60 / 64
第七章 LITTLE BUSTERS
#60 螺旋の救世者
しおりを挟む
最初に攻撃を仕掛けたのは、
やはり真神正義だった。
馬鹿正直に。
ただ真っ直ぐ。
ガムシャラに、突っ込んでいく。
相変わらずの単調な右ストレート。
数々の戦場を渡り歩いた黒十字の経験則は、すべてその瞳に濃縮され、セイギの動きを完全に捉えきる。
普段ならば、避けることなど造作もない、他愛もない一撃だ。
しかし。
それ以上に。
(――― 身体が、動かないっ)
鉄拳が炸裂する。
四国王との激戦によるダメージが、黒十字の身体を鈍重に拘束する。
そのチャンスをセイギが逃すはずもなく、二撃目を繰り出そうと左拳を振り上げる。
だがその瞬間を、黒十字は待ち構えていた。
眼は追える。
動作は緩慢。
故に回避は不可能。
ならば、迎え撃つ 。
―――― 零距離軍式格闘術!!
セイギが追撃を繰り出した瞬間。
その攻撃を黒十字は最小限の動きで華麗に受け流し、お互いの鼻先が直面しようとする超至近距離まで急激に接近。
頭突き、両肘、両肩、両膝。複数の打撃が瞬時に、セイギの肉体に叩き込まれる。
それはさながら散弾銃。
手応えあり。
だからこそ、黒十字は確信する。
現状。
素手による攻撃手段は、
真神正義には通用しない。
(なんという防御力――― ッッ)
たしかに四国王との戦闘は、想像以上に自身の体力を削っている。
だがそれ以上に。
セイギの戦闘能力は明らかに常軌を逸脱している。
戦慄する黒十字。
だが一方、セイギもまた同様だった。
「うおっ!?」
零距離軍式格闘術のダメージは我慢ができる許容の範囲。
だが、予想外の敵の動きに思わず驚愕。
反射的に後方へ跳び、必要以上にセイギは間合いを開いてしまう。
「……… サッカーは、お好きかな?」
それが、仇となった。
刹那、黒十字は手のひらに霊力を集中させる。
それは見る見るうちに形を成していき、サッカーボールくらいの球体に変形。
そして、蹴り飛ばす。
「!?」
蹴球はセイギの腹部に直撃し、破裂する。
紅狼に撃ち込まれた『爆喰花』の傷痕は、まだまだ未完治。
その傷口が開いてしまう。
声にならない悲鳴を挙げるセイギ。
だが、黒十字の追撃は止まらない。
【大魔天開闢ゲートオブリベリオン】を用いて、二体の悪魔を同時召喚。
二体の異形は奇声をあげながら、すぐさま真神正義に襲いかかる。
◇◇◇
『幼年期の終わり』というSF小説がある。
著者はSF作家三巨匠がひとり・アーサー=C=クラーク。
この作品は、『文明の限界』と『進化の先に在る結末』を描いた物語であり、最終的に地球はガイア理論が提唱する『超個体』から、高次元の単一生命・『統一体』へと進化する。
『人類補完計画』と説明すれば、
日本人にわかりやすいだろうか?
つまり、唯一神の最終目標は地球統一体への進化。
三位一体とは、
その前準備だったというワケである。
伊邪那美命は語る。
三位一体を行うことで、四国地方は崩壊し、いわば四国統一体という新生命が誕生する。
四国統一体は、つまるところ屍國統一体。
死で構築された高次元の単一生命。
屍國統一体は、その力を用いて集合無意識経由で地球上の全生命を死滅させ、大いなる混沌が支配していた暗黒の惑星へと回帰させる。
人々はすべての死の『閉ざされた領域』の集合体・『約束の地』にて、誰も孤独にならず、静かに暮らしていくことができるという。
地球の化身ホメヲスタシスは語る。
三位一体により、四国統一体となった暁には、集合無意識の管理者権限を取り戻し、黒十字と共に、現在の地球文明を破壊。
地球の化身の裁定の下、人類の選別を行い、選ばれし者だけの新世界を築き上げる。
そして、星詠みの巫女・フォーチュンには新世界の母として、終焉者・リヒト=モルゲンシュテルンと婚約。
その子孫繁栄に努めてもらう、と。
どちらに転ぼうとも三位一体が成立すれば、現人類の大虐殺は確定不可避。
そんな身勝手な二柱の神格に板挟みにされ、星詠みの巫女フォーチュンは憤りを募らせる。
そして―――
「むきゅぅ~~~!ビークワイエットっ!!
