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破章の弐 We're Wrong about the World
45ターン目/勝たなきゃいけない奴等がいる
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◆◆◆
勇者からの遠距離射撃。
黄金の光線が、龍王姫に襲いかかる!
(………なんだと!?)
龍王姫はそれを回避しながら、勇者に目をやる。
光線は壁を突き破り、屋外へと飛び出す。
(勇者は魔法が苦手ではなかったのか!!?)
魔法攻撃。それも主に遠距離攻撃が苦手。
タローの身体から離れれば離れるほどに、勇者特有の規格外の魔力量および魔力濃度により、現在の彼では魔法の維持が困難を極めるからだ。
なので、勇者の戦法は基本的に近接特化。
能力強化と属性付与及び変換によるゴリ押し。
例外なのは光魔法【ロケットパンチ】。
術式の構造としては単調なもので、拳に出力した魔力が一定の上限に達すると射出されるというもので、基礎魔法/【強度増幅】と根幹は変わらない。
しかし、龍王姫相手では【ロケットパンチ】は火力不足であり、非常に決め手にかける。
故に最上階での闘いでは、長距離型の魔法で勇者を翻弄し、それに気を取られているうちに接近して格闘するという戦法を取った。
ヒット&アウェイ。蝶のように舞い、蜂のように刺す。
しかし、その前提が覆ろうとしている。
「!!?」
龍王姫は絶句する。
それは、確かに魔法攻撃だ。
しかし、遠距離射撃などではなかった。
超巨大魔法剣。
超勇者形態による莫大な魔力を注いだそれは、伸長した長大な刃を形成する。
龍王姫が魔法による遠距離射撃だと錯角したのはこの刃であり、あくまで単純な強化系による副次効果に過ぎない。
つまり光線だと思っていたそれは、許容量を大幅に越えたあまりに巨大化した魔法剣の切っ先だったということだ。
「ド根性ぅーーーーーッッ!!」
勇者、全力全開!
そのクソデカ魔法剣を横薙ぎに振るう。
黄金の光が触れるもの皆破砕しながら、その熱量で軌道上を灼き尽くす。
龍王姫は、跳躍。
魔力集中による身体能力強化で高く飛翔する。
●【風属性】×【射撃】×【敵単体】
▼龍王姫は 呪文を唱えた!【成功】
【風圧弾】発動!
竜巻の塊が弾丸となって、4発。
龍王姫の口から射出される。
それを視認した勇者は剣を媒介に出力した莫大な魔力量を、その身に流動させ移行。
純粋な魔力の塊を属性変換し、風の魔力へと切り換える。
それはまさに暴風。竜巻による防御。
龍王姫の放った【風圧弾】は相殺され、消失する。
「あっ、やべ………ッッ」
ふと、タローが弱音をもらす。
刹那、その莫大な風の魔力は瞬く間に膨張し、破裂する。
コントロールを失った風の魔力は一気に解き放たれ、動く障壁となって周囲へと拡散する。
ーーー龍王寺が崩壊する。
タローが無謀にも生み出した最大出力で変換した風の魔力は、建物の根元である下層部を圧壊させる。
それは上層部にまで亀裂を走らせ、基盤を失った龍王寺は、なし崩しに轟音と共に沈んでゆく。
◆◆◆
「……ふぅ、あっぶねーのう」
魔王は、悪態をついた。
瓦礫の上。崩壊する建物内を忍者のように飛び回りながら、現在に至る。
その腕の中では、エルザ姫がまさしくお姫様だっこで抱えられていた。
まるで鳩が豆鉄砲を喰らったような、そんな顔を浮かべて。
「い、生きてる………」
絞り出したか細い声。
「お互い悪運だけは強いようだ、フハハハハ!」
破壊大好き我らが魔王様は上機嫌に笑いながら、まだ硬直しているエルザ姫をその場に降ろす。
「………タローたちは大丈夫かしら?」
心配の言葉を述べはするものの、その内情は軽薄だ。
勇者にしろ龍王姫にしろ。この程度でくたばるわけがないことを、お姫様は一番よく知っている。
無論、魔王も謂わずもがな。
「………フフ、噂をすればなんとやらだ」
そう言って、魔王は一点の方向を指した。
◆◆◆
勇者タローは、瓦礫の中から勢いよく飛び出す。勇者特権【全数値化】が、警笛を鳴らし、赤色に点滅する。
それは、強大な敵の出現を報せるものだった。
「………出来れば、この姿は見せたくなかった」
悲嘆する龍王姫の声色。
しかしそれは、さっきほどまでより野太いものだ。
声の方向を、タローは見上げる。
そこに居るのは、白い蛇龍。
全長6メートルほどの巨体が宙を遊泳している。
これこそが、龍王姫シャロンの真の姿。
勇者特権【全数値化】に表示される様々な数字が、今までとは桁違いにハネ上がる。
「だが認めよう。この姿でなければ其方は倒せない」
「その姿でも僕は倒せないよ」
胸中で絡み合う自嘲と焦燥。それでも尚、タローは精一杯ほくそ笑んでみせた。
「勝たなきゃいけないんだ、あなたに―――」
はじめに思い浮かぶのは、エルザ姫の笑顔。
そして勇者パーティーをはじめとする、これまでの旅で出逢ってきた道中の人々。
複雑な運命を共にする、宿敵である魔王。
そして、異世界転生者ブラックCEO。
「勝たなきゃいけないんだ、アイツらに―――」
勇者からの遠距離射撃。
黄金の光線が、龍王姫に襲いかかる!
