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第四章 全ての想いの行く末
55話 エレナ、カスタマイズする!
しおりを挟むイノチは目の前のドアをゆっくりと開けた。
女性らしいベッドが見え、その横にある窓には白いレースのカーテンが備え付けられている。そして、開いた窓から吹き込む夜風が、時折それを揺らしていた。
「エレナ…?」
イノチが小さくこぼすと、部屋の奥でガタッと音がした。そちらに顔を向けると、驚いた顔でこちらを見つめるエレナがいた。
その顔を見て安堵したイノチは、笑いながら問いかける。
「元気してたか?」
その言葉に一瞬ハッとしたエレナは、腕を組んでこう答える。
「あ…当たり前でしょ!実家に帰ってきただけなんだから…!」
相変わらずの態度だが、その表情には恥ずかしさが滲んでいた。それを見たイノチはクスリと笑う。
エレナはそんなイノチに対して、呆れたようにため息をついた。
「よく来れたわね…BOSS。部屋の前に兄さんが居たはずなんだけど…」
「あぁ、アルスさんだろ?今は眠ってもらってるよ。」
「…信じてたけど、信じられないわね。どうやったわけ…?」
疑問を浮かべるエレナに、イノチは端的にこれまでのことを伝えた。
「なるほど…神さまねぇ。」
エレナは、自身の武器『ドラゴンキラー』を納めているベルトを腰に取り付けながら、そう呟いた。
「まぁ、詳しい話は後でするとして、フレデリカもエレナの親父さんに勝てたみたいでな…あとはミコトたちと合流して、まずはこっから逃げるだけなんだ。」
イノチは、少し気を遣ったようにエレナにそう告げた。それを聞いたエレナは驚愕して表情を浮かべる。
「は…!?フレデリカがうちの父さんに…勝った?何よそれ…」
イノチはエレナの表情を見て、一瞬彼女の真意を測りかねた。腐ってもクリスはエレナの父親なのだ。それを倒されて気分が良いはずがないのだ。
だが…
「そんなすごいことができるなら、もっと早くやりなさいよね!!」
その言葉に、イノチは思わず噴き出してしまった。そんなイノチに対して、エレナは「何がおかしいのよ。」と訝しげな顔を浮かべている。
「ごめんごめん…エレナの親父さんを倒しちゃったのはどうなのかなって思ってたんだよ。エレナが気にしないかなって…けど、なんの心配もなかったな。」
「あったり前でしょ!あたしはこの家が嫌いなのよ!」
エレナはそう言って大きくため息をつく。そして、少し気持ちを落ち着かせてこう告げた。
「越えられるなら、あたしだって越えたいのよ。この家のしがらみから逃げれるくらいに強くなりたい…」
だが、イノチは視線を落としてそうこぼすエレナを見て、ニヤリと笑った。そんなイノチにエレナは気づいて問いかける。
「BOSS…何笑ってるのよ…」
「いや…エレナらしいなって。そうだよな。強くなりたいんだよな。なら、強くしてやるよ。」
突然の言葉にエレナは「え…?」とこぼしたが、イノチは気にすることなくハンドコントローラーを打ち始める。
「B…BOSS?何を…」
「ん?何をって…エレナを強くするんだよ!」
戸惑うエレナに構うことなく、イノチはその手を軽快に走らせていく。
「あ…あたしを強く…?ちょっと…何言ってるわけ?」
そう言ってイノチの下へ駆け寄ろうとした時だった。自分の体が光り始めた事にエレナは気づいた。
「何よ、これ!?」
「まぁまぁ、大丈夫だから。まずは、ランクアップシステムの解除と…そんで…」
慌てるエレナに対して、イノチは笑いながらいくつかのウィンドウ開くと、ものすごいスピードで作業し始めたのだ。
「あっ…これもつけとくか。それと…このスキルも合いそうだな…あと、これとこれと…おっ!これやばいな!えげつないけど…まぁいいや!つけとこう!」
最後の方で何やら不穏な言葉が聞こえた…
エレナはそんなイノチに疑問を浮かべつつ、静かに見守ることにした。
そして数分後…
