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第三章 ランク戦開催

96話 神々の打ち合わせ

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「遅くなりました…」


アマテラスとツクヨミが部屋に入ると、ゼウス、ロキ、イザナギ、イザナミ、ヘルメスたちが丸く大きなテーブルを囲んで各々の時間を過ごしていた。


「おぉ、アマちゃん!遅かったのぉ!」


白髪白ひげの老人、ここでは"Z"と呼ばれているゼウスが嬉しそうに笑顔を向けた。


「すみません。タカハの街の後処理をしていたもので…」


アマテラスがそう言いながら一つ空いた席へと座ると、その後ろにツクヨミが立つ。

今回は白い狼の姿ではなく、白と青を基調とした祭祀服を纏った青年の姿をしているツクヨミは、誰に目を向けるでもなくその場に立ち、静かに目をつむっていた。

体つきは細身だが、その顔は精悍で力強さを感じさせる。

そんなツクヨミに興味を持ったのか、ロキが口を開いた。


「ツクヨミくん…久しぶりじゃん。」

「…」


ツクヨミはロキの言葉にまったく反応すらしない。
それをみたロキは笑みを深めて、さらに言葉を続ける。


「下界での仕事は終わったの?忙しくしていたみたいだけどさ。」

「あなたには関係ないことだ。」


ツクヨミは目を閉じたまま、冷たくそう答えた。

ロキの言う"下界"とは、地球のこと。
それは、彼ら神々が本来管理すべき世界であり、イノチたちが住んでいた世界のことである。


「相変わらず、つれないなぁ…」


ロキは肩をすくめ、ニヤニヤと笑みを浮かべたまま頬杖をついた。


「ロキ、戯れはその辺にしておけ。では、アマちゃんもそろったことじゃし、そろそろ会議を始めようかのぉ。」


ゼウスがそう告げ、"ウンエイ"ことヘルメスがキーボードに指を走らせると、テーブルの真ん中に丸い球体が現れる。

立体映像のように精巧なそれはゆっくりと回転しており、いくつかの説明が記されているようだった。


「まず、各国の現状とプレイヤーの動きについてです。」


ヘルメスが話しながら目の前の球体を手で操作し始めた。


「ジプト法国。先日の運営会議に出席された皆さまはすでにご存知かと思いますが、ロキさまの策略により今回のランク戦への参加資格は剥奪となりました。」

「虫唾が走る作戦でしたけれど…」


ぼそりとつぶやいたアマテラスに、ロキが反応する。


「もうアマちゃ~ん!たくさん謝ったんだから、いい加減許してよ!」

「ふん…」

「まぁ、確かにやり過ぎではあったな…」

「あ!じいさんまで…ちぇ~あんなに頭下げたのに、今さら蒸し返すなよな!謝り損じゃないか!」


ロキは納得がいかないというように、不満を露わに頬をプクッと膨らませた。


「ところで、ジプトのプレイヤーたちはどうするのですか?」


イザナギの疑問には、ゼウスがひげをさすりながら答える。


「一応、プレイヤーたちは参加できることにしようかと考えとる。どうせ、他国へ侵攻はできんがな…」


その言葉にうなずいたイザナギを確認し、さらに一同を見渡して話が一段落したことを確認すると、ヘルメスは再び目の前の球体に触れて話し始めた。


「次にリシア帝国。現状はまだ何も動きはありませんが、イノチさんたちの働きにより危機を乗り越えたことで反乱分子の結束は強まり、残すは生誕祭での決起のみとなりました。」

「それはいいのですが、そもそも成功するのですか?今回の作戦の1番のキモだと思うんですが…」

「確かに…あそこはプレイヤーの質も国の軍事力も他と比べて群を抜く。ゼウスさまの人選を疑うわけではないですが、少し不安ですね。」

「イザナミさま、アマテラスさまのおっしゃる通りです。バシレイアで一番強大な力を待つリシア帝国ですから、ここを落とせばランク戦にかなりの影響が出ると推測されます。しかしながら、成功率は高いとは言えないのが現状です。」


ヘルメスの言葉に一同の目がゼウスに向いた。
しかし、ゼウスは一人小さく笑っている。


「まぁ、確かに不確定要素は多いのぉ。特に相手クランの団長は未だ正体もその実力もわかっておらん。それもこれもポセイドンやハデスたちがうまく隠しとるせいじゃがな。じゃが、わしはあんまり心配しとらん。イノチくんたちは作戦を必ず成功させると信じとるよ。」


