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第三章 ランク戦開催
77話 勝機…ときどき雲行き
しおりを挟む離れた場所で立ち昇る炎の柱。
木の上に立ったまま薄紫色のツインテールを揺らし、遠くからそれを見つめているのはヴェーである。
「あの攻撃魔法…ちょっとおかしい…」
相変わらず無表情のまま、赤とオレンジが交わるように燃え上がる炎の柱を見てヴェーはそうこぼした。
・
一方、タケルの元へと急ぐソウタたちも、高く立ち上がる炎の柱に気づき立ち止まる。
「なによ、あれ!」
「炎系の魔法…八岐大蛇か?」
シェリーとカヅチが見上げる傍らで、ソウタがあることに気づいた。
「もしかして…ミコト…?」
「「「「なっ!」」」」
その言葉に皆驚き、ソウタに目を向ける。
「ミコトはメイジだろ?あんな強力な攻撃魔法なんて使えるはずないぜ!」
「そうだ。メイジはバフ・デバフを得意とする職業だぞ!」
「でも、今ここにミコトはいないし、タケルはあんな大技持ってない。八岐大蛇のブレスにも見えない…なら、可能性として考え得るのは…」
皆、ソウタの言葉を聞いて息を呑み、未だ立ち上がる炎の柱を見つめている。
「急ごう…」
ソウタが小さくつぶやいた。
・
《ガアァァァァァァァ!!》
目の前で轟々と立ち上がる炎を見て、タケルは唖然としていた。
その中では、八岐大蛇が大きな叫びを上げている。
「これを…ミコトが…?」
炎の柱の先には赤く光り輝く杖を握りしめ、八岐大蛇を睨みつけるミコトの姿があった。
「ミコト…君はいったい……んっ!?」
見つめていたミコトの後ろにに、一瞬黒い影が見えた。
「見間違い…か?確かに今ミコトの背に竜のような…」
タケルは目をこすり、もう一度見直たがその影はもうない。
その傍で炎の柱がゆっくりと収束していく。
《ガァァ…グゥゥゥ…なんだ…小娘、お前ぇぇぇ…何者なんだぁ!!》
プスプスと体のところどころを焦がした八岐大蛇が、再び大きく声を上げる。
ミコトを見るその目には猜疑心が浮かんでいた。
《なんで…!なぜだ!なぜ貴様の攻撃は俺の絶対防御を貫ける!?》
「そんなの知らないよ!私はあなたを倒したいだけ!」
《知らないだとぉぉぉ!嘘をつくなぁぁぁ!!》
「ミコト!危ない!!」
「きゃっ!」
怒り狂って一斉に飛び掛かる八岐大蛇の頭たち。
タケルはミコトを抱き抱え、それらを回避していく。
「こいつ…我を忘れてる!ミコト!魔法はまだ使えるかい!?」
「もちろん!だけど、少し離れないと自分たちも巻き添えに…」
「そうだね…じゃあ、タイミングを合わせよう!準備ができたら教えて!」
《なぁにごちゃごちゃ抜かしてやがる!!なめてんじゃねぇぞぉぉぉ!!》
暴れ回る8本の頭を、ミコトを抱いたまま軽快にかわしていくタケル。
「轟雷を操りし天の主よ、その力、一条の光となりて…」
ミコトはタケルに身を任せ、詠唱を始めた。
右から飛びかかってきた八岐大蛇の頭を、タケルは上に飛んでかわす。
宙に浮いたタケルを狙って、左斜め上から襲いくる頭に対して体をひねってうまくいなしたところで、ミコトから合図がある。
「タケルくん!OKだよ!」
タケルはその言葉にうなずき、八岐大蛇の首を土台に蹴り上げて高く飛び上がった。
自分たちを追うように大きく口を開けて伸び上がる3本の頭を見下ろしながら、タケルはミコトに合図を送る。
「いまだよ!ミコト!」
「うん!いくよぉ!ライトニングゥゥゥボルトォォォォォォォォ!!!」」」
タケルに抱かれたまま輝く杖を振り上げ、ミコトは大きく魔法の言葉を唱え叫んだ。
その瞬間、数本の雷が八岐大蛇を襲う。
《グァァァァァァァ!!!》
先ほどよりも苦しんでいるように見える八岐大蛇。