ゴチャゴチャとうるさいんですのォーーーーーーッッ」
まじ卍。お姫さまブチ切れである。
そんな彼女の意外な一面に地球の化身と伊邪那美命は呆気にとられて、思わず押し黙る。
「踊る阿呆に観る阿呆。同じ阿呆なら踊らにゃ損損」
不意に彼女は口ずさむ。
それは阿波踊りの一節。
「踊る阿呆は、螺旋の救世者……… 」
それは、勇気を授かるおまじないだ。
吹っ切れたフォーチュンは、徳島で出逢った少年・真神正義を想起する。
「現代魔術の祖・アレイスター=クロウリー氏は、エジプト神話の神々の名を引用して、三つの時代区分を提唱しました。
多種多様な神々が混在する時代・イシスの時代。
唯一神が支配する時代・オシリスの時代。
そして、人類が新たなる真我に目覚め、神々に成り代わる新しい時代・ホルスの時代………」
それは、神との決別。
グノーシス主義。聖十字教への背信行為。
最早神様という存在が信じられなくなった彼女が、信じられるのはただひとつ。
螺旋の救世者、ただ一択。
「だったらわたくしたち人類は、貴方様方の『三位一体』をぶち破らせていただきますのっ!」
◇◇◇
■霊匣/開放
起源/螺旋 出力全開
霊力の超過動と共に、魂の存在証明・起源が解放される。
全身を渦巻く霊力が、燃焼。
エメラルドグリーンに発光する。
「螺旋――― 」
□起源/展開
右脚部/集中 出力固定
霊力組成破壊エネルギーが右足に集束していき、迸る。
「聖廻………剣ァァーーーーっ」
上段回し蹴り。
瞬く間に襲いかかってきた二体の悪魔は、霧散する。
「覚醒者ッッ!?」
黒十字が叫ぶ。
それに呼応するかのように真神正義が再度、懐に飛び込んでくる。
「螺旋―――― 」
□起源/展開
右腕部/集中 出力固定
今度は、右拳に霊力組成破壊エネルギーが装填される。
それに対して、
黒十字は、
▽エヴァグリオスの八つの想念
七つの枢要悪の根源にして すべての上位
身に纏うは 滅びへの綻び
みるみるうちに、霊力で編み上げられた黒い鎧・傲慢黒鎧を再度、身に纏う。
「神撃槍ゥーーーーッッ!」
セイギの叫びと共に、渾身の右ストレートが飛んでくる。
その動きを捉え、黒十字は再び迎撃を開始する。
―――零距離軍式格闘術 。
螺旋を帯びた右拳と、
黒い鎧が交錯し、火花を散らす。
黒十字は、
再び攻撃を受け流し、超速の連撃を出力しようとする。
――― 筈だった。
□起源/展開
右腕部/集中 出力制御/解除
刹那、固定されていた螺旋の力は制御を失い、留まっていたエネルギーが小爆発を起こす。
それは、擬似発勁とでも名付けるべきか?
イメージは、紅狼の『爆喰花』。
見様見真似。
小手先以下の、
付け焼き刃にすぎない稚拙な技術。
だがこの刹那に限り、効果は絶大だった。
「!!?」
零距離軍式格闘術が、その衝撃で崩される。
体勢はガラ空き。
黒十字は眼を見開く。
「螺旋―――― 」
□起源/展開
右脚部/集中 出力固定
「聖廻剣ァァーーーーっ」
右回し蹴りの軌道を、エメラルドグリーンの輝きが描く。
その蹴撃は、
傲慢という名の鎧を切り裂き、
完膚なきまでに粉砕する。
(この僕が、敗ける――― )
天を仰ぎながら、黒十字は眼孔を剥き出す。
最大の難関・四国王を越えたというのに、目の前に迫る名もなき少年によって、自身の野望が今、ぶち破られようとしている。
(そんなことがあってたまるかっ!?)