ゼウスはそう大きく笑うが、それにはロキも食いついた。


「だけどさぁ、じいさん。あいつら四人だけで本当に『創血の牙』と戦えるのかい?いくら襲撃を一度退けたとは言え、奴らのクランが総集結すれば、その戦力はかなりのもんだ…」

「じゃから、神獣を仲間に取り込ませたんじゃ。ケンタウロスとミノタウロスに勝てるプレイヤーはそういまいよ。それに内通者もできたわけだし、あちらさんも一枚岩と言うわけではないじゃろ。それに…」


ゼウスはそう言うと、もたれていた体を起こして前のめりにこう告げた。


「イノチくんたちには、リシアの作戦を絶対に成功させなくちゃならん理由があるからのぉ。」


アマテラスをチラリと見たゼウス。
当の彼女は静かに目をつむったままだ。

それを確認したゼウスは、小さく笑うと再び話し始める。


「まぁ、リシアについては結果を待つとしよう。それよりも問題はノルデンじゃ。」


ゼウスの言葉に合わせて、ヘルメスが球体を操作する。
そして、ある説明書きに触れると、それが大きく表示された。


「アマテラスさまのおかげで、ノルデンの侵攻は一時的に抑えることができました。しかしながら、再び動き出すのは時間の問題かと思われます。」

「それはなぜです?アマテラスが記録したヴェーたちの行動履歴をうまく使えば、有利な交渉が可能では?」


イザナギの言葉にヘルメスが頭を横に振る。


「そうもいかないのです。先ほど、ゼウスさまがオーディンさまの元へお話に参られたのですが…」

「ダメじゃ、ダメダメ…あやつはまったく聞き耳持たんかった。今回のことはヴィリとヴェーが勝手にやったことであって、ノルデンには何の関係もないんじゃと。なんなら、あの二人の処分はこちらに任せるとまで言ってきおった。」


ヘルメスの言葉を継いで、ゼウスが大きな体で肩をすくめた。


「ならば、その言葉通りに二人を処罰してみては?」

「それでも良いんじゃがなぁ…」


イザナミの言葉にゼウスはひげをさすりながら、悩むように目を閉じた。

何か引っかかることがあるのか。
長考する彼の言葉を、皆静かに待っている。

その内、ゼウスが小さくため息をついて話し始めた。


「処分すると言っても、冥獄に幽閉するか?はたまた、神としての権威を剥奪させるか?なんなら、存在自体消してやるのも良いかのぉ…しかし、これらをするにはさまざまな手続きが必要じゃ。時間もかなり有するだろうて…そんなことしている間に、ノルデンは体制を立て直して再び仕掛けてくるじゃろうな。」


皆、その言葉に対しては無言だった。

ゼウスの言う通り、ヴィリとヴェーを処分するにしても実害がないため、ランク戦に関する制約は課せられない。

彼らは"6つの決まり事"を破ったわけではないのだから。

できることは、神として不適切な行いをしたことによる罰則を課すことのみ。

しかし、それにはゼウスの言う通り、多大な時間を必要とするため、どう考えても非効率だと言わざるを得なかった。


「…なら、どうすんのさ?」


沈黙を破ったロキにゼウスは答える。


「そりゃ、ノルデンからの襲撃に備える他なかろう。ノルデンが攻めてくるとすれば、おそらくはトウトからじゃろうが、幸いにもトヌスくんがトウト付近の海域の防御を固めてくれておる。あとはタケルくんとこと、ミコっちゃんたちの戦力をトウトに集めればよい。ノルデンの兵士は屈強じゃが、今のミコっちゃんたちの戦力なら十分戦えるはずじゃ!」





皆が帰った後、部屋にはロキとゼウスだけが残っていた。


「じーさん…」

「なんじゃ?帰らんのか?」


一つの書物に目を落としているゼウスは、顔は向けずにそう返すが、ロキは頬杖をついたまま話を続ける。


「あんたの予想、当たるんじゃないか?」


その言葉にゼウスの眉がピクリと動いた。


「おそらくだけど、ランク戦が始まったらあいつは動くよ。あんたが推薦するプレイヤーを殺しに…」


ゼウスがその言葉にゆっくりと顔を上げ、ロキへ視線を向けた。


「まっ…そうじゃろな。」

「いいのかい?」


その問いにゼウスはニコリと笑ってこう答えた。


「問題ない。イノチくんが返り討ちにしてくれるじゃろよ。」
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