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第四章 全ての想いの行く末
49話 内心、怒ってます
しおりを挟む押し寄せる敵たち。
ミコトはゼンと視線を合わせると、大きくある言葉を発した。
「「竜合体(ドラゴニックフォーム)!!」」
それと同時に、輝いた二人の体が一つに合わさっていく。
赤い髪の毛と二本の角、体の一部には竜の鱗を纏い、服も真紅に染まっていく。
胸で妖艶に輝く赤い宝石と同じように輝く、竜種によく似た綺麗な細長い瞳孔。
臀部からは、赤く美しい尻尾が伸び上がり、ゆらゆらと揺らめいている。
『いくぞ!ミコト!』
「うん!」
ゼンの言葉にミコトは力強くうなずくと、足に力を込めるように静かに体を低くする。そして、とてつもないスピードでその場から姿を消した。
最前線で多くの執事やメイドの相手をするメイは、その手数の多さにそろそろ捌き切れないと感じていた。
だが、自分は倒れるわけにはいかない。
イノチの助けになれるメイドになると決めたのだから…
母モエも言っていた。
イノチの力になることは、カルモウ家に貢献することにつながる。打算的かもしれないが、ドメイ一族の信念と責務を絶対に忘れるな、と。
その言葉が頭に蘇り、メイは気合いを入れ直して敵を打ち倒していく。
だが、戦いにおいて"量"というものがいかに重要であるか…
メイはそれを目の当たりにする。回し蹴りを放った瞬間、防御の隙をついた攻撃が軸足を襲った。今まで必死に保ってきた優位性が、一気に決壊する瞬間だった。
(しまっ…た!)
体勢を崩し、倒れ込むメイ。
そんな彼女に対し、ここぞとばかりに執事やメイドが持っている無数の武器が襲いかかる。
(イノチさま!!すみません!!)
そう思い、目を閉じるメイ。
だが、もうダメかと思ったその瞬間、目の前にいた多くの敵がものすごい勢いで薙ぎ倒され、吹き飛ばされていった。
後には、いくつか暗器のような武器が、音を立てて辺りに散らばり、その真ん中に全身が真紅に染まった女の子が立っている。
メイはそれを見てホッとした。
「ありがとうございます。ミコトさま…」
その言葉にミコトは振り向いて笑顔を浮かべる。
「メイさん、ごめんね。遅くなって…」
「いえ…これも作戦ですから。」
メイはそう言いながら立ち上がろうとするが、さすがに体力も限界だったようで、ふらりとよろけてしまう。そんなメイの体をミコトが支えて座り込み、取り出したポーションを手渡した。
「メイさん、これ飲んで…」
「ありがとうございます。」
もらったポーションを飲み干すと、嘘のように疲れていた体に元気が戻る。
メイは空の瓶をミコトに手渡した。ミコトはそれをアイテムボックスにしまい、メイの手を取って立ち上がるのを手伝うが、その視線は別の方を向いていた。
「あれで終わりと思ったんだけど…」
ミコトはメイの手を取りながら、ある方向を見てそうつぶやく。メイもその方向に目を向ければ、ワラワラと屋敷の中から現れる執事やメイドたちの姿を捉えた。
小さくため息をつくミコトに、メイは気づいたことを告げる。
「ミコトさま…やはり、これはおかしいです。」
ミコトもそれにうなずいた。
「そうだね…屋敷の大きさに対して、執事やメイドさんたちの数が明らかにおかしいもんね。」
「えぇ…彼らは本当に人間なのでしょうか?例えば、誰が魔力で具現化したとか…」
「でも、それにしては殴った時の感触がリアルなんだよね…あれは本物の人間だと思うんだけど…」
「確かに…そういえば、彼らは一言も発していませんね。それに、人間らしい生気が感じられないというか。皆さん、寡黙…そんなことがあるのでしょうか。」
首を傾げるメイに、ミコトは至った考えを伝える。
「あの人たちがなんなのか分からないけど、こういう場合はあの人たちを操っている黒幕が、どこかにいるんじゃないかな?」
メイもそれを聞いて首を縦に振った。
やることは決まったと言ったように、二人は目を合わせて笑い合う。
「メイさんは黒幕を探してね!近くにいると思うんだ。私はそういうの苦手だし…今の状態ならどれだけ湧いても大丈夫だから。」
「かしこまりました。私も暗殺者の端くれとして、最強の暗殺一族にどこまで通じるか…必ずや、元凶を見つけ出します!」
メイの力強い表情を見て、ミコトは嬉しそうにうなずいた。
・
その頃…
「わっ!わっ…!!ちょっと待て!ま…待ってくれって!」
「嫌だね!」
アルスは手に持つ短剣でイノチを斬りつけるが、イノチもあちらこちらと動き回り、それをかわし続けている。
だが、アルスはその事に違和感を感じていた。
(なんだ…なぜ避けられるんだ。前回は僕が投げたナイフすら見切れなかったくせに…まさか、あの時は演技していたというのか?)