堪えきる黒十字。
彼は憤り、その精神力だけで戦場に立っていた。
もうすぐだ。もうすぐなんだ……… 。
度重なる敗北の果てに、やっと届く距離に、今―――
「敗けるわけにはいかないんだっ……… 」
目に映るのは、
自らが手にかけた死にゆくステラ=マリスの姿。
黒十字は唐突に、自身の上着を破り捨てる。
彼の背に刻まれるは、黄金のケルト十字。
その瞳に今、再度闘志が宿る。
「――― 僕は、自由という名の十字架を背負う」
▽明けの明星 氷地獄に囚われし美しき大罪者よ
おまえは地に投げ落とされた
瞬間、黒十字の肉体がみるみるうちに変換されてゆく。
もはや新規の召喚物すら維持する余力のない彼は、その肉体を依り代に集合無意識よりフィードバックされた神格の霊的情報をその身に纏う。
白い長髪。白い肉体。黄金の瞳。四対の漆黒の翼。頭上に浮かぶ黒く燃えた輪。
その姿は堕天使たちの王にして、唯一神への反逆者。
――― 降臨、堕天使ルシファ
堕天黒十字は、自身が現状制御できる最大許容量の霊力を邪悪逆樹から抽出。
そのすべてを放出し、頭上に両手を伸ばす。
放出された霊力は手のひらの先に勢いよく集束。禍々しくも激しい、凶悪な輝きを放つ。
「――― 黒魔天陽」
黒い太陽。
全長6メートルはあろう圧縮された高密度のエネルギー体は、そんな形容をしていた。
「螺旋――― 」
□起源/展開
両脚部/集中 出力固定 全力全開大解放
対する真神正義は、静かに堕天黒十字を見据えながら、ゆっくりと構える。
両足に回転エネルギーが発生。
瞬く間にそれらはエメラルドグリーンに輝きだす。
黒い太陽が放たれる。
地面を抉りながら一直線に、セイギに向かって直進する。
対するセイギもまた、おもむろに黒い太陽に向かって走り出す。
そして。
煌々と眩い光源を前に、跳躍。
「破界鎚ゥゥーーーーっ」
ドロップキック。
黒魔太陽と衝突し、両者拮抗する。
凄まじいエネルギーの奔流と摩擦音が炸裂する。
「うおおおおおおおおおおおおぉーーーーーーーっっ」
両者ともに雄叫びをあげる。
そして。
破砕音とともに。
黒魔天陽が、
まるで割れた硝子細工のように、
勢いよく破砕する。
霊力組成破壊。
真神正義が、黒い太陽を貫通したのだ。
堕天黒十字は眼を見開く。
その金色の瞳には、迫りくるエメラルドグリーンの輝きが無情にも焼き付ける。
クリティカルヒット。強烈な推進力と突貫力が堕天黒十字に大衝突。
(……… ステ、ラ)
螺旋による霊力組成破壊によって、堕天黒十字の変身は強制的に紐解かれていく。
敗北したリヒト=モルゲンシュテルンは、その瞳に映る過去の虚像へと手を伸ばした。
だが当然、その手はなにも掴むことはなく、その意識は泡沫のように深い闇の中へと消えていく。
やはり真神正義だった。
馬鹿正直に。
ただ真っ直ぐ。
ガムシャラに、突っ込んでいく。
相変わらずの単調な右ストレート。
数々の戦場を渡り歩いた黒十字の経験則は、すべてその瞳に濃縮され、セイギの動きを完全に捉えきる。
普段ならば、避けることなど造作もない、他愛もない一撃だ。
しかし。
それ以上に。
(――― 身体が、動かないっ)
鉄拳が炸裂する。
四国王との激戦によるダメージが、黒十字の身体を鈍重に拘束する。
そのチャンスをセイギが逃すはずもなく、二撃目を繰り出そうと左拳を振り上げる。
だがその瞬間を、黒十字は待ち構えていた。
眼は追える。
動作は緩慢。
故に回避は不可能。
ならば、迎え撃つ 。
―――― 零距離軍式格闘術!!
