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第四章 全ての想いの行く末

31話 BOSSのこと、知ってます。

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フレデリカとアレックスが旅館の自室へと戻ってきた。

二人ともボロボロの体でなんとかここまでたどり着いたようで、ヨロヨロと力なく部屋へと入ってくる。

だが、体中の痛みを忘れるほどの光景が二人の目に映った。


「ボ…BOSS…」


フレデリカの声にまったく反応を見せず、まるで絶望のどん底に落ちたような顔しているイノチ。

その周りにはセイドとモエがどうしていいかわからずに立ち竦んでいた。

そして、そこにエレナの姿がないことに気づき、フレデリカは状況をなんとなく把握する。


「エレナは…行ってしまいましたか…」


その言葉にイノチがピクリと反応し、俯いたまま弱々しくつぶやいた。


「あぁ…守り…きれなかった…すまん…」

「BOSSのせいではないでしょう。推測では彼女が自分で選んだのでは?」

「……」


イノチは言葉が見つからないようだ。
そんなイノチの代わりにモエが答える。


「彼女はイノチさまのことを…仲間の皆さまのことを一番に考えられたようです。私も力及ばす…申し訳ございません。」

「モエさんが謝ることではないですわ。我々も彼女の兄には敵いませんでしたし…悔しい限りです…」


拳を握るフレデリカの横で、アレックスも悲しさと悔しさを表情に滲ませて下を向いた。

部屋に重い沈黙が訪れる。

それを破るようにセイドが口を開いた。


「すまんな…俺は仲間になったばかりだから、お前らほど落胆できねぇ。落ち込む気持ちもわかるんだが…このまま姐さんを諦めるのか?」

「そんなつもりはないですわ!」

「そうだよ♪エレナさんを助けに行きたいよぉ♪」


フレデリカとアレックスがそうセイドに力強く告げる中で、イノチは無言のままだった。

セイドはそんなイノチへ問いかける。


「お前はどうなんだ…イノチ。エレナ姐さんはお前の仲間だろ?」

「……。俺は…」


問いかけられて顔を上げるが、何かを言いかけてすぐに俯いてしまうイノチ。

誰から見ても彼に迷いが生じているのは明確だった。


「正直…どうしていいかわからないんだ…」


力なくそうつぶやくイノチ。
皆、そんな彼を静かに見守っている。


「うすうす気づいてたんだけど…俺たちプレイヤーが使うガチャ魔法って単なる召喚魔法なんだよな。だからさ、元々の生活があったフレデリカもアレックスも、俺が強制的に自分の元へ召喚してしまったってことなんだよなぁ。」


それにはフレデリカもアレックスも何も答えなかった。


「エレナもそうだ…あいつにはあいつの生きる道があったのに、俺がそれを邪魔しちゃったんだ…。だから、あいつの兄貴が迎えに来たって、俺がそれを拒んでいいことじゃなかった…無理矢理仲間に引き込んでおいて…最低な奴だよな、俺って。」


イノチは頭を抱えながら話を続ける。


「俺はこの世界が現実だと知りながら、ガチャで手に入れた仲間のことをを考えようとはしなかった。エレナやフレデリカ、アレックスのことを考えず、自分の悲劇だけを悩むなんて…自分の愚かさを呪いたいよ。」


そこまでしゃべって、イノチは大きくため息をついた。
すると、フレデリカがあきれたように話し始めた。


「BOSS…言葉ですが、我々が召喚される時、何が起きているのか知らないのではありませんか、ですわ?」

「そうだよ♪BOSSは勘違いしてるよね♪」

「か…勘違いって…ど…どういうこと?」


意味がわからずに顔を向けるイノチに対して、フレデリカとアレックスは一度顔を見合わせると、再びイノチへ向き直る。


「我々は強制的に召喚されたわけではありませんですわ。ちゃんとBOSSの要請に応じて…自分たちの意思でここにいるのです。」

「俺の…要請?自分たちの…意思で…?」

「そうだよ♪BOSSのガチャ魔法に選ばれるとね、事前に通知が来るんだぁ♪『召喚要請がありました。受けますか?YES/NO』ってね♪そして、それに応じると召喚者の下へと転移させられるみたい♪」

「で…でも、相手がどんなやつかわからないのに、普通はYESなんて選ばないだろ?!」


あり得ないといった表情でフレデリカたちに問いかけるイノチに対し、フレデリカは指を振ってそれを否定する。


「チッチッチッ…甘いですわ!この召喚要請は、ご親切にもちゃんと召喚士の情報が見れるのですわ。」

「じょ…情報だって?お…俺のか?」

「えぇ。プロフィール程度ですが…ちなみにわたくしは『おっきいのが好き』に惹かれましたですわ!」

「はっ…?!おっき…何のことだよ!」

「BOSSったら…わかっているでしょうに…」

「お…!おい、フレデリカ!何だその顔!やめろよ!」


突然、顔を赤らめて恥ずかしそうにするフレデリカに対して、ツッコミをいれるイノチ。

しかし、今度はアレックスも楽しげに声を上げた。


「はぁーいはい♪僕はね僕はね♪『守られたい』だったよ♪それを見た時は僕の出番だって思ってキュンとしちゃったよぉ~♪」

「アッ…アレックスまで!なんなんだ、そのプロフィールってのは!」


混乱するイノチの様子を見て、フレデリカもアレックスもクスクスと笑っている。

訳がわからずにガックリと項垂れるイノチ。
それを一頻り笑い終えると、フレデリカは再び口を開いた。


「このように皆、BOSSのことを少しでも知った上でここにいるのですわ。だから、強制的にそばに置いてるなんていう考えはただの傲慢です。」

「そうだよ♪BOSSは意外と甲斐性あるってことだね♪こんな美女たちがついてきてもらえてたんだから♪」

「ハハハ…ありがとう。怒られてるのか褒められてるのかわかんないけどな…」


まだどこか寂しげだが、笑みをこぼすイノチはふと考えたことを口にする。


「エレナは俺のどこに共感してくれたんだろうな…」

「たしかに…。だが、俺たちはそのプロフィールを見ることはできないからな…なんとも…」

「わたしは召喚という魔法があること自体、驚きです。」


セイドとモエには見当もつかないだろう。
だが、フレデリカにはその答えが今ならなんとなくわかる気がしていた。

イノチのプロフィール画面に書いていた、ある一つのコメントを思い出す。

『妹思い』

フレデリカはそれを思い出して口元で笑みをこぼした。
横ではアレックスも笑っている。おそらく、同じことを考えているのだろう。

フレデリカは改めてイノチへ問いかけた。


「BOSS…それは自分でエレナに聞かねばならないのでは?」


物思いに耽っていたイノチはフレデリカに顔を向ける。
そして、笑顔でこう答えた。


「そうだな。あいつが俺のどこに共感したのか…なんで俺を選んだのかを聞きに行ってやろうじゃないか!」

「フフ…エレナのことだから素直には言わないと思いますよ。」

「いーや!エレナがなんと言おうが絶対に聞き出してやるね!」


そう笑みをこぼすイノチ。
その笑顔を見て一同は笑い合い、エレナの救出を誓い合ったのだった。
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