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第四章 全ての想いの行く末
23話 ガチャと召喚
しおりを挟む「はぁ…」
イノチは大きくため息をつく。
『神獣ガチャ』の詳細を確認してみたが、期待する内容ではなかったことに肩を落とした。
「…確認は終わったのか?」
横で背筋を伸ばしてお茶をすするセイドが問いかける。
「あぁ…」
「その様子だと、成果はなかったみたいだな。」
イノチはその言葉に小さくうなずいた。
確認していたのは『神獣ガチャ』の排出率と排出されるキャラのラインナップだった。
理由は、ミコトがチュートリアルガチャでゼンを仲間にしていたことを思い出し、"もしかしたら"という思いがイノチの脳裏をよぎったからだ。
ーーーもしかしたら…ウォタも…
神獣がガチャから排出されるかもしれない。
そう考えたら居ても立ってもいられなくなり、イノチは無意識にセイドへ懇願してしまった。
しかし、大抵の場合、結果というものは思い通りにはならないものだ。
ラインナップの結果から、この世界、バシレイアには神獣が無数に存在していることがわかった。
ケンタウロスやミノタウロスのように各国に籍を置き、その地域で活動する神獣たち。
そんな彼らを召喚するのが『神獣ガチャ』。
だが、普通のソシャゲのガチャとは違う部分がある。
イノチがラインナップの神獣一覧を確認してみると、ゼンだけは『排出済』の表示がなされていたことに気づいたのだ。
そのことから推測できること。
それは、神獣は1体出たらそれ以降同じキャラは排出されなくなるということである。
だから"召喚"なのである。
(エレナたちもおそらくは…)
もっと推測するならば、エレナやフレデリカたちもそうである可能性は高い。ここは現実世界と同じで、同じ人間など存在するはずないのだから。
イノチは再び大きくため息をつく。
(ウォタは『神獣ガチャ』のラインナップにはいなかった。やっぱりガチャ魔法ではだめだってことだ。死んでしまったからなのか…その理由はわからないけど、やっぱりジプトには行かなきゃならないか。)
そんなことを考えていると、静かにその様子を見つめていたセイドが再び口を開いた。
「まぁ、そこまで悲観しなくてもいいんじゃねぇか?」
そう言いながらゆっくりと湯呑みを置くセイドに、イノチは顔を向ける。
「ジプトに行けば、その仲間を生き返らせる方法があるんだろ?落ち込むのはそれができなかった時にしろよ。可能性があるのに…まだ試してもいないくせに、初めから落ち込んだ顔してるやつは嫌いなんだよ…俺は。」
セイドは静かに、それでいて少し怒ったようにそう告げた。
対するイノチはその言葉を聞いて一瞬ポカンとなってしまったが、すぐに小さく笑った。
(セイドの言う通りだ…今から落ち込んでいたら、うまくいくものもいかないよな。)
「俺にもお茶をくれ…」
イノチから差し出された湯呑みを受け取ったセイドは、どこか嬉しそうにうなずく。
イノチの湯呑みに、急須からゆっくりとお茶が注がれる。
コポコポと音を立てて、ふんわりと湯気を上げるそれを見ていたセイドが声を小さく
「ほう…」
「ん?どうかした?」
疑問を浮かべるイノチに対して、セイドはその湯呑みを静かに手渡した。
湯呑みの中を覗き込むイノチ。
そして、ホッとしたように口元に笑みをこぼす。
「良いことあるんじゃないか?」
「そうだな…」
二人はお互いにお茶を飲みながら笑い合った。
・
「はぁ~良いお湯だったわ!」
「夜風がとっても気持ちいいよぉ♪」
満足げに笑うエレナとアレックスを見て、モエも嬉しそうに笑っている。
「喜んでいただけて何よりでございます。」
アキナイが運営する温浴施設『癒しの湯』で温泉を堪能した女性陣は、旅館への帰路に就いていた。
本当は馬車で送迎される予定であったが、天気も良く夜空が綺麗だったため、満場一致で歩いて帰ることになったのだ。
「久々に疲れを癒せましたですわ。」
「本当ね!風呂上がりのフルーツミルキーも最高だったわ!」
「僕はストロベリーミックス♪」
「ありがとうございます。それを聞けばアキナイ様もお喜びになります。」