ガラ空きのイノチの胸を目掛けて、短剣で突きを放つ。だが、イノチはギリギリでしゃがみ込み、それをかわした。アルスは手を休める事なく、その勢いのまましゃがみ込んだイノチに膝蹴りを放つが、イノチは体を横に転がして、再びギリギリで蹴りをかわす。
アルスは蹴りを放った足をそのまま踏み出し、その足を軸に今度は反対の足で後ろ回し蹴りをイノチヘ放つ。
しかし…
「ぶわぁっと!!」
アルスの回し蹴りは、イノチの顔のギリギリを通り過ぎていった。攻撃が外れたことに苛立ちながら、アルスは一旦距離を取る。
「君…何かあったのかい?」
「何か…?って何?」
アルスの問いかけに、イノチは少しとぼけたように答える。それに再び苛立ってか、アルスはイノチに向けて、目にも止まらぬ早さでナイフを投げた。
…が、
「うわっっっっ!!あっぶねぇ!!」
焦るイノチの後ろの壁に、アルスが投げたナイフが突き刺さる。
(なっ…前回より早く投げたんだぞ…それをこいつ、かわしやがった…!)
ことごとくかわされる攻撃に加え、前回よりも殺気を抑えつつ、最速で放ったナイフが、ギリギリとはいえ見切られたのだ。その事実に、さすがのアルスも驚きを隠せなかった。
「…君は誰だい?」
一筋の汗が額から流れ落ちたことに、アルスは気づいた。そして、咄嗟にイノチへと質問する。
しかし、イノチはというと、やっと止まった攻撃の手にホッとして、ヘナヘナとその場に座り込んでいる。
「はぁ~マジで怖かった…。てか、誰だって言われても…前に一度会ったじゃん。」
「そうかもしれないが…本当にあの君なのか?あの時とは動きがまるで違うじゃないか!」
「そう言われてもなぁ…」
息をつきながらイノチはそうつぶやき様に、チラリとウォタを見た。だが、彼は未だにいじけている。それを確認したイノチはため息をつくと、ゆっくりと立ち上がった。
「まぁ、確かに変わったことはあるかな…」
その言葉にアルスは警戒を高める。そんなアルスに対して、イノチはこう告げた。
「だけど、それを教える義理はないだろ?」
その瞬間、イノチはゆっくりとアルスに向かって歩き出す。
その行動にアルスは目を疑った。特に何か変わった様子があるわけでもない。なのに、目の前の男は悠然とこちらに向かって歩いてくるのだ。その姿には、得体の知れない違和感を感じざるを得なかった。
徐々に縮まる距離…
アルスの中に拭えない違和感と、少しずつ膨れ上がる恐怖が混ざり合う。
そして、気がつけば残り数歩というところまで、距離を詰められていた。
「おま…お前はいったいなんなんだ!!くそっ!」
そう言って、アルスは苦し紛れに飛びかかったが…
ふと気づけば、すでにイノチの姿は目の前にない。
焦りからキョロキョロと辺りを見回すアルス。そんな彼の耳元で、小さくイノチの声が聞こえた。
「お前ら…神と手を組んでんの?」
その声は、今まで聞いたことがないほど冷たい色をしていた。
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