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第三章 Hybrid Rainbow
#28 オカンと妹
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くすんだ白い天井と、淡いピンク髪をした少女の澄んだ碧い瞳が見える。
真神正義が目を覚ますと、フォーチュンがこちらを見下ろしていた。
目が合うなり彼女は、ぱぁっと嬉々とした表情を浮かべ、それは徐々に泣き顔に変容し、遂にはぶわっと決壊する。
「うわあああああん、よかったんですの~~~~~~~~~っ」
タックル染みた熱い抱擁。
抱き着かれたセイギは、包帯グルグル巻き。全身火傷だらけのその肉体が、ビリビリと悲鳴をあげる。
「あじゃぱぁぁあぁぁーーーーッ」
絶叫するセイギ。
だがフォーチュンは無我夢中で離さない。
そんな二人を周囲の看護婦さんたちは「あらあら、若いわねー」なんて微笑ましそうに見守っている。
紅狼との戦闘から、すでに三日が経過していた。
ここは徳島市内のとある病院。
その一室。簡素な作りだが、特別に個室。
命辛々、なんとか生き延びた真神正義は今、フォーチュンの腕の中でガクガクと痙攣を起こし、生死の狭間を再び彷徨っていた。
「まったく。女の子を泣かせておいて、情けない声出してんじゃないわよ」
不意に病室の戸口から、呆れ返った女性の声が聞こえる。
「げっ、まさか……… 」
その声には馴染みがあった。
真神正義は背筋を凍らせ、冷や汗を滴らせる。そして、ゆっくりと戸口を見た。
「――― オ、オカンっ」
彼女の名前は真神律子。
セイギの母親ある。
金髪ショートのアラフォー女性。
離婚者だが、『戸籍法77条の2』によって元夫の姓を名乗っている。
その容姿は真神正義とは似ても似つかず、力強くも美しいものだった。
「なんでここに……… っ」
「どーしたもこーしたもないわよっ。まーたアンタが派手にやらかしたっていうからお巡りさんに呼ばれて来たんじゃない。あれほど喧嘩はすんなって言ったのに、もうっ」
その叱責に「うぐっ」と、セイギはバツの悪そうな表情をする。
そんな息子の様子を律子はしばらく見つめる。
そして、大きくため息をつき、肩の力を抜いた。
「ま、今回は御咎めなしってことにしてあげるわ。フォーちゃんのこと、悪いヤツらから守ってあげたんでしょ?
偉いわ。よくやった」
「フォーちゃん?」
「うふふ、わたくしのことですのっ」
いまだセイギにへばりついたままのフォーチュンが胸元で答える。
「いやーん♡ほんとフォーちゃん、フランス人形みたいで可愛いんだからぁーーーっ」
黄色い歓声をあげながら律子は、セイギから奪い取るようにフォーチュンを抱き寄せる。
愛情全開。
激しい頬ずりをぐりぐりと執拗に交わす。
「あうあうあう」と、されるがままのフォーチュン。だがその表情は何処か嬉しそう。
親や友達が居なかったから触れ合いに飢えているのかもな。
とセイギは推測してみたり。
「なのにダメよー。こんなボロ雑巾に引っ掛かっちゃー。病原菌が移っちゃうわ」
「誰がボロ雑巾で病原菌だ。おめーの息子だぞ、おめーの」
母をジト目で睨むセイギ。
そんな彼にスゥーっと、気配を消して接近する影があった。
「お兄ぃ」
それは、こじんまりとした小学生くらいの女の子。
黒髪のショートカット。ジト目。ぼんやりとした雰囲気の容姿。
「おぉ、美宇。おまえも来てたんか」
少女の名は、美宇。
真神正義の妹である。
美宇はコクリと肯定すると、手に持っていた缶ジュースを差し出す。
「お見舞いの、品」
缶ジュースには『ザ・すだち』と表記されている。
酢橘は柑橘類の一種であり、徳島県の名産物だ。
「これ飲んで、はやく元気になってね」
