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第四章 全ての想いの行く末

21話 チートな仕様

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風呂上がり。
イノチは腰に手を置き、コーヒー牛乳の瓶を片手に一気に飲み干した。


「ぷっ…………はぁぁぁぁぁぁぁ!!!やっぱり風呂上がりはこれだよなぁ!!!」


着替えを終え、ゆったりとくつろぐ時間。
紅潮した顔を緩ませて、イノチはそう言葉を吐き出すとドサっと座り込んだ。


「エレナたちがいない温泉なんていつぶりだっただろう。マジでゆっくりできたな。モエさんには本当に感謝しないと…」


そうつぶやいてイスに寄りかかる。
周りに視線を向ければ、旅館を利用している客たちが、自分たちの時間をゆっくりと過ごしているのがうかがえた。


「さすがカルモウ家…けっこう繁盛してんだな。」


異国の地でも感じられるカルモウの商才。
ものすごい一族と知り合いになったものだと、イノチはしみじみ感じていた。

だが、イノチはすぐに切り替える。


「さてと…そんなことより…だ!」


座っていたイスから飛び起きるように立ち上がったイノチは、自分が泊まる部屋へとその足を向けた。




部屋のドアを開ければ、鎧のまま正座してお茶をすするセイドの姿が目に映る。


「セイドって意外と礼儀正しいんだな。」


部屋に入り、そう言いながら反対側の座布団の上に腰を下ろすイノチに対し、セイドは湯呑みを口から離してホッと息をついた。


「まぁな、これでも現世では有名な家柄の生まれだったんだぜ。」

「言葉遣いからは一切想像できないな。」

「その辺は使い分けてるからな。」


肩をすくめるイノチを前に、セイドはもう一つの湯呑みにお茶を注ぎながら続ける。


「それより話ってなんだよ。プレイヤー同士でしか話せないことって…」


その言葉にイノチは小さく息をついた。


「大したことじゃないよ。俺らが使えるガチャ魔法についてさ。」

「…ガチャ魔法?」


セイドは疑問を浮かべながらイノチへ湯呑みを渡す。
それを受け取ったイノチは、ゆっくりと口へ運んで静かにお茶をすすった。


「まぁ、何でもいいんだが…確かに俺もお前のガチャ魔法の使い方には興味あったんだよ。」

「俺の…?どういうことだ?」


イノチは湯呑みをテーブルに置きながらセイドの言葉に耳を傾ける。


「いやな、お前も珍しい奴だなって…キャラガチャ引いてる奴なんて、ほとんど見たことねぇからな。」

「…そうなのか?」

「あぁ。だってよ、この世界はVRMMORPGの世界だろ?普段やってるソーシャルゲームとは違って、自分が直接戦えるんだぜ?この世界で生き残ることを考えるなら、普通は装備ガチャ引きまくって自分を強化するんじゃないか?」

