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第一章 これは政略結婚
8.届けられた贈り物
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屋敷に戻ると家族総出の出迎えをうけた。
「おおルシナ!! 無事に帰ってきたか!!」
先頭にいた父を押しのけるようにして、マリアンヌがグイッと前に出てきた。続いて義母も。
「どうだった!? お姉さま!? 相手は醜男だった?」
「無事に相手に会えたの? その割には帰ってくるのが早かったじゃない」
帰ってくるなり質問攻めだ。
「ただいま帰りました。無事にお相手のグレン・フォルカー様には会えましたわ」
私はそこで淡々と述べた。
「グレン様は二十二歳で素敵な方でした。口数が少なかったのですが、まずは最初ですので仕方ないかもしれません。お忙しいようでしたので、すぐ帰ってきましたわ」
「えっ、そんなに若い方だったの? てっきりお父さまぐらいかと思っていたわ」
マリアンヌ、残念そうな声を出すが、なにを期待していたの。それに、私に隠そうともしないのね。
「でもいくら素敵でも平民ではねぇ……。私なら絶対にごめんだわ」
「そうよ、マリアンヌの縁談だったら、断固として許さなかったわ」
はいはい、もうこの人たちの相手をするのも疲れた。
「もういいですか? ちょっと疲れたので自室に戻りますね」
まだ嫌味をいいたそうな二人を残し、部屋に戻った。
「お帰りなさいませ、お嬢さま」
ちょうどベッドメイキングをしていたシルビアの顔を見ると、緊張の糸が切れた。
「ただいま、シルビア」
そのままソファに身を投げ出した。
「大丈夫ですか? お嬢さま? そんなに縁談の件はショックなお相手でしたか?」
あわあわと慌てだすシルビアに首を振る。
「金髪に深い青の瞳。手足も長くて背も高い。人目を惹く容姿の二十二歳」
「おおっ、良かったじゃないですか!!」
シルビアはパチパチと手を叩く。
「手入れされた庭園に、我が家の三倍ぐらい広いお屋敷。家具も調度品もすべてが一流品」
「素晴らしい!! お金持ち、最高です!!」
シルビアは興奮して拳を突き上げた。
「でもね、まったく会話が続かないわ」
「……て、照れていらっしゃるのではないでしょうか?」
シルビアも返答に困り、言葉に詰まった。
「ううん。私にちっとも興味がないようだったわ。そう思ったら、なんだかちょっと悲しくなってね。私、知らず知らずのうちに、心のどこかで期待していたみたいね」
私のことが好きで、ぜひ結婚したいだなんて、そんな夢物語。あるわけがなかった。やはり現実は厳しい。
クスッと自嘲気味に笑う。
「でも、結婚したらシルビアも連れて来ていいと約束したの!! アルベール家にいるよりはずっといいはずよ」
そうだ、没落して住む屋敷もなくなる前に手を打たないと。
「はい、お嬢さま。私はどこへでもついていきますよ!!」
「ふふ。よろしくね」
シルビアの言葉は素直に嬉しかった。
******
「お、お嬢さま、お荷物が届いております」
翌日、部屋で本を読んでいるとシルビアから声をかけられてフッと顔を上げた。
変なシルビア。荷物というけれど、なにも手にしていないじゃない。
思わず笑ってしまう。
「まあ、あなた。荷物をどこへ置いてきたの?」
ちょっとそそっかしいところのある彼女のことだから、どこかへ忘れてきたのだろうか。
「違うのです、お嬢さま。ついてきてください」
慌てている様子のシルビアのあとをついて、一室に入る。
そこに広がる光景に息をのむ。
「すごいですよ、これすべてお嬢さまへの贈り物だそうです」
丁寧に包まれた贈り物の山が広がっていた。大小ある包の中には何が入っているのだろう。
「差出人はどなた?」
「グレン・フォルカー様とうかがっております」