「…… おぉ、サンキュー。おまえは相変わらず、よーわからんチョイスだな…………」
困惑する兄に反して、妹は満足そうに「うへへ」と、はにかんでいる。
「いや~ん♡ほんと美宇さま、日本人形みたいで可愛いんですのーーーっ」
今度はフォーチュンが掻っ攫うかのように、真神美宇を強引に抱き寄せる。
熱い愛情を滾らせながら、ぐりぐりと激しい頬ずりを執拗に交わす。
「あうあうあう」と、美宇はされるがままだが、やはり何処か嬉しそう。
そーいやいつぞやか姉が欲しいとか言ってたな此奴。
と、セイギは微笑ましく想起する。
「でもダメですよ?セイギ様に近づくと、水虫が移っちゃうんですの」
「だれが水虫だコノヤロー。おまえやっぱ存外失礼なヤツだな、オイ」
そんな女子ふたりの輪に、「私も~」と律子が参戦していく。
グルグルとお花畑になる三人。
どうやらフォーチュンは、真神家の面々とすっかり打ち解けているようだ。
セイギは喜び半分、患者である自分が蔑ろにされ、苛立ちも半分という胸中。
そんな渦中、カラカラと病室の扉が開かれる。
「どうも、お邪魔するっス」
入室するのは、気怠そうな若い婦警と胡散臭そうな背広の中年男性。
見知らぬ相手の登場に、セイギは目を丸くする。
「誰だオメーら?」
「またアンタはそんな言葉遣いして……… おふたりは警察の方よ」
真神律子の紹介に合わせ、警察官ふたりは警察手帳を提示する。
「東警察署の東雲警部補です」
「荒井巡査っス」
はじめてみる警察手帳に、セイギは「おぉっ」と感嘆の音をあげる。
「療養中、申し訳ないが少しキミと話をしたい。そこのお嬢さんも、ね………」
そう云って、東雲警部補は視線を向ける。
フォーチュンは不安を募らせ、その表情を曇らせる。
真神正義が目を覚ますと、フォーチュンがこちらを見下ろしていた。
目が合うなり彼女は、ぱぁっと嬉々とした表情を浮かべ、それは徐々に泣き顔に変容し、遂にはぶわっと決壊する。
「うわあああああん、よかったんですの~~~~~~~~~っ」
タックル染みた熱い抱擁。
抱き着かれたセイギは、包帯グルグル巻き。全身火傷だらけのその肉体が、ビリビリと悲鳴をあげる。
「あじゃぱぁぁあぁぁーーーーッ」
絶叫するセイギ。
だがフォーチュンは無我夢中で離さない。
そんな二人を周囲の看護婦さんたちは「あらあら、若いわねー」なんて微笑ましそうに見守っている。
紅狼との戦闘から、すでに三日が経過していた。
ここは徳島市内のとある病院。
その一室。簡素な作りだが、特別に個室。
命辛々、なんとか生き延びた真神正義は今、フォーチュンの腕の中でガクガクと痙攣を起こし、生死の狭間を再び彷徨っていた。
「まったく。女の子を泣かせておいて、情けない声出してんじゃないわよ」
不意に病室の戸口から、呆れ返った女性の声が聞こえる。
「げっ、まさか……… 」
その声には馴染みがあった。
真神正義は背筋を凍らせ、冷や汗を滴らせる。そして、ゆっくりと戸口を見た。
「――― オ、オカンっ」
彼女の名前は真神律子。
セイギの母親ある。
金髪ショートのアラフォー女性。
離婚者だが、『戸籍法77条の2』によって元夫の姓を名乗っている。
その容姿は真神正義とは似ても似つかず、力強くも美しいものだった。
「なんでここに……… っ」
「どーしたもこーしたもないわよっ。まーたアンタが派手にやらかしたっていうからお巡りさんに呼ばれて来たんじゃない。あれほど喧嘩はすんなって言ったのに、もうっ」
その叱責に「うぐっ」と、セイギはバツの悪そうな表情をする。
そんな息子の様子を律子はしばらく見つめる。
そして、大きくため息をつき、肩の力を抜いた。
「ま、今回は御咎めなしってことにしてあげるわ。フォーちゃんのこと、悪いヤツらから守ってあげたんでしょ?
