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20話 あざとエルフと牛乳シャワー
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昨晩は約束通り、エルフの女は大人しくしていた様だった。ユウリに対して夜這いをかけないかと気を張っていたが、特に目立った動きを見せる事はなく、与えられた部屋で静かにしていたらしい。
朝起きてきたユウリにも確認したから、それは間違いないだろう。
「そういえば、あの人の名前聞いてなかったな。」
焼いた目玉焼きを皿に盛り付けているユウリがふとそうこぼしたので、私は気を使う事なく怪訝な顔を浮かべてやる。
「別に……今日出ていく訳なんだから、聞く必要なんかないんじゃない?」
「……まぁ、それもそうなんだけど。朝食くらいは食べて行ってもらってもいいじゃん?それなら名前くらいは聞いておかないとな。」
一瞬、私に対しても何か言いたげな顔を浮かべたユウリだが、彼はそれを飲み込んで今度はサラダの盛り付けを始めた。その背中を見ながら、彼が今言わんとした事が何なのか想像してため息をついた。
「お……おはようございます。」
ユウリに手渡されたサラダの小皿をテーブルに置いていると、2階からエルフが降りてきた。
その顔には少し恥ずかしさが浮かんでおり、モジモジとした態度がとてもいじらしい……と、男ならば思うのだろう。
それを見ていると吐き気がした。反吐が出るとはまさにこういう事を言うのだろう。
「おはよう。朝ご飯、もうすぐできるからそこに座ってください。」
ユウリが指示した席にオドオドとしながら座るエルフの女に訝しげな視線を送れば、それに気づいたエルフがニコリと笑みを向けてきた。
こいつ、やっぱりわかっててやってるんだ。
そう考えたら改めて怒りが込み上げてくる。なんでこんな奴がこの家に来たのだろうかと考えてしまい、イライラが止まらない。
だが、ここで騒ぎ立てる訳にはいかなかった。そんな事をすれば、自分がユウリの命を狙っている暗殺者だという事実が彼にバレる恐れがあるからだ。
ここは我慢だ。我慢すれば、この女は朝食後にはユウリに追い出される事になるのだから。
私はそう考えて心を必死に落ち着かせた。
「はい。パンが焼けたよ。」
「あ……ありがとう……ござ……います。」
エルフの女はオドオドとしたまま、受け取ったパンを口にするが、ユウリの視線が自分から外れた事を確認するや否や、ニヤリとした笑みをこちらに向けてくる。
その態度に再びイラッとしてしまったが、席についたユウリも朝食を食べ始めたので、自分を抑えるように大きく深呼吸をして朝食をいただく事にする。
「一応聞くけど、君、名前はなんて言うの?」
バターをパンに塗りながらユウリがそう問いかけると、エルフは食べる手を止め、咀嚼していた物をごくりと嚥下して口元を拭いた。
「わたくしは……ディネルースと申します。」
「ディネルースさんか。いい名前ですね。でも、エルフの人がこの辺にいるのは珍しいですよね?昨日は何であんなところに?」
その言葉に対して、ディネルースは悲しげに視線を落とした。
「はい……実はわたくし、ある薬草を探しておりまして。先日、ゲイズの街を訪れた時にそれがこの辺に生息していると伺ったものですから……」
その態度がわざらしくて気に食わない。
なにより、私にはこいつの話は全部嘘だとわかっていた。街で聞いたなんてまったくの嘘だし、そもそもこいつは薬草なんて探してもいない。
なのに、そんな嘘を軽々とつくこの女がムカついて仕方がない。
それに一番気に食わないのが、こいつが今ユウリに投げかけたその話題である。ユウリは薬草士であり、薬草の事に詳しいだけでなくそういう話題が大好きだ。それは事前の調査でも知っていたし、ここ数日一緒に過ごしてみて改めて確信している。だから、この話にはすぐに食いつく事が容易に想像できた。
それをこの女は全て計算でやっているのだから、本当に腹立たしくて仕方がない。まぁ、先手を打たれたのは私のミスなんだけど……
「へぇ、薬草を探して……なんていう名前の薬草ですか?俺、実は薬草士なんでその辺には詳しい方なんですよ!まぁ、エルフの知識には勝てない事くらい理解してますけど……ハハハ。」
こちらの気持ちなんて知る由もないユウリのやつが、バカみたいな笑顔を浮かべてディネルースと話している。それを見ているとさらにイライラとしてしまうが、ここで怒ってしまってはいろいろと面倒な事になるので我慢するしかない。
なんとか気持ちを落ち着かせようと思い、私がコップに注がれた牛乳を一気に飲み干そうとしたところで、今度は訳のわからない会話が聞こえて驚き、途中まで飲んでいた牛乳を思いきり吹き出してしまった。
「お……おい、ター。突然どうしたんだよ。大丈夫か?」
「えぇ……そ……それよりも、い……今なんて?」
驚きつつも心配してくれるユウリに対して、話の内容を確認しようと問いかける。その際、私の横にいるディネルースをちらりと見れば、彼女は勝ち誇った様な笑みを浮かべている様子が窺えた。
「実はさ、ディネルースさんが探してる薬草ってのが月見草らしいんだよ。その群生地ならこの前行ったばかりだし、この後案内しましょうかって。」
「な……なんでそんな話になるのよ。このエルフは追い出すんでしょう?」
「確かに泊めるのは昨晩だけって約束だけど、薬草探索の手伝いをするのは別の話じゃん。昨日みたいに魔物に襲われても困るだろうし……」