いきなり送り付けられた大量の贈り物。正直、嬉しいというより困惑して立ち尽くした。
「お嬢さま、贈り物を開けてみますか?」
「そうね、お願いするわ」
ウキウキしているシルビアは早速開封にかかる。
「お嬢さま、こちらは素敵なドレスですわ。それも何着も」
トレーンの美しい流行りのドレスや、上品な色合いのドレス。さまざまな形が揃っている。
「こちらは帽子です。なんて優雅なデザインなのでしょうか」
シルビアははしゃぎながら開封を続ける。
「素晴らしい輝きのネックレスと髪飾りですわ」
シルビアが見せた装飾品はまぶしいぐらい輝いていた。
これは宝石というものでは……。
そこからも、装飾品が多数でてきて、目まいがしそう。
「高価な物ばかり……」
いったいどういう意味かしら。
昨日の今日での贈り物攻撃に困惑していたが、ハッと気づく。
昨日お会いした時のドレスは確かに最新の物ではなかったが、少しでも綺麗に見せようとコサージュをつけたりと、シルビアが頑張ってくれた。
でも昔のデザインだと気づかれたかしら。
だからこそ今後はこれらを身に着けて、俺に恥をかかせるな、って意味かしら。
「もしかして、私、あまりにも貧乏くさい格好をしていたから、憐れまれたのかしら?」
「そんなわけないですよ!!」
シルビアがクワッと口を大きく開け、反論する。
「これだけの贈り物、一日で用意できると思いません。きっと前から準備していたのではないでしょうか?」
確かにシルビアの言うことはもっともだ。だけど前から準備していたようにも思えない。
私は頭を悩ませた。
「それにドレスはお嬢さまのサイズにピッタリだと思います。ということは、前々からお嬢さまを知っていて、計画していたのではないですか?」
でも私は彼と、初対面だったと思うの。
返答しようとした時、深い青い瞳をこちらにジッと向けているグレンの顔が脳裏に浮かぶ。
なにか言いたいことをグッとこらえているような、そんな印象。
「えっ、なにこの数!!」
考え込んでいると、マリアンヌの大きな声で我に返った。
「おおルシナ!! 無事に帰ってきたか!!」
先頭にいた父を押しのけるようにして、マリアンヌがグイッと前に出てきた。続いて義母も。
「どうだった!? お姉さま!? 相手は醜男だった?」
「無事に相手に会えたの? その割には帰ってくるのが早かったじゃない」
帰ってくるなり質問攻めだ。
「ただいま帰りました。無事にお相手のグレン・フォルカー様には会えましたわ」
私はそこで淡々と述べた。
「グレン様は二十二歳で素敵な方でした。口数が少なかったのですが、まずは最初ですので仕方ないかもしれません。お忙しいようでしたので、すぐ帰ってきましたわ」
「えっ、そんなに若い方だったの? てっきりお父さまぐらいかと思っていたわ」
マリアンヌ、残念そうな声を出すが、なにを期待していたの。それに、私に隠そうともしないのね。
「でもいくら素敵でも平民ではねぇ……。私なら絶対にごめんだわ」
「そうよ、マリアンヌの縁談だったら、断固として許さなかったわ」
はいはい、もうこの人たちの相手をするのも疲れた。
「もういいですか? ちょっと疲れたので自室に戻りますね」
まだ嫌味をいいたそうな二人を残し、部屋に戻った。
「お帰りなさいませ、お嬢さま」
ちょうどベッドメイキングをしていたシルビアの顔を見ると、緊張の糸が切れた。
「ただいま、シルビア」
そのままソファに身を投げ出した。
「大丈夫ですか? お嬢さま? そんなに縁談の件はショックなお相手でしたか?」
あわあわと慌てだすシルビアに首を振る。
「金髪に深い青の瞳。手足も長くて背も高い。人目を惹く容姿の二十二歳」
「おおっ、良かったじゃないですか!!」
シルビアはパチパチと手を叩く。
「手入れされた庭園に、我が家の三倍ぐらい広いお屋敷。家具も調度品もすべてが一流品」
「素晴らしい!! お金持ち、最高です!!」
