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序章 Let's talk about justice

7ターン目/醜悪なるアグリーと魔王軍七武将

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 かくして、
 エルザ姫率いる【外交旅団】が世界一周を終える頃には、タローは15歳になっていた。
 彼等は国際的に多大な影響力を及ぼす英雄として認知され、民衆たちから絶大な支持を獲得していた。
 そして、その称賛は同時にペンドラゴン王国を世界の中心。
 すなわち、当時代の覇権国家へと押し上げる。
 流血による侵略ではなく、名声による精神的領土の拡大。
 これらの成果に【外交旅団】の誰しもが満足し、
 大手を振って祖国へ帰れる。国王陛下に喜んでもらえる。

 そんな矢先、
 彼等がペンドラゴン王国へ帰ると異変・・があった。

「王都が、燃えている――――!?」

 街中を徘徊し、破壊活動を行う魔物たち。
 彼等は明らかに野生のそれではなく、武装化し統率された、組織・・の兆候があった。
 そんな彼等に冒険者や王国騎士たちが懸命に立ち向かうも、連携が取れておらず、統率された魔物の軍勢の前では、まるで歯が立たずにいた。

「わたくしが指揮を執ります!戦えぬ者は街の外へ!戦える者は剣をお取りください!」
 王女エリザベスの帰還に沸き立つ民衆。

 士気の爆発的な向上と、精鋭と超人揃いの【外交旅団】の帰還により、戦況は一変する。
 一方的な虐殺から、混戦状態にまで持ちこたえ、彼等は次々と人々の救助を敢行していく。

 そして、
「お父さま!?」
 エルザ姫の悲鳴。
 
 ペンドラゴン城。王の間。
 燃える街同様、城内にも魔物の軍隊が蔓延り、内部は破壊と硝煙が渦巻く混沌と化していた。

 ペンドラゴン国王救出のために、突入したエルザ姫と勇者タロー。
 だが王はすでに、事切れ・・・ていた。

「げひゃひゃひゃひゃ!待っていたぞ、エルザ姫!【救国の聖女】よ!!」
 それは、魔界に棲息する知的生命体/魔族だった。

 黒衣を纏い、山鉈を握る異形。
 尖った耳と鷲鼻。ピンク懸った肌の色。ゴブリンなどに近い容貌をした魔人。

「俺様は“醜悪なるアグリー”。
【魔王軍七武将】が一人!今日からこの国は俺様の国とさせてもらうぜ。げひゃひゃひゃひゃ!」

 ◆◆◆

 勇者タローと醜悪なるアグリー。
 1vs1ワンオンワン決闘タイマンが始まった。

 機械的且つ無駄のないタローの剣撃は、さながら暗殺者アサシンのような無慈悲つめたさで、眼前の敵を追随する。
 一方、魔王軍七武将/醜悪なるアグリーはまるで道化師ピエロのように、遊行的克つ狂気的に。然もその攻撃を嘲笑うかのような無軌道な動きで山鉈マチェットを切り払い、すべての攻撃を回避する。

「そんな!タローと互角だなんて!?」
 エルザ姫は驚愕の言葉を溢す。

 強い。タローもまたそんな所感を抱いていた。
 今まで戦ったどんな相手と比べても、この醜悪なるアグリーは頭ひとつ抜けている。
 見た目は貧弱そうで品性もなく、思考回路も三流。三下。小物そのもの。
 だが、その身の丈にまるで合わない実力を兼ね備えており、だからこそ持て余した力はより一層邪悪さに磨きが懸り、尚更に性質たちが悪かった。
 だからこそ・・・・・

 ●【氷属性】×【付与】×【武器】
 ▼勇者は 呪文を唱えた!【成功ヒット

「―――ブリザードソード!」

 冷気を纏った斬撃。その刃がアグリーの山鉈マチェットとぶつかった瞬間、醜悪なるアグリーの全身に霜が迸り、一気に凍り付いてゆく。

「ぐぅおおおおおおおおおおうッ!?な、なんじゃコリャァーーーーーーーーーッッ!!?」
 醜悪なるアグリー、絶叫。

 冒険王ミフネが得意とした付与属性エンチャント系魔法/【魔法剣オーラソード】。
 自身が所有する剣に属性付与エンチャントを施し、属性攻撃を行う。
 かの冒険王はこれらを自在に転換し、天衣無縫に扱ったことから、その様相を【虹色の剣ビヴロスト】と古参の冒険者たちから讃えられている。
 
