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第33話 ハヴィシオンからの使者1

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「わぁ、花婿衣装も色々あるんだな」

 今、俺の目の前に飾られている花婿衣装は、純白の祭服のような……うーん、なんて表現したらいいのかな。なんていうか、RPGの聖女が着ていそうなデザインの衣服だ。あ、修道女服って言った方が、分かりやすいか。
 リフォルジアでは男同士が結婚式を挙げる場合、二人ともごく一般的な花婿衣装を着てもいいんだけど、片方は俺が今見ているような花婿衣装を着るのが一般的なんだ。見た目の華やかさを考えての慣習かもしれない。
 かつて国王陛下の側婿だった俺だけど、リフォルジアでは国王は正婿との結婚式しか挙げないしきたりだから、俺はまだ誰とも挙式したことがない。
 というわけで、秋に結婚式を挙げないかとローレンスが言ってくれて、今、二人で花婿衣装を眺めているというわけだった。

「リアムにはよく似合いそうだな」
「そ、そうかな?」
「ああ。天使のようになりそうだ」

 嬉しいけど……天使って、無駄にハードル上げるなよ。まぁ確かに、金髪碧眼の容貌で純白の服を着たら、天使っぽい雰囲気になりそうではあるけど。こう、色合い的にさ。『リアム・アーノルド』はそれなりに美男子でもあるし。
 だけど、よくさらっとそんなことを言えちゃうもんだよ。

「……ありがとう。ローレンスもきっと、あっちの花婿衣装が似合うよ」
「どうだろうな。俺は銀髪だから、雪だるまみたいになりそうな気がするが」

 俺は吹き出してしまった。雪だるまって。たとえがちょっと可愛いな。

「そんなことないよ。銀色と白は違うし。それに空色の瞳がよく映えると思う」
「だといいが。いい結婚式にしような」
「うん」

 とりあえずお店を出て、俺たちは手を繋いで道を歩く。雪はすっかり解けていて、もうすっかり春だ。道端に野草がひょっこり顔を出している。
 そうそう、先週、正婿殿下がお子を産んだよ。予定より早かったらしいけど、元気な男児だったらしい。おめでたいことだ。そんなわけだから、街中も祝福ムード。
 俺は隣を歩くローレンスをちらりと見上げた。
 俺たちもいつかは……子供を授かるのかな。ローレンスも以前、俺に子供はほしいかって聞いてきたくらいだから、きっとほしいんだろうし。
 でも、不思議なことに、ローレンスって俺が発情期の日は抱かないんだよな。想いを通じ合わせてからも、だ。リフォルジアには発情を抑える抑制剤があって、俺はそれを服用しているから、抱かれずに苦しい、なんて思いはしていないけど。
 今はまだ新婚気分を味わいたいってことかなぁ? 本人に聞けばいいんだろうけど、俺もまだ子供がほしいかどうかはよく分かっていないし、なんとなく気恥ずかしくて聞けない。
 俺の視線に気付いたらしく、ローレンスが不思議そうに俺を見た。

「どうした」
「あ、えーっと……今夜の俺の誕生日パーティー、ローレンスは何をくれるのかな、なーんて思って」

 そう、実は今日、俺の二十歳の誕生日。だから、ローレンスは休日をとってくれて、こうして街デートをしているところ。
 誤魔化してそう言っただけだったけど、口にしてみると確かにちょっと気になる。昨年は結婚指輪で、今年は……なんだろう。ローレンスのことだから、何かしら用意してくれていると思うんだけど。
 ローレンスはふっと優しげに笑った。

「それは今夜のお楽しみだ」
「ちぇっ」
「昼食はどこで食べる? 食べたいものはあるか」
「あ、それならパンケーキが食べたいな。いいお店、知ってるんだ」

 以前、宝石強盗犯たちが立てこもりした、例のパンケーキ屋さんのことだ。是非ともローレンスにも、あのパンケーキのおいしさを味わってもらいたい。
 そういえば、あの時の宝石強盗犯たち……ローレンスから聞いた話によると、隣国ハヴィシオンの民だったらしい。どうして隣国まできて宝石強盗をしたのかまでは、守秘義務でもあるのか教えてもらえなかったけど。
 犯した罪を擁護することはできないけど、でもあいつらのおかげで俺はローレンスへの想いを自覚できたわけだから、ちょっとは感謝していたりする。ちゃんと罪を償って真っ当に生きてもらいたいもんだ。
 まっ、今はそれよりも。ローレンスとの時間を楽しまなきゃな。今日は俺もボランティアはお休みだから、久しぶりに丸一日ローレンスと一緒にいられるんだ。昨日の夜から、うきうきだったよ。
 そうして、日中は街デートを楽しみ、夕方からはみんなに誕生日パーティーを開いてもらって、夜は……まぁ、お察しの通り。寝台でイチャイチャしました。
 ちなみに、ローレンスからの誕生日プレゼントは、高価そうな羽ペンだった。ボランティア先で使うだろう、と気を利かせてくれたみたいだ。大切に使わせてもらおう。
 ローレンスの誕生日はまだまだ先だけど、ローレンスには何を贈ろうかな。
 翌日の夕方、そんなことを考えながら、家庭菜園に水をやるべく家の前に出た時だった。道に人が倒れていて、俺は仰天した。

「ちょっ――大丈夫ですか!?」

 救急車……は、この世界観にはまだないし。家の中に戻ってオリビアさんに事情を話し、俺は街医者を呼びに行くべきだろうか。
 ぱっと見た限り、怪我をしている様子はない。となると、体調が悪いのか。

「俺の声、聞こえますか!?」
「…………った」
「え!?」
「腹、減った……」

 切実な訴えに、俺はぽかんとする他なかった。

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