シルビアは興奮して拳を突き上げた。
「でもね、まったく会話が続かないわ」
「……て、照れていらっしゃるのではないでしょうか?」
シルビアも返答に困り、言葉に詰まった。
「ううん。私にちっとも興味がないようだったわ。そう思ったら、なんだかちょっと悲しくなってね。私、知らず知らずのうちに、心のどこかで期待していたみたいね」
私のことが好きで、ぜひ結婚したいだなんて、そんな夢物語。あるわけがなかった。やはり現実は厳しい。
クスッと自嘲気味に笑う。
「でも、結婚したらシルビアも連れて来ていいと約束したの!! アルベール家にいるよりはずっといいはずよ」
そうだ、没落して住む屋敷もなくなる前に手を打たないと。
「はい、お嬢さま。私はどこへでもついていきますよ!!」
「ふふ。よろしくね」
シルビアの言葉は素直に嬉しかった。
******
「お、お嬢さま、お荷物が届いております」
翌日、部屋で本を読んでいるとシルビアから声をかけられてフッと顔を上げた。
変なシルビア。荷物というけれど、なにも手にしていないじゃない。
思わず笑ってしまう。
「まあ、あなた。荷物をどこへ置いてきたの?」
ちょっとそそっかしいところのある彼女のことだから、どこかへ忘れてきたのだろうか。
「違うのです、お嬢さま。ついてきてください」
慌てている様子のシルビアのあとをついて、一室に入る。
そこに広がる光景に息をのむ。
「すごいですよ、これすべてお嬢さまへの贈り物だそうです」
丁寧に包まれた贈り物の山が広がっていた。大小ある包の中には何が入っているのだろう。
「差出人はどなた?」
「グレン・フォルカー様とうかがっております」
いきなり送り付けられた大量の贈り物。正直、嬉しいというより困惑して立ち尽くした。
「お嬢さま、贈り物を開けてみますか?」
「そうね、お願いするわ」
ウキウキしているシルビアは早速開封にかかる。
「お嬢さま、こちらは素敵なドレスですわ。それも何着も」
トレーンの美しい流行りのドレスや、上品な色合いのドレス。さまざまな形が揃っている。
「こちらは帽子です。なんて優雅なデザインなのでしょうか」
シルビアははしゃぎながら開封を続ける。
「素晴らしい輝きのネックレスと髪飾りですわ」
シルビアが見せた装飾品はまぶしいぐらい輝いていた。
これは宝石というものでは……。
そこからも、装飾品が多数でてきて、目まいがしそう。
「高価な物ばかり……」
いったいどういう意味かしら。
昨日の今日での贈り物攻撃に困惑していたが、ハッと気づく。
昨日お会いした時のドレスは確かに最新の物ではなかったが、少しでも綺麗に見せようとコサージュをつけたりと、シルビアが頑張ってくれた。
でも昔のデザインだと気づかれたかしら。
だからこそ今後はこれらを身に着けて、俺に恥をかかせるな、って意味かしら。
「もしかして、私、あまりにも貧乏くさい格好をしていたから、憐れまれたのかしら?」
「そんなわけないですよ!!」
シルビアがクワッと口を大きく開け、反論する。
「これだけの贈り物、一日で用意できると思いません。きっと前から準備していたのではないでしょうか?」
確かにシルビアの言うことはもっともだ。だけど前から準備していたようにも思えない。
私は頭を悩ませた。
「それにドレスはお嬢さまのサイズにピッタリだと思います。ということは、前々からお嬢さまを知っていて、計画していたのではないですか?」
でも私は彼と、初対面だったと思うの。
返答しようとした時、深い青い瞳をこちらにジッと向けているグレンの顔が脳裏に浮かぶ。
なにか言いたいことをグッとこらえているような、そんな印象。
「えっ、なにこの数!!」
考え込んでいると、マリアンヌの大きな声で我に返った。
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