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破章の壱 How to Stop Worrying and Start Living
21ターン/みんな変わってしまった
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「【死腐喰獣】は、二つの部隊に編成が別れています。
ひとつは“破壊天使”/飛鳥様が率いる陽動部隊。破壊活動と大量殺戮を主眼としており、表向きの蹂躙による圧政を担当しております。
そして、もうひとつが隠密部隊。
こちらは“暗殺観音”/ハッカイ様が率いており、主に情報収集と粛正対象の暗殺。影からの恐怖による支配を担当しております。
エルザ姫は、ハッカイ様の隠密部隊に――――」
沈痛な面持ちで元騎士団長は証言する。
信じられないといった表情でグリフィンは、かつての仲間たちを想起していた。
活発で情に厚く天然ボケだが、誇り高い女剣士/飛鳥。
陽気でユーモアに溢れ、他者への配慮を欠かさない武術家/ハッカイ。
今の会話に、
まるで2人の面影が見当たらないではないか。
『―――おおきにな、グリフィン』
最後にセントラルシティで別れたハッカイの顔を思い出す。
あの人懐っこい旧友が、あんなに仲良くしていたエリザベスをここまで追い詰めるだなんて。
「………どうして、こんなことになってしまったんだ」
グリフィンは悲痛な面持ちで嘆いた。
◆◆◆
「ごめんなさいね、ハッカイ。貴方を巻き込んでしまって………」
目を覚ましたエルザ姫が謝罪を述べる。
彼女たちが、グリフィンの診療所に訪れてから3日が経過していた。
施術後、彼等はすぐに最寄りの【解放戦線】のアジトへと移動。
そこは協力者から提供された人里離れたコテージ。
快方には向かっているものの、エルザ姫の顔色は未だ青白く、静養が必要だった。
「いえ、私もブラックCEOの政策には燻っていたものがありましたし、なにより姫様の命を救えて良かったです。もう身内の訃報なんて、これ以上聞きたくありませんから……」
心の底から出たグリフィンの言葉だった。
冒険者になってから、常に出逢いと別れがあった。
当然、危険な職業だ。冒険の最中、仲間との永遠の別離は珍しいことではなかった。
かつての【世界大戦】でも、幾多の連合軍の仲間たちが戦火に散っていった。
何より、それらの出来事が起こるずっと前から、すでに彼は“最愛の人”を喪っている。
「………貴方は以前と何も変わらないようね」
そんな背景を知るエルザ姫は、ホッと安心感を浮かべる。
「わたくしは変わってしまったわ。何もかもが、変わってしまった。
………ウフフ。なのに皆、未だにわたくしのことを姫様って呼ぶの。おかしいったらありゃしない」
苦笑。そこには哀愁と懺悔が混在していた。
ヴィクトリア王国の姫君。
救国の聖女。創世の女神。
そして、現在は世界の敵対者。
立場の変容があまりにも目まぐるしく、彼女の胸中は常人には計り知れないものがある。
「姫様は、姫様ですから」
グリフィンはそれでも尚、そんな彼女の根っこの部分を信じている。
対面することで感じられるエルザ姫の人柄に、懐かしさと安らぎを感じるのだ。
「やめてよ。もうそんな時代じゃない。貴族制は撤廃されたの。今のわたくしはテロリストの代表。
【解放戦線】のリーダーよ」
彼女は嘆息をつく。
「………みんな、変わってしまったわ」
「飛鳥とハッカイ、ですね」
グリフィンは躊躇なく、核心に迫る。
その言葉に、エルザ姫はコクリと頷いた。
「仲間を殺されたわ」
彼女の表情は、言葉に反して穏やかだった。
「でもわたくし、わからないの。彼等を恨む気になれなくて。殺された人々も、わたくしにとって決して安易な命ではなかった。それこそペンドラゴン王国からの臣下も居たわ」
彼女は複雑な胸中を吐露する。
「それでもやっぱり、飛鳥とハッカイを恨む気にはなれないの」
「姫様は優しすぎるから」
グリフィンは優しくも、悲痛が雑ざった表情をする。
そんな彼に視線を向けながら、エルザ姫はまた苦笑。
「その言葉。そっくりそのまま貴方に御返しするわ」
そして彼女は、再びタメ息をついた。
「こんなとき、タローが側に居てくれたらどーしてたのかしら………」
エルザ姫は、ふとかつて共にいた“人類の希望”を夢想する。
鬱陶しいほど情熱的で、圧倒的に頼りになった存在。
そして今、隣に彼はいない。