 タローの魔法剣オーラソードはそれには及ばないものの、幼少の頃より間近に見ていた父の剣技それを自分なりに再現したものだ。
 はじめて・・・・

「できた! 付与属性エンチャント!」
 戦いの最中、普段鉄仮面のように表情が無機質になるタローは、珍しく顔を綻ばせる。

 今まで魔法が得意ではなかったタローは、これまで物理と無作為な魔力放出による力業。
 そして、超勇者形態ちょうゆうしゃモードですべてを強引に片付けてきたが、世界中を旅する中で、やはりそれが通用しなくなっていった。
 自らの未熟さを痛感した彼は、
 旅をしながらホグワーツに改めて魔法を師事し、かつグリフィンにも丁寧に手解きを受ける。
 実は最初の旅でもホグワーツから教わっていたものの、この老爺があまりにも天才過ぎたのとタローがあまりにも飲み込みが悪すぎて、教育上の相性が悪か過ぎた。
 だが努力の人タイプのグリフィンがここで良い作用を働き、今回の結実をもたらしたのだ。

 腕利きの魔法剣士ならば、今の魔法剣オーラソードも相殺したであろうが、生憎アグリーは剣士ですらなく、ただの力をもて余した野蛮なチンピラだ。
 それらはこれまでの剣劇チャンバラの中で、分析済みである。

 だからこその、
 一か八かの 属性付与エンチャントした魔法剣オーラソード
 もっとも、タローと真正面から斬り結べる相手など、今まで存在しなかったのだが――――。

「ギギギギギッ、グェッッ!?」
 アグリーは地を転がり、咽び喘ぎながら、苦悶の表情を浮かべる。
 その一方で、生存本能の成すがままに、体内の魔力を総動員させてその流れを急速に循環させることで、自身の生命力を活性化させ、その熱量でその身に食らい付いた氷を溶かしていく。

「ハァ、ハァ、げひゃ、げひゃひゃひゃひゃ!」
 不気味で嫌悪感を生じさせる下卑た笑い。
 しぶとい。アグリーはその眼光を尖らせ、唾涎をこぼしながら、醜く不様に。
 それでも尚、立ち上がる。

「そうか………おまえが………おまえがあの………【勇者】!げ、げひゃひゃひゃひゃ!」

 醜悪なるアグリー。
 その二つ名の由来は、醜悪なまでの底知れぬタフネスと執念にあった。 
 
 ◆◆◆

 何度剣で断ち、魔法を撃ち込み、徒手空拳を叩き込もうとも、醜悪なるアグリーは倒れない。
 否、何度も何度も倒れてはいるがその都度、何度でも這い上がってくるのである。

 まるで死霊系魔物アンデッドのような不死性と、生ある者が死の淵ギリギリで織り成す狂気と不気味さで。
 アグリーはまさに醜悪に、勇者タローに襲い掛かる。

 ●【闇魔法】×【吸収】×【敵単体】
 ▼醜悪なるアグリーは 呪文を唱えた!【大成功クリティカル

 元々、体力オバケで執念深いアグリーだったがここにきて吸収系魔法を行使してくる。
 体力、魔力、攻撃力、防御力、移動速度。
 それらすべてがタローから簒奪・・されていく。

 
「――――超勇者形態ちょうゆうしゃモード、発動!」

 ●【専用魔法】×【魂の解放】×【自分】
 ▼勇者は 変身した!【成功ヒット

 その瞬間、吸収系魔法/簒奪者ユーサップにより発生していた様々な負荷デバフがすべて吹き飛ばされる。
 超勇者形態ちょうゆうしゃモードはすべての強化バフを自身に挿入すると共に、すべての負荷デバフを無効化するのだ。

 ●【専用魔法】×【射撃】×【敵単体】
 ▼勇者は 呪文を唱えた!【大成功クリティカル

神撃鳥ゴッドフェニックス!」
 そして、射出する勇者特有の必殺技。

 鳥の形態をした魔力の塊はそのままアグリーに直撃し、爆炎を起こす。 
 匹敵必中一撃必殺。神撃鳥ゴッドフェニックスは誰しもがそう信頼している勇者の奥義。

 しかし、
 それでも、醜悪なるアグリーは立ち上がる。
「…………嘘だろ?」
 戦闘中において、冷徹さを越えて無機質なマシーンと化すタロー。
 だが今回ばかりはさすがに狼狽し、破顔する。

 一方、とはいえさすがに効いたのか、醜悪なるアグリーは満身創痍の様子で、不穏に笑っていた。
「…………げひゃひゃひゃひゃ!これからだ、勇者よ!――――といいたいところだが、どうやら引き際らしい」
 アグリーの言葉と共に、【ペンドラゴンの四騎士】の面々/飛鳥、グリフィン、ハッカイ。
 そして多数の兵隊たちが、王室へと一斉になだれ込んでくる。
「勇者タロー、俺たち魔王軍の攻撃はすでに始まっている!この世界をいただくのは俺たちだ!」
 かくして、アグリーはその姿を眩ましてしまった。



 
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