「すっ…すっげぇ…ちゃんと効いてるよ。しかもさっきより雷の本数が増えてるし…」
「ね…私、いったいどうしちゃったんだろう。そう言えばさっき確かめたいことがあるって言ってたけど、何かわかったの?」
「あぁ、それね。ミコトが一番最初に雷魔法を当てた首を調べてたんだ。」
離れた位置に着地し、タケルはミコトをゆっくりと下ろす。
「で、わかったこと。今の奴の絶対防御障壁には穴が空いている。」
「穴が…?」
「そう!君の炎魔法が当たる直前、それを確認できたんだ。理由はわからないけど、君の魔法は奴の障壁を崩せるんだ。」
タケルは嬉しそうに告げた。
そして、強い瞳で八岐大蛇を睨みつける。
「これで僕の攻撃も通る可能性が高い…いいぞ、これなら勝てるかも!」
・
「あ~らら…なんだこりゃ。」
空高く浮かび上がり、光の壁越しに八岐大蛇を見下ろしている青い短髪の男。
「ったくよぉ~。ヴェーに言われて来てみれば、本当にやられそうじゃねぇか。」
ヴィリはあくびをしながら、あきれたようにそうつぶやいた。
「油断すんなって言ったのに…飲みすぎやがって。しかし、あいつらなかなかやるじゃねぇか。少ぉしだけ見直したぜ。カカカカ!」
応戦するタケルとミコトに視線を向けてニヤリと笑う…が、すぐに頭をかきながら悩んだようにこぼす。
「だがまぁ、お楽しみ観戦はこれくらいか…このままだとヴェーに怒られるしなぁ。兄貴にもドヤされるのは嫌だぜ。」
思い返して大きなため息とともに肩を落とすが、気を取り直したように光の壁に囲まれた3名を見下ろすと、光をまとった右手の指を弾いた。
すると、小さな光の粒たちが八岐大蛇の方へと飛んでいく。
「あ~あ…これでまぁ、大丈夫だろ!頼むぜ、オロチ。」
ヴィリはそうつぶやく。
そして、タケルとミコトをチラリと見て再びニヤリと笑うと、黒いゲートを開き、その中へと消えていった。
・
《ハァハァ…なぜだぁ…ハァハァ…》
八岐大蛇は混乱していた。
理由は破られるはずのない絶対防御の障壁が、目の前にいる小さなか弱き少女に簡単に破られたからだ。
パッとしない容貌に、小さな体。
そんな彼女の容姿からは想像できないほど強大な魔法。
それが絶対防御の障壁を超え、この自分の体に傷をつけたのだ。
《あり得ない…こんなことはあり得ない。この障壁はだれにも破られるはずがないのだ。なのに…なぜ…》
ぶつぶつと虚に独り言をこぼしている八岐大蛇を見て、タケルはそれを好機と捉えた。
「ミコト、奴は今混乱してる。ここで一気に畳みかけよう!」
「そうだね!」
タケルは刀を鞘から抜き放つ。
それに合わせるようにミコトも杖を構えた。
「いくよ!」
「うん!」
その時である。
突然、無数の小さな光の粒子が八岐大蛇の元へと降り注いだのだ。
「なっ…なんだ?あれ…」
予想してなかったことが起き、驚きのあまり構えていた刀が下がるタケル。
ミコトも小さく口を開けたまま、無言でそれを見つめている。
光の粒はそのまま八岐大蛇の周りをクルクルと回ると、体の中に吸い込まれていった。
そして…
《ぐぅぅぅ…なっ…なんだ…こ…れは…体の中に…ヴィリ…ヴェー…ググググググ…》
突然苦しみ出した八岐大蛇。
その目は暗い紫色に光り、口からは真っ黒な息を吐き出し始めたのだ。
大量に吐き出されたその息は、八岐大蛇の体にどんどんまとわりついていく。
「いったい何が起きて…」
「タケルくん…なんだか様子が…おかしくない?」
様子のおかしい八岐大蛇を前に後退りするタケルとミコト。
そのまま見ていると、黒くまとわりついていた息がゆっくりと八岐大蛇の体に染み込んでいった。
そして…
二人の目の前で体のほとんどを黒く染め上げた八岐大蛇が、苦しむように大きな咆哮を轟かせた。
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