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急章の弐 Who Moved My cheese?
71ターン目/武者震いってやつさ
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最初から最終局面。
対戦カードは勇者VS冒険王。
そして、魔王VS大賢者だ。
彼等は先ほどまでの闘い同様、それぞれの相手と共に分散。
場所を変え、両者ともに援軍の及ばないよう孤立する。というより、この4名が個々に保有する戦力について来れる者たちが最早地上にはおらず、援護をしようものなら飛鳥とハッカイ、モルガナとの戦い同様、巻き添えによる戦死が目に見えている。
「しばらく見ないうちにいい顔つきになったな。ヴィレッジ村にいたときとは大違いだ」
冒険王ミフネが感慨深そうに息子を見る。
「父さんこそ、似合わないスーツなんか着ちゃってどーしちまったのさ」
一方、勇者タローは淡々と父親を皮肉る。
「無論、金に目が眩んで」
「嘘つくなよ。ほんとは知ってんだ。故郷が丸ごと人質にされてんだろ?」
故郷とはもちろん、ヴィレッジ村を指している。
その言葉にミフネは苦笑する。
「さすがは【同盟軍】の情報網といったところか」
「………母さんは元気にしてるの?」
「あぁ、たくましい女だ。今も店をひとりで切り盛りしてくれているよ。もっとも、おまえが異世界転生者ブラックに敗れ、その亡骸が行方知れずとなったときはさすがに動転していたがな」
「そうかーーー」
タローは母親のことを想起する。
父親同様快活で肝っ玉の据わった、それでいて優しい母。
逢いたい。そんな思いが込み上げてくる。
そして、
「―――父さん、やめとけよ。アンタじゃ僕には勝てねぇ」
タローは断言する。
だがしかし、
「それがどうした?」
冒険王は揺るがない。
「力量差があるとして、おまえは今まで臆してきたのか?」
自慢の息子の足跡が、ただならぬ旅であったことを父は誰よりも理解している。
それを乗り越えてきた息子の偉大な強さも。
「俺は理解しているぞ。おまえの強さを。だからこそ敬意を持って相対する」
そして、
「―――超勇者形態」
●【専用魔法】×【魂の解放】×【自分】
▼冒険王は 変身した!
「時に聞くが―――」
黄金の闘気が瞬時に爆ぜ、ミフネの身体を炎のように覆う。
「【勇者特権】の制限を外したのは、禁忌のモルガナか?」
その言葉に、タローは眼孔を大きく拡げる。
なんで制限ことを知っている?
「【勇者特権】とは、おまえの身に宿るものではない。この世界の意志ともいえる大いなる力より、その膨大な魔力注入と共に接続される世界記憶の一部。その出入力の権限が譲渡されるということだ。そして―――」
みるみるうちに【超勇者形態】の出力が鰻登りに上がっていく。
「すべての【超勇者形態】は【勇者特権】に付随する。つまり、俺の【超勇者形態】もまた世界記憶が保有する【勇者特権】と繋がっている。尤も、俺は勇者には選ばれなかったからその権能を使うことはできんがな。
だが、【超勇者形態】の出力を上げることはできる。
【勇者特権】から流れる歴代勇者たちの戦いの記録。それによって使用者の自我が焼き切られないようにするための安全装置。
その解除。おまえの戦闘力が大幅に上がったのもそれが要因だろ?」
大気が震える。
天が割れ、地が揺れる。
ミフネの【超勇者形態】はまだまだ上がってゆく。
「無論、俺の【超勇者形態】を弄くったのは、大賢者/灰色のホグワーツ。
その芸当、弟子にできて師匠にできんわけないからな」
●【専用魔法】×【魂の解放】×【自分】
▼勇者は 変身した!
【超勇者形態】、発動!