モエは嬉しそうに笑みをこぼした。
「そういえば、BOSSとセイドはあっちの旅館でくつろいでるのよね?」
「えぇ、癒しの湯は女性専用ですからね。男性の皆様は旅館の温泉で疲れを落としていただいておりますよ。」
「…ふ~ん」
それを聞くなり、あごに手を置いて何かを考え出したエレナに、モエが首を傾げて問いかける。
「エレナ様、何か問題でもございましたか?」
「いえ…問題というか…これはあたしたちの失態というか…」
エレナの言葉の真意を掴みかねているモエの横で、フレデリカとアレックスもエレナに同意するようにうなずいていた。
「BOSSにガチャを回す機会を与えてしまったですわね。」
「ほんとだねぇ♪今頃、楽しく回しちゃってそうだね♪」
「ガチャ…を回す…ですか?」
初めて聞く言葉にさらに疑問を浮かべるモエに、アレックスが簡単に説明する。
「ガチャっていうのはね、BOSSが使う"いかがわしい"魔法のことだよ♪」
「まぁ!」
(アレックス…それは直接的過ぎやしないかしら…)
驚いて口に手を当てるモエを見て、エレナは心の中で少しあきれながらツッコミを入れていた。
しかし、さらに驚いたのはモエの様子の変化にである。
「イノチ様たちは我々がいない間に、そんなふしだらな事を行なっているのですか…それは大問題ですね。」
そうボソボソとつぶやきながら、目を光らせて鋭い視線を遠くに見える旅館へ向けるモエ。
(そういえば…彼女、メイのお母さんだったわね…)
エレナは、彼女がメイの母親であることを再認識させられていた。
「急いで戻りましょう、皆様!!イノチ様を不純からお守りせねばなりません!」
「ちょっと…モエさんってば…」
「はっ!!」
エレナが声をかけたが時すでに遅く、モエはものすごいスピードで駆け出して行ってしまったのだ。
「やはりメイの母親ですわね。」
フレデリカも同じことを考えていたようで、苦笑いを浮かべている。
「まぁいいわ。今日はモエさんに任せておいて、あたしたちはゆったりと星空を堪能しながら帰りましょ。」
フレデリカもアレックスも、エレナの言葉にうなずいた。
しかし、その瞬間だった…
林の奥から一瞬だけ光が煌めいた。
エレナは瞬時に殺気を感じとり、バックステップでその場を回避すると、今までエレナがいた場所に小さなナイフが2本突き刺さる。
エレナはそのままフレデリカたちの前に着地すると、二人もすでに臨戦体制に入っていることを確認した。
それぞれの武器を構える二人の前で、エレナも腰から2本のダガーを抜き出してこう叫ぶ。
「誰だ!」
エレナの声が辺りに響き渡る中で、ゆっくりと暗闇の中から一人の人影が姿を現した。
「成長したなぁ…今の僅かな殺気を感じ取れるようになったのか…」
背丈はそこまで高くない。
声も高く少し子供っぽいが、感じからしておそらくは男。
フレデリカはそう感じていた。
その人影はエレナの動きを称賛するように手を叩いているが、顔には影がかかっていて表情すらうかがえない。
「何者です!?正体を明かしなさいですわ!」
フレデリカの言葉にその人物は笑っているようだ。
そして、ゆっくりと月明かりが照らす場所へと歩みを進め、姿を現したのだ。
短髪で、エレナと同じ茶色の髪が印象的。
左肩からは大きめのベルトがかかっており、そこには投げナイフが何本も備え付けられている。
攻撃してきたにも関わらず、男から殺気が放たれていないことが逆にフレデリカの警戒心を高めていく。
チラリと前に立つエレナを見る。
おそらくは彼女も同じように感じているはず…
しかし、フレデリカはエレナの様子にどことなく違和感を感じた。
(エレナ…怯えていますの?)
よく見れば彼女の手が小さく震えている。
今まで見たことのないエレナの様子に困惑するフレデリカ。
それはアレックスも同じのようだ。
エレナのことを心配する様に見つめている。
三人がそうしていると、男が口を開く。
そして、そこから放たれた言葉にフレデリカは驚愕した。
「久しぶりだね…我が妹よ。」
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