あ、え、えっと……」
「答えろ。今、ノアに何をした。虚偽を申すのは不敬とみなすぞ」
厳しい声で言われて、アイヴァンはさっきまでの勢いなんてどこかに消え、声を震わせながら白状した。
「……そ、その、ドリンクをノア殿下のお顔に……ぶちまけまし、た」
「何故そのようなことをした」
「ジェ、ジェイラス陛下のご寵愛を受けていることに嫉妬してしまって……」
「そうか」
ジェイラスはしばし沈黙したのち、冷たい目をアイヴァンに向けた。
「アイヴァン・オールポート。後宮の秩序を乱した罪で、後宮追放処分と科す。今週中に荷物をまとめて黄薔薇宮を出ていけ」
げげっ!? マジ!?
こいつには代わりに正婿になってもらう予定だったのに! 身代わりになってくれたら、ドリンクをぶっかけられたことだって水に流したのに!
嫌がらせするならバレないようにしてこいよ、このマヌケ! 貴重な正婿候補者だったのに勝手に自爆するんじゃねぇええええ!
心中で悪態をつきまくる俺とは裏腹に、アイヴァンは茫然と立ち尽くしていた。後宮追放処分ということは、つまり正婿争いから外されたことを意味する。実家の期待を背負い、猫を被って、必死に正婿の座を掴もうとしていただろうに……ご愁傷様です。
36
お気に入りに追加
647
あなたにおすすめの小説
捨てられオメガの幸せは
ホロロン
BL
家族に愛されていると思っていたが実はそうではない事実を知ってもなお家族と仲良くしたいがためにずっと好きだった人と喧嘩別れしてしまった。
幸せになれると思ったのに…番になる前に捨てられて行き場をなくした時に会ったのは、あの大好きな彼だった。
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。
柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。
頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。
誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。
さくっと読める短編です。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
英雄の恋人(♂)を庇って死ぬモブキャラですが死にたくないので庇いませんでした
月歌(ツキウタ)
BL
自分が適当に書いたBL小説に転生してしまった男の話。男しか存在しないBL本の異世界に転生したモブキャラの俺。英雄の恋人(♂)である弟を庇って死ぬ運命だったけど、死にたくないから庇いませんでした。
(*´∀`)♪『嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す』の孕み子設定使ってますが、世界線は繋がりなしです。魔法あり、男性妊娠ありの世界です(*´∀`)♪
【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした
エウラ
BL
どうしてこうなったのか。
僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。
なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい?
孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。
僕、頑張って大きくなって恩返しするからね!
天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。
突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。
不定期投稿です。
本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。
愛されなかった俺の転生先は激重執着ヤンデレ兄達のもと
糖 溺病
BL
目が覚めると、そこは異世界。
前世で何度も夢に見た異世界生活、今度こそエンジョイしてみせる!ってあれ?なんか俺、転生早々監禁されてね!?
「俺は異世界でエンジョイライフを送るんだぁー!」
激重執着ヤンデレ兄達にトロトロのベタベタに溺愛されるファンタジー物語。
注※微エロ、エロエロ
・初めはそんなエロくないです。
・初心者注意
・ちょいちょい細かな訂正入ります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる