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第五章 決着の時

48.呼び出し

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「お嬢さま~~!! 本当にご無事で良かったです!!」

 シルビアと抱き合って再会を喜ぶ。

「奥さま、お帰りなさいませ」

 ジールも丁寧に礼をとってくれた。
 使用人たち総出で出迎えてくれ、温かい言葉をかけてくれた。ありがたくて涙がでそうになった。同時に強く感じた。

 私の居場所はここなのだと。
 
 屋敷の中に入り、温かい紅茶を飲む。

「グレン様がお留守の間、マリアンヌ様が何度か訪ねて来られました」

 ジールからの報告を聞き、こめかみがピクリと反応した。
 私がいない間にグレンに接近しようとしたのだ。だがすぐにクロード船長からグレンに報告がいき、私を迎えに出たので行き違いになったのだろう。

「グレン、後日私が要件を聞いてきます」

 ゆっくりと静かに口を開く。

 そう、妹とは、はっきりと決着をつけるわ。

 グレンは私をジッと見ていたが、特になにも言わなかった。


 ******
 
「シルビア、これを出してきて欲しいの」
「はい、わかりました」

 屋敷に戻って一息ついたあと、私は手紙を書いた。宛先はマリアンヌ。
 今度は二人っきりになることはしない。この屋敷に招き入れるのも嫌だった。
 なので、人目のあるところで会うことにした。ケルトン街にある、有名なスイーツのお店。 
 ここならいつもにぎわっているので、下手に騒ぐことはしないだろう。

 そして約束した三日後。グレンにはシルビアと街へ行くと告げると、特に怪しまれることもなく、送り出してくれた。

 店内は人気店なだけあって、混雑していた。予約を入れておいて正解だった。
 窓際の席に案内された。ここならあまり人に会話が聞こえることはない。 
 シルビアにはマリアンヌと会い、姉妹で話がしたいと告げ、それまで街で自由にしていて欲しいとお金を手渡した。この店の焼き菓子はシルビアも好きだったはず。おみやげにしよう。
 
 それにしても遅いわね。

 マリアンヌはお金にもルーズだが、時間にもだ。
 昔から口うるさく言ってもなおらないところで、迷惑をかけられてばかり。
 
 だが、もう今後、迷惑をかけられることはないだろう。
 彼女の態度次第では疎遠も視野に入れている。
 あれだけのことをして、悪びれもない態度を取ったら、さすがに見切る。
 フウッと一息ついて顔を上げる。

「お姉さま」

 ――来たわね。

 聞きなれた声に反応し、ゆっくりと振り返る。

「マリアンヌ」

 彼女は遅刻してきたことへの謝罪もなかった。なにくわぬ顔でスッと席に座ると給仕を呼んだ。

「私にも紅茶を。それにお姉さまも、もう一杯いかが?」
「ええ、いただくわ」
「あとはこの店のお勧めのスイーツを全種類持ってきてちょうだい」
「マリアンヌ、それは食べきれないでしょう?」
「いいのよ。せっかく来たのだから、一口ずつでも味わいたいじゃない」

 悪びれもしないこの子は、やはり変わらない。
 いくら客といって、作り手のことは考えない。それにこの店の支払いだって、私が払って当然だと考えている。
 
 マリアンヌに対する怒りを燃やしていると、

「ちょっと、それ。マダム・マドランのデザインじゃない!?」

 急にマリアンヌが前のめりになった。指差した先は私のドレス。

「ええ。カリフの街から帰ってきたばかりなのでね。グレンが贈ってくれたのよ」

 マリアンヌは口を尖らせた。

「どうせ私に見せつけるために呼びつけたんでしょう?」

 あきれて言葉もでないとは、このことだ。

「マリアンヌ。ドレスよりも、私になにか言うことがあるんじゃないの」

 毅然とした態度を崩さず、はっきり言い切った。ここはうやむやにしない。
 大勢の人に迷惑をかけたのだから。

 さすがにマリアンヌはグッと押し黙った。少しは反省しているのか。どうなのだろう。彼女の態度と仕草をジッと観察する。

「船に閉じ込めて、もし私が戻ってこなかったら、どうするつもり?」
「で、でもこうやって戻ってきたから、いいじゃない」
「いいえ、よくないわ」

 怒っていたが、口調は冷静だった。

「あの場所で誰にも気づかれずに数日過ぎていたら? 私が危険な状態になったとは思わないの?」
「そ、それは――」
「船員たちが皆、良い人とは限らないわ。そんな中に女性を一人だけ閉じ込めるなんて、最悪な事態も想像できるでしょう」

 本当、皆がいい人たちだったのは、クロード船長のおかげだろう。

「なにかあったら、許さなかったと思うわ。――グレンが」

 その名を出した時、マリアンヌが表情を強張らせた。

 重苦しい空気が流れた時、紅茶と焼き菓子が運ばれてきた。

「まずは、紅茶をいただきましょう。お姉さま、落ち着いたほうがいいわ」

 あなたがそれを言える立場なのかと、問い詰めたくなる。ティーポットに入った茶葉の香りがフッと漂い、少しだけ冷静を取り戻す。

「私が淹れるわ」

 珍しいことがあるものだ。私が家にいたときは、絶対に自分から動くことなどなかったくせに。
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