セイギが追撃を繰り出した瞬間。
その攻撃を黒十字は最小限の動きで華麗に受け流し、お互いの鼻先が直面しようとする超至近距離まで急激に接近。
頭突き、両肘、両肩、両膝。複数の打撃が瞬時に、セイギの肉体に叩き込まれる。
それはさながら散弾銃。
手応えあり。
だからこそ、黒十字は確信する。
現状。
素手による攻撃手段は、
真神正義には通用しない。
(なんという防御力――― ッッ)
たしかに四国王との戦闘は、想像以上に自身の体力を削っている。
だがそれ以上に。
セイギの戦闘能力は明らかに常軌を逸脱している。
戦慄する黒十字。
だが一方、セイギもまた同様だった。
「うおっ!?」
零距離軍式格闘術のダメージは我慢ができる許容の範囲。
だが、予想外の敵の動きに思わず驚愕。
反射的に後方へ跳び、必要以上にセイギは間合いを開いてしまう。
「……… サッカーは、お好きかな?」
それが、仇となった。
刹那、黒十字は手のひらに霊力を集中させる。
それは見る見るうちに形を成していき、サッカーボールくらいの球体に変形。
そして、蹴り飛ばす。
「!?」
蹴球はセイギの腹部に直撃し、破裂する。
紅狼に撃ち込まれた『爆喰花』の傷痕は、まだまだ未完治。
その傷口が開いてしまう。
声にならない悲鳴を挙げるセイギ。
だが、黒十字の追撃は止まらない。
【大魔天開闢ゲートオブリベリオン】を用いて、二体の悪魔を同時召喚。
二体の異形は奇声をあげながら、すぐさま真神正義に襲いかかる。
◇◇◇
『幼年期の終わり』というSF小説がある。
著者はSF作家三巨匠がひとり・アーサー=C=クラーク。
この作品は、『文明の限界』と『進化の先に在る結末』を描いた物語であり、最終的に地球はガイア理論が提唱する『超個体』から、高次元の単一生命・『統一体』へと進化する。
『人類補完計画』と説明すれば、
日本人にわかりやすいだろうか?
つまり、唯一神の最終目標は地球統一体への進化。
三位一体とは、
その前準備だったというワケである。
伊邪那美命は語る。
三位一体を行うことで、四国地方は崩壊し、いわば四国統一体という新生命が誕生する。
四国統一体は、つまるところ屍國統一体。
死で構築された高次元の単一生命。
屍國統一体は、その力を用いて集合無意識経由で地球上の全生命を死滅させ、大いなる混沌が支配していた暗黒の惑星へと回帰させる。
人々はすべての死の『閉ざされた領域』の集合体・『約束の地』にて、誰も孤独にならず、静かに暮らしていくことができるという。
地球の化身ホメヲスタシスは語る。
三位一体により、四国統一体となった暁には、集合無意識の管理者権限を取り戻し、黒十字と共に、現在の地球文明を破壊。
地球の化身の裁定の下、人類の選別を行い、選ばれし者だけの新世界を築き上げる。
そして、星詠みの巫女・フォーチュンには新世界の母として、終焉者・リヒト=モルゲンシュテルンと婚約。
その子孫繁栄に努めてもらう、と。
どちらに転ぼうとも三位一体が成立すれば、現人類の大虐殺は確定不可避。
そんな身勝手な二柱の神格に板挟みにされ、星詠みの巫女フォーチュンは憤りを募らせる。
そして―――
「むきゅぅ~~~!ビークワイエットっ!!
