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序章 Let's talk about justice

2ターン目/酒場の店主と大賢者

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 “暗黒時代”――――。

 群雄割拠の戦国時代真っ只中だった当時の魔界に突如現れ、流星の如く魔界統一を果たした絶対覇者/【魔王】。
 魔界を手に入れた【魔王】は続いて、人間界へと宣戦布告。魔族の軍勢 / “魔王軍”を投入し、着々と人類文明への侵攻を開始する。
 人類は抗戦するも、強力な“魔王軍”にまるで太刀打ちできず、各国は次々と占領されていってしまう。
 だがしかし、そんな闇を祓うかのように一筋の希望ひかりがこの世界に舞い降りる。

   ――【勇者】の出現である。  
 “魔王軍”に反旗を翻す一人の勇敢な若者。
 その噂は立ち処に広まり、【勇者】を支援フォローする者たちが続々と世界各地に現れ始める。
 “魔王軍”への反撃の気運は瞬く間に成熟を果たし、ついには世界の命運を賭けた戦いの火蓋が切って落とされる。

 史上初、【世界大戦】の勃発である。 

 かくして、【勇者】を筆頭とした“連合軍”は、次々と各地の“魔王軍”を撃破。
 その支配圏を解放しては、自軍の勢力を猛烈な勢いで拡大させ、増強を進めていく。
 そしてついには“魔王軍”の本拠地であり、人間界侵略作戦の指揮を執る時代の中枢/“魔王城”へと辿り着いた。

 戦いは佳境を迎え、
【勇者】たちはいよいよ最後の闘いへ挑もうとしていた――――。
   
        ◆◆◆

 タローは【勇者】である。
 ペンドラゴン王国辺境に佇む小さな田舎・ヴィレッジ村出身。
 両親は健在で、宿屋兼酒場を営業している。

 彼の運命が動き出したのは、
 “大賢者ホグワーツ”が訪れたことからはじまった。

「ガハハハハッ、いやー奥様。見れば見るほどお美しいっ! どうです? 今夜わしの部屋で夜のRPGロールプレイングなんて」
「もうっ、ホグワーツさん冗談が御上手なんだからっ🖤」

 豪快に麦酒ビールを呷る老獪な巨漢。
 彼こそが、大賢者/“灰色のホグワーツ”だ。

 筋骨隆々。生え際が後退した髪と蓄えた髭が加齢により白く脱色しても尚、気力と体力、何より溢れんばかりの若々しい生命力エネルギーを感じさせる老爺ろうや
 古い魔法使いの様式美テンプレである黒いローブに先の折れた三角帽子。そして、先端がグルグルした木の杖を携える。
 そんなエロじじいの口説き文句セクハラ発言をヒラリヒラリと躱す酒場の女将ママ
 だがそんなふたりのやり取りを面白く思わない人間がいた。

「だああああーーーーーッッ!! このクソじじいッッ!!! テメーさっきから話聞いてりゃ、ウチのかみさんに色目ばっか使いやがって!! 表出ろ、ブッ殺してやるっ!」

 酒場の店主、激おこ。
 水商売たるもの、酒と女。こんなやり取りは日常茶飯事な筈だったが、今日の酔客があの・・“灰色のホグワーツ”ということもあり、ヤキモキが止まらない。
 マジで抱かれるかもしれへん!!?
 そんな嫉妬と不安が燻り、爆発した結果だった。

「ああん!!? 上等じゃッッ!!! わしがただの温室育ちの魔法使いインテリではなく、実地調査フィールドワークを重視する冒険者であることを教えてやらァッッ!!!」

 一方、大賢者ホグワーツもまた、売り言葉に買い言葉。
 酒に酔った勢いに任せて、激昂する。
 普段なら決してそんな愚行を起こさない紳士的な彼だったが、敵の強さ・・・・に本能的に引っ張られたのか?
 はたまた運命の悪戯か?

 とにもかくにも。
 かくして。

 大喧嘩けっとうの火蓋は切って落とされた。
   
        ◆◆◆

 村の外。レベル1に近い弱小モンスターたちが必死で逃げ惑う。

 ●【全属性】×【射撃】×【敵全体】
 ▼大賢者は呪文を唱えた!【成功ヒット

 思念言語。この世界における超能力/【魔法】を構成するプログラム言語。
 心象で唱える無音声言語であり、これに付随して魔力を燃費することで指向性を持った超常現象を引き起こすことが可能となるのだ。

全方位多属性魔法絨毯爆撃ぜんほういたぞくせいまじゅつじゅうたんばくげき】。
 大賢者“灰色のホグワーツ”が放つ無差別破壊。空に無数に展開しては消えていく幾多の魔方陣より射出される炎や落雷、水の激流。竜巻に土砂。毒液に氷塊。光線にブラックホールなどなど。
 バラエティーに富んだこの世のありとあらゆる自然現象が容赦なく攻撃的に降り注ぎ、大地を削る。