偉いわ。よくやった」
「フォーちゃん?」
「うふふ、わたくしのことですのっ」
いまだセイギにへばりついたままのフォーチュンが胸元で答える。
「いやーん♡ほんとフォーちゃん、フランス人形みたいで可愛いんだからぁーーーっ」
黄色い歓声をあげながら律子は、セイギから奪い取るようにフォーチュンを抱き寄せる。
愛情全開。
激しい頬ずりをぐりぐりと執拗に交わす。
「あうあうあう」と、されるがままのフォーチュン。だがその表情は何処か嬉しそう。
親や友達が居なかったから触れ合いに飢えているのかもな。
とセイギは推測してみたり。
「なのにダメよー。こんなボロ雑巾に引っ掛かっちゃー。病原菌が移っちゃうわ」
「誰がボロ雑巾で病原菌だ。おめーの息子だぞ、おめーの」
母をジト目で睨むセイギ。
そんな彼にスゥーっと、気配を消して接近する影があった。
「お兄ぃ」
それは、こじんまりとした小学生くらいの女の子。
黒髪のショートカット。ジト目。ぼんやりとした雰囲気の容姿。
「おぉ、美宇。おまえも来てたんか」
少女の名は、美宇。
真神正義の妹である。
美宇はコクリと肯定すると、手に持っていた缶ジュースを差し出す。
「お見舞いの、品」
缶ジュースには『ザ・すだち』と表記されている。
酢橘は柑橘類の一種であり、徳島県の名産物だ。
「これ飲んで、はやく元気になってね」
「…… おぉ、サンキュー。おまえは相変わらず、よーわからんチョイスだな…………」
困惑する兄に反して、妹は満足そうに「うへへ」と、はにかんでいる。
「いや~ん♡ほんと美宇さま、日本人形みたいで可愛いんですのーーーっ」
今度はフォーチュンが掻っ攫うかのように、真神美宇を強引に抱き寄せる。
熱い愛情を滾らせながら、ぐりぐりと激しい頬ずりを執拗に交わす。
「あうあうあう」と、美宇はされるがままだが、やはり何処か嬉しそう。
そーいやいつぞやか姉が欲しいとか言ってたな此奴。
と、セイギは微笑ましく想起する。
「でもダメですよ?セイギ様に近づくと、水虫が移っちゃうんですの」
「だれが水虫だコノヤロー。おまえやっぱ存外失礼なヤツだな、オイ」
そんな女子ふたりの輪に、「私も~」と律子が参戦していく。
グルグルとお花畑になる三人。
どうやらフォーチュンは、真神家の面々とすっかり打ち解けているようだ。
セイギは喜び半分、患者である自分が蔑ろにされ、苛立ちも半分という胸中。
そんな渦中、カラカラと病室の扉が開かれる。
「どうも、お邪魔するっス」
入室するのは、気怠そうな若い婦警と胡散臭そうな背広の中年男性。
見知らぬ相手の登場に、セイギは目を丸くする。
「誰だオメーら?」
「またアンタはそんな言葉遣いして……… おふたりは警察の方よ」
真神律子の紹介に合わせ、警察官ふたりは警察手帳を提示する。
「東警察署の東雲警部補です」
「荒井巡査っス」
はじめてみる警察手帳に、セイギは「おぉっ」と感嘆の音をあげる。
「療養中、申し訳ないが少しキミと話をしたい。そこのお嬢さんも、ね………」
そう云って、東雲警部補は視線を向ける。
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