だがその答えは明白だった。
「戦うでしょうね。かつての仲間といえど、容赦なく。そして、しつこく姫様に求婚する」
グリフィンは断言し、そして苦笑した。
ひとつは“破壊天使”/飛鳥様が率いる陽動部隊。破壊活動と大量殺戮を主眼としており、表向きの蹂躙による圧政を担当しております。
そして、もうひとつが隠密部隊。
こちらは“暗殺観音”/ハッカイ様が率いており、主に情報収集と粛正対象の暗殺。影からの恐怖による支配を担当しております。
エルザ姫は、ハッカイ様の隠密部隊に――――」
沈痛な面持ちで元騎士団長は証言する。
信じられないといった表情でグリフィンは、かつての仲間たちを想起していた。
活発で情に厚く天然ボケだが、誇り高い女剣士/飛鳥。
陽気でユーモアに溢れ、他者への配慮を欠かさない武術家/ハッカイ。
今の会話に、
まるで2人の面影が見当たらないではないか。
『―――おおきにな、グリフィン』
最後にセントラルシティで別れたハッカイの顔を思い出す。
あの人懐っこい旧友が、あんなに仲良くしていたエリザベスをここまで追い詰めるだなんて。
「………どうして、こんなことになってしまったんだ」
グリフィンは悲痛な面持ちで嘆いた。
◆◆◆
「ごめんなさいね、ハッカイ。貴方を巻き込んでしまって………」
目を覚ましたエルザ姫が謝罪を述べる。
彼女たちが、グリフィンの診療所に訪れてから3日が経過していた。
施術後、彼等はすぐに最寄りの【解放戦線】のアジトへと移動。
そこは協力者から提供された人里離れたコテージ。
快方には向かっているものの、エルザ姫の顔色は未だ青白く、静養が必要だった。
「いえ、私もブラックCEOの政策には燻っていたものがありましたし、なにより姫様の命を救えて良かったです。もう身内の訃報なんて、これ以上聞きたくありませんから……」
心の底から出たグリフィンの言葉だった。
冒険者になってから、常に出逢いと別れがあった。
当然、危険な職業だ。冒険の最中、仲間との永遠の別離は珍しいことではなかった。
かつての【世界大戦】でも、幾多の連合軍の仲間たちが戦火に散っていった。
何より、それらの出来事が起こるずっと前から、すでに彼は“最愛の人”を喪っている。
「………貴方は以前と何も変わらないようね」
そんな背景を知るエルザ姫は、ホッと安心感を浮かべる。
「わたくしは変わってしまったわ。何もかもが、変わってしまった。
………ウフフ。なのに皆、未だにわたくしのことを姫様って呼ぶの。おかしいったらありゃしない」
苦笑。そこには哀愁と懺悔が混在していた。
ヴィクトリア王国の姫君。
救国の聖女。創世の女神。
そして、現在は世界の敵対者。
立場の変容があまりにも目まぐるしく、彼女の胸中は常人には計り知れないものがある。
「姫様は、姫様ですから」
グリフィンはそれでも尚、そんな彼女の根っこの部分を信じている。
対面することで感じられるエルザ姫の人柄に、懐かしさと安らぎを感じるのだ。
「やめてよ。もうそんな時代じゃない。貴族制は撤廃されたの。今のわたくしはテロリストの代表。
【解放戦線】のリーダーよ」
彼女は嘆息をつく。
「………みんな、変わってしまったわ」
「飛鳥とハッカイ、ですね」
グリフィンは躊躇なく、核心に迫る。
その言葉に、エルザ姫はコクリと頷いた。
「仲間を殺されたわ」
彼女の表情は、言葉に反して穏やかだった。
「でもわたくし、わからないの。彼等を恨む気になれなくて。殺された人々も、わたくしにとって決して安易な命ではなかった。それこそペンドラゴン王国からの臣下も居たわ」
彼女は複雑な胸中を吐露する。
「それでもやっぱり、飛鳥とハッカイを恨む気にはなれないの」
「姫様は優しすぎるから」
グリフィンは優しくも、悲痛が雑ざった表情をする。
そんな彼に視線を向けながら、エルザ姫はまた苦笑。
「その言葉。そっくりそのまま貴方に御返しするわ」
そして彼女は、再びタメ息をついた。
「こんなとき、タローが側に居てくれたらどーしてたのかしら………」
エルザ姫は、ふとかつて共にいた“人類の希望”を夢想する。
鬱陶しいほど情熱的で、圧倒的に頼りになった存在。
そして今、隣に彼はいない。
だがその答えは明白だった。
「戦うでしょうね。かつての仲間といえど、容赦なく。そして、しつこく姫様に求婚する」
グリフィンは断言し、そして苦笑した。
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