 まさに大賢者、全力全開!
 だがそれは、この老爺ろうやが素人相手に容赦のない過剰殺傷オーバーキルを目論んで出力しているワケではない。

 眼前の敵が、使

 ●【無属性】×【付与】×【武器】
 ▼酒場の店主は 呪文を唱えた!【成功ヒット


「おおおおおおーーーーーーッッ」
 酒場の店主、咆哮。

魔法無効化マジックキャンセラー】。
 店主は、酒場に誰か忘れて置いていった安価武器/銅の剣を片手で振るい、無双乱舞。
 次々と振りかかる魔法爆撃を爆速でぶった斬り、縦横無尽に駆け巡る。

 やがて、接敵。
 酒場の店主は、それまで銅の剣が纏っていた【魔法無効化マジックキャンセラー】の魔力オーラを変換。
不殺ころさず魔力オーラ】に切り替え、 銅の剣を非殺傷兵器ひさっしょうへいきへと変貌させる。
  
「くたばれ、クソじじいッッ!!!!」
 渾身の逆袈裟斬り。
 刃は、天に向かって振り上げられる。

 ――――筈だった。

 ●【無属性】×【強化】×【自分】
 ▼大賢者は 呪文を唱えた!【成功ヒット

フンっ!!!?」
 大賢者が、りきむ。
 刹那、銅の剣。その切っ先が、
 ホグワーツの腹斜筋に止められる・・・・・・・・・

 驚愕。
 酒場の店主は、その眼孔を見開いた。

強度増幅ブースト】。
 基礎魔法のひとつにして、“灰色のホグワーツ”がもっとも得意とする魔法。
 自身は勿論、様々な対象に魔力を注入し、その強度を増幅させることが可能となる。
 大賢者特有の絶大な魔力量。注ぎ込まれたその濃度によって、彼の肉体はすっかり鋼のように強固なものとなっていた。

「舐められたものじゃ。伝説の武器ならいざ知らず、市販の銅の剣程度でわしの肌に傷を付けようなどとは、この――――」

 大賢者は杖を捨てる。
 そして、握りしめられるくうの右拳。

無礼者ばかちんがァァーーーーーーーッッ!!!」

 大衝突インパクト
 刹那、大賢者の鉄拳が炸裂する。
 顔面をぶん殴られた酒場の店主は、血飛沫と涎を撒き散らしながら、錐揉きりもみ回転。
 不時着するように、大地を滑走する。

「嘘だろっ!? 旦那がまともに殴られるなんてはじめて見たぜ、俺ァッ!?」
 眼を丸くした武器屋が悲鳴をあげる。

「“灰色のホグワーツ”。つまり、あれが本来の姿というワケか。【強度増幅ブースト】による徒手空拳ステゴロ。 それがもっとの大賢者が得意とする戦闘手段バトルスタイル。 まさか生きてこの眼で拝むことになろうとは――――」
 村で一番物知りな村長が感慨深げに解説する。

「まほうのちからって すげーーー!!」
 デブでモブな村人が絶叫。

 観戦する、ヴィレッジ村の村民たち。
 彼等は酒とつまみを片手に、酒場の店主と大賢者ホグワーツ。どちらが勝つかの賭けをしている。

 胴元は、酒場の女将ママ
 もちろん、彼女が賭けているのは愛する夫/酒場の店主。
 …………ではなく、世界中に名を轟かせる“灰色のホグワーツ”だ。

「―――へっ、上等だ」
 酒場の店主が、ふらりと立ち上がる。
 不敵な笑み。口許に垂れる鮮血を拭う。

  「さすがは大賢者/“灰色のホグワーツ”。噂に違わぬ勇猛だ。だがな…………」

 刹那、酒場の店主。
 瞬間脱衣キャストオフ
 上半身裸となり、その鍛え抜かれた美しい筋肉をお披露目する。

 そして、

ァァァァーーーーーーっ!!!」
 雄叫び。凄まじい金色の魔力が奔流する。

 ●【専用魔法】×【魂の解放】×【自分】
 ●酒場の店主は 変身した【成功ヒット

 酒場の店主の額に、何やらが浮かび上がる。

  「―――勝負は、こっからだろうがよ?」
 店主は得意気に嗤った。

「………【超勇者ちょうゆうしゃ形態モード】。そうか、やはり貴様が」
 大賢者は眼を細め、息を呑む。

超勇者ちょうゆうしゃ形態モード】。

 それは、古の伝説。
 世界中で語られるお伽噺。
  
 *********

 むかしむかし あるところに いっぴきの龍がいました。

 ある日 龍は ニンゲンのお姫さまに  ひとめぼれ。
 龍は お姫さまをさらい すんでいた古城に とじこめてしまいます。

 お姫さま つらすぎ ぴえん。

 しかし そんなお姫さまを たすけるために 
 どこからか 勇者さまが 現れました。

 勇者さまは 不思議な力で 龍とたたかい 勝利します。

 あまりのかっこよさに
 お姫さまは おもわず トゥンク。

 ふたりは またたくまに 恋におち
 どこか とおい国で しあわせに暮らしましたとさ。

 めでたし めでたし。

 *********

 この物語の“勇者さま”が持っていた“不思議な力”こそ、【超勇者ちょうゆうしゃ形態モード】。
 その力を扱うことができる酒場の店主とは、
 すなわち―――

「――――、か」
 大賢者ホグワーツは、ほくそ笑んだ。
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