ダメだ。このお人好しは完全にディネルースの口車に乗せられている。こうなってしまっては、おそらく私が何を言ってもケンカにしかならないし、それはディネルースにとっても望ましい事になる。
私は無意識にか、自然と大きなため息を吐き出していた。
朝起きてきたユウリにも確認したから、それは間違いないだろう。
「そういえば、あの人の名前聞いてなかったな。」
焼いた目玉焼きを皿に盛り付けているユウリがふとそうこぼしたので、私は気を使う事なく怪訝な顔を浮かべてやる。
「別に……今日出ていく訳なんだから、聞く必要なんかないんじゃない?」
「……まぁ、それもそうなんだけど。朝食くらいは食べて行ってもらってもいいじゃん?それなら名前くらいは聞いておかないとな。」
一瞬、私に対しても何か言いたげな顔を浮かべたユウリだが、彼はそれを飲み込んで今度はサラダの盛り付けを始めた。その背中を見ながら、彼が今言わんとした事が何なのか想像してため息をついた。
「お……おはようございます。」
ユウリに手渡されたサラダの小皿をテーブルに置いていると、2階からエルフが降りてきた。
その顔には少し恥ずかしさが浮かんでおり、モジモジとした態度がとてもいじらしい……と、男ならば思うのだろう。
それを見ていると吐き気がした。反吐が出るとはまさにこういう事を言うのだろう。
「おはよう。朝ご飯、もうすぐできるからそこに座ってください。」
ユウリが指示した席にオドオドとしながら座るエルフの女に訝しげな視線を送れば、それに気づいたエルフがニコリと笑みを向けてきた。
こいつ、やっぱりわかっててやってるんだ。
そう考えたら改めて怒りが込み上げてくる。なんでこんな奴がこの家に来たのだろうかと考えてしまい、イライラが止まらない。
だが、ここで騒ぎ立てる訳にはいかなかった。そんな事をすれば、自分がユウリの命を狙っている暗殺者だという事実が彼にバレる恐れがあるからだ。
ここは我慢だ。我慢すれば、この女は朝食後にはユウリに追い出される事になるのだから。
私はそう考えて心を必死に落ち着かせた。
「はい。パンが焼けたよ。」
「あ……ありがとう……ござ……います。」
エルフの女はオドオドとしたまま、受け取ったパンを口にするが、ユウリの視線が自分から外れた事を確認するや否や、ニヤリとした笑みをこちらに向けてくる。
その態度に再びイラッとしてしまったが、席についたユウリも朝食を食べ始めたので、自分を抑えるように大きく深呼吸をして朝食をいただく事にする。
「一応聞くけど、君、名前はなんて言うの?」
バターをパンに塗りながらユウリがそう問いかけると、エルフは食べる手を止め、咀嚼していた物をごくりと嚥下して口元を拭いた。
「わたくしは……ディネルースと申します。」
「ディネルースさんか。いい名前ですね。でも、エルフの人がこの辺にいるのは珍しいですよね?昨日は何であんなところに?」
その言葉に対して、ディネルースは悲しげに視線を落とした。
「はい……実はわたくし、ある薬草を探しておりまして。先日、ゲイズの街を訪れた時にそれがこの辺に生息していると伺ったものですから……」
その態度がわざらしくて気に食わない。
なにより、私にはこいつの話は全部嘘だとわかっていた。街で聞いたなんてまったくの嘘だし、そもそもこいつは薬草なんて探してもいない。
なのに、そんな嘘を軽々とつくこの女がムカついて仕方がない。
それに一番気に食わないのが、こいつが今ユウリに投げかけたその話題である。ユウリは薬草士であり、薬草の事に詳しいだけでなくそういう話題が大好きだ。それは事前の調査でも知っていたし、ここ数日一緒に過ごしてみて改めて確信している。だから、この話にはすぐに食いつく事が容易に想像できた。
それをこの女は全て計算でやっているのだから、本当に腹立たしくて仕方がない。まぁ、先手を打たれたのは私のミスなんだけど……
「へぇ、薬草を探して……なんていう名前の薬草ですか?俺、実は薬草士なんでその辺には詳しい方なんですよ!まぁ、エルフの知識には勝てない事くらい理解してますけど……ハハハ。」
こちらの気持ちなんて知る由もないユウリのやつが、バカみたいな笑顔を浮かべてディネルースと話している。それを見ているとさらにイライラとしてしまうが、ここで怒ってしまってはいろいろと面倒な事になるので我慢するしかない。
なんとか気持ちを落ち着かせようと思い、私がコップに注がれた牛乳を一気に飲み干そうとしたところで、今度は訳のわからない会話が聞こえて驚き、途中まで飲んでいた牛乳を思いきり吹き出してしまった。
「お……おい、ター。突然どうしたんだよ。大丈夫か?」
「えぇ……そ……それよりも、い……今なんて?」
驚きつつも心配してくれるユウリに対して、話の内容を確認しようと問いかける。その際、私の横にいるディネルースをちらりと見れば、彼女は勝ち誇った様な笑みを浮かべている様子が窺えた。
「実はさ、ディネルースさんが探してる薬草ってのが月見草らしいんだよ。その群生地ならこの前行ったばかりだし、この後案内しましょうかって。」
「な……なんでそんな話になるのよ。このエルフは追い出すんでしょう?」
「確かに泊めるのは昨晩だけって約束だけど、薬草探索の手伝いをするのは別の話じゃん。昨日みたいに魔物に襲われても困るだろうし……」
ダメだ。このお人好しは完全にディネルースの口車に乗せられている。こうなってしまっては、おそらく私が何を言ってもケンカにしかならないし、それはディネルースにとっても望ましい事になる。
私は無意識にか、自然と大きなため息を吐き出していた。
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