(………なんだと!?)
龍王姫はそれを回避しながら、勇者に目をやる。
光線は壁を突き破り、屋外へと飛び出す。
(勇者は魔法が苦手ではなかったのか!!?)
魔法攻撃。それも主に遠距離攻撃が苦手。
タローの身体から離れれば離れるほどに、勇者特有の規格外の魔力量および魔力濃度により、現在の彼では魔法の維持が困難を極めるからだ。
なので、勇者の戦法は基本的に近接特化。
能力強化と属性付与及び変換によるゴリ押し。
例外なのは光魔法【ロケットパンチ】。
術式の構造としては単調なもので、拳に出力した魔力が一定の上限に達すると射出されるというもので、基礎魔法/【強度増幅】と根幹は変わらない。
しかし、龍王姫相手では【ロケットパンチ】は火力不足であり、非常に決め手にかける。
故に最上階での闘いでは、長距離型の魔法で勇者を翻弄し、それに気を取られているうちに接近して格闘するという戦法を取った。
ヒット&アウェイ。蝶のように舞い、蜂のように刺す。
しかし、その前提が覆ろうとしている。
「!!?」
龍王姫は絶句する。
それは、確かに魔法攻撃だ。
しかし、遠距離射撃などではなかった。
超巨大魔法剣。
超勇者形態による莫大な魔力を注いだそれは、伸長した長大な刃を形成する。
龍王姫が魔法による遠距離射撃だと錯角したのはこの刃であり、あくまで単純な強化系による副次効果に過ぎない。
つまり光線だと思っていたそれは、許容量を大幅に越えたあまりに巨大化した魔法剣の切っ先だったということだ。
「ド根性ぅーーーーーッッ!!」
勇者、全力全開!
そのクソデカ魔法剣を横薙ぎに振るう。
黄金の光が触れるもの皆破砕しながら、その熱量で軌道上を灼き尽くす。
龍王姫は、跳躍。
魔力集中による身体能力強化で高く飛翔する。
●【風属性】×【射撃】×【敵単体】
▼龍王姫は 呪文を唱えた!【成功】
【風圧弾】発動!
竜巻の塊が弾丸となって、4発。
龍王姫の口から射出される。
それを視認した勇者は剣を媒介に出力した莫大な魔力量を、その身に流動させ移行。
純粋な魔力の塊を属性変換し、風の魔力へと切り換える。
それはまさに暴風。竜巻による防御。
龍王姫の放った【風圧弾】は相殺され、消失する。
「あっ、やべ………ッッ」
ふと、タローが弱音をもらす。
刹那、その莫大な風の魔力は瞬く間に膨張し、破裂する。
コントロールを失った風の魔力は一気に解き放たれ、動く障壁となって周囲へと拡散する。
ーーー龍王寺が崩壊する。
タローが無謀にも生み出した最大出力で変換した風の魔力は、建物の根元である下層部を圧壊させる。
それは上層部にまで亀裂を走らせ、基盤を失った龍王寺は、なし崩しに轟音と共に沈んでゆく。
◆◆◆
「……ふぅ、あっぶねーのう」
魔王は、悪態をついた。
瓦礫の上。崩壊する建物内を忍者のように飛び回りながら、現在に至る。
その腕の中では、エルザ姫がまさしくお姫様だっこで抱えられていた。
まるで鳩が豆鉄砲を喰らったような、そんな顔を浮かべて。
「い、生きてる………」
絞り出したか細い声。
「お互い悪運だけは強いようだ、フハハハハ!」
破壊大好き我らが魔王様は上機嫌に笑いながら、まだ硬直しているエルザ姫をその場に降ろす。
「………タローたちは大丈夫かしら?」
心配の言葉を述べはするものの、その内情は軽薄だ。
勇者にしろ龍王姫にしろ。この程度でくたばるわけがないことを、お姫様は一番よく知っている。
無論、魔王も謂わずもがな。
「………フフ、噂をすればなんとやらだ」
そう言って、魔王は一点の方向を指した。
◆◆◆
勇者タローは、瓦礫の中から勢いよく飛び出す。勇者特権【全数値化】が、警笛を鳴らし、赤色に点滅する。
それは、強大な敵の出現を報せるものだった。
「………出来れば、この姿は見せたくなかった」
悲嘆する龍王姫の声色。
しかしそれは、さっきほどまでより野太いものだ。
声の方向を、タローは見上げる。
そこに居るのは、白い蛇龍。
全長6メートルほどの巨体が宙を遊泳している。
これこそが、龍王姫シャロンの真の姿。
勇者特権【全数値化】に表示される様々な数字が、今までとは桁違いにハネ上がる。
「だが認めよう。この姿でなければ其方は倒せない」
「その姿でも僕は倒せないよ」
胸中で絡み合う自嘲と焦燥。それでも尚、タローは精一杯ほくそ笑んでみせた。
「勝たなきゃいけないんだ、あなたに―――」
はじめに思い浮かぶのは、エルザ姫の笑顔。
そして勇者パーティーをはじめとする、これまでの旅で出逢ってきた道中の人々。
複雑な運命を共にする、宿敵である魔王。
そして、異世界転生者ブラックCEO。
「勝たなきゃいけないんだ、アイツらに―――」
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