「確かにそういう考えもあるな…」


あごに手を置き、難しい顔で考えるイノチ。
セイドはその様子にクスリと笑う。


「そもそも、キャラガチャなんて"キャンペーン"でしかやってないガチャだしな。それであんなに強ぇキャラを仲間にしているお前は本当にすげぇ…引き良すぎだわ!」

「キャン…ペーン?どういうことだ?」


突然の言葉に唖然とした表情を浮かべるイノチを見て、セイドは少し驚いた。


「え?どういうことって…言葉の通りだよ。キャラ専用ガチャは、たまに行われるキャンペーンガチャの一部だろ?」

「そうなのか…。セイド…!悪いがお前のガチャウィンドウを見せてくれないか?」

「俺の?別に構わないが…いったいどうしたんだよ。」

「見てから説明するから…早く!」


突然、様子が変わったイノチを訝しげに思いつつ、セイドはガチャ魔法を詠唱する。

ガチャウィンドウが現れたことを確認し、イノチはセイドの横に急いで移動すると、その内容を睨みつけるように確認し始めたのだ。


「お…おい!突然、どうしたんだよ!」

「ちょっと…ちょっと待て…」


セイドの言葉を遮り、イノチは焦るように自分のガチャウィンドウを表示させる。

そして、二つのガチャウィンドウを見比べ始めたのだ。


「やっぱりだ…」


あらかた見終えたイノチは、後ろに手をついて天井を見上げると大きくため息をついた。

その様子を見ていたセイドは、何が何だかわからずに声を上げる。


「いったいなんなんだ!説明しろよ!」

「…違うんだよ。」


イノチはそうボソリとつぶやいた。


「違って…何がだよ…」


セイドの問いかけに、イノチはゆっくりと体勢を戻して口を開く。


「俺のガチャウィンドウには、キャラガチャがメインに据えられてるんだ。セイドたちみたいに装備ガチャがメインじゃない…」

「はぁ?どういうことだよ。言ってることがまったくわからん!」

「百聞は一見にしかず…自分の目で見てみてくれ。」


イノチはそう言って自分のガチャウィンドウを指差した。
セイドは首を傾げながら、イノチのガチャウィンドウを覗き込む。


「あ~えっと…なになに…?」


セイドが覗き込んだイノチのガチャウィンドウには、ノーマルガチャ、プレミアムガチャの2種類のアイコンが表示されていた。

その下のスライドには、排出される職業と装備のラインナップが定期的に横移動している。

普通に見れば、どこにでもありそうなガチャのページであるが…

それがあり得ないということは、兜の上からでも感じられるセイドの驚きでわかる。


「おい…なんだよ…これ…!!なんでキャラガチャも装備ガチャも"両方"引けるんだ!?しかも、プレミアムガチャって…本来、特定のキャンペーンの時しか引けないガチャなのに…なんでお前は"常に"引ける状態なんだ!」


大声を上げるセイドを見て、イノチは再び大きくため息をついた。


「俺のガチャはこの世界に来た時からずっと"それ"だよ。」

「嘘だろ…?」

「仲間に嘘はつかないよ。」


その言葉に唖然とするセイド。

今まで見たことのないムチャクチャな仕様。
セイドは、チートと言っても過言はないイノチのガチャウィンドウをジッと見据えていた。


「セイドはどう思う?これ…」

「ど…どうって言われても…頭が追いつかねぇよ。わかったことはお前が特別ってことだけだ。」

「そうなるよなぁ…」


イノチは不服そうに肩を落とす。


(おかしいとは思ってたんだよな。ミコトと一緒にガチャを引いた時から…もっと早くに確かめておくべきだったな。)


イノチはミコトと一緒にガチャを引いた時のことを思い出していた。

あの時感じた違和感…
それを早くに確認しておくべきだったと心底悔やむ。

一方で、セイド自身もイノチのガチャ仕様について未だ信じられないようだが、さすがは名家の出と言ったところか、無意識にイノチの湯呑みにお茶を注いで差し出した。


「ありがとう…」


そう言ってお茶をすするイノチを前に、自分の湯呑みにも注いだお茶をセイドは兜の上からで器用にすすった。

ゆっくりとした沈黙の時間が二人の間に訪れる。

そして、お茶を飲み終えたセイドがイノチに向かってこう告げた。


「一回…引いてみてくれよ。」

「え?」


セイドの言葉に驚くイノチ。
だがセイドの雰囲気は真面目そのものだ。


「俺はお前のクランに入るつもりだし、お前を疑う気はさらさらない。だが、本当のお前のことを知っておきたい。無理にとは言わないが…」


それを聞いたイノチには、セイドが真摯に対応してくれていることがすぐに理解できた。

そして、自分の口から自然と言葉が出てくる。


「わかった…引こう。俺もその方が気が楽だし…帰ったら他のメンバーにもいろいろと話しておかないといけないと思ってるからな。」


うなずくセイドを見て、イノチはガチャウィンドウに向き直るとプレミアムガチャのアイコンをタップした。

いつもの10連ガチャアイコンが姿を現すと、セイドがあきれたように口を開く。


「もう驚きたくなかったが…お前の『黄金石』の数…やべぇな。」

「え?あぁ…これにも訳があるんだけど…」

「いい…これ以上は許容範囲を超えそうだ。また今度聞く。」


5,980個という数字を見て、額に手を置くセイド。
その様子に、イノチは苦笑いしながら10連ガチャのアイコンをタップするが…


「あ…れ?なんだ、これ…」

「ん?今度はなんだよ…」


手が止まったイノチの様子を訝しく思い、セイドが横から覗き込んだガチャウィンドウにはこう表示されていた。


『コード認証:Special Athy code(※※※※)を使用しますか?はい/いいえ』
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