ゴチャゴチャとうるさいんですのォーーーーーーッッ」
まじ卍。お姫さまブチ切れである。
そんな彼女の意外な一面に地球の化身と伊邪那美命は呆気にとられて、思わず押し黙る。
「踊る阿呆に観る阿呆。同じ阿呆なら踊らにゃ損損」
不意に彼女は口ずさむ。
それは阿波踊りの一節。
「踊る阿呆は、螺旋の救世者……… 」
それは、勇気を授かるおまじないだ。
吹っ切れたフォーチュンは、徳島で出逢った少年・真神正義を想起する。
「現代魔術の祖・アレイスター=クロウリー氏は、エジプト神話の神々の名を引用して、三つの時代区分を提唱しました。
多種多様な神々が混在する時代・イシスの時代。
唯一神が支配する時代・オシリスの時代。
そして、人類が新たなる真我に目覚め、神々に成り代わる新しい時代・ホルスの時代………」
それは、神との決別。
グノーシス主義。聖十字教への背信行為。
最早神様という存在が信じられなくなった彼女が、信じられるのはただひとつ。
螺旋の救世者、ただ一択。
「だったらわたくしたち人類は、貴方様方の『三位一体』をぶち破らせていただきますのっ!」
◇◇◇
■霊匣/開放
起源/螺旋 出力全開
霊力の超過動と共に、魂の存在証明・起源が解放される。
全身を渦巻く霊力が、燃焼。
エメラルドグリーンに発光する。
「螺旋――― 」
□起源/展開
右脚部/集中 出力固定
霊力組成破壊エネルギーが右足に集束していき、迸る。
「聖廻………剣ァァーーーーっ」
上段回し蹴り。
瞬く間に襲いかかってきた二体の悪魔は、霧散する。
「覚醒者ッッ!?」
黒十字が叫ぶ。
それに呼応するかのように真神正義が再度、懐に飛び込んでくる。
「螺旋―――― 」
□起源/展開
右腕部/集中 出力固定
今度は、右拳に霊力組成破壊エネルギーが装填される。
それに対して、
黒十字は、
▽エヴァグリオスの八つの想念
七つの枢要悪の根源にして すべての上位
身に纏うは 滅びへの綻び
みるみるうちに、霊力で編み上げられた黒い鎧・傲慢黒鎧を再度、身に纏う。
「神撃槍ゥーーーーッッ!」
セイギの叫びと共に、渾身の右ストレートが飛んでくる。
その動きを捉え、黒十字は再び迎撃を開始する。
―――零距離軍式格闘術 。
螺旋を帯びた右拳と、
黒い鎧が交錯し、火花を散らす。
黒十字は、
再び攻撃を受け流し、超速の連撃を出力しようとする。
――― 筈だった。
□起源/展開
右腕部/集中 出力制御/解除
刹那、固定されていた螺旋の力は制御を失い、留まっていたエネルギーが小爆発を起こす。
それは、擬似発勁とでも名付けるべきか?
イメージは、紅狼の『爆喰花』。
見様見真似。
小手先以下の、
付け焼き刃にすぎない稚拙な技術。
だがこの刹那に限り、効果は絶大だった。
「!!?」
零距離軍式格闘術が、その衝撃で崩される。
体勢はガラ空き。
黒十字は眼を見開く。
「螺旋―――― 」
□起源/展開
右脚部/集中 出力固定
「聖廻剣ァァーーーーっ」
右回し蹴りの軌道を、エメラルドグリーンの輝きが描く。
その蹴撃は、
傲慢という名の鎧を切り裂き、
完膚なきまでに粉砕する。
(この僕が、敗ける――― )
天を仰ぎながら、黒十字は眼孔を剥き出す。
最大の難関・四国王を越えたというのに、目の前に迫る名もなき少年によって、自身の野望が今、ぶち破られようとしている。
(そんなことがあってたまるかっ!?)