タローもまた、歴代の勇者たちの記録を纏う。
心強い。しかし、焦燥が勝っている。
同じ魔法を使用しているにも関わらず、父であるミフネの方が出力が上なのだ。
「この闘いの勝敗はチキンレースに似ている。
現状おそらく俺の【超勇者形態】の方が上。しかし当然、勇者であるおまえの方がポテンシャルは備わっている。
つまり、この闘いの最中でどれだけ【勇者特権】に眠る勇者たちの記録を引き出せるかが闘いの鍵となる」
そして、ミフネは剣を抜く。
それに合わせて、タローもまた剣を抜いた。
「―――勇者よ、畏れるな」
静寂。気が遠くなるほどの静寂。
そんな訳、あるはずがない』。
【超勇者形態】から放たれる黄金の闘気によって、世界が震えているというのに、そんなわけがあるはずもなかった。
それほどまでに。
それほどまでに集中せざるを得ないということだ。
眼前の敵が。
それほどまでの敵だということだ。
「―――ビビってなんかいないよ」
勇者は剣を構える。
それは虚勢だ。だけど無理ではなく、現状の身体を最適化させるための精神の在り方。
恐怖を乗り越えるわけではなく、受け入れる。
拒絶するのではなく、認めて馴染ませる。
心にジワジワと。
等身大の自分を受け入れる。
「武者震いってヤツさ―――」
タローは勇ましく笑った。
対戦カードは勇者VS冒険王。
そして、魔王VS大賢者だ。
彼等は先ほどまでの闘い同様、それぞれの相手と共に分散。
場所を変え、両者ともに援軍の及ばないよう孤立する。というより、この4名が個々に保有する戦力について来れる者たちが最早地上にはおらず、援護をしようものなら飛鳥とハッカイ、モルガナとの戦い同様、巻き添えによる戦死が目に見えている。
「しばらく見ないうちにいい顔つきになったな。ヴィレッジ村にいたときとは大違いだ」
冒険王ミフネが感慨深そうに息子を見る。
「父さんこそ、似合わないスーツなんか着ちゃってどーしちまったのさ」
一方、勇者タローは淡々と父親を皮肉る。
「無論、金に目が眩んで」
「嘘つくなよ。ほんとは知ってんだ。故郷が丸ごと人質にされてんだろ?」
故郷とはもちろん、ヴィレッジ村を指している。
その言葉にミフネは苦笑する。
「さすがは【同盟軍】の情報網といったところか」
「………母さんは元気にしてるの?」
「あぁ、たくましい女だ。今も店をひとりで切り盛りしてくれているよ。もっとも、おまえが異世界転生者ブラックに敗れ、その亡骸が行方知れずとなったときはさすがに動転していたがな」
「そうかーーー」
タローは母親のことを想起する。
父親同様快活で肝っ玉の据わった、それでいて優しい母。
逢いたい。そんな思いが込み上げてくる。
そして、
「―――父さん、やめとけよ。アンタじゃ僕には勝てねぇ」
タローは断言する。
だがしかし、
「それがどうした?」
冒険王は揺るがない。
「力量差があるとして、おまえは今まで臆してきたのか?」
自慢の息子の足跡が、ただならぬ旅であったことを父は誰よりも理解している。
それを乗り越えてきた息子の偉大な強さも。
「俺は理解しているぞ。おまえの強さを。だからこそ敬意を持って相対する」
そして、
「―――超勇者形態」
●【専用魔法】×【魂の解放】×【自分】
▼冒険王は 変身した!
「時に聞くが―――」
黄金の闘気が瞬時に爆ぜ、ミフネの身体を炎のように覆う。
「【勇者特権】の制限を外したのは、禁忌のモルガナか?」
その言葉に、タローは眼孔を大きく拡げる。
なんで制限ことを知っている?
「【勇者特権】とは、おまえの身に宿るものではない。この世界の意志ともいえる大いなる力より、その膨大な魔力注入と共に接続される世界記憶の一部。その出入力の権限が譲渡されるということだ。そして―――」
みるみるうちに【超勇者形態】の出力が鰻登りに上がっていく。
「すべての【超勇者形態】は【勇者特権】に付随する。つまり、俺の【超勇者形態】もまた世界記憶が保有する【勇者特権】と繋がっている。尤も、俺は勇者には選ばれなかったからその権能を使うことはできんがな。
だが、【超勇者形態】の出力を上げることはできる。
【勇者特権】から流れる歴代勇者たちの戦いの記録。それによって使用者の自我が焼き切られないようにするための安全装置。
その解除。おまえの戦闘力が大幅に上がったのもそれが要因だろ?」
大気が震える。
天が割れ、地が揺れる。
ミフネの【超勇者形態】はまだまだ上がってゆく。
「無論、俺の【超勇者形態】を弄くったのは、大賢者/灰色のホグワーツ。
その芸当、弟子にできて師匠にできんわけないからな」
●【専用魔法】×【魂の解放】×【自分】
▼勇者は 変身した!
【超勇者形態】、発動!
タローもまた、歴代の勇者たちの記録を纏う。
心強い。しかし、焦燥が勝っている。
同じ魔法を使用しているにも関わらず、父であるミフネの方が出力が上なのだ。
「この闘いの勝敗はチキンレースに似ている。
現状おそらく俺の【超勇者形態】の方が上。しかし当然、勇者であるおまえの方がポテンシャルは備わっている。
つまり、この闘いの最中でどれだけ【勇者特権】に眠る勇者たちの記録を引き出せるかが闘いの鍵となる」
そして、ミフネは剣を抜く。
それに合わせて、タローもまた剣を抜いた。
「―――勇者よ、畏れるな」
静寂。気が遠くなるほどの静寂。
そんな訳、あるはずがない』。
【超勇者形態】から放たれる黄金の闘気によって、世界が震えているというのに、そんなわけがあるはずもなかった。
それほどまでに。
それほどまでに集中せざるを得ないということだ。
眼前の敵が。
それほどまでの敵だということだ。
「―――ビビってなんかいないよ」
勇者は剣を構える。
それは虚勢だ。だけど無理ではなく、現状の身体を最適化させるための精神の在り方。
恐怖を乗り越えるわけではなく、受け入れる。
拒絶するのではなく、認めて馴染ませる。
心にジワジワと。
等身大の自分を受け入れる。
「武者震いってヤツさ―――」
タローは勇ましく笑った。
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