「おっし!できたぞ、エレナ!」
イノチは満足げにウィンドウを閉じて、エレナに振り向いた。エレナは体の変化を確認してみるが、特に変わったことはないようだが…
「何が変わったの?」
「ん…あとでのお楽しみかな。ウォタとの稽古で試してみろよ。」
イノチはそう言うと、窓の外を確認するような仕草をする。そして、再び振り返ると笑いながらこう告げた。
「さっ!ミコトたちのところへ行こうぜ!フレデリカたちも向かったみたいだしな!」
・
「ぐは…」
ヴェーは血反吐を吐きながら、よろけてその場に膝をつく。その目の前には、力強く立つミコトの姿があった。
「く…まだまだ…」
ヴェーは相当なダメージを受けているようだ。立とうとするが、膝に力が入らずに再びその場に倒れ込んでしまう。
そんなヴェーにヴィリが駆け寄る。
「大丈夫かよ、ヴェー。」
「大…丈夫……あいつ……ちく…しょう…」
悔しげな目をミコトに向けるヴェー。
それに対して、ミコトは負けずに強い視線を返してこう告げた。
「無理だってわかったでしょ!あきらめたら?」
「う…るさい…まだ…負けて…ない…」
「そんなにボロボロで…勝敗は明白でしょ!」
諦めないヴェーにミコトはため息をついた。
それを見たヴェーは悔しげに歯を食いしばり、ヴィリの制止を振り払って立ち上がった。
「ぶち…殺す…」
「はぁ…やっぱり立てないようにしないとダメだね。」
『あぁ…あの方も神だ。人に負けると言うのは、許し難い事実だからな。』
ゼンの言葉に「仕方ないね。」とミコトは呟き、再びオーラを体に纏った。ヴェーも負けじと紫のオーラを発現するが、初めほどの力強さはない。
しかし、その顔には意志の強さが感じられた。
(やっぱり心を折らないとだめ…か。)
ヴェーの顔を見たミコトは、気合を入れ直してゆっくりと構える。
そして…
先に動いたのはヴェーだ。渾身の力を振り絞ってミコトヘ飛びかかってくる。
「死…ね…!!!」
「この力差で…まだそんな強気に…」
ヴェーを迎え撃つべく拳を握るミコト。
だが、次の瞬間、何かの力によってヴェーの体が元の位置に引き戻されたのだ。
それに驚くミコトだが、それ以上にヴェーとヴィリの様子が大きく変わった事に気づいた。
二人ともガクガクと震えており、ヴェーに関しては何かに恐怖するように体を抱きしめているのだ。
一体何があったのかと疑問を浮かべていたが、ミコトはふと別の気配を感じて上空に目を向けた。
そこには一人の人影が浮かんでいて、静かにこちらを見つめている。
ダンディな口髭、左眼の眼帯、力強そうな体躯…
そして、右眼から感じる今まで感じたことのない威圧感。
「あれは…誰…?ゼンちゃん、知ってる?」
だが、その問いかけにゼンは答えない。それに違和感を感じたミコトは、もう一度ゼンに声をかける。
「ゼンちゃん…?どうしたの…?」
『い…いや…まさか…あの方は…!』
ゼンは何か知っているようだが、驚きのあまり言葉が出てこないようだ。
そうしているうちに、上空の男はヴェーたちの下へとゆっくりと浮遊していった。
近づいてくる男に対して、二人はさらに震え上がる。
「あ…兄貴…こここ…これは…そ…その…」
「兄…さま…ご…ごご…ごめん…」
だが、そんな二人に対して、男は静かにこう告げた。
「よい…しかし、こっぴどくやられたな。少し休め…」
その言葉は予想していなかったのか、ヴェーもヴィリもキョトンとしているようだ。そんな二人から振り返り、視線をミコトに向けた男は、ゆっくりと右手を上げた。
疑問を浮かべてそれを眺めるミコト。
だが、次の瞬間…
『ミコト!!避けろ!!』
ゼンの言葉にハッとして、ミコトは大きく身をかわした。
だが、男は気にも止めずに真っ黒なオーラをミコトが元いた場所にぶっ放した。
そして、ぶっ放した通り、地面と後ろの森が消し飛んだのだった。
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