堪えきる黒十字。
彼は憤り、その精神力だけで戦場に立っていた。
もうすぐだ。もうすぐなんだ……… 。
度重なる敗北の果てに、やっと届く距離に、今―――
「敗けるわけにはいかないんだっ……… 」
目に映るのは、
自らが手にかけた死にゆくステラ=マリスの姿。
黒十字は唐突に、自身の上着を破り捨てる。
彼の背に刻まれるは、黄金のケルト十字。
その瞳に今、再度闘志が宿る。
「――― 僕は、自由という名の十字架を背負う」
▽明けの明星 氷地獄に囚われし美しき大罪者よ
おまえは地に投げ落とされた
瞬間、黒十字の肉体がみるみるうちに変換されてゆく。
もはや新規の召喚物すら維持する余力のない彼は、その肉体を依り代に集合無意識よりフィードバックされた神格の霊的情報をその身に纏う。
白い長髪。白い肉体。黄金の瞳。四対の漆黒の翼。頭上に浮かぶ黒く燃えた輪。
その姿は堕天使たちの王にして、唯一神への反逆者。
――― 降臨、堕天使ルシファ
堕天黒十字は、自身が現状制御できる最大許容量の霊力を邪悪逆樹から抽出。
そのすべてを放出し、頭上に両手を伸ばす。
放出された霊力は手のひらの先に勢いよく集束。禍々しくも激しい、凶悪な輝きを放つ。
「――― 黒魔天陽」
黒い太陽。
全長6メートルはあろう圧縮された高密度のエネルギー体は、そんな形容をしていた。
「螺旋――― 」
□起源/展開
両脚部/集中 出力固定 全力全開大解放
対する真神正義は、静かに堕天黒十字を見据えながら、ゆっくりと構える。
両足に回転エネルギーが発生。
瞬く間にそれらはエメラルドグリーンに輝きだす。
黒い太陽が放たれる。
地面を抉りながら一直線に、セイギに向かって直進する。
対するセイギもまた、おもむろに黒い太陽に向かって走り出す。
そして。
煌々と眩い光源を前に、跳躍。
「破界鎚ゥゥーーーーっ」
ドロップキック。
黒魔太陽と衝突し、両者拮抗する。
凄まじいエネルギーの奔流と摩擦音が炸裂する。
「うおおおおおおおおおおおおぉーーーーーーーっっ」
両者ともに雄叫びをあげる。
そして。
破砕音とともに。
黒魔天陽が、
まるで割れた硝子細工のように、
勢いよく破砕する。
霊力組成破壊。
真神正義が、黒い太陽を貫通したのだ。
堕天黒十字は眼を見開く。
その金色の瞳には、迫りくるエメラルドグリーンの輝きが無情にも焼き付ける。
クリティカルヒット。強烈な推進力と突貫力が堕天黒十字に大衝突。
(……… ステ、ラ)
螺旋による霊力組成破壊によって、堕天黒十字の変身は強制的に紐解かれていく。
敗北したリヒト=モルゲンシュテルンは、その瞳に映る過去の虚像へと手を伸ばした。
だが当然、その手はなにも掴むことはなく、その意識は泡沫のように深い闇の中へと消えていく。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
約束のスピカ
黒蝶
キャラ文芸
『約束のスピカ』
烏合学園中等部2年の特進クラス担任を任された教師・室星。
成績上位30名ほどが集められた教室にいたのは、昨年度中等部1年のクラス担任だった頃から気にかけていた生徒・流山瞬だった。
「ねえ、先生。神様って人間を幸せにしてくれるのかな?」
「それは分からないな…。だが、今夜も星と月が綺麗だってことは分かる」
部員がほとんどいない天文部で、ふたりだけの夜がひとつ、またひとつと過ぎていく。
これは、ある教師と生徒の後悔と未来に繋がる話。
『追憶のシグナル』
生まれつき特殊な力を持っていた木嶋 桜良。
近所に住んでいる岡副 陽向とふたり、夜の町を探索していた。
「大丈夫。俺はちゃんと桜良のところに帰るから」
「…約束破ったら許さないから」
迫りくる怪異にふたりで立ち向かう。
これは、家庭内に居場所がないふたりが居場所を見つけていく話。
※『夜紅の憲兵姫』に登場するキャラクターの過去篇のようなものです。
『夜紅の憲兵姫』を読んでいない方でも楽しめる内容になっています。
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
おっさん漫画家アンデットになる
兎屋亀吉
キャラ文芸
落ち目のおっさん漫画家藤堂力也は、ある日アンデットになってしまった。担当編集吉井氏は言う「漫画にしませんか?」。漫画雑誌の売り上げが伸び悩む時代、果たしておっさん漫画家は生き残れるのだろうか。
ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話
天野 星屑
ファンタジー
突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。
その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。
ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。
10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。
*本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています
*配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします
*主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。
*主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません
イケメン歯科医の日常
moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。
親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。
イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。
しかし彼には裏の顔が…
歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。
※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。
現代ダンジョンで成り上がり!
カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる!
現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。
舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。
四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる